岸田首相「新しい資本主義」は怪しさ満点。国会答弁で判った日本国宰相の大誤解

 

例えば投資ということを考えてみます。

つい最近のことですが、2月10日、西武HD(ホールディングス)は子会社のプリンスホテルが保有するホテルやゴルフ場、スキー場など31施設をシンガポール政府系投資ファンドGICへの売却を決めたと発表しました。売却額の総額は1,500億円程度と言われています。

この1,500億円について、多くのメディアはプリンスホテルの資産を「買われてしまった」として、「日本衰退の象徴」のようなイメージで受け止めました。ですが、よく考えてみるとこの1,500億円は、まずシンガポールから日本に「カネが流れて」来たのです。その結果として、西武HDはコロナ禍で悲惨なことになっている鉄道やホテルの経営について運転資金を得ることができます。

そのカネは日本国内で回り、日本のGDPに寄与します。また、この1,500億円の価値を維持するためには、GICは必要な追加投資をするかもしれません。例えば、品川+高輪一帯の大規模な再開発については、西武自力では資金調達できなくても、外資によって可能になるかもしれません。そうなればもっと多くの金が日本国内で回ります。

反対に、例えば本田技研が同じ1,500億円を投資して、中国と北米にEV工場を新設したとします。その場合は、その2つの新工場は本田の持ち物であり続けるし、日本国として何かが失われた感覚は少ないかもしれません。いや、反対に、日本が世界に進出してまるで五輪でメダルを取るような印象で「良いニュース」として報道されるかもしれないのです。

ですが、この1,500億円は、ほとんど日本のGDPには寄与しないし、その後この2つの工場が成功したとして、カネはほとんどが現地で回るだけです。勿論、本国である日本に研究開発機能が残っていて、そこが世界の収益からキャッシュを戻してもらって、本当のイノベーションに日本国内でカネを使うのなら別です。

少なくとも、BMとかGMなどはそうしています。ですが、日本の場合は例えばEVやAVの場合は、技術者の多くはグローバルな労働市場を動く人材ということもあり、かなり高度な研究開発部門を国外に置いています。ですから、カネは益々国外で回ることになります。

岸田氏や前原氏のいう「国富の流出」は確かにあります。ですが、配当として流れる資金が問題なのではありません。そうではなくて、投資としてどんどん国外に流れ、国内が空洞化する、これが問題なのです。生産と販売だけなら、まだ良いとして、高度な開発も国外でという話、更にはアドミも指揮命令機能もどんどん国外にというのが今の流れです。そこに大きな問題があるわけです。

どう考えても、大卒比率50%を超える日本で、主要な産業はこれからは福祉と観光のサービス業というのは「絶対におかしい」のです。宇宙航空、バイオ、金融、コンピュータ、製薬、エネルギーなどといった高度な先端産業を、どうしてやらないのか、あるいは流出させるのか、そこには保守化した世論が「自分の理解できないものを嫌う」ということもありますが、政治家の圧倒的な不勉強もあると思います。とにかく、今回の国会論議は100%誤っています。質問もダメなら、答弁もダメです。

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image by: 首相官邸

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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