岸田首相「新しい資本主義」は怪しさ満点。国会答弁で判った日本国宰相の大誤解

 

1番の問題は、配当や自社株買いを批判して、儲かっているのなら賃金に回せという「企業いじめ」と「株主叩き」をしているいうことではありません。

そうではなくて、前原質問にあった、海外の投資家の存在を前提に「国富が海外に逃げているという認識はございますか」というインチキな論理に対して総理が答えなかったことで、漠然と迎合した点です。

ここからが本論ですが、「国富が逃げている」というのは本当です。そして、日本のGDPを毀損し、社会をダメにし、現在のように貧しいだけでなく、将来はもっと貧しくなるということを恐れる国家になってしまったのは、このためだというのは事実だと思います。

ですが、問題は「海外の投資家に株を買われて配当を奪われている」からではありません。全く違うのです。

そうではなくて、多くの企業が国内の労働者と市場を捨てて空洞化に走っているからです。日本からカネを持ち逃げして、中国や北米、そして途上国に工場を建設し、労働者を雇用しているからです。

そう申し上げると、配当金は「金持ちにキャッシュで奪われる」ようなものだが、対外投資はあくまで投資であって、その金は依然として日本企業のものだし、そこで生まれる収益も日本企業のものであり、国富が流出しているわけではない、そんな意見が返って来そうです。確かに日経新聞を毎日読んでいる人はそう思うだろうし、岸田総理も前原議員も同じような認識だと思います。

日本の自動車メーカーが世界の販売台数で1位になると誇らしかったり、鉄道車両メーカーが某国の高速鉄道車両を受注すると大喜びしたりする「アレ」です。とにかく、日本の多くの政財界の関係者の間には、「日本経済というのは、日本のGDPに日本の多国籍企業の全世界連結決算を足したもの」というイメージを持っていると思います。ですが、これは全くの誤解です。

例えば、トヨタ自動車は長い間、日本で車を作って北米に輸出していました。現地生産のスタートは意外に遅く、1970年代の末でした。最初はGMとの合弁でテスト的に「サターン」というカローラの準双子車でスタートし、「アメリカの労働者でも一応トヨタ品質に近いもの」はできるという確証を得た上で、少しずつ生産を移管して行ったのです。

エレクトロニクスもそうですし、その他の製造業にしても、どんどん日本での製造をやめて海外に出て行くようになりました。ここまでは、ドイツなども同じことをしている話ですし、アメリカも同じようなことを中国などでおこなっています。

ですが、日本の場合は大きな問題点が3つありました。1つは、国内市場がどんどん「しぼんだ」ということです。特に自動車の場合は、国内市場は無残なまでに縮小しており、各社の国内比率は15%を切っています。ですから、現地生産比率を上げていくと国内は本当に空っぽになってしまうのです。2つ目は、通常は産業を空洞化させたらその国は「より高度な産業にシフト」するべきなのですが、日本は完全にこれに失敗しているということです。3つ目は、恐ろしいことに各社が「製造販売」だけでなく、企画や研究開発・デザインといった高付加価値部門まで国外に出しているということです。

この日本型空洞化により、1990年代までは豊かであった日本経済はどんどんやせ細って行きました。どうして日本の賃金が上がらないのか、どうして日本の物価が上がらないのか、こんなに閉塞感に満ち満ちているのか、その全てはこうした日本型の空洞化のせいだと思います。

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