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プーチンに忖度か。“宗男の娘”が「ウクライナ大使の外相面会要請」を放置した裏

野党議員の指摘により発覚した、ウクライナ大使の林外相との面会要請が1ヶ月もの間放置されていた問題。国家間の信義にもとるとも言えるこのような事態は、何が原因で起きてしまったのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんがその裏を探るとともに、戦犯として名指しで批判された鈴木貴子外務副大臣に連なる親プーチン派の政治家の名と、彼らがこれまで日露間で果たしてきた役割や行なってきた「仕事」を紹介。その上で、鈴木氏の外務副大臣としての適性に疑問符を付けています。

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鈴木外務副大臣の対ウクライナ姿勢にのぞく“親プーチン”の系譜

先月末から今月初めにかけ、上田清司氏(参院議員)や泉健太氏(立憲民主党代表)ら何人かの政治家が相次いで駐日ウクライナ大使館を訪問したさい、耳にしたのは信じがたい話だった。

ロシアがウクライナに侵攻する予兆があるため、コルスンスキー大使が林外相に面会を申し込んだが、それから約1か月経つのに、実現できていないというのだ。このように緊急かつ重要な案件で、1か月も放置するようなことがありうるのか。

3月2日の参院予算委員会で、国民民主党の川合孝典議員がただしたところ、林外相は「1か月前に面会申し入れがあったのは知らなかった。本日の夕刻にお会いする運びとなったところだ」と答えた。

林外相が知らなくても、外務省の窓口を通しているのだから、担当者が知っているわけで、大幅に面会が遅れた理由にはならない。川合議員の質問通告の中身を見て、あわてて面会を設定したのだろう。

真相を明らかにしたのは当のコルスンスキー大使だった。3月3日、自身のTwitterにこのような内容の投稿をしたらしい。

「いいえ、林さんの反応はとても速かったです」
「(コルスンスキー氏と)会いたくなかったのは副大臣の鈴木さんです」

鈴木貴子外務副大臣が大使の来訪を拒否した、というのだ。現在、この投稿は削除されているが、何もないのに、鈴木副大臣を名指しするはずはない。このツイートに関して外務省から何らかの連絡があったため、コルスンスキー大使が気を遣って削除したと想像できる。

鈴木貴子氏という名が出て、すぐに思い浮かぶ政治家といえば、父の鈴木宗男参院議員(日本維新の会)と安倍晋三元首相だ。

2017年6月19日の産経新聞「単刀直言」で鈴木宗男氏と貴子氏が語った内容から、安倍元首相と鈴木父娘の間柄が浮かび上がる。

鈴木宗男氏は2015年12月22日、歴代官邸勤務経験者として首相官邸での内閣制度発足130年記念式典に招かれたさい、当時の安倍首相から「たまには官邸に来てください。話したいこともあるし、昔話もしたい」と話しかけられた。

6日後、鈴木氏は官邸を訪ねた。そのとき安倍首相から選挙協力を要請された。衆院北海道5区の補欠選挙と夏の参院選、そして「できたら衆院選もお願いしたい」と。

当時、貴子氏は民主党に所属する衆院議員だったため、宗男氏が「うちの娘の立場がある」と言うと、安倍首相から「お嬢さまは自民党で育てたい」との申し出があった。

翌年、貴子氏は比例で当選した民主党に離党届を出すという不義理な行動に出て、次の年に自民党に入党したが、その背後には、安倍首相が控えていたのだ。

貴子氏は自身のブログで「どんなときにも、北方領土問題、日露関係について継続して動いてきたのは鈴木宗男であり、私も引き継いでいく覚悟です」(17年2月5日)と記している。

自民党と日本維新の会。所属する政党は違っても、この父娘の絆は深く、政治的には一心同体といえる。

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鈴木宗男氏は2月28日の参院予算委員会で質問に立ち、このように述べた。

「ウクライナ問題で国際法違反だという言葉が出てくるが、何の部分で言うのか」
「国連憲章はあっても国際法は明文化されていない。このことははっきりしておいたほうがよい」

ロシアのウクライナ侵攻はあってはならないこととしながらも、質疑のほとんどがプーチン擁護に費やされた印象だった。

鈴木宗男氏は今年1月8日、トークショーで「プーチンさんは日本を理解している人情家」と発言したらしいが、このようなプーチンべったりの姿勢が、ウクライナ大使の面会申し入れに対する鈴木貴子副大臣の対応にも影響していないだろうか。

鈴木副大臣は「私が大臣の面会要請を止めていたことはない。私自身が大使との面会要請を応じなかった、拒んでいたとの論調の報道があるが、それについても事実無根」と否定した。

しかし、週刊文春2022年3月10日号に外務省関係者の次のようなコメントが掲載されている。

「ロシアがウクライナ東部の親ロシア派支配地域の独立を承認した(日本時間)22日前後のこと。貴子氏が“今は制裁を議論するべきタイミングではない”という旨を主張したのです。米国ではいち早くこの2地域に対する経済制裁が発表されており、日本でも制裁が検討されるべき時期だった。そのため貴子氏は、ロシアへの制裁に後ろ向きなのだと外務省内で受け止められました」

鈴木副大臣がロシアとの関係維持にいかに腐心しているかがうかがえる。ウクライナ東部2地域の親ロシア派指導者24人の資産凍結を日本政府が発動したのは2月26日だが、鈴木副大臣は納得していなかったようだ。

2月28日の鈴木宗男氏の国会質疑は、貴子氏と連携した動きと捉えることができる。宗男氏は、ウクライナ東部2地域に特別な自治権を与えることを定めたドイツ、フランス、ロシア、ウクライナ間の「ミンスク合意」を持ち出し、「(ミンスク合意に基づく)独仏の話し合い提案にプーチンは乗ったが、最後まで抵抗したのはゼレンスキーだ」と、ウクライナ大統領を批判してみせた。

もちろん、ウクライナ政権側にも全く非がないとはいえないだろうが、いかなる理由があろうと、他国を侵略する行動は許されない。なぜ鈴木氏はここまでプーチン大統領を庇うのか。

森喜朗元首相から始まる“親プーチン政権”の系譜をたどると、そこに宗男氏が深く関与してきたことがわかる。

プーチン氏が選挙に勝って大統領に就任する直前の2000年4月29日、当時の森喜朗首相は彼に会うため内閣官房副長官、鈴木宗男をともなってサンクトペテルブルグに赴いた。

森氏は4月5日に首相になったばかり。鈴木氏は官房機密費から引き出した1億円を持参していた。このときのことを森氏は誌上インタビューでこう語っている。

「プーチン大統領は非常に喜んでくれた。日本の歴代首相は就任後、真っ先にアメリカを訪問することが多いが、僕の場合は最初にロシアを訪問したからなんだ」

1億円を何に使ったのかは知らないが、その年の9月にはプーチン大統領が来日し、森氏との蜜月をアピールしている。

ロシアのイルクーツクで行われた日露首脳会談における二人の交流ぶりを、元時事通信記者、名越健郎氏がその著書「独裁者プーチン」で次のように書いて
いる。

01年のイルクーツクでの日露首脳会談でプーチンは、イルクーツク郊外のシェレホフ市に、姉妹都市提携に尽力した森喜朗首相の父、故森茂喜元石川県根上町長の分骨を納めた墓があることを知り、「これから一緒に墓参に行こう」と提案、墓前に花束を捧げた。森氏はこれで、いちころだった。

このイルクーツク会談にも、鈴木宗男氏は同行した。自民党総務局長だったにもかかわらずである。

1990年に外務政務次官に就任して以降、鈴木氏は外務省に強い影響力を持っていた。北海道選出の議員であり、北方領土問題は彼のライフワークといえる。

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イルクーツク会談では、忘れてはならないもう一人の同行者がいた。当時の官房副長官、安倍晋三氏だ。彼もまたプーチンの魅力にひかれたのであろう。第一次政権を含め首相として27回もの会談を重ねている。

プーチン氏が安倍氏の心をがっちりつかんだのが、2013年9月10日夕のサプライズではなかっただろうか。ブエノスアイレスのIOC総会で東京オリンピックの開催が決まって2日後、プーチン大統領からかかってきたお祝い電話。

「早速にお祝いの電話を頂き…」とお礼を述べる安倍氏に、プーチン氏は巧みなお世辞を用意していた。「安倍首相を国際社会が信頼している証ですよ」

2014年には、ソチオリンピック開会式にオバマ大統領ら欧米主要国の首脳が人権問題を理由に欠席するなか、安倍首相だけは律儀に出席した。

2019年、極東ウラジオストクで開催されたロシア主催の「東方経済フォーラム」で、安倍首相が「ウラジーミル、君と僕は同じ未来を見ている。ゴールまで駆け抜けよう、ロシアの若人のために、日本の未来を担う人々のために」と呼びかけたスピーチは、プーチン大統領との親密ぶりをアピールしたものとはいえ、史上最高のくさいセリフだった。

安倍氏らがこれまで、北方領土交渉を進展させるために尽力してきたことには敬意を表したい。だが、北方領土をエサに経済的利益を得たいだけのプーチン氏に手玉に取られ、翻弄されてきた側面があるのも事実だ。

安倍氏に対して、ウクライナ侵略をやめるようプーチン氏を説得してほしいとの声が上がっているようだが、それができる力量があるのなら、27回も会談して北方領土問題に解決の糸口さえ見つけられないのはおかしいではないか。

安倍氏は鈴木氏と2015年末に官邸で会談して以来、対ロ外交について鈴木氏の助言を求め、“親プーチン”の姿勢をとり続けた。駐日ウクライナ大使に対する鈴木貴子外務副大臣の当初の冷淡な対応は、このような経過の延長線上で捉えなければ、理解できない。

コルスンスキー大使は3月2日に林外相、同4日に鈴木外務副大臣と会い、ツイッターに「鈴木貴子外務副大臣とお会いする機会があり、喜びを感じている」などと投稿した。だが、これで面会放置問題はおさまったとしても、鈴木貴子氏が外務副大臣としてふさわしいのかどうか、という問題は残っている。

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image by: 鈴木宗男 - Home | Facebook

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