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プーチンが握る“核のボタン”。使用を阻止する手段はあるのか?

世界中から浴びる非難や制裁もお構いなしにウクライナを破壊し侵略行為を続けるプーチン大統領。気になるのは、プーチン大統領が使用も辞さない姿勢を見せる「核兵器」に関して、ロシアはどのような仕組みでコントロールしているのかということ。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんが、そのシステムを詳しく解説。「チェゲト」という名の“核のボタン”を保持する3人を暗殺したとしても、核兵器を使用できる「ペリメートル」や「死者の手」というシステムが存在するという暗澹たる事実を伝えています。

プーチンに核兵器を使わせない対策は

ウクライナ情勢について、各方面から質問が寄せられているのはロシアの核兵器のコントロールに関するものです。そこで今回は、お馴染み西恭之さん(静岡県立大学特任准教授)がこれまでに書いてきたコラムをもとに整理しておきたいと思います。

まず、ロシアの核兵器のコントロールは次のような仕組みになっています。旧ソ連からロシアが継承した戦略核兵器の指揮統制システムは「カズベク」といい、その構成要素のうち、大統領や軍首脳が核兵器を使用するのか決めるとき専用の通信システムを「カフカース」といいます。最高指導者が核兵器使用許可を出すためのブリーフケース型の通信機「チェゲト」は、1985年に完成したもので、カズベクもチェゲトもカフカース山脈の山の名前に由来したものです。

ここでは「核のボタン」と呼ぶことにしますが、通信機チェゲトは3個製造され、最高指導者、国防相、参謀総長に同行しています。最高指導者として初めてチェゲトを備えたのは、ゴルバチョフ・ソ連共産党書記長(1990年から大統領を兼務)です。同行している士官がチェゲトをカフカースに接続すると、最高指導者は核兵器の使用を国防相と参謀総長に許可することができます。参謀本部は最高指導者の「許可命令」を「直接命令」に書き換え、戦略ロケット軍などの司令部に伝えます。戦略ロケット軍などの司令部は、直接命令を受け取り、認証すると、「発射命令」を発射部隊に下すことができます。これは米国のシステムを真似たものです。

米大統領の「核のフットボール」は、キューバ危機以前の1962年前半から、今と同じように運用されています。このブリーフケースも3個あり、大統領と副大統領に1個ずつが同行し、1個はホワイトハウスに保管されています。通信機、核攻撃目標と作戦計画のリスト、代替指揮所リスト、大統領本人確認用の暗号、核爆発を可能にする暗号が入っていて、大統領は核のフットボールの通信機を起動するためのコードが書かれた、「ビスケット」というカードを常に携帯しています。

核兵器の使用に関する大統領の命令を国防長官が確認すると、命令と暗号が戦略軍司令部などに伝達されます。大統領と国防長官が同じ場所にいない場合も、大統領は核のフットボールを用いて作戦計画、本人確認用暗号、核爆発を可能にする暗号を送信することができます。送信先は、米本土が攻撃されていない場合はペンタゴンの国家軍事指揮センター、攻撃されている場合は、E-4BやE-6Bなどの空中指揮機となります。

当然ながら、皆さんが気にしているのはプーチン大統領が核兵器を使おうとしている場合、それをどのようにして阻止できるかという点です。プーチン大統領だけでなく、核のボタンを保つ3人全員を暗殺するか、クレムリンや国防省ごとミサイル攻撃で吹き飛ばせば核兵器の使用を阻止できるのでしょうか。

実は、そうは問屋が卸さない仕組みができあがっているのです。2020年6月、プーチン大統領は4項目からなる核兵器を使う状況を明らかにしました。

  1. 相手が大陸間弾道ミサイルを撃つとの確実な情報があるとき(核を搭載しているかどうかは問わない)
  2. 破壊工作でロシア政府や軍の施設が機能を停止するようなとき(サイバー攻撃を想定)
  3. 生物化学兵器を含む大量破壊兵器を使われるとき
  4. 通常兵器による攻撃であっても、ロシアが国家存立の危機に立たされるとき

暗殺やクレムリンなどへのミサイル攻撃はこれに該当しますから、そんなことをできないように手を打ったのです。

また、外国からの核攻撃が奇襲的に行われた場合には、プーチン大統領ら首脳が死に、上記のシステムは機能しなくなりますから、そのような場合にも核兵器による反撃ができるように「ペリメートル」または「死者の手」というシステムが存在しています。

ソ連が1980年代に開発した「ペリメートル」というシステムは、核攻撃による閃光・放射線・爆風・地震が探知された場合、米国の緊急ロケット通信システム(ERCS)のようなロケットをサイロから発射し、ICBM、戦略爆撃機、弾道ミサイル原潜に発射命令を伝えるものです。ただし、平時は稼働しておらず、有事に起動される半自動システムで、核攻撃を探知した場合も、地下司令室にいる当直士官3人が、緊急通信用のロケットを発射するかどうか決めます。

こんな具合ですから、プーチン大統領に核兵器を使わせないようにするには、核のボタンを持つ3人をロシア国民の手で合法的に拘束し、核兵器を備えている部隊に伝わるよう、ただちに公表する必要があるのです。ロシアの軍部などがクーデターを実行すればよいというだけでなく、同時に核のシステムが作動しないように手を打つ必要があるところが、とても悩ましい点です。

そんなことになることなく、プーチン大統領が核のボタンから手を離すことを願わずにはいられません。(小川和久)

image by:Sasa Dzambic Photography/Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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