プーチンにナメられた安倍晋三元首相が「北方領土交渉」で“見誤ったもの”

2022.03.30
 

ウクライナ紛争の勃発で、岸田政権は従来の対露政策を転換せざるを得なくなった。はっきりいえば、安倍政権以降の北方領土返還交渉は挫折したということだ。日本の交渉姿勢のどこが問題だったのだろうか。

私は、安倍政権が、北方領土の返還を「政権のレガシー」のように考えたために、国際関係における日露両国の政治的、経済的な力関係を冷静に見極められず、プーチン大統領の演出する「大国ロシア」の幻想に惑わされたからだと考える。

安倍首相は、北方領土の返還を、自らが政権担当する間になにがなんでも実現しようとこだわった。北方領土の返還は、第二次世界大戦によって日本が失った「固有の領土」をほぼ取り戻す「戦後外交の総決算」を意味する。それを成し遂げれば、安倍首相は、他に並ぶものなき大宰相になれると思ったのだろうか。

だが、領土問題は、政治家の名誉欲を満たすために取り組んでいいような軽い問題ではない。例えば、安倍首相は「2島返還」の提案をした。それを首相は具体的な成果を出すための「現実的な提案」だとした。

しかし、現在の「現実的な提案」は、30年後に現実的かどうかはわからない。30年後、ロシアの政治体制が変わり、「侵略した領土は返還する」という開明的な考えの指導者が現れるかもしれないのだ。

だが、その時すでに日露間で、「2島返還」で決着していたら、「4島返還」の交渉をあらためて始めることはできなくなる。現実的なはずだった「2島返還」は、将来世代から「功を焦った首相の短絡的な決断」だったと、断罪されることになる。領土問題の交渉は功を焦ってはならない。あくまで、北方領土はわが国の固有の領土という原則を堅持したうえで、腰を据えて着実に進めるべきものだ。

それ以上に問題だったのは、北方領土返還交渉のテーブルに着かないロシアに対して、次々と「バラマキ」を行ったことだ。これは、日露間の本当の「力関係」を考慮しない愚挙だったと考える。

なぜなら、ロシアは政治・経済的に「4つの悩み」を抱えていたからだ。ウクライナ紛争が始まってから、何度か書いてきたことだが、まず東西冷戦終結後の勢力圏後退があった。地政学を基に、東西冷戦後の長期的観点から見れば、ランドパワー・ロシアはシーパワー・英米によって完全に封じ込められてきた。東欧、中央アジアは民主化し、ロシアは遥かベルリンまで続いていた旧ソ連時代の「衛星国」を喪失した。いまや東欧は民主主義政権の下で、「EUの工場」と呼ばれる経済発展を遂げているのだ。

ロシア経済の脆弱な体質も問題だ。ロシアは旧ソ連時代の軍需産業のような高度な技術力を失っていた。モノを作る技術力がなく、石油・天然ガスを単純に輸出するだけだと、価格の下落は経済力低下に直結してしまう。実際、当時は長期的に原油価格が下落していて、ロシア経済に深刻なダメージを与えていた。輸出による利益が減少、通貨ルーブルが暴落し、石油・天然ガス関係企業の開発投資がストップし、アルミ、銅、石炭、鉄鋼、石油化学、自動車などの産業で生産縮小や工場閉鎖が起きていたのだ。

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