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減額で広がる不安。なぜ年金改革を叫び続けても日本の制度は変わらないのか

毎年の年金額は変動していますが、今年は4月から年金の支給額が0.4%減額されます。この春は食品、電気料金など値上げが相次ぎ、家計の負担は増すばかり。そうすると出てくるのが「年金を下げる前に無駄な出費をやめるべき」という意見です。そんな意見にメルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、年金改革を叫ぶ前に変えなければならないことについて解説。過去の年金改正周りの話を交えながら説いていきます。

4月分の年金から減額。毎年の年金額を物価や賃金に変動させるように決めた当時あたりの話

今月から令和4年度になりましたね。

今年度は何かと年金改正が多いですし、年金額も今月分から0.4%減額となっています。

令和4年4月分から年金額が下がるので、実際の振込額への影響は6月15日振込から変化してきます(年金振り込み日が土日祝日に重なると14日とか13日あたりに前倒しで支払い)。

年金は偶数月に前2ヶ月分を支払う事は基本中の基本でありますが、それを当てはめると4月分は5月分と共に6月に支払われる流れという事です。

6月の初旬には毎年ほぼすべての年金受給者の人に年金振込通知書を送るので、それで来年までの向こう1年間の金額の確認をお願いします。

さて、年金額が下がった計算や仕組みなどは先月の有料メルマガで書いたので、ここではその辺の話はしませんが、過去の背景について簡単にまた述べます^^

ここ数年はコロナに翻弄され、最近ではウクライナ情勢で毎日目が離せない状況となっていますよね。

だから国のお金が厳しいから、年金が下がってるのではないか…というような憶測が流れたりします。

または、年金を下げる前にまず無駄な出費を抑えろ!というような批判も多くなります。

よく「無駄を削減しろ!」という事が言われたりしますよね。もちろん無駄を省く事は大事だと思いますが、その目標ってもう約50年前からの話なんですよ。

なんかこう間延びしてしまってるというかですね。

約50年前当時は第四次中東戦争による石油危機で、石油の価格が高騰したりして深刻なエネルギー問題になりました。

日本はとても石油に依存した国だったので、石油使ってる産業は大打撃を受けました。もちろん日本だけでなく、いろんな国が打撃を受けました。

会社の収益が減ってしまったから国に入る税収も少なくなって、国の歳入が赤字になりました。

日本経済の高度成長は終焉し、本格的な不況の時代になりました(その後は途中でバブルはきましたが)。

赤字だから国債発行して補うしかないですよね。

石油危機以降はほぼ毎年のように当たり前に国債を発行し続けています。

赤字になったから、「税金を増やす前に無駄を削減しよう!」というのがスローガンとなったわけですが、そんな事は今に始まった事ではありませんでした。

今回のロシアのウクライナ侵攻においても、例えばロシアからの天然ガスが手に入らないとかウクライナの小麦が少なくなるというような事になると、どうしてもその影響を受けてしまう。

供給が世界的に少なくなるので、相対的に需要が増えて物価が上がってしまう。

日本は特に資源がほとんどなくて、輸入に依存してる部分が大きいので、他国で何かが起こるとどうしても弱い立場になります。

今はロシアに強力な経済制裁がされていますが、ロシアの国土は1,700万平方キロもあって、日本の約45倍の面積で資源だけはたっぷりの国であります。

やはり食料自給率、エネルギー、国防だけは独立国として自分たちで何とかできるようにしておかないと他国に振り回されるし、外交も強く出れない。

さて、話を戻しますが、年金は昭和48年の改正からは原則として物価変動率や賃金変動率に連動するようにしてるので、物価や賃金が下がれば年金も下がるし、それらの数値が上がれば年金も上がります。

これはもう毎回言ってる事ですね^^;

令和4年度もそれらの数値が上がらずに下がってたから、年金がそれに連動して下がった事になります。

年金額を上下させるルールに沿ってるだけの事です。

よって、年金がこれから上がるか下がるかどうかというのは、年金制度の構造の問題ではなく日本経済が成長するかどうかなどの問題といったほうがいいですね。

なお、少子高齢化が日本ではよく話題になります。世界一の長寿国だから。

そんな中、若い人が少なくなるのに高齢者は増える一方の中で年金制度は持つのかと心配もされます。

高齢化が本格的になってきたのは今から52年前の昭和45年から(高齢化率7%)であり、少子化が本格的になってきたのは昭和50年(合計特殊出生率が2.0を切り始めた)からであります。

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※ 参考

高齢社会の14%になったのは平成6年であり、超高齢社会の21%に突入したのは平成19年でした。令和4年現在は高齢化率はほぼ30%。

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高齢化率が気になり始めた当時からすでに年金はもう持たないとか、崩壊するみたいな話が学者さんの間であったようですが、令和現在も年金は普通に支払われています。

約4,000万人以上の人の生活に欠かせないものとして、年金は人々の生活に浸透しています。

年金をもし無くしてしまうと高齢者の生活は子供などの家族が面倒見るとか、生活保護で何とかするしかなくなってしまう。

若い人たちの生活にも多大な影響を及ぼす事になる。

さて、遠い昔から少子高齢化は進行し続ける事がわかっていたため、この50年間の間に高齢化に対応した年金にするために何度も年金は改正してきました。

少子高齢化が進むなんて昔から分かっていた事だから、そういうのを踏まえて年金を改正し続けてきたわけです。

昔から「このままだと年金給付費が膨れ上がって、若い人の保険料負担が過大なものになる…」という事が憂慮されてきました。

だから、年金の水準を下げたり、支給開始年齢の引き上げをしようというような事が考えられました。

年金というと昔は60歳から貰うものというイメージが強かったですが、平均寿命や平均余命が著しく伸びていったので定年退職してからの年金受給期間が長くなっていく一方でした。

年金ができた頃の昭和20年前後の時は寿命が50歳台であり、60歳から年金を貰うというのはちょうどいいものでした。

しかし、昭和30年代になると平均寿命は男性は65歳あたりになり、女性は70歳に到達しました。

昭和50年代に入ると男性は70歳台に到達し、女性は75歳を超えてきました。

昭和60年になると女性は80歳に到達しました(男性が80歳台になったのは平成25年)。

寿命がどんどん延びてきたわけですね。

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※ 参考

平均寿命は男性が約81歳、女性が約87歳ですが、0歳児がいつまで生きるかを表す。平均余命は今の年齢時点の人が、今後何歳まで平均的に生きるのかを表す。

例えば今65歳の人で男性の平均余命は約85歳であり、女性は約90歳となっている。なので基本的には平均余命のほうを見るのが正しく判断できる。

自分の今の年齢ならいつまで平均的に生きるのか?を見たい場合は平均余命を参考にしましょう。

各年齢の平均余命(厚生労働省)

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そうすると年金受給年齢60歳と、寿命80歳以上となってバランスが悪くなってきたのです。

全体の年金給付費も昭和45年あたりは年間1兆円行かないくらいだったのに、高齢化のスピードが早いし支給開始年齢はまだ60歳だったので10年後には10倍の年金給付費になってしまいました。20年後には20倍になった。

更に昭和48年の石油ショックで日本の税収は半分になってしまい、国の財政はついに赤字になっていきました(この昭和48年は老人医療費を無料にし始めた年でもありました。市区町村が悲鳴を上げ始めました)。

深刻な不況に陥る中で、今後の事を考えると年金の増加を抑える必要が出てきました。

昭和50年代に入ると今までは年金を上げていたのを抑制の方向に転換していく事になってきたわけです。

この辺から年金の支給開始年齢を引き上げたり、年金の水準を下げるという事がいろいろ議論になるようになりました。

なので早速、昭和55年に厚生年金の支給開始年齢を60歳から65歳にしようという改正をしたかったのですが、野党や労使からの反発でできずに結局20年後の平成13年からようやく実行する事になりました。

60歳から65歳までの引き上げは2030年(令和12年)完了です。

さすがに平均寿命が80歳以上なのに60歳からの年金支給開始年齢だと早すぎるので、そこは65歳に引き上げたわけです。

と言ってもまだ引き上げ最中です。年金の支給開始年齢の引き上げというのは多くの反発があるし、時間はかかるしで簡単なものではありません。

60歳から65歳に引き上げれば済む話という簡単な問題ではなく、急に引き上げると生活を壊してしまう危険があるので、60→61歳、61歳→62歳…64歳→65歳というように、数年ずつに1歳ずつ引き上げるようなじれったい事をやるわけです。

もう一つ年金額を引き上げていた要因もありました。それは、昭和30~40年代というのは高度経済成長期だったので、人々の賃金が著しく上がっていった事です。

老後の社会保障としての機能を持つ年金ですが、現役時代の頃の賃金との差が開き始めてきました。

例えば現役の頃の給与が30万あったのに、老後の年金は1万円です…となると全然老後保障になりませんよね。

じゃあどうするか。

年金額を意図的に引き上げていくしかないので、約5年間隔で改正して年金額の水準を大きく引き上げていきました。

ところが現役世代の人の賃金の伸びが毎年10%とか物価の伸びが毎年5%とかそのくらいのものだったので、改正して年金額を引き上げてもすぐ現役世代の賃金との差が出来てしまいました。

そこでわざわざ改正しなくても、物価や賃金の伸びという経済の変動率を年金にスライドする方法(物価スライド制)が昭和48年から導入される事になり、これにより毎年改正しなくても年金は自動で物価や賃金の伸びを反映するようになったのです。

ちょうど石油危機の年だったから、物価が2年で約40%ほど上がったので年金も同じだけ上がる事になりました。当時は狂乱物価と呼ばれました。

これが現在も、年金額変動の場合の大原則となっています。

まあ、現在は平成16年の改正からはそんな単純なものではなくなりましたが、考え方の原則は物価や賃金が上下すれば年金も上下するものであるという事です。

よく年金の抜本的な改革という事が言われたりしますが、結局のところ日本の経済が良くならない限りはどんなに年金の構造を変えても解決はしないので覚えておきましょう。

年金が下がる時はどうしてもいろんな不安を煽る話が増えるからですね…^^;

image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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