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プーチン露ウクライナ侵略の裏で中国・習近平が煽る「別の危機」

プーチン大統領による一方的なマリウポリ制圧宣言が出されるなど、依然混乱が続くウクライナ情勢。多くの市民の命を奪い続けるこの軍事侵攻はまた、国際社会の亀裂を深化させてもいるようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者で元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、交渉のプロフェッショナルとしての目線でウクライナ紛争の現状と今後の展開を分析。さらにロシアへの制裁を通して露わになった世界の分断について解説するとともに、紛争の裏で進む「別の危機」に対する警戒を呼びかけています。

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袋小路に陥った国際社会―止まらない分断

「20時までに投降せよ」
「バンカーバスター(地中貫通弾)が攻撃に用いられたらしい」

マリウポリにあるアゾフスターリ製鉄所をめぐるロシア軍とウクライナのアゾフ連隊との攻防は、膠着状態を迎えています。とはいえ、その製鉄所には、アゾフ連隊曰く、1,000人を超える一般市民が避難しており、そのほとんどが年配者か子連れの女性であるとのことで、そろそろ食糧と水が尽きつつあるという懸念情報もあります。

元々このアゾフスターリ製鉄所は旧ソ連時代に核攻撃にも耐えうる地下要塞として作られたものですが、そこがロシアとウクライナ、共に旧ソ連の同胞たちの戦いの場になっているというのはとても皮肉に思えます。

戦況については、いろいろと衛星イメージなどを用いて解説をされているので私はお話ししませんが、寄せられてくる情報によると、ウクライナ最強と言われるアゾフ連隊をもってしても、ロシア軍の攻撃を前にそろそろ限界が来ているのではないかと思われます。

ロシアサイドはひたすら、武器を放棄して投降するように勧告していますが、アゾフ連隊もウクライナも徹底抗戦を宣言しています。

そのうえでゼレンスキー大統領は「マリウポリが壊滅されるようなことがあれば、いかなる和平交渉も拒む」と宣言してしまいましたが、個人的にはあまり賢明ではないと感じています。

まず、ロシアがこの姿勢をどこまで真剣に考慮し、攻撃を控えようと感じるでしょうか?

恐らくほとんどありません。軍の上層部から現場に下されている命令が、なぜかリークされていますが、徹底的な破壊を暗示するような内容になっており、マリウポリの製鉄所への総攻撃は、プーチン大統領または総司令官になったドヴォルニコフ将軍の命令がいつ下されるかによると感じています。

投降勧告が毎日のように反故にされる状況に、ロシア側はそろそろ堪忍袋の緒が切れる寸前であるらしく、いつ“その時”が来ても不思議ではないというのが、分析を担当しているグループからの報告でした。

20日は「一般市民を避難させるための人道回廊の再開に合意」というニュースが流れ、少し希望の光が見えてきたかと思っていた矢先、ロシア軍からの砲撃で人道回廊の設置・再開も幻となりました。

国連事務総長が「最低4日間は停戦して、人道回廊を設置するべき」と再三訴えてきましたが、実現には至らなかったようです。

ところでこのマリウポリにおける“人道回廊”が機能しないのはどうしてでしょうか?

私は4つの可能性があるとみています。

一つ目は、メディアでよく言及される内容ですが、【ロシア軍内の統率が取れておらず、現場に指令が下りていない】というものです。

2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻以降、予想に反してロシアが苦戦している理由の一つに挙げられてきた【ロシア軍内における情報伝達システムの破綻】がありますが、これはどうも解決されているようで、ロシアの安全保障担当者曰く、「すでにコミュニケーション手段に関わる問題は解決済みであり、新しい技術が導入されているため、モスクワからの情報は即時に全軍にシェアされるし、現場からの報告についても同様だ」とのことです。

また、先に挙げた“あの”ドヴォルニコフ総司令官が着任して以来、ロシア軍の統制は整えられており、プーチン大統領・ショイグ国防相・そして統合参謀本部議長と軍との情報体制は引き締めが行われ、レベルアップされたと言われています。

ということは、統率が取れていないのではないか、という見解は当てはまらないことになります。

ゆえに、人道回廊の再開に“合意した”あとに砲撃が加えられているのは、ある懸念を生じさせます。

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2つ目は、ロシア内で交渉を担当しているグループ(背広組)と軍(制服組)との間の意思疎通および信頼の欠如が考えられます。

ウクライナとの和平協議が開始されて以降、ロシア軍側からはロシア側の交渉担当団の方針と姿勢に異を唱えており、和平プロセスそのものへの反感も存在するようです。

特に現場の状況も知らずに、勝手にいろいろと決めるのは我慢ならないという意見も多く、交渉団が決めてきたと思われる内容には、プーチン大統領からの直接の指示がないと、従わないとの姿勢を貫いています。

もし、今回のマリウポリの人道回廊の再開が、この交渉団による合意なのだとしたら、軍がそれを無視して、自らが受けている【マリウポリの完全なる破壊】と淡々と遂行しているというようにも考えられます。

その真偽は残念ながら分かりませんが、政府側そして軍の側双方から聞く情報に鑑みると、強ち(あながち)間違っているようにも思えません。

3つ目は【人道回廊の再開に対する合意はあったが、その合意の基本となる“避難時の武器不携帯”というルールをアゾフ連隊が無視した】ということも考えられます。

真偽のほどは分かりませんが、アゾフ連隊側がロシア側に要求した内容に、【武器の携行を許可してほしい】というものがあったそうで、ロシア側からの回答を待つことなく、武器を携行し、“一般市民”に寄り添う形で武装したアゾフ連隊が出てきたことに、合意違反としてロシア側が砲撃を加えたという説もあります。

これを受けて、別の疑念が生まれてくるのですが、今回の人道回廊の再開交渉において、ウクライナ側の当事者は誰だったのでしょうか?

もしこの製鉄所で立てこもっているアゾフ連隊が当事者なのだとしたら、武器を携行しての人道回廊の使用に踏み切り、ロシア軍からの砲撃を誘発した責任は、アゾフ連隊側にあると思われますが、そもそもアゾフ連隊に交渉の当事者たる資格が与えられていたのかは疑問です。

または、交渉・協議の当事者はウクライナ政府だったが、ロシア側と“合意”した人道回廊の設置についての基本ルールを、ウクライナ政府がアゾフ連隊に対して説得できなかったのではないかとの疑念が生まれます。

ゼレンスキー大統領が繰り返し徹底抗戦を訴えつつ、交渉の可能性を匂わせているのは、戦略的には評価できるのですが、マリウポリの現状に対して権限を持っているのは、ゼレンスキー大統領なのか、それともアゾフ連隊なのか。

少し見えづらくなってきたのは私だけでしょうか?

そして4つ目は【そもそも人道回廊の再開についての合意が成立していない】のではないかとの疑いです。

今回の人道回廊の再開についての発表は、ロシア軍からの砲撃に至るまで、ウクライナサイドからの一方的なものであり、ロシア側からは一切の言及がありませんでした。

これはどういうことでしょうか?

もし合意が成立していたのであれば、ロシア側としても発表することで、少しは歩み寄りの姿勢を示したとアピールできたかもしれません。

しかし、私が見逃しているだけかもしれませんが、そのような発表がロシア側からなされた形跡がありません。

もしウクライナ側からの一方的な発表、もしくはフライングだったのだとしたら、全滅を命令されているらしいロシア軍の側からすれば、変わらず砲撃を加えるのは作戦上当然だったと言えるかもしれません。

とはいえ、もともとこんな全滅を意図するような攻撃を仕掛けていること自体が間違いですが。

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では、これまで4回開催された和平協議の今はどうなっているのでしょうか?

水面下では(オンライン上で)情報の交換やコンタクトは保たれているようですが、大きな進展は見られません。

また仲介の任を自任しているトルコによる仲裁・調停も不発に終わっています。

いろいろな状況や情報を総合的に見てみると、和平協議は完全に行き詰っていると言えます。

ロシア側は、最近、プーチン大統領が「交渉や和平協議に応じるには、まだ機が熟していない」と述べているように、まだ話し合いのテーブルに就くつもりはないようです。

では“いつになったら機が熟すのか”と聞きたくなりますが、そのための最低条件が「ドンバス地方の完全掌握」と「マリウポリの陥落」であるようです。そのうえで、2014年に侵攻したクリミア半島の併合を認めさせることと、ウクライナの完全非武装と中立化などについて要求を再提示するのではないかと予測されます。

ウクライナ側としては、ゼレンスキー大統領が最近繰り返しているように、マリウポリの陥落は、すなわち徹底抗戦を意味し、交渉や和平協議の終わりを意味することになりますので、ここに交渉が成立する基盤が存在しえないことに気づきます。

先ほど触れたマリウポリの人道回廊の再開については、仮に合意があったとしても、その信憑性には疑問がありましたが、ロシア軍関係者の話によると、「人道回廊を設置しても、一般市民に紛れ込んで戦闘員が混じっていることも大いに考えられる。それは絶対に許容することはない」とのことでしたので、やはり人道回廊の再開が実現することはかなり困難だったと言わざるを得ません(もしアゾフ連隊が武器の非携行に同意していたら別だったかもしれませんが)。

またウクライナ政府は、ゼレンスキー大統領曰く、「ウクライナの現状を変更する内容は受け入れ不可能」と明言していることもあり、ロシア側がアプローチするドンバス地方のロシアへの併合・編入やクリミア半島のロシアへの編入といったものは受け入れられず、ここでも交渉が成り立たない要素が見えます。

私個人的にはメディアが挙って取り上げる5月9日という“deadline”をあまり重要視していませんが、ロシアが総攻撃をかけ、少なくもドンバス地方からマリウポリに至るロシア軍にとっての海上アクセスを確保するための勢力圏回廊の獲得は狙ってくる期日ではないかと思います。

それが叶ったら、一応、ロシア的には話し合いのテーブルに就くベースができたといえるのでしょうが、そこで止まるか否かは、誰にもわかりませんし、その後に欧米諸国からの反応しだいなのかもしれません。

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世界の分断が明確に

4月20日にワシントンDCでG20財務大臣・中央銀行総裁会議が開催されました。ウクライナ紛争が進む中、ロシアのシルアノフ財務大臣はオンラインで参加し「ロシアに対する制裁が、すでに生じていたインフレ圧力を強めているだけでなく、経済の新しいリスクを作り出した」と非難しました。

その際、アメリカのイエレン財務長官とパウエルFRB議長、カナダのフリーランド副首相兼財務大臣、そして英国のスナク財務大臣が退席をし、ロシアに対する非難の姿勢を見せるという、非常に稀な事態が起こりました。

しかし、日本やフランス、イタリア、ドイツなどのG7諸国、そして中印、ブラジルをはじめとする17か国と地域(EU)は議場に留まり、ロシアに対する各国の態度に温度差があることがここでも鮮明になりました。

G20各国(ロシアを除く)がロシアによるウクライナへの武力侵攻を非難するものの、欧米諸国が課す対ロ制裁には賛同しておらず、今回のG20の場でも制裁反対の声が上がったようです。

コロナウイルスのパンデミックを受けて世界の分断が鮮明になっていたところに、ウクライナ紛争が起こり、各国での人道危機や経済への悪影響が広がる中、G20が結束できない状況になっていることは、もはやG20の枠組みも、国連同様に機能不全に陥っているだけでなく、先進国vs.途上国の2分論を印象付ける結果になりました。

ブラジルやアルゼンチン、南アの代表が示した懸念では、「対ロ制裁は一方的な理屈に基づいて行われ、世界経済を政治問題化し、武器化してしまった。しかし、国際社会は忘れてはならないことは、対ロ制裁に賛同している国は、世界の人口の1/3を占めるにすぎず、それらは欧米諸国とそれらに盲従する国々に限られていることだ」と痛烈な皮肉が述べられました。

決してロシアの行動を肯定するものではありませんが、これもまた世界の現実であることを認識しておかないといけないでしょう。

ちなみに、いろいろな評価があるかと思いますが、個人的には今回、米英加が行った退席という行為は、ロシアの蛮行を止めさせるには決して賢明な手段とは考えません。

代わりにしっかりと多国間の会議に参加させて、意見を述べさせることをお勧めします。内容は耳を覆いたくなるようなものでも、納得する必要も同意する必要もなく、ロシアからの発言内容をつぶさに記録して、後日、行動や事実との整合性のなさを責めるほうがよほど効果的な気がしますが…。その点では、今回、日本の鈴木財務大臣と黒田日銀総裁が退席せずに会場に留まったという判断は称賛できると思います。

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そしてその“分断”とウクライナ紛争の影響は日本が位置する北東アジア地域でも顕著になってきています。

その一例は言うまでもなく【北朝鮮による相次ぐミサイル実験】です。このところ、急に目覚めたかのように、ミサイル発射実験が強行されています。ICBM級を含むミサイル発射実験、最近では核弾頭も搭載可能と言われる戦術誘導弾の実験、そして巷で噂される核開発の可能性など、急に北朝鮮ネタが、安全保障の議論に上ってくるようになりました。

現在、アメリカをはじめとする欧米諸国がウクライナ紛争にかかりきりになっていて、北朝鮮が挑発行為を行っても即時介入する余裕がないとの読みなのか、それとも今回、ロシアのプーチン大統領が核兵器の存在を直接戦争の防波堤のように用いていることに“やはり核を持たないといけない”という確信を持ったのか、とても大胆な行動に出ています。

特に今後、数週間ほどの間には、国際社会の反対を押し切って、安保理決議違反となる核実験を強行すると見られており、それは先日実験した戦術誘導弾に搭載可能なレベルまで小型化された核弾頭の最終的な実験ではないと言われています。

同じ弾頭は、北朝鮮が開発中のICBMにも搭載可能と分析されていることもあり、実質的に欧米諸国をにらむ抑止策になり得るとさえ言われています。

もちろんアメリカ政府も日本政府もこの状況を静観しているわけではないようですが、どちらかというと安全保障関連のフォーカスはウクライナ・ロシア対応に注がれているように思われます。

中国も、ウクライナ紛争の激化と長期化の影で、しっかりと自国の安全保障環境の整備と、宿願に向けた準備を進めています。

その典型例は、台湾併合に向けた作戦の練り直しとアップグレードです。これまでロシアによるウクライナ侵攻直前と同じく、中国の分析は、台湾への武力侵攻を行っても、米軍などが態勢を整えて台湾海峡に到着する前に、台北を攻略し、現行の政府政権を崩壊させることが出来て、台湾の地でアメリカの到着を出迎えられるというような見方をしていたようです。

それが今回、ロシア軍は、当初数日以内には攻略し占領すると思われていたキーウを占拠することは出来ず、各地で大変苦戦を強いられている状況に直面し、
中国政府と軍は対台湾侵略の戦術と戦略を練り直す必要が出てきたとのことです。

ただそのためには、今、アメリカや日本などの周辺国からのちょっかいを受けたくはないことから、台湾から目を離させるために、尖閣エリアへの侵入を繰り返し、日米の出方を探っています。

同様に、ロシア軍と共同で、中ロの艦船が日本近海を通過するという威嚇・挑発を行って、そちらに目を向けさせているように感じます。

現時点では、腹立たしく思うものの、日米ともにその“事実”を認識していることを示しつつ、特段、警察行為などは実施せず、レッドラインぎりぎりの線でとどまっていますが、常に偶発的な衝突からの“別の紛争”勃発の危険性をはらんでいます。

【日本近海が、ウクライナ情勢を受けて手薄になっているからだ】という批判を耳にすることがありますが、実際にはグアム・沖縄に代表される在日米軍および太平洋艦隊は、ウクライナ情勢と絡んだ動きをしておらず、備えはOKだと思われます。反応を控えている理由は、恐らく、今、ロシアへの対応で手いっぱいのところ、中国を下手に刺激して、戦端を開きたくないという思惑があるのだと思います。

そしてロシアは、ウクライナ戦線にもシベリアからの部隊を送り込んでいますが、北方領土を含むエリアの“守り”は怠っておらず、しっかりと当該地域に対する日本の、そして米中の動きを監視しているとのことです。

日本としては有事に対する緊急の対応策をしっかりと準備しておく必要があると考えます。

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さて、中国ですが、ロシア・ウクライナ問題からは距離を置きつつ、アジア太平洋地域における自国の勢力の拡大を図っています。

これは世界の目がウクライナでの悲劇に向いている裏で進められている別の危機だと言えるでしょう。

台湾に対する懸念については先ほどお話ししていますので繰り返しませんが、そのハレーションはしっかりと南シナ海にも及んでおり、ウクライナ情勢でも態度を明確化しないASEAN諸国を中国サイドに吸収しようと、南シナ海への展開を強化してプレッシャーをかけているようです。

今回、G20の議長国でもあるインドネシアはもちろん、マレーシア、フィリピンなどにも食指を伸ばし、同時に世界が“見捨てた”ミャンマーの取り込みも進めています。

そして今週、その最大の企みが表に出たのが、スリランカのデフォルト危機です。IMFの分析によると、すでに自助努力で何とかできるレベルではないほど、国際収支は深刻な悪化を見せており、対中債務不履行に加えて、ドル建ての債務不履行が重なり、スリランカ全土で経済危機、日に10時間以上にわたる停電が起きており、すでに政府も打つ手がないと諦めモードになっています。

【関連】ウクライナ危機の影で中国が“静かな”侵攻。島国スリランカが嵌った罠

このような危機を救う手立ては、【IMFからの緊急支援】が考えられますが、IMF曰く、「持続可能な債務への十分な保証が必要だが、その可能性が見通せない」と緊急融資の実施には慎重になっているようです。インドが後ろ盾としてスリランカへの緊急融資の必要性をIMFに訴えかけているようですが、このメルマガを書いている時点では、IMFはまだ首を縦には振ってくれないようです。

このスリランカ経済危機ですが、もちろんそのトリガーを弾いているのは、一帯一路政策で港湾をはじめ、さまざまなインフラ案件への支援を行ってきた中国です。

その中国は、スリランカ政府からの債務不履行に関する協議依頼をこれまでのところ突っぱねており、確実にインドと目と鼻の先に位置するスリランカを奪いに来て、南アジア地域での勢力の拡大を進めていると思われます。

確実に中国とインドとの対立軸がまた一つ増えることになりますが、ウクライナおよびその周辺での緊張が高まる背後で、また大きな争いの種が生まれそうな予感がしております。

ウクライナ紛争はまだまだ解決までしばらくかかると考えていますが、ウクライナ紛争が長引くほど、日本を取り巻く北東アジア情勢およびアジア太平洋地域における中国のプッシュが強まってくると思われます。

そのような時、どのように、迅速に対応して、不必要な危機を招かずに済むか。日本としてはしっかりと策を練り、いつでも発動できるようにしておく必要があるでしょう。特に独自の軍事オプションがあまり考えられない特殊な事情がある中で、取り得るチョイスはあまりないかもしれません。

世界の分断は、恐らくもう引き返すことが出来ないレベルまで来てしまった気がします。ウクライナ紛争はそれを露わにし、多くの市民を犠牲にした上で、世界の秩序とパワーバランスを大きく変えようとしているように思います。

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image by: DimaSid / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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