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わずか0.001%という異常値。“重大事態いじめ”の発生率が低すぎるウラ事情

2013年施行のいじめ防止対策推進法に明確な定義付けがなされている、重大事態いじめ。文科省はそのガイドラインをネット上でも公開していますが、多くの学校で意図的に見逃され、被害者は幾重もの苦しみを強いられているというのが現状です。そんな状況への憤りを隠さないのは、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さん。阿部さんは自身のメルマガ『伝説の探偵』で今回、0.001%という令和2年の重大事態いじめ発生割合を取り上げ、この数字がいかに現実を反映していないかを訴えるとともに、国が動く以外に問題解決の方法はないとの認識を示しています。

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重大事態いじめ発生率は異常値である

およそ0.001%。

これは何の数字か?わかる方はいるだろうか。

これは、令和2年度における重大事態いじめの発生割合である。

数字が大きいため、何となくスルーされがちだが、「51万7163件」のいじめ認知数のうち、重大事態いじめとなったのは、ほんのわずかの「514件」であった。

まさに、その発生は全体の「0.00099%」なのだ。

重大事態いじめとは何か?

重大事態いじめは、いじめ防止対策推進法第28条に規定されており、「生命、心身または 財産に重大な被害が生じた疑いがあるとみとめるとき」とされている。

具体的には、文部科学省ホームページで公開されている「重大事態いじめガイドライン」などにも記載されており、私が対応する相談の多くはこの条件に当てはまるのだ。

例えば、東海地方の公立小学校では、同級生からのしつこい暴力を受けていた男子児童が階段から蹴り落され、骨折をしていた。保護者への説明で学校は、いじめの可能性を示唆し、調査をすることを約束したが、その後の報告はなく、加害側からの謝罪もなかった。

定期的な保護者会の際に、被害保護者が加害保護者と話したところ、全く違う説明を学校がしていたことがわかるが、加害児童の将来のためということを名目に、いじめ認定すらしなかったし、その段階で、学校長は「いじめではない。ただのイザコザ、じゃれあいに過ぎない」と発言して、調査自体を拒絶したのだ。

被害男児は、骨折事件からPTSDを発症し、不登校の状態であるが、復帰をするためにも転校手続きを求めていた。

この段階で、いくつもの「重大事態いじめガイドライン」に関する違反が認められる。

重大事態いじめガイドラインは、文科省ホームページから誰でも確認ができるように公開されているものであり、そこには、明確に下記のような記載がある。

第5 被害児童生徒・保護者等に対する調査方針の説明等(説明時の注意点)

 

○ 「いじめはなかった」などと断定的に説明してはならないこと。

※ 詳細な調査を実施していない段階で、過去の定期的なアンケート調査を基に「いじめはなかった」、「学校に責任はない」旨の発言をしてはならない。

○ 誤った重大事態の判断を行った事例等

 

  1. 明らかにいじめにより心身に重大な被害(骨折、脳震盪という被害)が生じており、生命心身財産重大事態に該当するにもかかわらず、欠席日数が30日に満たないため不登校重大事態ではないと判断し、重大事態の調査を開始しなかった。結果、事態が深刻化し、被害者が長期にわたり不登校となってしまった。この場合、学校の設置者及び学校は、生命心身財産重大事態として速やかに対応しなければならなかった。
  2. 不登校重大事態の定義は、欠席日数が年間30日であることを目安としている。しかしながら、基本方針においては「ただし、児童生徒が一定期間、連続して欠席しているような場合には、上記目安にもかかわらず、学校の設置者又は学校の判断により、迅速に調査に着手することが必要である。」としている。それにもかかわらず、欠席日数が厳密に30日に至らないとして重大事態として取り扱わず、対応を開始しない例があった。このような学校の消極的な対応の結果、早期に対処すれば当該児童生徒の回復が見込めたものが、被害が深刻化して児童生徒の学校への復帰が困難 となってしまった。

※ 文科省「重大事態いじめガイドライン(PDF)」より

つまり、この小学校の対応は、文科省が公表している「いじめ重大事態ガイドライン」を作成するにあたって、すでに予測され、事実として「明らかに誤り」という対応をした のである。

結局、私はこの小学校と市教育委員会に対して「日本語を読解することができますか?」という質問をせざるを得なくなる。

結果として、学校で作る調査委員会を形成し、いじめを認定した上で重大事態として市長に報告することになったが、今年の3月末には校長が交代し、主に対応した当時の担任も移動してしまった。このようにして、学校側の当事者とも言える者は居なくなってしまうことで問題をあやふやにしてしまうのだ。

こうした事例は枚挙に暇がないほどあり、私や私が代表理事を務めるNPO法人が意見をしてからやっと「重大事態いじめ」となるものばかり対応をしていると言っても過言ではないのだ。

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ガイドラインがあるから自動的には大間違い

あまりに問題が多いから文科省がガイドラインを作り、誰でも確認できるようにしても、実質上、学校や教育委員会、私立であれば学校法人などが、このガイドラインを受けて自動的に手続きを進めて、「重大事態いじめ」として進めるケースは良心的な対応であると言わざるを得ない。

通常とまでは言わないが、もしも我が子がいじめの被害を受けても、いじめ認定をされるまでのハードル、重大事態いじめであれば、これが認められるハードルがあり、第三者委員会に調査がまわるまでのハードルなど様々なハードルがあると考えておいた方がいい。

本来であれば、法の手続きやガイドラインといったものがある以上、こども達のためにも、その通りにいじめ対応を進めるべきなのは当然だが、そうしなくても、誰も処分されず、退職してしまえば、謝る必要すらないのが、いじめを取り巻く社会なのだ。

私はこの環境は異常であると思うと同時に、学校社会のみではもはや改善は不可能であろうと感じる。

ユーチューバーに被害者が相談して学校や教委が対応を始めたことがニュースになっていたが、こども達が身近に感じる信頼できる大人が、積極的に関与するなど法やガイドラインを守らせるための作用も必要だろう。

編集後記

いじめ問題を語るとき、重大事態いじめの発生率の異常値に気が付かない専門家は一人もいないと言えます。

これを問題視するか、しないか、それぞれの専門家の立場があることでしょうが、実際に相談や介入を繰り返していれば、いじめ問題についての仕組みが機能不全に陥り、それによってさらに苦しめられてしまう被害者や、事実上の対応をしている保護者も人間不信のその先で、強く苦しめられてしまう現実を目にすることになります。

改めて「この数値は異常値」であると強調するとともに、異常であると認識し、早急な対処をしていく必要があると思います。全国的な問題でもある事から、もはや国が旗を振り、責任をもって動く以外、どうにもならないと思います。

そして、なにか難しいことがあればあるほど、「民間に」という魔法の言葉もやめてもらいたいところですし、困ったらボランティアに頼むという甘えた考えもやめてもらいところです。専門家をボランティアのみで作り出すことは至難の業です。そのボランティアは、何かを犠牲にしていますし、それぞれの立場や環境で志があっても成れない人も多くいます。

一方で「重大事態いじめ」になったら対応が変わるということもありますが、事態を軽んじたり、無かったふりをして回避するというのは、隠ぺい工作を必ずすることになって、結果二次被害を発生させているということを、忘れないでもらいたいところです。

被害者は二度以上苦しむ、そういう被害をもう生み出してはならないと思います。

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image by: Shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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