日本のメディアが知ろうともしない、中国が「ゼロコロナ」に拘る理由

 

ロックダウンされた上海のスーパーからは品モノが消え、配給の不備や住民と当局の衝突といった窮状が次々とSNSを通じて発信された。なかでも有名なバイオリニストの自殺に絡み、医療崩壊にも似た問題が起きていることが明らかになり、全国にその深刻さが伝えられた。

上海の混乱は西側メディアが「ゼロコロナ」政策の不合理性を取り上げられる絶好の機会となったのである。「なぜ、中国は『ゼロコロナ』を止められないのか?」という質問は、少なからず「ゼロコロナ」の継続が誤りであることが前提だ。

さらに追い風となったのは中国のCOVID-19対策の伝説的人物・鐘南山医師が自らの論文(中国の学術誌『ナショナル・サイエンス・レビュー』4月6日)で「ゼロコロナ政策を『長期的に追い求めることはできない』と主張する論文を発表し、波紋を呼んでいる」と日本の新聞などが報じたことだ。その後、8日の講演では「現時点では政策緩和は適当ではない」と発言したことも報じられたが、まるで当局の圧力で本音が封じられたようにも感じられる扱いだった。

ただ論文を読めば明らかなように「長期的に追い求めることはできない」と言ったのは「長期的な視点に立てば」(「in the long run」)という前提の話であり、いまの上海に向けた発言ではない。そもそもタイトルが「来るべき再開に向けた中国のCOVID-19戦略」なのだ。鐘氏が緩和を「不適当」としたのは中国にはオミクロンに対する警戒が依然として強いからだ。

4月22日CCTVのインタビューに答える中国国家衛生健康委員会疫情応対処置工作両道小組専門家組梁万年組長は、「オミクロンは防疫措置を取らなければ平均9・5人以上に感染させ、死亡率も0・75%と高い」と警告した。一般的にインフルエンザの死亡率が0・1%であれば7倍から8倍であり、「高齢者に至っては100倍にもなる」(同前)というのだ。

つまりオミクロンは感染症に対して弱い状態にある人にとってリスクは依然として大きく、中国には60歳以上の人口が2億6700万人もいる。また、子どもに対し長期間の後遺症が残ることを意味する「ロング・コビッド」という言葉が指摘される点からも軽視はできないというのが中国の考え方だ。この中国の選択を「政策的な間違いを否定できないから」という理由だけで説明しようとするのは無理があると言わざるを得ない。冷静に考えれば「ゼロコロナ」政策の成否を判断できるのはまだずっと先の話だ。

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