日本のメディアが知ろうともしない、中国が「ゼロコロナ」に拘る理由

 

ラリー・ブリリアント(パンディフェンス・アドバイザリーCEO)ほか5人の研究者が発表した論文「新型コロナの不都合な真実──永続化するウイルスとの闘い」(『フォーリン・アフェアーズ』2021年4月号)のなかで「『COVID19パンデミックを引き起こしたウイルスは消滅しない』。いまや、こう明言すべきタイミングだろう」と位置付けた。その上で「ウイルスを封じ込める試みは、短距離走であるとともに、マラソンであることがすでに明らかになっている」と断じたのだ。

同じ論文誌でマイケル・T・オスタホルム(ミネソタ大学兼感染症研究政策センター所長)他1名は「変異株とグローバルな集団免疫──終わらないパンデミック」を発表。そのなかで「2020年11月と12月に最初の変異株が出現すると、科学者コミュニティは、パンデミックを収束させるのがそれほど簡単ではないことを、屈辱感とともに、認めざるを得なくなった」と論じた。さらにその上で、「もっとも厄介なのは、ワクチン接種またはCOVID19への感染から得た免疫では、変異株への感染を防げないかもしれないことだ」と警告している。

つまり数分から数時間で新世代の株を誕生させ続けるCOVID19は、ひょっとすると集団免疫というゴールをわれわれから奪ってしまう可能性さえあるというのだ。その意味で重要になるのは変異株出現の環境をいかに抑えるかという課題だ。中国が「動的ゼロコロナ」にこだわる一つの理由がここにあることは実はあまり知られていない。

かつてキッシンジャー米元国務長官は中国を評して「西欧とアフリカが同居する国」といったことがある。これを感染対策に当てはめれば医療設備の整った上海は西欧で田舎はアフリカになる。

中国の進めるゼロコロナが決壊すれば医療設備のない田舎で感染が爆発し、対応は追い付かなくなる。そうした地域でCOVID19が蔓延すれば当然のことそこから変異株が生れるリスクは高まる。これがとんでもない負の循環を作り出すかもしれないと心配されているのだ。まさに結核への対応でみた地獄の再現だ。

要するに、医療設備の整った都会でCOVID19を食い止めることと短期間に集中して感染を食い止めていち早く通常を取り戻すことが中国がゼロコロナから離れられない理由であり、これ以外に選択肢もないのが実態なのだ。

そして中国の選択が成功か否かを判断したいのであれば、それは少なくとも数カ月の観察が必要だ。過去、深セン市はロックダウンから10日足らずで社会・生産の秩序を回復させ、山東省も約1カ月で回復した。3月からの大規模感染は、その舞台の95%以上が上海市と吉林省だ。そしていま上海と吉林省も経済活動を静かに始めている。

吉林省は4月14日、ゼロコロナを達成し、社会・生産・生活の秩序を徐々に回復したと発表。上海市も感染症の感染指数が2・27から1・23に下降させることに成功し、4月16日からは工業企業の操業再開に向けて具体的に動き出すという。これは見方によって部分的なゼロコロナの解除と言えるのかもしれない。

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image by:imtmphoto/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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