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トライセラ和田唱ロングインタビュー。初の絵本、音楽、家族、そして「今一番言いたいこと」

今年でデビュー25周年を迎えたバンド「TRICERATOPS(トライセラトップス)」のボーカル・ギターで、ほとんどの楽曲の作詞・作曲を手がけるミュージシャンの和田唱(しょう)さん(46)。2018年には初のソロデビューを果たし、アルバム2枚を発表してソロライブツアーも敢行するなど、ここ数年はトライセラ以外での活動も目立ってきました。また、TwitterやインスタなどのSNSでも積極的に自身の意見や日常を発信し、妻で女優の上野樹里さん(36)とともに、その投稿は常に世間の注目を集めています。そんな和田唱さんが、トライセラ7年4ヶ月ぶりのニューアルバム『Unite / Divide』発売からわずか1ヶ月後の5月20日、初の絵本(原作・文)『ばぁばがくれたもの』を発表。その絵本のために書き下ろした新曲「オレンジ色のやすらぎ」も配信が始まりました。バンドにソロにライブに、そして絵本にと大忙しの和田唱さんに、今回の絵本に懸ける思い、そして家族、音楽、さらに現在もっとも関心を寄せているという「目にみえないモノ」についてまで、いろいろとお話をおうかがいしました。(於:パールブックショップ&ギャラリー 渋谷区西原2-26-5)

いま、和田唱が絵本の原作を手がけた理由

──本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。この度はご自身初の絵本『ばぁばがくれたもの』(888ブックス)ご出版おめでとうございます。そして、今年はバンド「トライセラトップス」デビュー25周年のアニバーサリーイヤーでもあり、4月20日には7年4カ月ぶりのニューアルバム『Unite / Divide』も発売され、さらに6月からは全国ツアーも始まるということで、いろいろおめでたいことが重なる年になりましたね。まずは、おばあちゃんの死とそれを受け入れる孫の成長を描いた、和田さん初の絵本『ばぁばがくれたもの』を書くことになったキッカケを教えていただいてもよろしいでしょうか?

和田唱さんがはじめて手がけた絵本『ばぁばがくれたもの』(888ブックス)。帯文はシンガーソングライターのaikoさん

和田唱(以下、和田):こちらこそ、本日はありがとうございます。『ばぁばがくれたもの』を書くキッカケは、2020年に出した2枚目のソロアルバム『ALBUM.』に収録されている「さよならじゃなかった」という曲を書いたことですね。「この曲の世界観で何か出来ないかな」と思ったんです。

というのは、この曲のテーマが、「身近な人の死」を体験して悲しんでいる人、落ち込んでいる人に対して、少しでも気持ちを楽にさせてあげられるようなことが何か出来ないかなと思って書いた曲なんですね。そういう経験をする人を見てきたし、僕自身、もしかしたら親父と近い将来、別れが来るかもしれない(和田誠さん、イラストレーター・デザイナー。83歳没)という状況下だったのもあります。

──キッカケはソロアルバムの収録曲だったんですね。和田さんご自身を含めて、「身近な人の死」で悲しんでいる人の気持ちを少しでも楽にさせてあげたいということを、絵本のコンセプトに出来ないかと着想されたということですね。

和田:そうなんです。だから、当初は曲と同じ「さよならじゃなかった」というタイトルの絵本にする予定でした。その曲の絵本バージョンみたいな感じですね。でも、その前に「さよならじゃなかった」というタイトルのビデオを作る予定だったんですよ。NHK「みんなのうた」のアニメみたいな感じで。そこから、徐々に「これ、絵本にしたいな」って思うようになって、紆余曲折を経て今回の形になりました。

「カズくんに頼めばいいかもしんない!」

──では、歌のコンセプトはそのままに、少しずつ絵本としての構想が固まっていったんですね。

和田:そうです、そのコンセプトをもとにストーリーを考えました。絵は、僕が通っていた文化学院という専門学校の同級生だった佐々木一聡(かずあき)くん、僕はカズくんて呼んでるんですけど、彼に「絵を描いてほしい」って頼んだんです。

──今回、同級生の佐々木一聡さんに絵を頼もうと思った理由は何ですか?

和田:カズくんが文化学院時代に描いていた絵をずっと覚えていて、彼の描く可愛らしい絵がピッタリだと思ったんですよ。当時、学校の授業で絵を描くんですけど、彼はいわゆる美術の授業ではそんなに優等生ではなくて(笑)、もっと「独自の絵」を描くような青年だったんです。だから「可愛い絵を描くなぁ」と昔から思っていて。卒業した後も、ちょっとした同窓会があると、パネルみたいなモノの上に描いた絵をみんなにプレゼントしてくれたりして。

和田さんや佐々木さんが青春時代を過ごした、東京・御茶ノ水の『文化学院』。image by: Suginami, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

──佐々木さんは、もとから絵本作家だったわけではないんですね。

和田:カズくんは普段「おもちゃ職人」というか、妖怪のソフビとかを作っている人なんですよ。絵本も何冊かは出していて、それも見ていたから「いい絵を描くなぁ」ってことは以前から印象に残っていました。もちろん理想は自分一人で絵も描いて、ストーリーも書けたらカッコイイなとは思うんですけど、今回の絵本を構想したときに、自分で描くというよりは彼の絵が頭の中にパッとよぎって「カズくんに頼めばいいかもしんない!」って、すぐにLINEしました(笑)。「こういうの考えてるんだけど、もしお願いしたら描いてくれる?」って送ったらすごく喜んでくれて、即「やるやる」って返事がきたんです。

──それは嬉しいですね、もちろん頼まれた佐々木さんも嬉しかったのではないでしょうか。その後は、LINEで具体的なストーリーや構成を送り合って制作を進めていったんですね。

和田:そうですそうです。ほぼほぼLINEでやり取りしました、これも時代ですね。下書きができたら送ってもらって、何かあれば「ココもうちょっと、こういう風にして」とか。実際に掲載されたもの以上に、絵はいっぱい描いてくれたんです。残念ながらカットになっちゃった絵もあるし。絵のセレクト、ページ数、表紙の絵をどれにするかとか、絵本を作る工程って思いのほか大変なんだなっていうことが今回の『ばぁばがくれたもの』を作ってわかりましたね。

モデルは「昭和のおばあちゃん」と「母の実家」

──印刷所で刷り上がった現物の絵本を見て、最初にどんな印象を受けましたか?

和田:嬉しかったですね、まさにイメージしていた通りのものができたので感慨深いものがありました。やっぱりモノとしてあがってくると、LINEでやり取りしていたときに見ていた絵とは全然違って見えましたね。今回の絵本は、最初から「昭和感」というものを出したかったんですよ。僕らが小学生のときに図書室で手に取っていたような、あの頃の絵本のタッチ、テイストを出したいなと。最初、現代風の本にしようか、昭和風の本にしようか迷ったんですよ。カズくんは現代風のタッチでも描けるんです、おそらく。でもここは「昭和風でいきたいよね」って、そこはお互いに共通してましたね。

──お話の中にも昭和テイストのモチーフがけっこうな頻度で登場しますよね。駄菓子屋とか、お祭りとか、家の様子とか。

『ばぁばがくれたもの』より。和田さんが子ども時代に過ごした「昭和」の懐かしい風景が、佐々木一聡さんによって描かれている

和田:そうなんです。それに、最近の「ばぁば」ってもっと若々しくて、あんまりおばあちゃんっぽくないと思うんですよ(笑)。でも、やっぱり僕らのイメージするおばあちゃんって、いかにも「おばあちゃんおばあちゃん」したあの感じじゃないですか。だから、カズくんにも「昭和のおばあちゃんにしてほしい」って、そこはあえて頼んで描いてもらいました。

──絵のテイストも、少し絵の具が盛り上がったようなタッチで昭和感がありますよね。

和田:最初からパネルに石膏のようなものを塗ってから描くと、こういうデコボコしたタッチの絵になるらしく「こういう感じで描いていい?」って聞かれたので「もう好きなようにやっていいよ」ってお願いしました。

──和田さんが絵本のあとがきに、「今回のお話は実際のおじいちゃん、おばあちゃん(料理愛好家でタレントの母・平野レミさんの父母)との思い出をミックスして、一人のおばあちゃんの話にした」というようなことを書かれていましたが、このお話はどこまで実際の思い出と重なるのでしょうか?

和田:部分部分、本当のことだったりします。ちょうど二人の思い出がいい感じにミックスされた感じかな。プラス創作ですね(笑)。お話に登場する家のモデルは、母がずっと住んでいた実家です。千葉の松戸にあったんですけど、いつも電車で1時間くらいかけて、母と弟と行ってました。従兄姉もよく一緒だったな。親父もたまーに合流して。いかにも昭和な日本家屋なんですよね。うちのおじいちゃん(平野威馬雄さん、詩人・フランス文学者。超常現象研究家でもあった。86歳没)が変わった人で、家中に自分で書いた詩の掛け軸が飾ってあったり、天狗や河童のお面がいっぱい飾ってあったりして。今思うと独特な家でしたよね。泊まりにいくと、その家の居間に母や従兄姉達と一緒にギッチギチに布団を敷いて寝てました。朝になってひとり目が覚めてキッチンの方へいくと、おじいちゃんもおばあちゃんも早起きだから先に起きてコーヒー飲んでるっていう、そのコーヒーの匂いと二人の絵がなんとも良くて。それが原風景ですよね、いまだに強烈に印象に残っていて、今もたまに思い出しますね。タイムスリップしてあの様子を眺めたいって気持ちになります。

「目に見えないもの」と「昭和の原風景」をミックスした世界観

──お母様のご実家で見た「原風景」が、今回の絵本の世界観に影響を与えたんですね。

和田:まさにそうです、しょっちゅう行ってましたから。でも、ある時からピタッといかなくなってしまって。まず1986年におじいちゃんが亡くなったんですが、そのとき家の様子がガラッと変わるんですよ。今までいた一家の主がいなくなっておばあちゃんだけになる、同じ家なのにどこか印象が変わって物悲しくガランとした感じで。その頃の印象もよく覚えていますね。

──『ばぁばがくれたもの』の主人公の男の子(ケンちゃん)が、ところどころUFOのおもちゃを持っているシーンが出てくるじゃないですか。あのUFOは、おじいちゃんである平野威馬雄さんがUFOや超常現象の研究家だったことと関係はあるんでしょうか?

『ばぁばがくれたもの』より。主人公のケンちゃんがUFOのおもちゃを手に泣いているシーン

和田:これは、カズくんがアドリブというか偶然入れてくれて、それに対してOKを出しただけなんですよ。カズくんって、まずは試しで下書きを描いてくれるんです、こんなのどうかなって。それに対して「情報量が多すぎるからこれはカットでいいんじゃない?」とか「それいいね!」とか、僕は意見を言う楽ちんな役回りですよ(笑)。

──今回、『ばぁばがくれたもの』の中で印象的だったのが、UFOの絵に続いて「たましい」とか「宇宙に帰る」という言葉が出てくることでした。これは、やっぱり和田さんが子どもの頃におじいちゃん、おばあちゃんから聞いてきたことも影響しているのでしょうか?

和田:当時は小さかったし、むしろ現時点での僕の関心ごとが、まさにそれなんですよ。人間って何で生まれてきたのかな?とか、死んじゃったらどうなるのかな?とか、身体が無くなるだけで意識は残るのかな?とか。そういうことは今でも興味があるし、というか今の方が興味があるんですよ。おじいちゃんの血は確実に僕が継いだかもしれないですね(笑)。いわゆるUFOとか未確認のもの、目に見えないものだったり、地球外のものだったり。つまり、学校や今の日本社会が教えてくれないことですよね。でも、2、30年前に比べたら、こういうものを信じている人って確実に増えたと思うんですよ。僕も、今YouTubeの時代になっていろいろな情報を得て「あ、こういうものって、やっぱり本当にあるな」と確信してきているんです。肉体は無くなっても意識は残るとか、「たましい」というものの存在とか。そう考えると、「死というものって必ずしも寂しいものじゃないんだ」って思うようになりました。肉体と会えなくなるのは寂しいですけど、本当のお別れではないんだなって思うと、どこか楽になる。また会えるのかなって。だから、おじいちゃんとおばあちゃんと過ごした昭和の原風景に、僕が今考えている死後の世界や見えないものをミックスしたかったんですよね。それが、今回書いた絵本『ばぁばがくれたもの』なんです。

──絵本を読み進めるにしたがって、不思議な世界が出てきますよね。まさに死後の世界や、夢なのか天国なのかわからない世界、誰も見たことのない「たましい」の世界と言いますか……。

和田:主人公のケンは、祖母を亡くして悲しんでいるママを慰めてあげたいけど自信がない、プラス、不思議なものが見えてしまうちょっと変わった男の子。ママは息子達と3人で暮らしている。つまり…ね?想像して下さい!そんな親子が、おばあちゃんの死というものを通して、徐々に成長していく、というのが「裏コンセプト」なんです。もう少し長い本だったら、その辺の描写も細かくできたんでしょうけど、そこはもう読んだ人に行間で感じとってもらおうと。だから、この絵本は男の子の成長と同時に「気持ち次第で未来は自分で動かせる」と前を向くママの成長も描きたかったんです。

──このお話を通して「運命は決められているわけじゃなくて、自分の力で未来は変えられるんだよ」という、大人へのメッセージも込められているんですね。昭和の思い出と死後の世界、そして未来への成長がミックスされた壮大なテーマの絵本だったと。

和田:目指しました(笑)。そういったものを全部ミックスして出来上がった絵本です。子どもには難しいかもしれないけど、小さいときに読んでもらって、大きくなるまでの間に少しでも内容を覚えてもらえればいいかなぁと。大人になったときに「ああ、そういうことだったんだ」と思い出してもらえたら、それが一番理想的ですね。本当はもっと長い文章だったんですけど、かなりカットして短くしたんですよ。それでも普通の絵本と比べたらかなり長いほうですけど(笑)。

新曲「オレンジ色のやすらぎ」と、亡き父・和田誠への想い

──今回の絵本『ばぁばがくれたもの』は、CD付きバージョンも同時に発売されるということで、そのために書き下ろした歌「オレンジ色のやすらぎ」のCDが付くわけですが、この曲についても教えていただけますでしょうか。とても温かみのあるアコースティックサウンドで、まさに「オレンジ色のやすらぎ」に包み込まれるような、心安らぐ曲ですね。この歌は、絵本のお話をそのまま歌詞にしたものではないんですよね?

和田:そうなんです、必ずしも「おばあちゃんとの別れ」ではなくて、恋人との別れかもしれないし、親との別れかもしれない。つまり「別れ」と言ってもいろいろな形があって、誰にでも当てはまるようにはしましたね。恋愛の別れとしてもギリギリ通じるかなという世界観にはしました。

──曲を聴かせていただいて、「きみ」という言葉が誰にでも当てはまるよう意図的に設定したのかなと感じました。

和田:まさにおっしゃる通りです、だからあえて「きみ」にしたんです。聴いた人が、対象を主人公やおばあちゃんに限定しないためにそうしました。最近は、詞を書く上で対象を限定しない書き方をするのが好きで、広く解釈できる歌詞を書くようにしてるんです。昔はもっと直接的だったし、それしかできなかったんですけど、僕もいろいろな経験を積んで、年を重ねることでそういう曲が書けるようになってきたのかなって思いますね。

──和田唱さんにとって今回が初の絵本ということですが、お父様の和田誠さんはたくさんの絵本を手掛けられていましたよね。この本を天国にいるお父様の「たましい」に向かってお届けするとしたら、どうご報告しますか?

和田:考えてなかったなぁ(笑)。そうですね、「こんなん書いたよ」くらいですかね(笑)。うちの親父も「好きなことやればいいよ」って言うでしょうし「最後に曲を付けたよ」って言ったら、「それはいいアイディアだ」って言うでしょうね。それって僕ならではじゃないですか、楽器を演奏して歌を歌うっていう。うちの親父はマルチで、かなりいろいろなことができる人だったから、絵本は絵も描いて話も書いてレイアウトも装丁もするっていう。でも、自分で楽器を演奏して歌を歌うことはできなかったので、そこは「勝ったぞ」と言いたいですね(笑)。

──たしかに(笑)。お母様(平野レミさん)にはすでに絵本をお見せしましたか?

和田:これから持っていきます。意外と恥ずかしいんですよね、こういうの。自分のバンドやソロのアルバムもそうですけど、「こういうの出したから聴いて」って普段からあんまりしてないですもん。それに母は言わなくても勝手に買いますし(笑)。だから「必ず届けなきゃ」っていう義務はあんまり感じないですね。実家に帰ると「なんだ、もう置いてあるじゃん」っていう。

ソロデビューで気づいた、自分の「新たな一面」

──それにしても、今年は絵本の出版と、バンド「TRICERATOPS」のデビュー25周年、そして7年4ヶ月ぶりのニューアルバム発売&全国ツアーと、イベントやアニバーサリーが重なりましたよね。そこで4月20日発売のトライセラのニューアルバム『Unite / Divide』やソロ活動などについてお聞きしたいと思います。ここ数年でソロデビューもあり、ニューアルバムあり、絵本ありと多忙ですよね。

和田:いろいろ出せて嬉しいですね。もともとモノづくりが好きなんですけど、ここ数年は特により好きになっていて。たくさん残したいなっていう、まるでもうすぐ死んじゃうみたいですけど(笑)。たくさん残せたらいいなぁっていうモードなんですよね。

──2018年に『地球 東京 僕の部屋』で初めてソロデビューされたわけですが、わずか4年前なんですよね。

和田:そう、まさに『地球 東京 僕の部屋』からですよ、僕のモノづくりモードに火が着いたのは。それまでは、基本的にバンドで一枚のアルバムができ上がると、もうネタ切れというか。よく人から「ストック何曲くらいあるんですか?」とか聞かれるんですけど、「ストックなんてゼロだよ!」みたいな(笑)。何か一つ作品を発表すると、もうもうスッカラカンの状態だったんですよ。ところがここ数年は違うんです、何か作品が出るタイミングで、もう次の用意があるという。『地球 東京 僕の部屋』のときから、意外とその状態が続いていて。だからこの絵本も含めて、いま何かを生み出したいっていうモードなんですよね。絵本も「また書きたい!」って思ってますし、もう第二弾の絵本もすでに頭の中で描いていますね。こんな話だったらいいんじゃないかなって、まだザックリですけど。

──ソロ一作目『地球 東京 僕の部屋』を聴かせていただきましたが、トライセラの時とはまったく違う世界観にも関わらず、私が同い年(1975年生まれ)ということもあるのかもしれませんが、何と言いますか、こう「わかった」んですよね。言葉で説明するのが難しいのですが、聴いただけで和田さんのやりたいことが「理解」できた、と自分では思っています。さらに、和田誠さんが勤めていた広告制作会社ライトパブリシティ時代の元後輩・篠山紀信さんが撮影したという、アルバムのジャケット写真を見たら「アッ!」となって……。

和田:あの覗いているやつ、知ってます?「ポピー くるくるてれび」(1979年に株式会社ポピーが発売した交換式の8mmフィルムカセットを再生して鑑賞する玩具。アニメや特撮の専用カセットが販売されていた。動画の長さは2~3分程度)っていうおもちゃなんですけど。我々の世代には懐かしいですよね。

ソロ一作目『地球 東京 僕の部屋』(2018)

暗いところだと真っ暗で見れなくて、太陽か照明に当てないといけないという。いやー、そこに気づいてもらってありがたいですね、さすが同世代(笑)。

──あのジャケを見ただけでも泣きそうになりましたが、「1975」やタイトル曲の詞も心に沁みましたね。2020年のソロ二枚目『ALBUM.』も聴かせていただきましたが、中身は一枚目とまったく違う楽曲にも関わらず、何か二枚とも通じるものを感じました。個人的には、ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』へのオマージュのような「ドルフィン」という曲が大好きです。アルバムを聴いただけで「たぶん和田さんは頭の中に曲がどんどん湧いてきたんだろうなぁ」という楽しさのようなものが伝わってきましたね。

和田:ありがとうございます。そうですね、何気に40過ぎまでソロを出したことがなかったので新鮮だったんですよね。「前にこういうことやったからなぁ」というものがなくて、全部初めての経験だったので。演奏もストリングス以外は自分で演奏しましたし。だから割と曲を生み出しやすかったのかなとは思いますね。

──ソロ二枚目の『ALBUM.』から2年経って、今度はトライセラのニューアルバムが約8年ぶりに出たわけですから、ちょうど2年おきに出している感じですよね、ここ数年は。

和田:そうなんです、だから割といいペースで来ているんですよ。なんなら次はもっと短い間隔で出したいなって思っているくらいで。

──では、次は第二弾の絵本が来るのか、三枚目のソロアルバムが来るのか、トライセラのニューアルバムが来るのか、どれが先に出るのかといった感じですね(笑)。

和田:まずは音楽でしょうね、もうかなりストックが溜まっているので。今回、僕は絵本の世界観やストーリーを考えましたけど、絵を描くのって本当に大変だったと思うんですよね。だからカズくんは今回の絵本の一番の功労者ですよ。僕はストーリーと方向性は決めましたが、気がついたら出来てたっていう。みなさんのおかげですよ、本当に。

──私も、もともとは紙の本の編集者だったので分かるんですが、本一冊作るのって結構大変ですよね。

和田:本当にそうだと思います。でも僕は今回、自然の流れに任せていただけですから!

──ソロ2作も、今回の絵本『ばぁばがくれたもの』に付くCDの「オレンジ色のやすらぎ」もそうですが、全体的に温かみというか優しさというか、それこそ「オレンジ色のやすらぎのようなものに包まれている」印象を私は受けました。

和田:やっぱりバンドって、もうちょっとアグレッシブなものが加わるんでしょうね、ドラムがいるっていう時点で。人を高揚させる楽器じゃないですか、ドラムって。バンドという形になった時点で人を高揚させる音楽になるんですよね。それがソロになることで、僕が全部の楽器を演奏したので、もうちょっと穏やかなものにならざるを得ないんですよ。高揚させる音楽がやりたければ、バンドでやればいいんじゃないかなと思います。僕自身が年齢を重ねて、いわゆる人を興奮させるのではない、違うタイプの音楽をやりたかったんでしょうね。だから、そういうムードが出てきたんだと思います。これは絵本も含めてですが、2018年以降の自分はトライセラの時とは違う路線に興味が出てきていますよね、確実に。やっぱり若いときっていうのは、穏やかな曲というよりは「オラぁ!ロックだ!」っていうのあるじゃないですか(笑)。それが徐々に徐々に「優しい世界もいいなぁ」って思えるようになってきているんですよね。

和田唱が「死はこわくない」と断言する理由

──「優しい世界の表現も良いなぁ」と思った流れで、今回の絵本『ばぁばがくれたもの』を思いついたというところもあるのかもしれませんね。

和田:そうですね、まずソロの「さよならじゃなかった」があって、そこから絵本に繋がっていったわけですから。やっぱり親しい人、愛する人の死っていうのは、もう誰もが平等に経験することなので、どこかで「そんな日が永遠に来なければいい」って思いますけど、でも残念ながら来てしまうじゃないですか。そのときに、ちょっとでも考え方一つで悲しみがやわらいだり、受け入れることができたらいいなぁって思うんですよね。それが本や曲によってそういうことが出来たら。もし小さいときに「あ、人って“死なない”んだ」っていう意識になってくれたら、それっていいなぁって思うんですよ。人間って昔から死を恐れる生き物ですけど、でもそれってみんな平等に訪れるし、死って一つの「卒業」ですよね。実は「寿命」っていうものも、ざっくりと決められてこの世に生まれてきているらしいんです、「たましい」って。たとえば●●歳で死んだとすれば、「その歳まで、こういう経験をするために生まれてきた」って、最初から決められて生まれてきているっていう説があるんですよ。そう考えると楽になりますよね。つまり、すべて間違いなんてものはなくて設定通りに人生を生きているんだって考えると、気持ちが楽になりますね。だから、僕は今後「見えない世界」を表現することも、ちょっとずつやって行きたいなって思っているんですよ。決して怪しくなく(笑)。

──怪しくなくっていうのはポイントですよね(笑)。

和田:もしかしたら、僕がロックバンドをやっているのは良かったのかもしれないですね。そうじゃなかったら、ちょっと怪しい人じゃないですか(笑)。音楽で表現が出来るから良いわけで。でも、やっぱりうちのおじいさんを継いだところあるなぁ。

──おじいさんの「たましい」がそうさせているところもあるんじゃないでしょうか。運命といいますか、必然だったといいますか。

和田:そうですよね、うーん。必然なんですよ、いつもそういうこと考えてますよ。必然だし、でも未来は自分で変えられる、っていう。むずかしいですよね。「寿命は最初から決まっている」「でも未来は変えられる」、僕は両方信じているんですよ。でもこれって矛盾しているんじゃない?って思ったり。だから、僕も分からないことだらけですよ。

──どちらも正しいのかもしれませんよね。

和田:俺、何歳くらいの寿命の設定で生まれてきたのかな(笑)。まったく想像つかないですね。「たましい」のときの記憶がないっていうのが、これまた厄介なんですよ。前世の記憶もないじゃないですか、その記憶があると「学び」にならないらしいんですよ。最初にゲームの攻略法をわかっちゃっているようなものなので、それだと人生が楽しくないらしいんです。何歳でこうなって、何歳でこれを学んで、最後はこうなるぞ!って分かってたらつまんないじゃないですか。だから、ゲームのルールを分からなくさせているらしいですね。

──ルールは決まっているけど、誰も知らない、誰も分からないということですよね。この言い方が合っているのかは分かりませんが「神のみぞ知る」という。

和田:そうなんです、だから自分が「たましい」に帰ったときに初めて「答え合わせ」するんじゃないですか。ああ合ってる合ってる、なんだこれやった方がよかったんだ!とか(笑)。で、次の人生ではこの間の人生で出来なかったことをやろうみたいなことがあるのかもしれないですね。

──そう考えると自分が死ぬということが怖くなくなりますよね。今回の絵本のテーマに通じる話ですし。

和田:人生を恐れることはないんです。何か大失敗やらかしても、それも結局「学び」なので。だから全部受け入れる、「怖くない」と。そういうことですね(笑)。

皮肉にまみれたニューアルバム『Unite / Divide』の魅力

──気持ちが楽になるいいお話をありがとうございます。話はガラッと変わりまして、4月20日に発売されたトライセラのニューアルバム『Unite / Divide』のお話を聞いてもいいですか。ソロを聴いたあとにトライセラのニューアルバムを聴くと、ソロとバンドでやることの違いがとても明確だなと改めて感じました。

和田:僕もソロをやったことで、バンドとの差別化ができるようになったというか、バンドだったらこっちの路線だなっていう。人を高揚させることもそうですし、「怒りのエネルギー」というものもバンドサウンドにフィットするんですよね。そう考えるとソロとはまったく違いますよね。

──アルバムのタイトルも日本語に訳すと「統合/分断」ということで、昨今の時世を感じました。その「怒りのエネルギー」というお話でいくと、アルバムに収録されている「いっそ分裂」という曲は、トライセラにしては珍しくダイレクトに「怒り」を表現した詞ですよね。怒りだけではなく諦め、諦念みたいなものも感じます。公開されているリリックビデオもとても印象的でした。

和田:ありがとうございます。「いっそ分裂」は、かなり皮肉が入っていますね。今回のアルバムは、かなり皮肉にまみれているんですよ(笑)。今まであんまりやってこなかった路線なんですけど。まあ、ここ最近は確実にそのモードだったので。そういったものを表現できる場があるのはありがたいと思いますね。僕、バンドがなかったらツイートで不満ばっかりタラタラ垂れ流していると思うんですよ(笑)。そういうフラストレーションを、よりクリエイティブな音楽という形で昇華できたらいいなぁと。僕はバンドがあるのでラッキーだなと思いますね。今回は、このコロナ禍の2年間で僕が「ご時世」に対して感じたことをかなりブっ込みました。

──それはもうダイレクトに伝わってきましたね。かなり「刺さる」詞でした。

和田:これ、本当に面白い話なんですけど、「あ、こういうことを歌っているのか」って理解してくれる人もいれば、まったく違う解釈をしている人もいるんですよ。「エッ、エーッ!どこをどう読むとそういう風にとれるの?」っていう(笑)。たしかに、いろいろな解釈ができるようには書いたつもりなんですけど。でも怒りをぶつける曲だから、逆にユーモアや言葉遊びも入れているので、さまざまな解釈ができるのかなとは思っていましたけど。でも、まったく違う風にとらえている人もいるんだなって、それがかえって面白いです。でも、それは聞き手の方の自由なので。

──今回のアルバムは楽曲がバラエティーに富んでいて、それこそ一曲一曲がまったく違うテイストで個性的ですよね。リフとコーラスが印象的なトライセラらしいロック「マトリクスガール」、コミカルな音と皮肉な歌詞がユーモアさをより引き立てている「仮面の国」、アメリカの旧き佳きジャズクラブの雰囲気が漂う「CLUB ZOO」、突然の急展開が心地いい「LOST」、エロティックなメタファーがクスッとなる「噴水」、ビートルズの「Something」やバカラックへのオマージュを感じさせる「リメインズ」などの名曲が揃った、ついついヘビロテしてしまうアルバムでした。

和田:ありがとうございます、「噴水」は結構人気がある曲なんですよ。Twitterで「これがいいです、いいです」っていう声が多くて。

──一つのアルバムにいろいろなアイディアが詰め込まれていて、7年4か月という時間を吹き飛ばすくらいの充実した内容ですね。

和田:久しぶりのアルバムで、しかもデビュー25周年だしということで、最初は「これぞ、ザ・トライセラトップス!」というテイストの方がいいのかなって、そういう気持ちもよぎったんですけど、僕自身が変化していくということにとても喜びを感じるタチなので(笑)。だから、25周年だろうが何だろうが、今までと違うっていう評価を下されようとも、変わっていく方がいいなと思いました。ジャケットも中身も、何もかも違う雰囲気にしたんです。

──このジャケットも今までと雰囲気が違いますよね。新たな決意、みたいなものが見えますね。

和田:そうなんですよ、これも流れでこうなったんですけど。最初はもっと違うグラフィカルなデザインのジャケットで進めていたんです。これ、本当はブックレット用の写真だったんですけど、急に思いついてジャケットにしました。移動中に「これだろ!」と思って。最後に大どんでん返しで変わったんです(笑)。

絵本の読み聞かせは「お父さん」だった?

和田:実は、今回の絵本の表紙も当初と変わったんですよ。もとの表紙はもっとシンプルな絵だったんですけど、途中から僕のソロアルバムのアートワークを手がけてくれた友人(福見敬太さん)をアートディレクターとして入れたんですよ。これもアルバムの時と同じで、本文の中に出てくる見開きページ用の絵だったんですけど、そうしたら「唱さん、この絵が表紙に来た方が良くないですか? たぶん華やかな方がいいと思います」って。すごく正解だったと思います。

『ばぁばがくれたもの』より。当初は見開きページ用に描かれた絵が、急きょ表紙と表4用に差し替えられた

──今度こちらの「パールブックショップ&ギャラリー」で、『ばぁばがくれたもの』の原画展が開催されるということで、カズくんこと佐々木一聡さんの原画を直で見られるチャンスですので、ぜひ多くの方に足を運んでいただきたいですね。では最後に、作者の和田唱さんから、絵本『ばぁばがくれたもの』をお読みになる読者のみなさまへ一言お願いできますでしょうか。

和田:そうですねぇ、お子さんに読み聞かせしてあげてほしいですよね。僕が子どもの頃は、親父が読み聞かせしてくれてましたね。母からは……あんまり絵本の読み聞かせをしてもらった記憶がないかも(笑)。絵本はうちの場合、親父の分野でしたし、向いていたのかもしれないですね。なので、『ばぁばがくれたもの』はお母さんに限らず、お父さんもお子さんに読んであげてくださいと言いたいですね。

──絵本『ばぁばがくれたもの』は5月20日に発売、収録曲の配信も始まりました。そして、ニューアルバムを引っ提げての全国ツアーも6月10日から横浜を皮切りに始まるということで、ますますのご活躍を期待しております。また新しい絵本やアルバムがリリースされましたらお話をおうかがいさせてください、本日はお忙しい中、長時間にわたってお話しいただきありがとうございました。


20年以上前からトライセラを聴いていた一ファンとしては、あの和田唱さんにお会いしインタビューできるということで、数日前から緊張しっぱなしで眠れない日々が続いていました。しかし、いざお会いしてみると、気さくで穏やかでユーモアがあり、そして時折見せる「少年のような眼差し」がとても印象的でした。同じ1975年生まれということもあり、「同世代トーク」でも大盛り上がり。音楽から都市伝説、UFOまで、まだまだお話ししたいことはたくさんありましたが、それはまた次の機会にとっておきたいと思います。今後も、音楽はもとより「目に見えないもの」への追求も続けていくという和田唱さんの活動や言動からますます目が離せなくなりそうです。(MAG2 NEWS編集部 gyouza)

【関連】上野樹里の夫・和田唱が明かした、母・平野レミからのLINEと写メに感動の声

取材協力(敬称略)
大森洋(トリニティー・アーティスト)
吉田宏子(888ブックス)

【和田唱 関連情報】

ばぁばがくれたもの1,980円(税込)
CD付 ばぁばがくれたもの3,300円(税込) ※和田唱が本作をもとに制作した楽曲「オレンジ色のやすらぎ」のCDが付いたバージョン

作・和田唱 
絵・佐々木一聡
888ブックス

ケンはばぁばが大好き。ばぁばはケンにいろんなものをくれる。オモチャだったり、妖怪の不思議な話だったり、お祭りに連れて行ってくれたり……。大好きなばぁばがある時、病気になった……。

ロックバンドTRICERATOPS の和田唱が、子供の頃からの疑問や、今は亡き愛しい祖父母との思い出から一編の物語をつむいだ。和田の専門学校時代の同級生、佐々木一聡が暖かい絵でこの物語を彩る。和田唱が本作をもとに制作した楽曲「オレンジ色のやすらぎ」は、各種配信音楽サイトでも視聴可能。

帯文:aiko
ブックデザイン:福見敬太(KTAGRANTDESIGN)
判型: 200×290mm カラー32 ページ

TRICERATOPS『Unite / Divide

前作『SONGS FOR THE STARLIGHT』から7年4カ月、メッセージ、グルーヴ、ポップネスを全て詰め込んだ 快心のオリジナルアルバム、完成。

先行配信シングル「マトリクスガール」「THE GREAT ESCAPE」を筆頭に、完全書下ろしの全12曲を収録。今のトライセラトップスを全面にアピールしたファン待望の実に7年4カ月ぶりのオリジナルアルバム。今の彼らが余すとこなく詰まった25周年を記念する「本当の音楽ファンにきっちり届けたい」至極の1枚。

1. Unite / Divide
2.マトリクスガール
3.CLUB ZOO
4.仮面の国
5. いっそ分裂
6. LOST
7.噴水
8.キミにひとつ地球
9. ROSIE
10. リメインズ
11.THE GREAT ESCAPE
12. 仮面の国 -United-

全12曲収録
TTLC-1017
3,000円(+税)
発売元:TRINITY ARTIST INC.
販売元:SPACE SHOWER NET WORKS INC.

TRICERATOPS『tour 2022 “Unite / Divide”

和田唱さんがボーカル・ギターをつとめるデビュー25周年を迎えた「トライセラトップス」が、ニューアルバム『Unite / Divide』を引っ提げて、6月10日より横浜、新潟、福岡、仙台、名古屋、大阪、東京と全国7箇所を回る待望のツアーを敢行。バンド7年4カ月ぶりの「快心作」を生で、肌で体感せよ。

6/10(金) KT Zepp Yokohama
6/12(日) 新潟 LOTS
6/18(土) 福岡 スカラエスパシオ
6/26(日) 仙台 Rensa
7/18(祝・月) 名古屋 ダイアモンドホール
7/24(日) 大阪 なんば Hatch
7/29(金) Zepp DiverCity TOKYO
チケット:全席指定 ¥6,500-(税込)
プレイガイドにて発売中! 

● トライセラトップス公式サイト

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