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罰則も処罰もなし。問題教師を付け上がらせるいじめ防止法の欠陥

いじめの根絶を目指し、2013年に施行されたいじめ防止対策推進法。しかし同法には、「不備」とも言える点もあるようです。今回のメルマガ『伝説の探偵』では、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、いじめ防止法に罰則・処罰がないために教育現場で頻発している問題を紹介。さらにこれまでさまざまないじめ事案を解決してきた専門家の目線で、この法律に罰則規定を設けるか否かについて考察しています。

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もっとこどものことを考えよう!

「第三者委員会を設置したとしても、不安でしかない」

このような相談が、重大事態いじめの被害側から、あまりに多く寄せられている。

例えば、大阪堺市の中学2年生の女子生徒が自死した事件の調査委員会は、いじめを数件認めたものの、自死までの期間が空いたこと理由に因果関係を見出せないとしている。

山形県酒田市いじめ自死事件では、いじめを自死の主な原因とはしなかったが、一定の因果関係を認めたと報道されたが、教育委員会が遺族に対し、報告書の内容を他言しないように書面への署名押印を求めたことが報じられている。

いわゆる不信感が募り、各報道からご遺族や被害側の声を聴いて不安になってしまうというのだ(ご遺族や被害側の声が悪影響ということではない)。

重大事態いじめになるまでのハードル

そもそも、生命や財産など深刻な被害が認められる「重大事態いじめ」の被害者は、被害を受けて速攻で被害を訴え出るというケールの方が稀であり、私が知り得る限りでは、数年間の被害を積み重ねて、我慢に我慢の上で訴え出ているケースが大半なのである。

その中には、担任への相談やそもそもいじめを発見するために行われているアンケートに、「いじめがある」とチェックしたり、その詳細な内容を書いて報告しているのに、スルーされて諦めてしまったというのはざらにあり、私のところに来るケースでは、証拠形成などを必要とすることが多いから、「それ証拠あんのか?」と難癖をつけられているものばかりである。

つまり、「いじめられています」と申告する段階から心理的なハードルを含め、申告自体にハードルがあるのだ。

さらに、重大事態いじめ等が認められていくには、実務上は年間通算で30日以上の欠席という不登校が認められることを、条件のようにしている教育委員会が大半であり、事案を丁寧にみて、その深刻さから不登校になっていなくても、積極的に認めていくという姿勢は正直みとめられないのだ。

一方で、環境変化により学校への復帰を求めて被害側が転校したいという希望を出している場合では、重大事態いじめとせず、第三者委員会の設置要望もしないことを転校の条件に出していくケースすらある。

つまり、いじめ防止対策推進法上の条件や解釈、重大事態いじめのガイドラインにおいて、その要件を満たしており、被害者側が重大事態いじめとして対応をしてほしいという要望をしても、そこは大きなハードルがあるのである。

また、法の要件やシステムがあるのだから、自動的に「重大事態いじめ」の対応に切り替わるものだと考えている保護者も多くいるが、まず自動的に対応が変わるということはない。申告して、要望して、交渉して、やっとのことで、「重大事態いじめ」になるわけだ。

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さらに第三者委員会へのハードル

その上で、さらに申告をして要望を出して、「第三者委員会」の設置を叶えていくことになるのだが、要件を満たしていても拒絶する自治体や教育委員会もあるのだ。

そして、実際に第三者委員会が開催されても、中間報告をしなかったり、設置要綱がなかったり、中立公平な委員で構成されていないなどの 根本的な問題が多く発生するわけだ。

こうなってくると、全てに関門があって、それぞれ油断できないハードルがあることになる。それぞれに時間もかかり手間もかかる。そうなれば、このまま第三者委員会の設置をお願いして、それで何か変わるのだろうかと被害側が不安になるは当然なのだ。

さらに、私に不安を訴えてくる被害者側においては、いじめの申告段階から学校側の「うちにいじめなんかない」というような対応をされたり、自死未遂などをしているケースでは、「虐待の疑いがある」と役所側から難癖をつけられて、児童相談所の職員を派遣されるようなケースもある。結局、そんなことはないという結果になるが、こうした行為は被害者からすれば嫌がらせ以外のなにものでもない以上に、まともにやらずに一方的に悪者にされるのではないかと心を折られるのだ。

一方で、協力してくる保護者や子どもにも、こうしたケースでは圧力が露骨にかかる。保護者の中には、住宅ローンを組んで家を買って、この地域で子育てをするという中で、学校から睨まれ、その関係者から疎まれては自分たちが暮らしていけないではないか、と子どもと生活圏が人質に取られているとして、圧力がかかってから協力を拒むケースもある。

もしも我が子が、と自分事に考えて、少しでも良くしようと動いてくれていても、実質的な被害が何か発生するかもしれないという雲行きを見せられただけでも、そうそう簡単に地域を離れることはできないわけだから、口を噤むしかないと思うのだろう。

「ガイドラインは法ではない」

例えば文部科学省がホームページに貼り付けている「重大事態いじめのガイドライン」は、いじめ防止対策推進法に基づいてよく具体的にするために作成されたものである。

つまり法ではないが、法に基づいている。

しかし、上までで述べたような不適切な対応をする学校や教育委員会などは、「ガイドラインは法では無いので、結果破ってますと言われても、はいそうですか。で終わる。しかも、いじめ防止対策推進法には罰則も処罰もないから、問題にするなら、どうぞ」とやるのだ。

さらには、問題にされたところで、公務員であれば個人を訴えることはできない。大々的な訴訟になれば、弁護士さんを雇い、より多くの証拠を集め、相応な期間も要するわけだ。

結果、被害側の負担は経済的にも心理的も甚大になる。

このようにして、そのリスクとメリットを天秤にかけ、サッサと引っ越しをして、腐ったっ地域と自治体に、おさらばしようと見切りをつける被害側も少なくはない。

こうしたケースでは、たいてい「解決済み」として教育委員会は報告するわけだ。

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都内中2男子A君のケース

A君は小学高学年のときから、暴力などを伴ういじめの被害を受けており、小学6年生においては完全な不登校になった。いじめの加害者らが私立校を受験して散り散りになったことを知り、中学生からは学区の中学校に行くことに決めたが、なぜか私立校に行ったはずのいじめの主犯格が公立校に入学していた。入学式の翌日には、その加害者からいじめが再開したのだ。

この段階で相談を受けた私は、保護者と共に中学校に行って話をしたが、小学校からの引継ぎはされていなかったことが判明した。また、小学校当時の教員は、いじめがあることは重々知っていながらも、何もせず、A君のSOSを完全に無視していたことも分かった。

保護者によれば、相当に学校とはやりあったということだから、モンスターペアレントだとされてもいたのだろう。A君自身も教師という職業には幻滅しており、何もしてくれないでしょ。と思っていた。

ところが、運よく主な加害者とはクラスが異なっていたことから、中学1年生当時の学級担任が声を上げ、学年主任などの先生らと協議した結果、A君と主たる加害者とその取り巻きを物理的に離す対策と、入学式翌日に起きた問題への徹底した調査を実施することになった。

およそ、この担任の先生がやったことは、ガイドラインなどの手前の教員として当たり前のことなのだろう。

また、この担任の音頭で、他の先生らもよくA君をみるようになり、A君の意識が変わっていった。クラス内での席の工夫や部活での関わり方などに少し教員からエッセンスを入れていくことで、A君は小学生の時は適応障害という診断を受けていたが、普通に学校に通い、各種行事にも行けるようになった。もちろん友人もできて、私に初めて学校が楽しいと思えると言ってくれた。

A君の保護者は私に、なんてすばらしい先生の巡り合えたんだろうと絶賛しているが、当の担任は、そんなに褒められてしまってどこかくすぐったい思いなのが本音なのだそうだ。

なぜなら、当たり前だと思っていることを当たり前にしただけだから、なのだそうだ。

問題となる学校との差は、この学校はほとんどハードルが無かったということだ。

問題が深化する学校は、保護者が学校に申告する段階で、対応を協議しますとか、見守りますと言って、実質上何もせず放置する。

この中学校では、担任に電話した段階から保護者が放課後に学校に来るまでの時間で、出身小学校に電話を入れて、当時の様子を知る教員から状況の聞き取りをしていた。

だから、第一声は「辛かったね、できる限りのことはするから何でも言ってくれ」であったのだ。

生活指導の先生からは、小学校時代の不登校はいじめを原因とするところで、重大事態の要件をも満たすという情報が保護者に入ってきたとのことであった。

あくまで、被害側が要望するのであればという条件は付いたとのことだが、地域のいじめ問題として今後の改善につなげていく意味もありますとの説明を受けたのだ。

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いじめ法に罰則を付け加えてもよいのではないか

いじめ法改正について罰則を、となると、反対派と賛成派が論争を始めるだろう。

阿部はどっちの立場なんだと、あらゆる団体から詰問を受けることにもなろう。

立場や問題をみる視点から、同じ考えだと思っていても、罰則化には違う意見も飛び交うのだ。

ただ、酷いいじめ事件に伴う学校や教育委員会の隠ぺい問題をみる限り、問題が発覚しました止まりで、その後どうなったという報道はほとんどない。

実態は、処分されるのは稀で、隠ぺいをしたことが隠ぺいされ、被害者やご遺族を苦しめた者はのうのうと出世街道を進むのだ。

こうした視点と上に挙げた事例からすれば、まず問題のない対応をする学校が処罰の対象になることは考えづらい。一方で、第三者委員会などから対応の著しい不備や不良を指摘されたり、隠ぺいであるとされるものについて処罰がないというのは不自然ではないかと思うのだ。

ただ、こういう主張を書くと必ず、地方公務員法に処罰規定があるので二重処罰になるのではないかと反論が来るので、それには、こう回答しておく。

学校は公立校だけではありません。残念!

ただ、1つ言えるのは、週40時間以上を残業とするならば、月300時間以上の残業をしている完全死亡ラインで生活している私から見ても、特に公立校の教職員の働き方は異常と言える。頑張ってるぜという教員と話をすると、朝4時に起き、夜1時に寝るという人がざらにいるのだ。学校にいない時間も学校の仕事をしているし、食事もロクに食べないから、むくんできている人もいる。ハッキリ言う。超ブラックとはこのことだ。

医者から過労ですと診断される私から見ても、「あんた過労死するぞ」といえる教員は無数にいるのだ。

業務過多に人出不足に予算不足。一般企業であれば労働問題が噴出し、運営も常に赤字で倒産必須だ。

仮に罰則規定を設けるならば、私はこの人員不足を含む業務改善も併せて行わなければ、やはり平等ではないのではないかと思うのだ。

つい最近、国会中継をみたら、兵庫県明石市の泉市長が言っていた。

「子どもを本気で応援すれば、人口減少の問題に歯止めをかけられますし、経済もよくなっていくと考えております」

前段もあってその先もあったが、私はこの言葉を聞いた時、自然と涙が出てきた。

国家が行う教育投資は、諸外国の事例でみても長期になるが必ずリターンがあるとされているそうだ。今こそ、教育、未来のためにもこどもへの予算付けをさらに激しく、まずはしてもらいたいところだ。

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編集後記

こどもは日本の未来です。私たち大人世代はいずれ、こども達にバトンタッチしていきます。未来を生きる子どもは、この国の未来です。

これは、私も常々言っていることです。お前は胸を張ってこどもにバトンタッチできるのか?という自問自答を繰り返しています。

最後に取り上げた明石市の泉市長の言葉と共通するところがあり、泉市長は言葉のみならず、これを実践し実績をしっかり上げているというところにも感動しました。

ぜひ、ご興味のある方は、簡単な検索で出てくると思うので、観てもらいたいと思います。

全ての視点を一旦、こどものために変えてみたら色々見えてくるものが変わるかもしれません。

過度なイメージ付けで私をよく対立構造を作り出す元凶にしたい人たちもいますが、私の視点は、基本子どもの問題に入るときは、子どものアドボカシーであるべきです。

ただ大人同士の話をしなければならないので、そこも対応します。

いずれにしても、私の立場や持ちうるスキル上、どうしても裏が見えてしまうので、私のような存在が警戒すべき存在になるのはわかりますが、個人的には敵視されれば気持ちの良いものではありませんが、大義のためには、そういう個人的感情は捨てています。

今後も変わらず、いじめの対応は続けていきますが、より大きな大義のために、私が代表理事を務めるNPO法人ユース・ガーディアンは無償化をさらなる段階に強化をする事にしました。ちなみにかなり予算を使っています…無償なのに…予算投下ってバカじゃないって色々言われましたけど、どうせ人生1回ですから、やりたいことをやっていこうと思うのです。

もうしばらくすると、すべての準備が終わりますので、大々的なキャンペーンが実施できると思います。ご期待いただければ思います。

いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン

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image by: Shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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