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NATO出席にトヨタ電撃訪問。岸田首相“異例日程”が炙り出す選挙戦術

6月15日に通常国会が閉幕し、7月10日の投開票に向け戦いの火蓋が切られた参議院選挙。しかしそのさなかにNATO首脳会議の出席のためスペインを訪れるなど、岸田首相の選挙戦における党総裁としては異例のスケジュールが一部で話題となっています。この動きを政権与党の高度な選挙戦術と見るのは、元全国紙社会部記者の新 恭さん。新さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で今回、自民党と電通の深い関係を紹介するとともに、やはり選挙戦の只中に予定されている首相のトヨタ自動車本社への訪問も、電通が絡んだ選挙対策の1つと推測。さらにNATO首脳会議の出席についても、同社スタッフが選挙への効果分析を行った可能性を指摘しています。

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岸田首相の異例スケジュールから自民党選挙戦略の裏側を読む

「6月22日公示、7月10日投開票」と決まった参議院選挙。当然のことながら、事実上の戦いはとっくにはじまっており、圧倒的に自民、公明の与党陣営が優勢とみられている。

なにしろ、今月3~5日に読売新聞が実施した全国世論調査では、岸田内閣の支持率64%、自民党の政党支持率43%と高水準なのである。参院選を意識し、野党と対決するような法案の提出を避けた岸田政権の“真空路線”が功を奏しているのかもしれない。

さぞかし“左うちわ”の心境であるはずの岸田首相なのだが、このところ国政選挙前としては“異例”ともいえる決断が相次いでいる。

その一つが、6月29、30日にスペインで開かれるNATO首脳会議への出席だ。選挙戦の真っ最中、ふつうなら党の候補者の応援で全国を駆けめぐるところである。

もちろん日本はNATOの加盟国ではない。ロシアのさらなる反発があるのは必定だ。米国の要請があったにせよ、選挙を理由に断ることもできたはず。それでもあえて出席を選んだのは、なぜなのか。

筆者が思うに、「勝ってあたりまえ」という状況は、それなりに辛いところがあるに違いない。よほど大勝しない限り、野党の体たらくのせいなどと片づけられるのがオチだろう。

岸田首相とて権謀術数の渦巻く政界をくぐり抜けてきた1人である。参院選にのぞんで、欲もかくし策も練る。“外交の岸田”をアピールし、リーダーらしく振る舞うのに、NATO首脳会議は格好の舞台だと見積もったのではないだろうか。

「地球儀を俯瞰する」と言って外遊を好んだ安倍元首相は、米国のトランプ元大統領やロシアのプーチン大統領らとしばしば首脳会談を行い、“やってる感”を演出した。これといった実りがなくとも、なぜか日本では米国大統領と仲良くすることをもって、外交成果と評されたりする。

モリ・カケ・サクラなど数々の疑惑を抱えながら安倍政権が選挙に強かったのは、外交パフォーマンスによるところも大いにあったはずだ。

2012年から17年まで外務大臣だった岸田氏は、安倍首相に外交の主役を奪われたため、目立たぬ存在に甘んじた。しかし、外交を政権維持の重要な手段とする安倍流を間近で学ぶ期間でもあった。

記者団を引き連れて外遊を繰り返し、その都度、外国首脳とにこやかに握手する姿がテレビで報じられる。そのイメージの積み重ねが、いざ選挙というときに役立つことを、岸田氏は嫌というほど見せつけられてきた。

今年5月22日、バイデン大統領が日本にやって来て、日米首脳会談が行われた。自分が米国を訪問するより前に、むこうから来てくれたのである。参院選を控えた岸田首相としては最大の勝負どころだった。バイデン氏から「いい友達だ」と持ち上げられ、岸田氏が身を乗り出してうれしそうに握手を交わす光景から見て、少なくとも蜜月関係の演出には成功したといえるのだろう。

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NATO首脳会議への出席に対しては、中露との関係で危機がエスカレートする恐れを指摘する声もあるが、岸田首相は米欧との協力強化をアピールするほうが得策と判断したに違いない。

岸田首相をめぐる“異例”は、外交面だけではない。近くトヨタ自動車本社を訪問するという。どうやら現職の総理としては初めてのことらしい。このような場合、岸田首相と秘書官だけで決めるのではなく、自民党選対本部との連携、調整が必須だ。そこには必ず電通がからんでくる。

電通が自民党の選挙広報をほぼ独占してきたことはよく知られている。2000年から18年までに自民党から電通とグループ会社に宣伝広報の名目で支出された額は111.8億円にのぼり、国政選挙のあった年は、なかった年に比べ2倍近いカネが支払われている。

選挙対策の総合的なプランづくりはもちろん、政見放送、ポスター作成から、対談記事、テレビ出演などのメディア戦略、さらには情勢分析にいたるまで一手に引き受ける巨大便利屋企業。それが電通だ。

しかも電通は自民党への政治献金を取りまとめる「国民政治協会」に対し、安倍晋三政権が発足した12年から18年までの7年間で計3,600万円を献金している。もはや“腐れ縁”というほかない関係だ。

電通は、トヨタとも深いつながりがある。最大の広告主というだけではない。トヨタは昨年1月、ソーシャルメディアに対応するため電通と資本業務提携をむすび、両社が出資する持株会社と事業会社を発足させているのだ。

当初、「分配」や「所得倍増」を掲げていた岸田首相は今春闘で経済界に3%の賃上げを呼びかけた。それにいち早く応えたのがトヨタの豊田章男社長だった。

2月23日に行われた第1回目の労使交渉で豊田社長は満額回答を示し、さっそく、その翌日に官邸に出向いて、岸田首相に報告した。

このパフォーマンスに、横並びを好む日本の他の大手企業が影響されたのは言うまでもない。その後、雪崩を打って満額回答が相次いだ。

岸田首相が豊田社長の心意気に打たれ、返礼の意味でトヨタ本社を訪れる。これまで現職の総理がそんなことをした前例はないが、不自然とも思えない。しかし、なぜ参院選を控えたこんな時期にするのかという疑問が湧く。

おそらく舞台裏で、電通が動いていたのではないかと筆者は想像している。トヨタ訪問によって、あらためて岸田首相が大手各社の賃上げに果たした功績がクローズアップされ、参院選にプラスに働くという算段があるに違いない。約32万6,000人の組合員で構成される全トヨタ労働組合連合会はもちろん、連合、自動車業界、さらには財界にいたる波及効果も期待しているのではないだろうか。

全トヨタ労連は50年以上、野党系の推薦候補を国会に送り込んできたが、昨年行われた総選挙では擁立せず、結果として自民党に議席を明け渡した。この動きの背後に、豊田氏の意向があるのは容易に推測できる。エンジンから電動化への変革の波が押し寄せる自動車業界にあって、自民党との協力体制は欠かせない。

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岸田首相は今月11日、多忙な終盤国会の合間を縫ってシンガポールに出かけ、アジア安全保障会議の基調講演をこなした。現地滞在が24時間に満たない日程だった。

今月はさらに、26日から28日までドイツで開かれるG7サミットに出席したあと、NATO首脳会議が予定されている。こうした過密な外交スケジュールをあえて強行するのも、参院選を見据えたうえでのことだろう。

父親のアメリカ駐在で6歳から2年ほどニューヨークに住んだことがあるせいか、岸田首相の英語は、発音能力が高い。“外交の岸田”をアピールしたがり、バイデン大統領との関係を「安倍・トランプ」以上と思っているらしいのは、そういう背景があるからかもしれない。

半面、岸田首相はお世辞にも演説が上手とはいえない。それを自覚しているゆえ、国内を演説して回るより、外交で存在感を示した方が有権者へのアピール度が高いと判断したのだろう。

もちろん、その意向は、秘書官を通じて自民党選対本部に打診され、電通の担当スタッフが選挙への効果を分析したはずだ。

政権与党ならではの選挙戦術に目をくらまされないよう、しっかり政党や候補者を選びたいものである。

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image by: 首相官邸

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