くすぶる、領土分割案 支援に限度 ゼレンスキー大統領は反発
欧米の一部では、ウクライナに対し、奪われた領土の全面奪還を断念するよう促す意見が浮上、波紋を広げている(*5)。
このような意見が出てくる背景には、戦闘が長期化する中、西側の「兵器、資金の支援には限度がある」(米有力紙)との懸念があるため。しかし、ウクライナは反発する。
現時点では少数意見に過ぎないが、停戦が見通せない中、戦争が長引けば領土妥協論が広がる可能性も。
アメリカ外交の長老であるキッシンジャー元国務長官(99)は5月23日、スイスのダボス会議において、
理想的には境界線は(2月の侵攻前の)原状に戻すべきだ。これを越えた戦いを追求すれば、ロシアとの新たな戦争になるだろう。
(西日本新聞、6月2日付朝刊)
と主張。
この発言は、ロシアが2014年に強制編入したウクライナ南部のクリミア半島と、親ロシア勢力が実効支配してきた東部のドンバス地域の奪還断念を促したと受け止められた。
ニューヨーク・タイムズも5月19日の社説で、2014年以降にロシアが得たウクライナの領土を全て回復するのは、「現実的な目標ではない」と強調。
現実離れした戦果を期待しては、欧米が「出費がかさむ長期戦に引きずり込まれる」とし、ウクライナの指導者層は、「領土に関して苦痛を伴う決断を下さなければならない」とした。
領土分割案は現実に動いている可能性もある。エネルギー面でとくにロシアに依存してきたイタリアは、5月に国連に和平案を提出。
イタリアのメディアによると、その中には、クリミアやドンバスの親ロシア派地域について、「領土的な問題を国際監視下で協議する」との項目が含まれており、ウクライナが実際に領土の割譲をせまられる可能性も。
ただ、前述したようにこれらの地域は鉱物資源が豊富。ゼレンスキー大統領は猛反発している。
■参考・引用文献
(*1)鈴木陽平「ロシア軍侵攻4か月ウクライナ首都キーウの街は?なぜ、帰国?」NHK 国際ニュースナビ 2022年6月17日
(*2)「ウクライナでの戦争『数年続く』 NATOトップ警告」AFP BB News 2022年6月19日
(*3)「ウクライナ」ジャパンナレッジ
(*4)朝日新聞 2022年3月7日付朝刊
(*5)西日本新聞 6月2日付朝刊
● 山中俊之「兄ウクライナと弟ロシア、因縁と愛憎の歴史的背景を元外交官が解説」DIAMOND online 2022年2月27日
(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年6月25日号より一部抜粋)
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