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東京五輪のレガシーのすぐそばにあるゴミの山から目をそらす社会

昨年行われた東京五輪はコロナ禍という異例の状況でありながら、無事にその幕をおろしました。その後、五輪を象徴する建物はレガシーとして残されましたが、そのすぐ傍らにあるのは、ごみの山でした。メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』著者の引地達也さんがよく見かけるというそのごみの山から感じたことを語っています。

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東京五輪のレガシーの陰にあるゴミの山からの第一歩

2021年に延期されて開催された東京オリンピック・パラリンピックの大会組織委員会が役割を終え、解散した。

コロナ禍でほぼ無観客で行われた異例の大会を取り仕切った組織の上層部は「レガシーを残した」という思いが強いようだが、一般の職員はコロナ禍の逆風の中で「やりきった」「やりきれなかった」との思いが相半ばとの声を関係者から聞いた。

ただアスリートのパフォーマンスの高さは多くの人の思い出に刻まれたのは事実であろう。

その美しい彼・彼女らの影にあって私が日々、自転車に乗りながら目にする東京都湾岸地域のごみの山は五輪開催中も今も変わらず、トラックが行きかう大きな道路の路肩や中央分離帯、高架の下などで大量に破棄され続けている。

五輪競技会場の近くでも、選手や関係者が通る道は清掃が行き届いていたかもしれないが、少し離れてしまえば不徳の塊のように、朽ちることのない不燃物のごみたちは、変わることはない。

これらのごみを見るたびに何とかならないかと、このごみの現場が多い東京都大田区東海に事務所がある就労継続支援B型事業所みんなの大学校大田校で清掃を請け負うことなど考えてみるが、自治体がその問題意識を持っているかは不安だ。

この湾岸一帯はきれいな公園があったかと思えば、清掃の行き届いていない遊歩道やごみが散乱する大田市場の片隅など、首都東京の闇の部分を見るような場所が点在する。

1年以上も同じゴミが置かれ続けている場所もあるから、それは放置されているのであろう。

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外国に行った際には空港から市街地に行く中で郊外の一画でごみを目にすることはよくあるが、アジアや欧州などのそれらの地域に比べ、日本でのごみはあきらかに「誰かが無作法に捨てたもの」の集まりであり、その捨てる側の動機やそれを見て見ぬふりするこの社会に居心地の悪さを覚えるのである。

私がここで問題にしたいのは、ごみを捨てる不徳さではなく、それが放置されてしまっている社会のシステムの機能不全である。

清潔と衛生を保つことにより、病気の蔓延などを防ぐのが社会システムの役割であるが、私たちは目に見えるもの以外に反応するのはなかなか難しい。

湾岸地域のごみはその象徴であり、それが長じて市民サービスを阻害しても何ら悪びれないシステムとそのシステムを運用する方々の存在が広がっていくことになる。

例えば、私が住む江戸川区では工事に着手したままで長年放置されたようになって、通れなくなっている堤防の遊歩道がある。

地域の人が安心して通行できるその遊歩道は工事用の柵が立てられたままここ数年通行できないままだ。

最近では私が定期的に任意で清掃していた堤防も工事が「はじまる」とのことで立ち入り禁止になってしまった。

この工事の柵の向こうの一画にはラベンダーが咲いていた。

私が毎日のランニングで目にするその淡い紫色は堤防の片隅に力強く根を張っているようで、ランニングのゴール地点で疲れ切った私を癒してくれた。

誰かが手入れすることなくても、咲いていたそのラベンダーは、工事によりそこに立ち入れられなく、誰にも見られることも声を掛けられることもなくなった。

今は遠くから見ることしかできなくなり、紫の花弁も薄緑の茎と葉も茶色に変色し、明らかに枯れているようだった。

私にとって「ごみ」への無関心とラベンダーへの鈍感さは機能不全の社会システムという見方でつながっている。

東京五輪を開催し、レガシーを残し、活かすということは、この大きな町を誇りを持ち、好きになるということだと私は受け止めているが、それは路傍にも目を向け、心を配れる場所であることから始まるのだと思う。

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大きなレガシーを残したのだから、今後は持続可能な市民の想いを小さな一歩、心配りから始めたい。

image by: Urbanscape / Shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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