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日本にとって大損失。安倍元首相の死が「闇に葬ってしまった」モノ

国内はもとより、世界中で大きく報じられた安倍元首相銃撃事件。憲政史上最長、3,188日にも渡り首相を務めた安倍氏の誰しもが予測し得なかった突然の死は、我が国にどのような影響を及ぼすのでしょうか。今回のメルマガ『uttiiジャーナル』では著者でジャーナリストの内田誠さんが、「日本にとって大きな損失」としてその理由を解説。安倍元首相はまさに、これから先に行われるさまざまな議論の中心にいるべき人物であった、との見解を記しています。

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安倍元総理の死去が日本にとって大きな損失となる理由:「デモくらジオ」(7月8日)から

きょうは7月8日ということになりますね。参議院選挙を明後日に控えて、もう期日前投票をした方も大勢いらっしゃると思いますが、日本の民主主義にとっても非常に大きな問題が起こってしまったということです。まあ、安倍さんのやってこられたことに対しては常に批判的であった私から見ても、それは人が亡くなるのを見て気持ちの良いものではありません、もちろん。実に惨たらしい亡くなり方をされてしまいました。

これから、そうですね、事件そのものについてちょっと申し上げておきますと、どうも犯人の動機ですが、これが全く分かりませんね。安倍さんの政治信条には不満はないけれども、安倍さんに不満があったので殺そうと思ったと、ここのところがどういうふうにつながっているのか、少なくとも今現在出てきている内容からすれば、何が何だか分からない。で、メディアはみな、各政党もみなそうですけども、民主主義に対する挑戦であるとか、言論の自由に対する攻撃であるとか、最大限の言葉を使って批判をしている。それは当然だと思うんですけれども、そこの間にうまく理解するに足るだけの情報がまだないので、すごく、いや、別に犯行の理由がハッキリ分かればそれでスッキリするというものでもないわけですが、そことは遙かに遠いところにいるような気がしております。冥福を祈るという言い方はありきたりなので私はできるだけしないようにしているのですが、全く残念なことだと思います。

特にこういう形になるとメディアはなかなか批判しにくくなるので、傑出した総理大臣だったとか、日本を良い方向に持って行った立役者であるとか、色々な褒め言葉が当然出てきます。それは人が亡くなられたときには常にそのような形になるだろうとは思います。それも当然なんですね。ですが、安倍さんに関しては、もちろん大変な政治生活、お疲れ様でしたということではあるけれども、実はこれからやっていただかなければならないことがたくさんあったんですね。それが出来なくなってしまったことに関して、非常に大きな損失だなと思っています。

というのは、例えば特定秘密保護法であるとか共謀罪であるとか、あるいはいわゆる「平和安全法制」。憲法の解釈見直しを閣議決定でやってしまったという。それから日銀の人事や内閣法制局の人事もそうです。これはまさしく民主主義の破壊ではないのかということがたくさんありました。それから、経済政策、アベノミクスは日本に住む我々に何をもたらしたのか。というのはこれから分かってくる問題ですよね。これからさらに解明されなければならないこと。特にロシアのウクライナ侵攻ということも併せて考えれば、これは世界的な色々な動きの中で起こっていることでもあるわけですが、大変な物価高の中でさらなる物価高にみなさん日本国民が怯えている状況。この状況でアベノミクスをどう考えるべきなのか。経済政策をこれからどのような方向に持って行くべきかということは、かなり厳しい議論をしなければならない。そのときに安倍さんはいてもらわなければ困る人なわけですよね。

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それから、俗に言えばスキャンダルということになりますけれど、モリ・カケ問題から「桜を見る会」の問題、さらには広島の参院選の例の1.5億円の件。こういう事柄から、例えば公務員の姿勢の問題とか政治家による私物化の問題であるとか、まさに制度的にも解決していく必要のある問題が山のように出てきている。これは安倍さんだからということではないかもしれません。でも、これからそうした問題を捉え返して我々の社会に生かしていく、その上ではいてもらわなければ困る人だったのだと思います。その意味で大変残念なことになってしまったなという気がしております。

背後関係とか、事件の、その辺のことというのは全然分かりませんし、ようやく容疑者、犯人の自宅に家宅捜査が入って、何か爆発物が見つかったという情報が出てきていますけれど、時に銃、これ、殺傷力のある銃を自分で作っていた可能性が高いですね。それから、前日の夕方にやっと安倍さんが奈良で演説をするということが決まったというのに、彼はなぜそのことを知っていたのかという問題もある。本当に一人でやったことなのかということにもなる。

それと、テレビで盛んに、そういう時代ですよね、安倍さんが来れば大勢の人がスマホをかざして映像を撮るわけですよね。その映像の中には犯人の男性が大股で安倍さんの方に近づいて、まず、一回撃つ。そのときに煙がバーッと出るんですよね。あれは犯人にとって失敗だったのか。そのとき安倍さんは倒れていなくて、何事もないかのように、つまり弾はまだ弾が当たっていない段階なんですね。で、そのあと、容疑者がさらに近づいたのか遠ざかったのか、2発目を打ってこれが安倍さんの命を奪うわけですね。

あれみたときに、多分そういう方は他にもいらっしゃると思うのですが、95年、オウム真理教のサリン事件の少し後に、国松孝次さんという当時の警察庁長官が自宅を出るときに拳銃で撃たれて瀕死の重傷を負わされた事件。幸い、国松さんは死なずに済んで、その後、スイス大使か何かになられたりしましたが、この事件の時に犯人は拳銃で4発撃っているんですけど、1発目はわざと外すんですよ。なぜかというと、銃声を聞くと、人間は反射的に身体の動きを止める。何があったのかということで回りを見ようとするときに身体の動きは止まるんですよね。で、国松さんの時の犯人、誰が犯人かまだ分かっていないのですが、警察が変な公表をして、時効の時にね、オウム真理教の後継団体に訴えられたりしているわけですが、犯人は1発目を計画的に外して、2発目3発目4発目と3発の銃弾を国松さんの身体に命中させている。今回、そういうやり方を狙ったのだとしたら…。

今度のは偶然かもしれないですけれど、1発目で煙が出て大きな音がしたときに、それを見て安倍さんはもちろんそうですけれど、周りの人の動きが止まる。すると安倍さんを狙いやすくなる。それを狙ったのか、単なる偶然なのか分かりませんが。何しろ、改造の大型拳銃のようなものですから、なんか病院の医師が会見で話していることを聞いて驚きましたが、銃弾は人間の身体の中に入ると複雑な動き方をするのだそうですね。首の前から2つの銃弾が入った跡があり、それが肩の方に動いていき、心臓に穴を開ける、それが致命傷になったということだそうです。まあ、色々な意味で謎だらけの事件です。

そういうものが起きてしまい、亡くなってすぐにこれから何が起こるのかと想像するのも不謹慎かもしれませんが、日本の政治状況に大きな影響を与えるでしょうね。特に投票の前々日ということがありますから、例えば自民党の支持者で、投票に行くか行かないか、今回行かなくても良いだろうと考えていた人たちが、いわば弔い合戦の意味合いで大勢投票所に向かう。これは別に悪いことではなく、投票率が上がるわけですから。自民党はその結果、圧勝するのではないでしょうか。

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もう一つ、安倍さんという人に関しては、自民党では最大の功労者という見方をするわけですから、国葬にするというような話が多分出てくるんじゃないですかね。国葬にするのが怪しからんと言っているわけではないですけど。もっと手前のところで言うと、明日一日、どういう選挙戦を戦うのかということ。事件が起きて夕方になる前くらいまでは自民党も他の与党野党も、街頭演説を止めると言っていたように思うんです。それが夜になって、やる方向に変わってきたようですね。というのは、こういうテロというか暴力によって攻撃された選挙。で、その街頭活動をやめてしまったら攻撃者、テロリストの望み通りになってしまう。負けるわけにはいかない。ただ、選挙運動をしている人と聴衆。この人たちの安全は100%確保しながら土曜日一日選挙運動をやりましょう、こういう話になりそうですね。

これ、リアルに見て何が起こるかというと、日本全国の警察の大動員ということになるのではないでしょうか。安全確保の上でそれが必要ならば直ちに悪いこととはいえませんが、例えばこれ、安倍さんがこれまで色んな選挙の時にヤジに対して「この人たちに負けるわけには行かないんです」なんて言ったりしていたこと、覚えてますけれど。ヤジを飛ばすのも民主主義の一部としてあるわけですよね。これについては議論があるかもしれませんが。そんなときに、実際にそのようなことが過去にもありましたけれど、自民党に対する批判のプラカードをもっているだけで、何人もの警察官がその人を取り囲んで言葉が出せないようにしてしまう、やがては街頭演説会場から排除してしまう、こんなことがこれまでありましたけれど、そういうことが大っぴらに全国で起こるかもしれない。「安全のためには少々きついことをやってもいいんだよ」という気分が醸成されるのは、あんまり良いことではないように思いますね。そういうことが相まって、さらに選挙結果、これは次の衆議院の選挙、あ、衆院選は早まるかもしれませんね。もしかしたら。そういう色々な形で政治日程に影響があるのではないかという気がしています。

安倍さんは直接お話ししたことは、かつて『サンデープロジェクト』という番組にご出演になったときに一回あっただけですが、特に政治取材を志していませんでしたので。そのときは国立の追悼施設を作るべきかという議論。そのときにスタジオに来ていただきました。当時、安倍さんの肩書きは何だったのかな。党の役員か何かだったかもしれませんが、靖国問題なら安倍さんを、ということでお出になったのだと思います。その後、総理大臣になられて実に色んなことをおやりになった総理大臣であることは間違いがないですね。

えーと、ウクライナの話をしようとずっと思っていたのですが、また…。そうですね、ウクライナでは毎日、いったい何人の方が亡くなっているのか。銃撃や砲撃、地雷に…あるいは突然窓から飛び込んでくるロシアのミサイルによって。いったい何人の方が亡くなっているんだろうと思うと、日本は本当に平和だなあ…と思っていたら。なんと密造拳銃で安倍元総理が殺されるという衝撃的な事件が起きてしまいました。多分、この事件を色んな形で総括しなければならない。それはこの事件もそうですし、安倍さんあるいは安倍内閣という時代をどういうふうに見ていくかということは、これからやっていかなければならないことになるでしょうし、あるいは事件そのものの性質ですね。これ、やっかいな事件ですよね。できるだけ深く考えていくようにしなければ、亡くなった人にも申し訳ないような気がします。

(『uttiiジャーナル』2022年7月10日号より一部抜粋。全てお読みになりたい方はご登録ください)

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image by: 首相官邸

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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