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祖父・岸信介からのつながり。安倍元首相と統一教会のただならぬ関係

警察の取り調べが進むに連れ、その理不尽な犯行動機が明らかになりつつある安倍元首相銃撃事件。容疑者は霊感商法のトラブルなどでも知られる旧統一教会に強い恨みを持っていたとのことですが、なぜ彼は安倍氏と旧統一協会を同一視するに至ったのでしょうか。今回のメルマガ『 国家権力&メディア一刀両断 国家権力&メディア一刀両断 』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、各メディアの報道をもとにその理由を推測。さらに注目の事実として、霊感商法対策弁護団により再三に渡り発せられていた「警告」の内容を紹介しています。

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悲劇の安倍元首相が霊感商法対策弁護団から受けていた要請とは

Twitterで拡散されている動画を見ている。撮影者のカメラは最後まで一切ぶれることなく、対象に向けられている。

一発目の発砲音が響いたその瞬間、安倍晋三元首相はよほど演説に集中していたのだろう。声は止めたが、前方の聴衆に顔を向けたままだった。

後方の道路で車がパンクしたとでも思ったのか、3秒近い間をおいて、安倍氏が後ろを振り向いたところへ、白煙とともに2発目の銃弾が襲ってきた。安倍氏はマイクを握りしめたまま小さな演説台を降り、膝から崩れるように地面にしゃがみこんだ。

この間、まわりにいた人たちは、安倍氏の異変に気づかない。隣に立っていた候補者はあわててガードレールの外へ逃れ出た。

安倍氏はその場で心肺停止状態になった。日本の政界を牛耳る最高実力者が、誰に庇われることもなく、最期を迎えたのだ。

事件以来、虚脱感がひどい。人の命はこんなに、あっけないものなのか。犯人への怒りだけは沸々と湧き上がる。

一発目が命中しなかったことにひるまず、さらに安倍氏に近づいて二発目を撃った犯人。その冷酷さ、残忍さは、どこから生まれたのか。

奈良県警は、山上徹也容疑者が特定の宗教団体の名を挙げて犯行動機の供述をしていると発表した。警察が匿名にしたのに従って大手メディアもその団体名を伏せていたが、当の団体が記者会見し、山上容疑者の母親が信者であることを明らかにした後は、一斉に公表された。

団体の名は、統一教会。かつて、人気アイドルまで参加した合同結婚式や、不安を煽って法外な値段の物品を売りつける霊感商法が社会問題になった。現在は世界平和統一家庭連合と名乗っているが、ここでは混乱を避けるため統一教会の名称を使わせていただきたい。

朝日新聞によると山上容疑者は次のように説明しているという。

「入信した母親が破産した後も、団体に金を納め続けていたため許せなかった」「団体トップを狙おうとしたが難しく、安倍氏は(団体と)つながりがあると思った」

週刊FLASHの記事では、山上容疑者から悩みを打ち明けられたという男性の以下のような話が紹介されている。

「自分の家族が統一教会に関わっていて、霊感商法トラブルでバラバラになってしまった。統一教会がなければ、今も家族といたと思うと語りはじめたのです」「山上さんは続けて、『統一教会は、安倍と関わりが深い。だから、警察も捜査ができないんだ』と、あまり感情を出さない山上さんが、怒りにまかせたように話していました」

山上容疑者の母が教会に多額の献金をしたり、霊感商法をめぐるトラブルに巻き込まれたりして、経済的困窮に陥り、家族がバラバラになったということらしい。かりに教会とつながりがあるとしても、安倍元首相に恨みを向けるとは短絡的で、筋違いも甚だしい。

ただし、世界を揺るがす暗殺事件において、犯人がどのような動機に突き動かされたのかを解明するのは、被害者への哀悼とは別に、極めて重要と言えるだろう。ポイントは、なぜ山上容疑者が安倍元首相を教会と同一視したかだ。

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会見した統一教会の田中富広会長によると、山上容疑者の母親は、1998年頃に入会した。2009年から17年にかけてはあまり活動していなかったが、2~3年前から1か月に1回くらい教会の行事に参加していた。2002年頃に母親が破産したことを耳にしたという。

そして、安倍元首相と教会の関係について田中会長は以下のように語った。

「安倍元首相が友好団体『UPF』(天宙平和連合)にメッセージを送ったことはある。その団体の世界平和運動に賛意を示すためだ。UPFとの関係についてはUPFにアプローチしてほしい。ただし、安倍氏が家庭連合(統一教会)の会員だったり顧問だったりしたことはない」

「UPF」は統一教会の教祖、文鮮明氏(2012年死去)が提唱して2005年9月に創設された。現在はその妻、韓鶴子氏が統一教会の教祖であり、「UPF」の総裁でもある。

安倍氏のメッセージは、2021年9月12日に「UPF」が主催したWEB集会「神統一韓国のためのTHINK TANK2022希望前進大会」にオンライン出席したさいのものだ。

「日本国・前内閣総理大臣の安倍晋三です。UPF主催のもと、よりよい世界の対話と諸問題の平和的解決のために、およそ150ヵ国の国会首脳、国会議員、宗教指導者が集う希望前進大会で世界平和をともにけん引してきた、盟友のトランプ大統領とともに演説する機会を頂いたことを、光栄に思います」「今日に至るまでUPFと共に世界各地の紛争の解決、とりわけ朝鮮半島の平和的統一に向けて努力されてきた韓鶴子総裁ら、皆様に敬意を表します」

これに対し、「全国霊感商法対策弁護士連絡会」(代表世話人・平岩敬一弁護士)は「統一教会が広く宣伝に使うことは必至」として、安倍氏あてに「公開抗議文」を出している。「今回のような行動を繰り返されることのないよう強く申し入れます」という内容だ。

同連絡会は、統一教会と関わらないよう政治家に警告を発してきた。国会議員、地方議員が、統一教会やそのフロント組織の集会・式典などに出席したり、祝辞を述べたり、祝電を打ったりする例が増えているからだ。霊感商法や合同結婚式など統一教会をめぐる報道がこのところめっきり少なくなったことも、集票組織を求める政治家の行動を緩めている。

考えなくてはならないのは、山上容疑者が統一教会に恨みを抱くなかで、「UPF」への安倍氏のメッセージ発信をどう受け取ったかである。

その後の調べで、山上容疑者が「安倍元首相のメッセージ動画を見て統一教会とつながりがあると思った」と供述していることがわかっている。

田中会長は、教会と「UPF」は友好団体ではあっても、それぞれ目的の違う別団体なのに、山上容疑者はその区別がついていないのではないか、と言う。しかし、創設者や現在のトップは同じである。

山上容疑者は、日本の最高実力者ともいえる政治家が、統一教会の広告塔のような役割を担ってしまっていると感じたのかもしれない。

統一教会は文鮮明氏により1954年5月、ソウルで創設された。日本での布教活動は1958年からはじまり、64年に宗教法人の認可を受けた。

文鮮明氏が1968年、反共産主義政治団体「国際勝共連合」を日本に設立したさい、協力したのが、安倍氏の祖父、岸信介元首相である。岸氏は73年4月、東京・渋谷の統一教会本部で、「アジアの危機と青年の使命」と題する講演を行っている。ちなみに、国際勝共連合の名誉会長は、あの笹川良一氏だった。

こうしたこともあり、安倍氏と統一教会の関係については昔から噂が絶えなかった。むろん、どのていどの付き合いだったかは不明だ。ビデオメッセージは、票につながりそうな団体に対してありがちなリップサービスに過ぎないという見方もある。

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ところで、統一教会問題の現状はどうなのだろうか。

統一教会の田中会長は「過去には献金に関しトラブルがあったが、2009年に当時の会長が声明文を発表し、コンプライアンスを徹底してきたので今はトラブルはない」と強調した。

これに対し「全国霊感商法対策弁護士連絡会」は今月12日、東京都内で会見を開いて“反論”した。統一教会の霊感商法などによる被害は今も続いており、弁護士や消費生活センターが受けた被害相談は昨年までの5年間に限っても約580件、約54億円にのぼるという。

まさか、警察が手を緩めているようなことはないと思うが、捜査や取り締まりの見直しが必要なのではないか。

ところで、この記事を書くにあたっては、いくぶん葛藤があった。本来、暗殺事件と、安倍氏が統一教会にどう関わっていたかは、別の問題だ。統一教会との関係を追及すればするほど、許されない犯行の理由づけをするようになっては、はなはだ不本意である。それでも、山上容疑者が犯行動機として、統一教会と安倍氏のつながりを挙げている以上、なぜそう思うのかを、事実に基づいて検証してみないわけにはいかないだろう。

いくつもの事実のなかで、筆者が注目したのは、全国霊感商法対策弁護士連絡会の再三にわたる警告だ。2021年9月の安倍氏に対する抗議文より前、2019年9月27日には「国会議員の先生方へ」と題する要望書を全ての国会議員あてに出している。

「旧統一教会やその正体を隠した各種イベントに参加したり、賛同メッセージを送らないで下さい」「各種の公職選挙法で定める選挙に旧統一教会信者らの支援を受けないで下さい」などという内容だった。

当然、安倍氏も受け取っていたはずである。この文面を重視すれば「UPF」にビデオメッセージを送るようなことはなかったかもしれない。

【関連】安倍晋三、統一教会との蜜月を笑顔でカミングアウト。イベント登壇&韓鶴子総裁を称賛で本性あらわ、「票とカネ」目的の歪な関係

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image by: JoshuaDaniel / Shutterstock.com

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