何のためにお菓子づくりをしているのか、本当にお菓子屋になりたかったのだろうかと疑問が湧き、一度この業界から離れることを決めたのです。その後は泊まり込みで、北軽井沢のペンションの仕事に就きました。
そして2年目の冬を迎えた頃、私の履歴書を見たオーナーから「クリスマスケーキをつくってくれないか」と声を掛けられました。
道具も揃っていない中、一所懸命にケーキをつくる私を見て、オーナーはぽつりと、こう言ったのです。「所くんはお菓子づくりをしている時が一番楽しそうだね」と。あぁ、お菓子の世界に戻ろう──。そのきっかけをくれた、ひと言でした。
それから数店舗での勤務を経て出会ったのが、外食産業企業チタカ・インターナショナル・フーズが経営する小さな洋菓子店「パステル」でした。
私に与えられた課題は、リーズナブルなパスタのセットメニューに合う、新しいデザートをつくること。そこで着目したのがプリンでした。
ただ、普通のプリンじゃつまらない。その頃流行り始めていたティラミスや、クリームブリュレのなめらかな食感にヒントを得ました。この食感は日本人に合うかもしれない、と。
フランス菓子のように甘すぎず、濃すぎず、とろっとなめらかな優しい味のプリンをつくれないだろうか。何度も何度も試作を重ね、ついにできあがったのが、後に年間2,700万個を販売する大ヒット商品、パステルの「なめらかプリン」です。
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