毛沢東、鄧小平両氏に並ぶ実績として「一つの中国」の実現、すなわち台湾併合を虎視眈々と狙っているとされる習近平国家主席。しかしジャーナリスト・作家として活躍中の宇田川敬介さんによると、今年に入って習氏は2度、そのタイミングを逸しているといいます。それはいつ、どのような原因によるものだったのでしょうか。宇田川さんは自身のメルマガ『宇田川敬介の日本の裏側の見えない世界の話』で今回、中国が台湾侵攻を思い止まった時期と、その理由を解説しています。
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ウクライナ侵攻と台湾侵攻の遅れ
今回で第54話「風雲急を告げていた中国の台湾侵略計画の新たな展開」の最終回になります。
その為に、何故人民解放軍の台湾侵攻が遅れたのかということと、今後の新たな展開について考えて締めたいと思います。
さて7月20日にバーンズ氏はコロラド州アスペンで開かれたアスペン安全保障フォーラムで、中国がウクライナ侵攻から得ている教訓について問われるとこのように答えています。
「何年か先に武力を使って台湾を支配するかどうかという選択肢に関しては中国指導部はおそらく影響を受けていない。影響を受けているとすれば、それをいつ、どのように実行するかに関してだろう」
つまり、中国共産党と人民解放軍が台湾侵攻をするということは、全く変わっていない。
そのうえで、どのように行うのかということをウクライナで参考にしているということであり、その方法論と時期について、考えているに過ぎないということを行っているのです。
つまり、要するに人民解放軍が「侵攻するかしないか」ではなく、「いつどのような方法でやるのか」ということだけが問題という見方をしているということになります。
本来は、ウクライナ侵攻とほぼ同時に行うということであったはずですが、それがウクライナ侵攻のロシアの対応や国際的な対応を見て変わったということを言っているのと同じになります。
さて、ではなぜ中国共産党は台湾に侵攻しなかったのでしょうか。
私の情報の範囲では、はっきり言って「タイミングを逸した」ということではないかと思います。
ロシアが2月24日に侵攻を開始しました。
しかし、この時にはまだ北京で冬季パラリンピックを行っていたということになります。
ロシアは、そもそもドーピングの問題で、ロシアの国家としてのオリンピックなどの国際大会に対する代表派遣を禁止されていて、あくまでも「ロシアオリンピック委員会」として、出場しているのに過ぎなかったのです。
その為に、ロシアが国家として、突然ウクライナ侵攻をしてもあまり大きな影響がないというか、国家的に影響はなかったということになります。
しかし、そのロシアの侵攻に合わせて中国共産党が台湾に侵攻することはできなかったということになります。
単純に、中国は北京オリンピックの主催者であり、またオリンピックでは台湾は「チャイニーズタイペイ」として、「国と地域」の「地域」のカテゴリで、中国とは異なる内容で出場になっています。
ようするに「二つの政府がある」ということであり、なおかつそれは「統合できない」というような状況が明らかになっていました。
そのうえで、その二つの政府が突然戦争を始めれば、当然に2022年の冬季北京パラリンピックは継続が不可能になります。
そのことから、2月24日の段階では戦争を始めることができなかったということになります。
つまり、「台湾侵攻をするタイミングを逸した」1回目ということになります。
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この時には3月8日にパラリンピックが終わるので、その翌日3月9日に戦争が始まるのではないかというようなことが言われていました。
この時に海南島の三亜基地に、人民解放軍の軍艦が多数集結していることも明らかになっています。
つまり、習近平国家主席は3月9日もしくはそこから遠くない日程で戦争がはじまると思っていました。
この時に習近平国家主席からすれば、二つの誤算があったのです。
もちろん、国際的な批判などは、当然にロシアに行っていたでしょうし、また、西側諸国から経済制裁が行われるということは見えていました。
しかし、その一つ目の誤算はイギリスもアメリカも参戦しなかったということです。
参戦しなかったということは、イギリスもアメリカも軍隊を全て保持しているということになります。
本来ロシアがウクライナに侵攻し、それを防御するためにイギリスやアメリカなどのNATOが参戦すれば、当然中国側に残されている軍隊は少なくなるということ位になります。
中国は当然それを狙っていたのです。
出来れば、ロシアとアメリカやイギリスが全面戦争をしてくれればよいと思っていました。
その間に台湾を取り、アメリカが出てこない間に西太平洋を収奪すれば、基本的にはアメリカに負けないだけの経済力と資源を持つことができるということになります。
そのようにしてから戦いたいと思っていたのです。
しかし、参戦をしなかったのです。
この事からイギリスの空母クイーンエリザベスはシンガポール周辺に、またフランスの空母シャルルドゴールはインド洋に、アメリカも空母が日本を中心に4隻、つまり、中国は戦争を開始すれば、空母6隻を敵に回さなければならないということになるのです。
それでは、現在の中国では勝てません。
そもそも戦争というのは、陸軍が行います。
このように書くと海軍はどうするのかということを言う人がいますが、海軍は、「制海権」つまり「資源や兵員を運ぶため」であり、海軍そのものが都市を占領して、敵を降伏させるということはありません。
このように考えると、「海軍力」がない、「制海権」がないということになれば、陸軍が単独で中国大陸から台湾島に行くことができなくなります。
黒海にアメリカの海軍などが入れば、かなりの被害があったでしょう。
その被害を元に戻すのに10年かかります。
まさに、その10年の間に台湾に侵攻すればよいということになるのです。
しかし、NATOが参戦すれば、アメリカもイギリスも、ドイツやフランスなどNATO加盟国の内容から、当然に賛成しなければならないということになります。
中国は当然にそうなると思っていましたが、そうならなかったということになるのです。
そしてもう一つの誤算です。
(メルマガ『宇田川敬介の日本の裏側の見えない世界の話』2022年7月25日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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