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実は15年の人も?厚生年金は何年間おさめると老後に支給されるのか

厚生年金がもらえるようになるまでに必要な加入期間、実は以前「15年」で良いという特例があったことをご存知でしょうか(現在、平成29年8月1日以降は10年で年金受給可能)。今回のメルマガ『 事例と仕組みから学ぶ公的年金講座 事例と仕組みから学ぶ公的年金講座 』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、その特例と経過について詳しく解説しています。

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80代前後あたりの年金受給者の年金記録は今とは違う事が多い事例

こんばんは!年金アドバイザーのhirokiです。

8月と言えば終戦の月なので、今回は戦中戦後間もない頃を生きてこられた方の年金について見ていこうと思います。

前回は厚生年金の経緯などを取り上げましたが、そういう面を考えつつ事例を考えていきます。

1.厚生年金期間が20年以上必要なのに、15年以上あれば貰えるようにしていた

昭和24年8月1日生まれのA男さんは現在は73歳です。

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1日生まれなので7月31日が年齢到達日の為、誕生月は7月となります。

20歳到達月となる昭和44年7月から昭和45年6月までの12ヶ月間厚生年金に加入しました。この間の平均給与は22万円とします。

昭和45年7月から平成3年6月までの252ヶ月間は未納でした。平成3年7月から平成20年6月までの204ヶ月間は厚生年金に加入します。

なお、平成3年7月から平成15年3月までの141ヶ月間の平均給与は40万円とし、平成15年4月から平成20年6月までの63ヶ月間の平均給与は45万円とします。

平成20年7月から平成21年6月までの12ヶ月間は国民年金保険料を支払いました。

A男さんの年齢のみを見ると60歳到達する平成21年7月31日に厚生年金の受給権が発生するので平成21年6月までの記録を用いて、受給権発生の翌月8月分から年金が発生します。

なお、平成21年当時はまだ全体の年金記録で25年以上が無いと年金が貰えませんでした(平成29年8月1日からは10年で年金受給可能になりました)。

A男さんは60歳からちゃんと年金を貰えていたでしょうか。

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■解説

まず、A男さんの全体の年金記録を見てみると、厚生年金期間が216ヶ月と国年が12ヶ月の228ヶ月のみです。当時に必要な25年以上(300ヶ月以上)には到達していません。

ですが、A男さんの生年月日を見ると特別な措置が適用されていた年齢になります。それは40歳以上(女子、船員や炭鉱で働いていた人は35歳以上でした)で18年以上の厚生年金期間があればA男さんは年金受給資格を得るという事です(中高齢者特例という)。

(A男さんは18年必要ですが、昭和22年4月1日以前生まれの人であれば15年で満たしていました)。

A男さんは厚生年金全体は216ヶ月ですが、40歳以上(平成元年7月以降)は204ヶ月となっています。40歳以上で18年以上(216ヶ月以上)の厚生年金期間があればよかったのですが、まだ12ヶ月足りてなかったですね。

よって、A男さんは60歳時点では年金が貰えませんでした。

そのため、A男さんは60歳以降に新たに再就職して厚生年金に12ヶ月加入する事で40歳以降の厚年期間を216ヶ月にするのが手っ取り早いですね(60歳以降の再就職なのでそう簡単ではないですが…^^;)。

他の方法としてはまだA男さんは全体の年金期間が228ヶ月なので、さらに国民年金に任意加入で72ヶ月間加入するか…そうすると年金貰うまで時間かかってしまうので、何としても再就職して12ヶ月死守するほうが早いです。

よって、最短の平成21年7月(60歳到達月)から再就職できたとしたら、平成22年6月で12ヶ月となり(せめて6月30日まで働くと6月までが厚年期間になる)、その翌日の平成22年7月1日に年金受給権が発生して平成22年8月分から年金を受給する事が出来ます。この間の平均給与は10万円とします。

平成22年8月の年金記録は、国年12ヶ月+厚生年金228ヶ月(うち40歳以上216ヶ月)

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■年金計算

・厚生年金(報酬比例部分のみ)→22万円×7.125÷1,000×12ヶ月+40万円×7.125÷1,000×141ヶ月+45万円×5.481÷1,000×63ヶ月+10万円×5.481÷1,000×12ヶ月=18,810円+401,850円+155,386円+6,577円=582,623円

あと、65歳からの老齢基礎年金に使う記録(20歳から60歳前月までのみ)。

1.厚生年金期間→12ヶ月+204ヶ月
2.国民年金保険料納付→12ヶ月

・老齢基礎年金→777,800円(令和4年度満額)÷480ヶ月×228ヶ月=369,455円

20歳から60歳前月までの厚生年金期間や共済期間は国民年金に同時加入してるので、老齢基礎年金の計算に反映します。

次に老齢厚生年金の差額加算ですね。

・老齢厚生年金(差額加算)→1,621円(令和4年定額単価)×240ヶ月(←40歳以上の今回の特例を満たした人は最低でも20年加入とみなされる)-777,800円÷480ヶ月×216ヶ月(20歳から60歳前月までの厚年期間)=389,040円-350,010円=39,030円
中高齢者特例で受給資格を満たした人は、240ヶ月加入したものとして最低保障されます。

そのため20年以上の厚年期間がある人とみなされるので、65歳時に65歳未満の妻が居たら配偶者加給年金388,900円も受給する事が出来ます。

しかし、老齢基礎年金計算時や報酬比例部分の計算時は最低保障されず、実際の加入期間で計算します。

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2.昭和61年4月改正に15年で年金貰える今までのやり方は廃止して、25年必要というところまで引き上げる経緯

さて、A男さんは40歳以上で18年以上の厚生年金期間があれば年金が貰える人でしたが、全体の厚生年金期間が20年以上あっても年金が貰えます(いろいろあって面倒ですよね^^;)。

本当は全体で25年以上の期間が無いと年金は貰えませんが、厚生年金だけで見ると全体で20年以上あれば年金受給資格有りとされたのです。

20年間と言えば本来の厚生年金の必要な期間ですね。

ところが昭和61年4月になると、今まで厚生年金は20年で受給できるとかA男さんみたいな特例で20年未満でもよかったのですが、「厚生年金は25年満たした人が貰えまーす!」という事に変更されました。

急に20年ほどで良かった厚生年金が25年になってしまいました。

でもいきなりそんな暴挙は許されないので、生年月日ごとにゆっくり25年受給資格期間が必要という所まで引き上げる事にしました。

ちなみに40歳以上で15年以上あればよいというのは昭和29年厚生年金大改正の時に創設された制度ですが、なんでそんな短縮をしたのかというと、中高年のように遅くから就職した人でも厚生年金が貰えるようにしたいという思いからでした。

当時は高度経済成長時代で工業化が進んで厚生年金加入者が増加していく中で、農家から都会に出て徐々に工業労働者に移行していく人が増加していった時代ですからね。

さらに、昭和の頃は55歳定年がまだ普通だったので40歳から55歳までの点を考慮したのでしょう。

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ところで一番短い15年で良かったのは昭和22年4月1日以前生まれの人(昭和21年度以前生まれの人)でした。

その後は、昭和21年度生まれの人が昭和61年4月になると、「もうそんな15年で貰えるなんて有利な制度は廃止してしまえ!」となりました。

とはいえ、いきなり廃止するわけにもいかないですから、昭和21年度生まれの人(昭和61年度時点で40歳の人)までは15年で良いとします。それより若い人は1年ずつ先に延ばしながら廃止していきましょうという事にしました。

つまり、昭和21年度の人より1歳若い昭和22年度生まれの人は15年じゃなくて16年、昭和23年度生まれの人は17年、昭和24年度生まれの人は18年(A男さんのところ)、昭和25年度生まれの人は必要な厚生年金期間は19年と引き上げました。

よって、40年以上で15年~19年で良いという人は昭和25年度生まれまでの人(昭和26年4月1日以前生まれまで)に適用されています。

この辺の年代までの人はちょっと気を付けなければいけません。

じゃあ、昭和26年度以降生まれの人は本来の厚生年金の姿である20年以上無いと厚生年金は貰えない人ですね。

でも、昭和61年4月の改正以降は厚生年金20年以上でOKはなく、全体で25年が大原則となりました。

昭和61年改正で年金は25年必要という事を原則にしたんだから、厚年20年以上でも貰えますよっていうやり方も廃止していかなければいけません。

ではどうするか。

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先ほどの続きで、昭和27年度生まれの人は21年あれば良い、その次の昭和28年度生まれの人は22年、昭和29年度生まれの人は23年、昭和30年度生まれの人は24年の全体の厚生年金期間があれば良い。

そして…昭和31年度生まれの人からは原則の25年以上を満たしてねという事になりました。

昭和31年4月2日以降生まれの人はちゃんと25年が必要という事ですね(平成29年8月1日以降は10年で良くなりました)。

これも面倒な経過措置というやつです。年金の生年月日の表を見ると昭和31年4月1日以前生まれの人までが、何か他と違う…という事になっているのはこういう経緯からです。

このように今考えると、「どうしてこの人は少ない期間で年金が貰えたのかなあ??」という不思議な事がよくありますが、そういう時は特例を満たしていたからという事がよくあります。

よって、昭和30年度以前生まれまでの人は、上記のような重要な特例があったので知っておくべきところであります。

※ 注意

現在は10年あれば老齢の年金が貰えますが、長期要件(老齢の年金受給資格期間を満たした人や受給者の死亡)で遺族厚生年金を貰う時は全体の年金記録が25年以上無ければいけません。

例えば10年で老齢厚生年金を受給してる人が亡くなっても、それによる遺族厚生年金は発生しません。

しかし、今回のA男さんのように40歳以上で厚年15年~19年、もしくは昭和30年度までの生まれの人で20年~24年の厚生年金期間で年金貰えてる人が亡くなった場合は遺族厚生年金が発生します。

あと、15年から19年で貰える中高齢特例というのは厚生年金独自の制度なので、共済期間と合わせて考えてはいけませんが、全体で20年以上を考える場合は「厚年+共済」合わせてもらっていいです。

例えば昭和29年度生まれの人は23年の厚生年金のみでも年金受給資格を満たしますが、厚年+共済期間で23年あってもそれで年金受給資格は発生していました。

(メルマガ『 事例と仕組みから学ぶ公的年金講座 事例と仕組みから学ぶ公的年金講座 』2022年8月10日号より一部抜粋、この続きは ご登録 ご登録 の上お楽しみください。 初月無料 初月無料 です)

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年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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