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安倍国葬に忖度。統一教会 名称変更阻止の前川喜平氏を叩く勢力の正体

2015年に文化庁から認証され、「世界平和統一家庭連合」への教団名変更が叶った旧統一教会。しかしそこから遡ること18年前の1997年、教団が画策していた名称変更を「教会の実態が変わっていない」として阻止した97年当時の文化庁宗務課長・前川喜平氏を非難する声が、とある界隈から上がっています。なぜ彼らは前川氏を批判するのでしょうか。今回のメルマガ『 国家権力&メディア一刀両断 国家権力&メディア一刀両断 』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、現在明らかになっているさまざまな事実を総合しその理由を推測。前川批判を展開する面々が、「違法性」を振りかざさざるを得ない裏事情を解説しています。

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統一教会の名称変更を押し返した前川喜平氏が批判される理不尽

元文科事務次官、前川喜平氏は文化庁宗務課長だった1997年、名称変更をしようとした統一教会を説得し、申請を諦めさせた。霊感商法など悪しき実態は同じなのに名前だけ変わることを阻止したかったからだ。

ところが、2015年になって文科省が方針を転換して名称変更を認め、統一教会は晴れて世界平和統一家庭連合と名乗ることになった。当時、文科省事務方ナンバー2の座にあった前川氏が反対したにもかかわらず、文科省はそれまでの姿勢を変えたのである。

以後、教会とその関連団体は選挙活動などを通じて急速に日本政界に食い込み、政治家を広告塔として利用し、勢力を拡大した。もし、名称変更を許さず、教会の活動を抑え込むことに成功していたら、安倍元首相襲撃事件は起こらなかったかもしれない。

前川氏が統一教会の名称変更に待ったをかけたのは、公共の福祉を守る観点からも、当然のことだった。それなのに、このところ前川氏に対する批判の声が識者の一部から湧き上がっている。どうしたことだろう。

方針転換の理由について、8月5日の記者会見で当時の末松信介文部科学大臣はこう説明した。

「申請書の記載事項に不備がなく、必要書類が添付されるなど、形式上の要件に適合する場合には受理する必要がある。形式上の要件以外のことを理由として受理を拒むことは、行政上の不作為として違法性を問われる恐れがある。受理した場合、要件を備えているなら認証する必要がある」

受理を拒むと違法性を問われるので受理した。そして、形式的要件が整っていたので宗教法人法に基づいて認証したというのである。97年の判断を文科省自ら否定したわけだ。

では、97年当時、宗務課長として統一教会側に認証できない旨を説明し、申請そのものを諦めさせた前川氏は違法性を問われるということになるのだろうか。

違法性を指摘する識者の一人が元経産官僚、原英史氏だ。加計学園の獣医学部設置を進めた国家戦略特区ワーキンググループの座長代理である。

ニュースサイト「SAKISIRU」に掲載された記事の中で原氏は、統一教会の名称変更申請を前川氏が「水際で止めた」という毎日新聞7月29日付けの記事を批判し、こう書いている。

毎日新聞はこれが正しい行政対応だったとの前提で、政治の力で歪められた「疑惑」を報じているが、もし記事のとおりならば、前川氏の対応は違法行為だ。まず、宗教法人法上、名称変更の申請があったとき、一定の形式要件を満たしていれば「認証しなければならない」とされている。「教会の実態が変わっていない」ことは認証を拒む理由にならない。おそらく前川氏がそれがわかっていて「受理しない」との対処をしたのだろうが、これも法律違反だ。

「教会の実態が変わっていない」、すなわち宗教団体にあるまじき反社会的な活動が変わらず行われている、としても、書類に不備がない限り、名称変更を認証すべきだという見解のようである。

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8月9日の『ABEMA Prime』に出演した前川氏に対し、コメンテーター陣から「申請をやめさせる権限があったのか」「プロセスが不透明ではないか」など批判的な意見が相次いだが、それも原氏や末松前文科相の見解に影響されていたからだろう。

たしかに行政手続法では、申請が形式上の要件に適合する場合には受理し審査しなければならないことになっている。

だが、97年の場合は前川氏の説得により、統一教会が申請を断念している。以来18年間、申請をしてこなかった。申請していないから受理する必要がない。これは、前川氏の知恵といえる。

原氏は「宗教法人法上、名称変更の申請があったとき、一定の形式要件を満たしていれば認証しなければならない」と述べて、前川氏を批判するが、97年の場合は申請に至っていないのだから、原氏の事実誤認か勘違いといえるだろう。

2015年になって、なぜか統一教会は申請を行い、受理された。当時、事務次官に次ぐ文科審議官のポストにあった前川氏は、宗務課長が事前説明にきたさい、「今まで申請を受理しない方針でやってきたのに、なぜ認証するのか」とただしたという。

しかし、文化庁は申請を受理した。受理した限りは、宗教法人法の規定に従い、要件を備えているかどうか審査したうえ、事務的に認証しなければならないという趣旨の末松氏の説明には道理があるようにも思える。

だが、問題は肝心の「要件」を、どう解釈し審査するかだ。

前川氏は言う。「宗教法人法は原則、要件を満たした宗教団体にはすべて法人格を与えるとの考え方に立っている。ですから、宗教団体であるという事実を確認する作業が認証なのです」「認証の対象は宗教法人の規則です。社団法人などで言えば、定款にあたるもの。規則の中に必ず名称を記さなければならず、名称変更にあたっては規則を改めて認証する必要があるのです」(日刊ゲンダイより)

形式的要件を満たせばいいというのは、あくまで宗教団体であることが前提だ。

霊感商法で多くの被害者を出し、損害賠償請求を認める判決も出ていた。法外な額の献金を要求されて家庭崩壊にいたるケースもあった。こんな組織が、はたして宗教団体といえるのか。97年に統一教会が名称変更の事前相談をしてきた時、前川氏を課長とする文化庁宗務課の問題意識はそこにあった。

だからこそ前川氏は、実態が変わらないのに名前だけ変更することは「認証できない」と、申請させないで押し返したのだ。

むろん、前川氏への風圧が強まっているのは、統一教会の名称変更を認めた背後で安倍自民党の圧力があったという推測を披歴しているからであろう。2015年当時の文科相、下村博文氏については「下村さんの意思が働いていたことは100%間違いない」と断言している。

「下村さんが知らないはずがない。認証の専決者は文化部長ですが、仮にボトムアップの決裁だとしても、これほど大きな方針転換について事前説明をしないのは考えられない。大臣まで必ず上げますよ。文化部長限りで判断できるような案件ではありませんから。何でもトップダウンで決める下村さんが統一教会の名称変更の認証について、知らなかったはずはない。細かく具体的に指示する大臣でしたからね」(前川氏)

前例踏襲を常とする役所にあって、事務方ナンバー2の意見を無視できるのは、政治的圧力がかかった場合しかありえないだろう。

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自民党と統一教会の関係が取り沙汰されるなか、安倍政権時代の文科大臣までもが、統一教会に有利な取り計らいをしていたとなれば、政権への打撃ははかり知れない。安倍元首相の国葬についての否定的な世論がさらに強まる懸念がある。

その意味で、前川氏の主張は極めて不都合であり、それを叩き潰すための唯一の拠り所が「違法性」をあげつらうことだったに違いない。

岸田首相が行った内閣改造は、自民党のなかに統一教会と全く関わりのない人材を捜すのが難しいことを浮き彫りにした。世界平和統一家庭連合へと名前を変えて約7年。正体を隠した教会と関連団体は、これほどに日本の政治を蝕んできたのだ。

1997年と2015年、文化庁の統一教会に対する姿勢はどちらが正しかったのだろうか。

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image by: MAG2NEWS編集部

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