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小林よしのり氏が論破。中国は台湾についてとやかく言う資格がない理由

自国が台湾を威嚇するために行った軍事演習に対する我が国の常識的な対応に、過剰な反応を見せた中国。ついには「台湾問題に関して日本にとやかく言う資格はない」とまで主張し始めましたが、それは言いがかりにすぎないようです。今回のメルマガ『小林よしのりライジング』では、『ゴーマニズム宣言』『おぼっちゃまくん』『東大一直線』等の人気作品でお馴染みの漫画家・小林よしのりさんが、「台湾についてとやかく言う資格がないのは中国の方」としてその根拠を徹底解説。中国の「いちゃもん」を見事なまでに論破しています。

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ウクライナから台湾へ?

もしもロシアがウクライナ侵略を達成し、国際法秩序の破壊に成功したら、中国は迷わず台湾を侵攻するだろう。だが逆にロシアが失敗したら、中国も一蓮托生となるかもしれない。今は世界史的な分水嶺にある。

8月2日から3日にかけ、米国の大統領・副大統領に次ぐ「ナンバー3」といわれる下院議長、ナンシー・ペロシが台湾を訪問した。

これに中国は猛反発、事前には米中首脳会談で習近平国家主席がバイデン大統領に「火遊びすれば身を焦がす」と警告した。

この言い回し、ほとんどマフィアの恫喝だが、ペロシはこれに動じず台湾訪問を実行。中国はその「報復」のように、台湾近海での軍事演習を4日から9日まで行った。

そしてこれとちょうど時を同じくして3日から5日までの間、カンボジアの首都プノンペンでは、ASEAN関連の国際会議が開催されていた。

台湾問題に関してASEAN各国の対応は分かれていて、シンガポールやマレーシアなど、米中双方と経済的な結びつきが強い国は「中立」的な態度を取り、カンボジアやラオスなど、中国に経済で大きく依存している国は「台湾や新疆ウイグル自治区、香港などは全て中国の内政問題」として、中国寄りの態度を取っている。

ウクライナ戦争について、ロシアへの依存度によって各国の態度が変わるのと同じ現象である。

そんな中、4日に行われた会議で日本の林芳正外相は、中国の軍事演習に「懸念」を示した。

すると、これに対して中国の王毅国務委員兼外相が激怒。王は台湾の現状について日本の「歴史的な責任」を持ち出し、「日本には発言する資格がない」と声を荒らげたという。

中国外務省も報道官(外務次官補)が記者会見で「日本は台湾問題で歴史的な罪を負っており、とやかく言う資格はない」と発言した。

王毅は4日に予定されていた、対面では1年9カ月ぶりとなる日中外相会談を開始予定の2時間前に急遽キャンセル。

翌5日の東アジアサミット外相会議では林外相の発言の際、ロシアのラブロフ外相とともに退席した。

一国の外相が国際会議の席で声を荒げて激怒し、その後にドタキャンだのボイコットだのを繰り返すとは、あまりにも子供じみていて外交的には失態としか思えないが、それほどまでに余裕を失っているようにも見える。

中国は日本に対しては、居丈高に「歴史的な責任」を言いさえすれば勝てると思っているから、今回も「日本は台湾を植民地にしていたのだから、台湾のことを言う資格はない」と言えば、日本は黙ると思ったのだろう。

そして実際に、中国に「歴史カード」を出されたら直ちに平伏する、歴史を全く知らないバカな日本人もいるのだから、始末に悪い。

そこで今回は、この中国のイチャモンに対して反論しておこう。

とはいえ、細かい検証などする以前に、いくらなんでも「台湾を植民地にしていた日本には、台湾のことでモノ申す資格はない」というのは、呆れるほど見当はずれな言いがかりであることは明白である。

だったら、ミャンマー(ビルマ)を植民地にしていたイギリスは、現在のミャンマーにおける人権侵害に対して何も言う資格はないのだろうか?もちろんそんなことはなく、イギリスはミャンマーの軍事政権に制裁措置を行っている。ミャンマーに対しては、なぜか日本政府の方が制裁に消極的なのだが。

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さて、まず強調しておかなければならないことは、現在の中国=中華人民共和国は、歴史上一度も台湾を国土としたことがないという事実である!

台湾についてとやかく言う資格がないのは、中国の方なのだ!

日本が台湾を領有したのは1895年である。

現在の中国=中華人民共和国(以下「中共」)の建国は1949年であり、この時には影も形も存在していない。

日本は日清戦争に勝利し、「下関条約」(日清講和条約)によって、清国から台湾を割譲された。

清国は満州族の王朝であり、現在の中共を支配している漢族は、清に服属する存在にすぎなかった。

清の一員でしかなかった漢族の末裔である中共が、「台湾はかつて清国領だったのだから、現在は中共の領土である」と主張しているわけで、これは全く意味が通らない。

それは例えて言えば、かつて大英帝国の一員であったインドが、そのことを根拠に、同じく大英帝国の一員だったビルマ・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドを「インドの領土である」と主張するのと同じ理屈であり、全くわけのわからない話なのである。

日本は半世紀にわたって台湾を領有したが、1945年の敗戦により、ポツダム宣言に従って台湾を放棄した。

そして台湾の領有権を引き継いだのは、蒋介石の中華民国である。この時点でもまだ中共は成立していない。

1949年、中華民国との内戦に勝利した毛沢東は中華人民共和国の建国を宣言。中国全土を掌握した。

しかし敗れた中華民国は台湾に落ち延び、ここに政府を建てて支配した。その後今日に至るまで、中共の支配が台湾に及んだことは一度もない。

中華民国だろうが、中華人民共和国だろうが、清朝や歴代の中国王朝だろうが、何でもかんでも「中国」と表記してしまうのは極めて悪質なトリックであって、現在の中国=中華人民共和国は1分1秒たりとも台湾を領土にしたことなどなく、台湾を自国の一部のごとくとやかく言う資格など、一切ないのである。

現在、国連では台湾を国家として認めていないが、これは蒋介石が「中華民国」こそが正統な「中国」であるというメンツにこだわり、中共の国連加盟が認められた際、国名を「台湾」に変えて残留するという選択肢を採らず、国連を脱退してしまったためである。

独裁者・蒋介石のメンツさえなければ、台湾は台湾の名で独立国として国連に加盟していたはずであり、現在も台湾は国連には加盟していないものの、事実上の独立国なのである。

さて、中国が日本に対して、台湾を「植民地」にしていたからモノを言う資格がないと言っているということは、裏を返せば、中国は「植民地支配」というものはあまりにも残虐で人道に反することであり、それをやってしまったら最後、もう人様にモノを言えるような立場ではなくなってしまう、とてつもなく酷い行為であると認識していることになる。

そして、なぜ中国がそう認識しているかと言えば、中国自身がそういうとてつもなく酷い「植民地支配」をしているからである。

中国がチベット・ウイグルで行っている「植民地支配」の過酷さは、筆舌に尽くしがたい。

中国がやっているのは「ジェノサイド」であり、チベット人・ウイグル人を徹底的に弾圧し、虐殺し、文化も歴史も民族性も全て破壊し尽くし、チベット人・ウイグル人という存在をこの地球上から抹殺しようとする行為である。

それは、日本が台湾において行った「植民地政策」とは天と地以上の差がある。

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清朝は、日本に割譲する以前の台湾を「化外の地」と呼んでいた。人の文明が及ばない、地の果てとしてほとんど放置しており、風土病が蔓延する無法地帯だったのだ。

日本はそんな台湾の治安や衛生環境を改善し、道を作り、橋を架け、通貨・金融制度を導入し、教育を普及し、産業を育成し、ありとあらゆる振興政策を行った。

もちろんいずれは日本にその利益が還元されることを目的としたものだったし、台湾人に対する差別があったことも確かだが、現地人に対してこれだけ恩恵の及んだ「植民地」など他にはほとんど例がなく、これを「植民地支配」と言うのが適当なのかどうかと疑われるようなものだったのである。

このようなことは、以前わしが全て『台湾論』で描いている。また以前に書いたことを繰り返さないといけないのかと思ってしまうが、仕方がない。

『台湾論』は北京語版も出ているから、中国政府も読んでいるかもしれない。本当の事が日本でも台湾でもある程度知られていることが分かっているから、王毅も冷静さをなくして激怒したのかもしれないが。

それにしても、中国もロシアも、歴史を偽造して侵略を正当化しようという手口はそっくり同じである。

ロシア人とウクライナ人は民族的には近いとはいえ、あくまでも別の民族である。そして歴史をさかのぼれば9~12世紀、ロシアは現在のウクライナ・キーウを首都とする大国「ルーシ」の一部だった。

ロシアはこの歴史を改ざんし、ロシア人とウクライナ人は同じ民族であり、ウクライナはもともとロシアの領土だったのだから、ウクライナを併合し、ウクライナ人をあるべき状態に「解放」することが正義であると自国民を洗脳し、侵略を正当化している。

中国はこれと全く同じ詭弁で、中国人と台湾人は同じ民族であり、台湾はもともと中国の領土だったのだから、併合するのは「侵略」ではなく「解放」であり、「正義」であるとプロパガンダしているのである。

さらに、中国とロシアが同じように歴史を利用しているケースはまだある。

ロシアはウクライナへの侵攻を開始する際、ウクライナに「ネオナチ」がいると言い、「ファシズムとの戦い」を標榜した。

もちろんウクライナにネオナチもファシズムもないのだが、この荒唐無稽な主張にも実は意味がある。

ロシアは第2次世界大戦を「大祖国戦争」と呼び、この戦争で当時のソ連がナチス・ドイツに勝ったことをナショナル・アイデンティティにしている。

本当はドイツとソ連は手を組んだり裏切ったりした挙げ句に、ヒットラーとスターリンという独裁者二人が悪の頂上決戦を行ったわけだが、ロシアではこれが、「悪のナチス・ドイツ」から祖国を守り抜いた崇高なる正義の戦争ということになっているのだ。

しかも、実は「大祖国戦争」は戦後のソ連・ロシアでずっとナショナル・アイデンティティとされていたわけではなく、これが歴史教育等を通じてここまで強調されるようになったのは、プーチン政権発足以降なのである。

ロシアに占領支配されたドンバス地方を描いたウクライナ映画『ドンバス』では、親ロシア派の住民や兵士、役人らが何かと言えば「我々はファシズムと戦っている」と口にし、それさえ言えば何をやっても許されるという様子が描かれる。

またこの映画には、ドイツ人のジャーナリストに向かって、ロシア側の兵士が「お前はファシストだ!」とネチネチ責め立てるシーンもあった。

これは、中国が日本にやっていることと全く同じである。

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中国は第2次世界大戦で日本に勝ったということをナショナル・アイデンティティにして「愛国教育」を行ってきた。

本当は日本軍と戦っていたのは蒋介石の国民党軍であり、後に中華人民共和国を建国する毛沢東の共産党軍は一部でゲリラ戦を仕掛けていた程度で、後の国共内戦に備えて戦力を温存するためほとんど逃げ回っていたというのが実態だが、それを、共産党こそが「悪の日本軍」から祖国を守り抜いた英雄だと歴史を捏造したのだ。

そして中国は今もなお「悪の日本」が牙をむくかもしれないと危機を煽って、国内をまとめている。

プーチンもこれに倣って「ナチスとの戦い」をダシに愛国心を高揚させ、それを自分への求心力に利用しているわけだ。

結局、独裁国家・権威主義国家というものは、そっくり同じことをやるものだと思っておかなければいけないのだ。

ウクライナであんなことが起こったら、明日は台湾と思って構えておくしかない。

ロシアもウクライナもどっちもどっちだなんて、寝ぼけたことを言ってる段ではないのである!(『小林よしのりライジング』2022年8月16日号より一部抜粋・文中敬称略)

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image by: Alexandros Michailidis / Shutterstock.com

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【著者】 小林よしのり 【月額】 ¥550/月(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4火曜日 発行予定

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