令和4年4月から、年金の繰り下げ制度が新しくなりました。ぱっと見た感じだと「繰り下げ制度」はとてもオイシイもののようなのですが、実は必ずしも全員が繰り下げ制度を使えるわけでもないようです。今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座 』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、その制度について3つの事例を用いて詳しく解説しています。
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更に複雑化した年金繰下げ制度と事例3つ
こんばんは!年金アドバイザーのhirokiです。
1.従来からほとんど利用者が居なかった年金の繰下げ制度
令和4年4月から新しくなった繰り下げ制度が始まり、75歳まで年金を貰わないようにして、年金を増額する事が出来るようになりました。
繰り下げ制度というのを簡単に再度説明しますと、65歳から受給する事になる老齢基礎年金と老齢厚生年金をしばらくの間貰わずに放っておくと、1ヶ月ごとに0.7%ずつ年金が増加していきます。
それが今まではずっと65歳から70歳までの5年間が繰下げの限度であり、その5年間(60ヶ月)貰わなかったら70歳から0.7%×60ヶ月=42%年金が増加するという事になっていました。
しかしながら貰ってない間に、やっぱり65歳から本来の年金額で貰いたいとか、もしくは貰ってない間に亡くなってしまうという事もあります。
そういう時はどうなるのかというと、65歳に遡って年金が一時金で支払われます。
例えば69歳になった時に「やっぱり増額した年金は要らないや…」とか、亡くなってしまった場合は65歳時に遡って何も増額しない年金を一時金で貰うという事です。
65歳時の年金が100万円だったなら、4年間貰ってないので400万円を遡って受給する事ですね。
途中で亡くなった場合はその400万円は一定の遺族に未支給年金として支払います(未支給年金は一時所得になるので50万円を超える場合は申告が必要)。
なお、パッと見るとそんなオイシイ制度があるなら自分もやりたいと思うかもしれませんが(僕も将来は繰り下げしたいです(笑)、必ずしも上手くいかない事も多いのが繰下げ制度です。
それは、老齢の年金以外の他の年金の受給権を持ってる人は、そもそも繰り下げ制度が使えないのであります。それも一つの要因なのか、利用者は2%にも届きません。
70歳までが限度だった時でさえその程度だったので、75歳までとなるとさらにごくわずかの人になるでしょう。
例えば高齢になるともちろん亡くなる人が増えてきますが、それと同時に遺族年金の受給者も増えてきます。
もし65歳時点ですでに遺族年金の受給権があるなら、全く繰下げ制度は使えません。
なので、65歳前に障害年金や遺族年金などの老齢以外の年金受給権が発生してる人は、老齢の年金を65歳から貰わずに増加させる…というのは無理だったりします。
こういう他の年金の受給権を持ってる人は、繰下げを期待しない方がいいですね。
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2.複雑になった繰り下げ制度
さて、そんな繰下げ制度は令和4年4月からは70歳から75歳まで引き上がりました。
対象者は昭和27年4月2日以降生まれの人からです(令和4年4月1日以降に70歳になっていく人)。
また、昭和27年4月1日以前生まれの対象外の人でも、平成29年4月1日以降(この時に65歳過ぎてる)に老齢の年金受給権を獲得した人も対象です。
65歳から75歳までであれば、単純に0.7%×120ヶ月=84%も年金が増えてしまう計算になりますが、ちょっと問題もあります。
特にそれは上記でも言ったように「途中で繰下げ増額はしなくていいや!」という場合や、途中で亡くなられた場合です。
途中で諦めるなら、65歳時に遡って一時金で支払ってくれるんでしょう?というと、そうでもないです^^;
年金には5年の時効というものがありますよね。
例えば年金請求の年齢に到達したにもかかわらず、2年くらい忘れてたとします。
でも年金は5年の時効以内なら遡って支払うので、2年遅れて請求しても2年分は遡って支払われるわけです。
ところが65歳から繰下げしていて73歳あたりで、やっぱやーめた!増額なんてしなくていいよってなっても68歳より前は5年の時効で貰えない年金が出てきます。
そこで、5年前の時点である68歳の時に繰り下げ増額の申込をしたものとして65歳から68歳までの3年間の増額(36ヶ月×0.7%=25.2%)の増額をして、その時効5年分を支払うという制度に変わりました。
73歳でやっぱり65歳時に遡った何も増額しない年金を貰う事にした場合は、65歳から68歳までの36ヶ月間の期間を繰り下げたものとして支払うという事になったんですね。
つまり、繰下げ辞退の時に73歳から5年以内である68歳以降の5年分の年金を支払うけども、65歳から68歳までの36ヶ月間繰り下げた効果を反映した金額で5年分の遡りを支払うという事ですね。
ただし、途中で亡くなった場合の未支給年金に関しては何も増額しない65歳時点の本来の年金で68歳から73歳までの5年分の年金を支払います。
また、80歳以上になってから繰り下げ請求しようとしても、繰下げ増額の年金は貰えないので注意。
例えば80歳の時に今まで貰ってなかった年金を受け取る時に、75歳まで遡って65歳から75歳まで遅らせた分の84%増額の年金を貰えないという事です。
今回はそういう点を絡めていくつか事例を見てみましょう。
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3.65歳時点でもう既に障害年金受給してないのに、どうして繰り下げさせてもらえないのか。
〇 昭和33年4月5日生まれのA美さんは現在は64歳です。
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厚生年金期間は10年で、国民年金期間は第三号被保険者として25年の合計35年の年金記録があります。
40歳の時の厚生年金加入中に障害を負ったため、障害厚生年金の2級の受給権を獲得しました。
A美さんの場合は約3年ごとに誕生月に提出する再度の診断書提出により、障害状態を確認されながら障害年金を受給してきました。
障害年金は障害状態は軽くなったか?重くなった?もしくは変わり無しかどうかを確認するために、数年に一度の間に診断書を出します。
その後は58歳の時に障害状態が良くなって、障害厚生年金は3級に落ちました。
その後A美さんは61歳から以前加入していた10年分の厚生年金を受給する事が出来ましたが、障害厚生年金のほうが多かったため障害年金を受給していました。
更に3年後の64歳の時の診断書を提出した際に、3級より下の等級に下がってしまったので障害年金は全額停止してしまいました(障害厚生年金は3級までで、それより下に落ちると年金ストップ)。
3級にすら該当しなくなったので、全く障害年金を貰わなくなったという事ですね。
障害年金を貰わなくなったし、本格的にこれからは老齢の年金で暮らしていくしかないと考えた中で、繰下げ制度に目が留まりました。
年上のご主人が働いてる間は、A美さん自身の老齢年金を我慢してみようと思いました。
さて、A美さんは繰り下げを利用できるでしょうか?
まずA美さんは繰り下げは利用できない人です。
なぜならこのまま障害年金の受給権を65歳時点でも持ってるからです。あれ?でもA美さんはもう65歳時点では障害年金貰ってないじゃないか!と思われますよね。
確かに、障害年金は64歳時の状態良好の為に全額停止となりましたが、それ(年金が停止してるかどうか)とこれ(受給権を持ってるかどうか)は話が別です。
(メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2022年8月17日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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