MAG2 NEWS MENU

「核爆発」装置を自ら仕掛ける日本の愚。軍事力強化以前に再考すべき問題点

ひとたび戦争となれば、原発は最大の軍事リスクとなることを世界中に知らしめたウクライナ紛争。そんな状況にあって、8月24日の会議で原発新増設の姿勢を示した岸田首相に対して、各所から疑問の声が上がっています。その裏にはどのような事情があるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、岸田首相がエネルギー政策を大きく転換した背景に「原発死守シナリオ」があるとして、経産省と財界が描いてきた筋書きを紹介。その上で、再生可能エネルギー技術に対して後ろ向きな「原子力ムラ」を強く批判しています。

この記事の著者・新恭さんのメルマガ

初月無料で読む

 

原発の新増設へ政策を転換した岸田首相の不見識

ロシア軍に占拠されたウクライナのザポリージャ原発が危ない。

8月25日、砲撃が原因とみられる火災が起きて原子炉への送電線が遮断され、メルトダウン(炉心溶融)寸前に陥った。非常用のディーゼル発電機を使って難を逃れたが、同27日には、原発敷地内に砲撃が繰り返された。ウクライナ、ロシア双方とも敵軍の仕業と主張している。

万が一、メルトダウンが起こり、放射能が大量に漏れ出したら、ウクライナ、ロシアはもとよりヨーロッパ各地に甚大な被害が及ぶ。

福島第一原発の事故を経験した日本人は、原発の電源喪失がどんなに恐ろしいものかを他のどの国の人々より知っている。冷却装置が働かず、原子炉が空焚き状態になって核燃料が溶け、時間、空間をこえた放射能の無限リスクにつながる。

ロシア、中国、北朝鮮に隣接する日本の最大の軍事的脅威は、国内の原子力発電施設を標的にされる可能性があることだ。

にもかかわらず、岸田首相は8月24日、原発の新増設を想定しないとしてきた政府の方針を転換し、次世代原発の開発・建設を検討することを明らかにした。

既存原発についても、再稼働済み10基のほか、来年夏以降、柏崎刈羽原発6・7号機を含む7基の原発の再稼働をめざすという。

昨年10月に閣議決定した「エネルギー基本計画」では原発を「重要なベースロード電源」としながらも、「可能な限り依存度を低減する」としていた。

その方針と食い違う岸田首相の言明は、ロシアのウクライナ侵攻にともなうエネルギー価格の高騰や電力需給の逼迫を表向きの理由としているが、実のところは、経産省と財界の描いてきた“原発死守シナリオ”に沿って一歩を踏み出したと見るべきだろう。

原子力発電という発電システムが、とうに行き詰まっているシロモノであることを、岸田首相はしっかり認識しているのだろうか。

この記事の著者・新恭さんのメルマガ

初月無料で読む

 

いつまでも放射能を出し続ける使用済み核燃料。その処分方法はいまだに確立されていない。いずれ、科学技術の力で克服できると踏んで、とりあえずスタートさせたものの、最終的に地中深く埋めておく処分場が、候補地住民の反対でいっこうに見つからず、使用済み核燃料は各原子力発電所のプールに貯まり続けている。

その解決策である「核燃料サイクル」は、高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が決まったことで、頓挫した。使用済み核燃料の行き場がなくなれば、いずれ、原発の運転を止めざるを得ない。

そもそも、石油や原子力などを使った大規模発電所による集中的な電力システムは環境、コスト、安全保障、持続可能性からいっても、もはや古い仕組みになってしまっている。

だが、原発がいぜん巨大産業であることには変わりはない。原発があれば、電力会社、原子炉メーカー、ゼネコン、それらをめぐるあまたの取引企業が儲かる。国民からの電気料金を源泉とする豊富な資金は、広告料、研究開発費、政治資金としてマスコミ、学者、政治家に流れ、天下りルートの確保に余念のない経産省官僚とともに“原子力ムラ”と呼ばれる利益共同体を形成してきた。

その構図から生み出されたのが、「次世代原発(次世代革新炉)」という名の新たな幻想である。

「次世代原発」とは何か。既存原発の次の世代というと、国際的な理解では、使用済核燃料を排出しない「第四世代原発」になる。しかし、「第四世代原発」はまだ研究段階であり、21世紀中の実用化は困難とされている。

ゆえに、いまの時点で言う「次世代原発」は、小型原子炉(SMR)や高速炉などを指すと考えるのが妥当だが、それなら大いに疑問がある。

高速炉は「もんじゅ」の廃炉で実現が不可能に近いことがわかったにもかかわらず、「核燃料サイクル」神話を生かし続けるため研究・開発中の看板を下ろしていないだけである。

米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が出資する米テラパワーと米エネルギー省の高速炉開発計画に、日本の原子力機構などが参加することになっているが、ナトリウム漏れの事故を起こした「もんじゅ」のデータが頼りというから、これも甚だ心許ない。

小型原発についてはいくつもの取り組みがある。英ロールス・ロイスの小型加圧水型軽水炉、カナダのテレストリアル・エナジーの「溶融塩炉」などだ。

既存の大型原発と違い、工場で製造したモジュールを現地で組み立てる建設方法が可能らしいが、出力が30万キロワット程度しかなく、まだどこも事業化したことのない技術である。理論的には成り立っても、実際に建設し運転していない現段階で、経済合理性があるかどうかもわからない。

このほか「革新軽水炉」というのがあるが、これは既存原発の域を出ないので「次世代原発」とはいえないだろう。

いずれにせよ核のゴミの問題が解決できない以上、原発に将来があるとは思えない。

この記事の著者・新恭さんのメルマガ

初月無料で読む

 

実用化がきわめて怪しい「次世代原発」を岸田首相にぶち上げさせてまで経産省が原発にこだわる背景には、再生可能エネルギーに対する財界のネガティブな見方がある。以下はエネルギー基本計画に関する有識者会議で財界メンバーから出た意見だ。

「石油や石炭など化石燃料は将来的に枯渇する恐れがある。再生エネだけで代替することはできない」

「日本の再エネ技術は中国などに太刀打ちできない。むしろ原子力の技術をどうやって維持するかが大切だ」

将来性のある再エネ技術については早々と白旗を掲げ、いまや古い技術というほかない原子力発電の優位性にいつまでも依存したいというのだ。

地球温暖化防止のために、CO2を出さない原発が必要という論法も相変わらず幅を利かせているが、再生可能エネルギーが普及期に入った今では通用しなくなっている。

こんな発想が財界トップの間で罷り通る限り、この国の発展の芽は抑えられるばかりだ。

ウクライナの現状に視線を戻そう。ロシアがザボリージャ原発を占拠し軍事拠点にしたことから、原発が砲撃に見舞われた。その事実が示すのは、原発は国内に自ら仕掛けた核爆発装置にもなるということだ。日本列島にめぐらされた50基をこえる原発は、いったん戦争が起きると、いつ巻き込まれないとも限らない。

ロシアや中国などの脅威に対して、日本の軍事力強化を声高に叫ぶ人々が、えてして原発推進派であることは、きわめて奇妙なことである。

安全保障のうえでも、脱原発が必要なことは自明だ。国は、原発に費やす資金があるのなら、再エネの新技術開発に投じるべきである。

自然エネルギーは無尽蔵で、膨大にある。地産地消も可能だ。むろん、温室効果ガスも放射能も出さない。再エネでは中国に勝てないから原発が大事という“原子力ムラ”のお粗末な理屈は一刻も早くこの国から一掃すべきであろう。

この記事の著者・新恭さんのメルマガ

初月無料で読む

 

image by: 首相官邸

新恭(あらたきょう)この著者の記事一覧

記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 国家権力&メディア一刀両断 』

【著者】 新恭(あらたきょう) 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 木曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け