かつて、日本の厚生年金は「働いている間は支給されない」ものでした。しかし、貰えるようになった経緯と理由は何なのでしょうか? 今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座 』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、 日本の年金の変化について詳しく紹介しています。
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そもそも退職しなければ厚生年金は貰えない年金だったのに、貰えるようした歴史と在老計算事例
こんばんは!年金アドバイザーのhirokiです。
1.昔、老齢の年金受給権があるのに働いてる人にはそもそも年金は支払われなかった
働くと老齢の年金が停止されるという在職老齢年金制度があります。
年金でいう働くというのは単純に労働をしているという意味ではなく、「厚生年金加入中=在職中」という意味のほうが適切です。
なので厚生年金加入していない人は、老齢の年金が停止される事はありません。自営業や自由業などでいくら大儲けしても年金は停止されません。
ただし、在職中(厚生年金加入中)じゃないけど停止される場合はあります。
それは70歳以上の人ですね。
70歳以上の人は厚生年金に加入しませんが、厚生年金に加入できるほどの働き方をしている人は老齢の年金が停止されたりします。
本来は在職老齢年金は厚生年金加入中の人が年金停止される制度なので、70歳以上の人の老齢厚生年金を停止する事は原則から離れてはいます。
厚生年金加入してない70歳以上の人の年金を停止するというのは、所得制限に近い事をしているとも言えます。ちょっとした話ですが平成16年改正で厚生年金保険料を18.3%と決める時に、18.35%になってしまったので0.05%抑えるために70歳在老が導入された理由の一つであります。
さて、今までこの在職老齢年金は、自分の受給してる年金が働いたら停止されてしまうというものなので忌み嫌われていました。
せっかく働いて給料の収入を増やしたのに、年金を停止されたら何のために働いたのかわからない!という指摘ですね。
そういった感情は確かにもっともだと思います。
なぜ働いてる人の老齢の年金を停止して、支払わないみたいな事をしていたのか。
これは、老齢の年金の本来の性質によるものです。
年金は労働から完全に引退して、収入を失った人に支給して老後は年金で暮らしてくださいねというものでした。もちろん今もそうなんですが、今現在と違うのは老齢の年金は「退職した人」に支給されるものという性質がありました。
細かな違いかもしれませんが、「老齢年金」というのは「ある一定の支給開始年齢に到達したら年金を支給します」というものです。
ですが、「退職年金」は「退職したら年金を支払います」という違いがあります。
昔は、その…まず退職して引退してくださいねというのが厚生年金や共済年金を貰う条件だったのであります。
だから、何歳になっても働き続けてる人はいつまで経っても年金が支給される事はないという事ですね。
昭和61年3月31日までの厚生年金は加入は何歳までですというような制限は無かったので、いつまでも加入しようと思えば厚生年金にずーっと加入する事ができました。
加入する年齢の限度が設けられたのは昭和61年4月からです。この改正時から厚生年金は65歳までの加入ですよとなり、平成14年4月からは70歳まで加入が延長されました。
それはともかく、本来の老齢の年金は退職しなければ貰えないというのが、本来の老齢の年金でした。
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2.昭和40年から在職中の65歳以上の人に年金を支払うようになった
退職しないと年金は出しませんよという仕組みが変化した時がありました。
それは昭和40年改正からです。
65歳以降も在職してる人にはせめて8割の年金を支給しようという事になりました。在職中でも8割の年金を支給しようと。
これが在職老齢年金の始まりであります。
なぜ、在職中も年金を支給しようと考え方が変わったのか。
それは高齢になってから働く場合は賃金が大幅に下がってしまうからです。
高齢者雇用で引き続き働く場合は給料は一気にダウンするにもかかわらず、在職中だから年金は一切出ないというとさすがに生活が苦しくなりますよね。
そこで、貰ってる給料額によっては、いくらか年金を支給して生活の足しにしてもらったほうがいいと考えたのでしょう。
さて、在職老齢年金の始まり時はなんで65歳以上の人は8割支給かというと、厚生年金に2割の税金が入っていたので、税金除いた分を支給しようという事ですね。
65歳からそのように一部の年金が出るようになったから、「退職」しなくても年金が出るようになり、一定の年齢になれば年金が貰える「老齢年金」に性質が変化していきました。
なお、64歳までの人は在職中は年金は支払われませんでした。
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昭和44年以降になると、ちょっと仕組みが変わってきて、貰ってる給料(標準報酬月額)がいくらかによって受給できる年金額を決めるようになりました。
64歳までの人も貰ってる給料により、支給する在職老齢年金を決めるようになりました。
例えば給料が10万超える人には年金は払わないけど、10万円以下の人は2割くらいは支給しよう。
給料が5万円の人は5割くらい年金を支払おう…というように、給料もらってる額によって貰える年金額の割合を決めていました。
ただ、これには不公平な面がありました。
例えば10万円の人は年金支払わないけど、9万9,999円までの人は年金は2割支給するとしたら、たった1円の違いで0割か2割のどちらかになるような事が生じますよね。
それが平成6年改正まで続き、平成g年改正からは賃金(標準報酬月額)を2貰ったら、年金を1停止するというやり方に変更されていきました(平成16年改正後にちょっと修正されて現在のやり方になった)。
それが今現在の在職老齢年金の計算となっています。
つまり、在職中の年金の停止という仕組みがあるのは歴史的に言うと、
ア.老齢の年金というのは本来は退職した者への給付であり、在職中は支払いませんよというものだった。
イ.ただし、高齢者雇用では給料の大幅減額になる事が多く、貰ってる給料額によってはいくらか年金を支給したほうがいいという事になったから。
※ 参考
共済年金は昭和61年3月までは退職しなければ年金は出ませんでしたが、昭和61年4月以降は厚生年金と同じ在職老齢年金の仕組みを取り入れるようになりました(共済の在職老齢年金の始まり)。
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3.高齢者雇用を進めたかったから年金の停止は緩和していった
さて、在職老齢年金の停止が厳しいのは主に65歳未満の人でした。
65歳未満で在職中という人は、かなり多くの人が年金が一部または全額停止されており、実務上も毎日のように見かける事案でした。
平成6年改正辺りからは、国の考え方が60歳から65歳までは会社に継続して働きましょうというのが強化された時でもありました。平成6年改正で実際に支給開始年齢を60歳から65歳引き上げが決まったからですね…^^
各企業に60歳以上の雇用継続や定年廃止などを導入させるよう法律を変えていき、高齢者雇用を促進させるようになりました。
65歳までは頑張って働きましょう!と。とはいえ、高齢者雇用は給料がとても下がるので、在職老齢年金の計算で支給できる年金があれば、それも一緒に貰って生活の足しにしてくださいと。
あと、この頃に高年齢雇用継続給付という下がった給料の最大15%(平成15年以前は25%だった)の給付金も支給するようになりました。
65歳未満の人はできるだけ賃金で生活して欲しいとの願いから、年金停止基準も厳しめでありました。
逆に65歳以上の人は停止基準がかなり緩くなるので、65歳以上在職のほとんどの人は年金が停止されてる人は居ませんでした。
65歳からは国民年金からの老齢基礎年金の支払いも始まり、継続雇用も終わって本格的な年金生活に入る人がほとんどになるので、65歳からは年金中心の生活をしましょうと。
とはいえ年金中心の生活を始めつつも、そこそこ高所得者であれば年金の停止の対象としますという事で、65歳以上の在職老齢年金を「高在老」と呼ばれていました。
65歳以上で停止されてるとすれば、会社の社長さんとかお医者さんのような非常に高収入の人の場合が目立ったような印象があります。
あまりにも収入が高いので、年金が振り切って全額停止されてるケースが多かったですね^^;
そんな65歳からの停止は緩かったのですが、令和4年4月からの改正で65歳未満の人も65歳以上の人と変わらない停止基準となりました。
以前も言った事ではありますが、今の日本は高齢者雇用を促進して年金制度を支える側にできるだけ回ってほしいと思っています。
支え手に回ってほしいのに、働いたら年金停止されるというと働く意欲がなんとなく低下しますよね。
そこで、そんな足引っ張るような事は緩和して、65歳前の人の年金停止は65歳以上の人と変わらない基準となりました。
従来は給料(月換算した賞与含む)と月の老齢厚生年金額が28万円基準を超えてくると年金が停止されてましたが、その基準が65歳以上の人と同じ47万円となりました。
こうして65歳未満の人の年金を支給しやすくするという事は、年金財政にとっては負担が増加するという事になりますが、それを鑑みても高齢者雇用促進のほうがメリットが高いという事でしょう。
(メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2022年8月31日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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