年金の支給額が少ないというだけで生活保護の金額と比較し、生活保護をもらったほうがましだという声が出たりしている日本。今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座 』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、 その考えは危険であると解説をしています。
この記事の著者・hirokiさんのメルマガ
年金より生活保護を受給したほうがマシだという危険な考えと、バブル崩壊後の若者への残酷な社会
こんばんは!年金アドバイザーのhirokiです。
1.年金より生活保護貰ったほうが良いというのは本当なのか
ちょくちょく年金額と生活保護の額が比べられる事があります。
年金と生活保護費を比べて、年金は生活保護以下だと批判されたりします。
なので、年金貰うより生活保護を貰ったほうがマシだという声もあったりします。
金額だけを比べると生活保護のほうが高いケースがあります。
特に国民年金からの老齢基礎年金は満額でも65,000円ほどなので、生活保護貰ったほうがいいやん!っていう話が出たりします。
なので、年金に期待してないから将来は生活保護貰うわ…なんていう声もあるようです。
じゃあ将来は本当に生活保護を貰えば済む話なのでしょうか。
金額だけ見るとそう思われるかもしれませんね。
金額だけで比較して判断すると、とんでもない後悔をする羽目になるでしょう。
都会あたりだと調べてみると生活保護費は13万円くらいのようですが、特に国民年金のみの場合はそれより低いわけです。
年金が国民年金のみの人から見ると生活保護は羨ましいと見えたりもします。生活保護の人がトクしてるように見えます。
しかし、生活保護と年金を比較する事は適切ではありません。
まず生活保護を簡単に受給できるなどと安易に考えてしまうと非常に危険です。年金と生活保護には決定的な違いがあるからです。
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まず、年金は自分で保険料を支払って、将来に高齢になって働けなくなる場合に備えています。
毎月2万円近くの保険料を支払って(免除期間なども含む)、その期間が最低でも10年以上あれば、65歳から請求して受給する事が出来ます。
最低でも10年以上の年金受給資格期間があって、65歳になれば請求して年金受給となるわけですね。
今まで保険料を支払ってきたんだし、年金を貰うのは当然の権利ですよね。保険料払ってきて、支給開始年齢になれば請求して受給するだけ。
老齢の場合だけでなく、家族が亡くなった場合には遺族年金が保障されたりしますし、障害を負った人には障害年金を請求する事が出来ます。
これらは基本的に自分の力で年金の保険料を納めてきたから請求する権利があるわけなので、受給する人が負い目を持つ事はありませんし冷たい視線が飛ぶ事もないです(たまに、なぜか受給して申し訳ないと思う人もいらっしゃいますが…^^;。
よって、その人にどんなに他に資産があろうが、自分を助けてくれる扶養者が何人もいようが、年金貰いながら働いてさらに収入増やそうが年金を受給させませんなんて事はありません。
年金受給する際に、あなたには10億の資産があるから年金は受給させませんなんて事も言われません。資産がいくらあるどうかなんて調べられたりもしません。
これはまさに年金は資産の一つであるという認識であり、それに保険料を支払って自分で備えてきたからなのであります。
なお、厚生年金制度には在職老齢年金制度や失業給付時の年金停止などの一部の制限はありますが、所得制限ではないですけどそれに近いものではありますね。
他に、20歳前の障害で受給する障害基礎年金も年間所得400万円ほどあると所得制限により停止される事もあります。これは保険料を納めてこなかったとしても受給できる年金なので、こちらは所得制限がかかっています。
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2.その人の資産、家族状況、就労可能性を徹底的に調査される生活保護。なぜそこまでするのか
では生活保護はどうなのか。
生活保護は最低限の生活すら送る事が出来ない場合に、全額税金を使って保障します。
生活保護法の条文に「保護は生活の困窮する者が、その利用しうる資産、能力その他あらゆるものを最低限度の生活のために活用する事を要件として行われる」とあります。
つまり「困窮に既になってしまった人」を救う制度であります。
ちなみに社会保険制度の年金は、今は働いたりして収入には困ってないけど、いずれ来る老後やもしくは突然の障害や死亡で所得を得られなくなって貧困に陥る可能性がある場合に備えて、貧困にならないように「防貧」しようっていうのが年金です。
将来に貧困になるリスクに備えて年金という保険に入っているという事ですね。
特に日本は農業国から会社に雇用される働き方が高度経済成長以来に主流になっていき、働く期間のリミット(定年)が設けられました。定年以降働かなくなれば収入は途絶えるので、それに対する防貧の為にも年金を整備する事が必要だったのです。
ところで、ちょっと考えて欲しい事があります。
どうして国民の老後などを保障する時に、「税金」ではなくて「保険料」でやる事にしたのでしょうか。
みんなに税金で支払えば、みんな公平だし事務的にもわざわざ過去の保険料納付記録なんて管理する必要もなくて簡単です。支給開始年齢が来たら税金で支給すればいいだけの事。
税金というのはもちろん国民が所得税や住民税、法人税、消費税など様々なところで、自分の収入などから出す事になりますよね。
税金が無いと国の運営ができないので例えば消防車や救急車、警察の人が治安を守ったりしてくれるような事は出来ないので、世の中は治安の悪い恐ろしい世界になります。
税金が無い世界というのは怖い事ですが、世の中の人はやはり税金は自分の大切なお金からとられる忌々しいものだ…と思いがちです。
なので、僕らの税金を国は大切にしっかり役に立つ事に使ってくださいよとなりますよね。
もし国がわけのわからない事に予算使ったら多くの人々が、俺たちの血税をそんなくだらないモノに使うとはけしからん!って怒ります。そういう批判は常日頃あります。
税金の使い道というのは国民にとってはいつだってかなり気にする事であります。
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で、話を戻しますが、生活保護は全額が税金で支払いますよね。
生活に困窮してる人を国が税金を使って保護するわけですが、この時に国としては「納税者の気持ち」というものに配慮するわけです。つまり税金支払ってる人を慮る。
困窮に陥った人を救済しなければならない反面、国民から集めた大切な税金をウッカリそんなに救済が必要じゃなかった人に支給するわけにはいきません。
なので、この人は本当に生活保護が必要な人なのか?という事を調べるために、所有資産がどんなのがあるのか、預貯金はいくら持ってるのか、扶養してくれる親族は存在するのか、若いんだからまずは働くように促す…というように自分の身辺を調査されます。
車なんて基本的に所有できません。売って最低限の生活のためにお金にしろと促されます(場合にもよる)。
そんなに身ぐるみはがされるような事されて、調べ上げられてまさに自尊心が相当に傷つけられる事になります。
受給に至ったとしても、保護費は税金なので常に負い目を感じてしまう事にもなりますし、悲しい事に世間も生活保護に対してはあまりいいイメージを持っていません。
なんとなく自分を押し殺してしまうでしょう。
もう一つ、税金で保障されるという事は、「税金を負担している人達よりも良い暮らしをしてもらうわけにはいかない」という点も考慮され、どうしても歴史的に最低限の保障しかされないものでした。
そうすると現時点では普通に生活をしている人たちにとっては、「ああ…もし貧困に陥ったら好きな事もできないし、まさしく最低限の生活を送るしかないのだな」という貧困への不安や恐怖を拭い去る事は出来ませんでした。
もし貧困や生活不安が蔓延る世界になれば、国を治めている人たちの地位も脅かされる事になりました。
ちなみに日本のような資本主義国で、どうして社会保障を整備していったのかの根本を詰めると、貧困に陥った労働者や失業者を放っておくと革命が起こる危険性がありますよね。
俺たちをこんなに苦しめる政府は許さないから、革命を起こして政府を倒そうという人達が多くなる危険があります。
そのような人達の不満を抑えて解消するには、労働者を大切にする事が必要でした。
だから、社会保障や福利厚生を充実させていったのです。
まあ…東西冷戦が終わってソ連が崩壊すると、資本主義国がやりたい放題になってまた貧困に苦しむ人が増加し始めました。
冷戦後に新自由主義が主要になり、自己責任が当然の社会色が強くなっていきました。
沢山儲ける会社は生き残るけど、弱い人や会社は生き残れなくなって貧富の格差が広がっていきました。
貧困になってもそれは自己責任だよと。
しかしながら、この世界には人個人の力ではどうする事もできない事も多いわけで、自己責任です!って突っぱねる事が出来ない事も多いです。
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3.急増した非正規雇用と派遣による格差と貧困。しかし、若者への生活保護は厳しくなった
さて、この世の中は自分の力ではどうにもならない事が起きたりするので、最後の砦である生活保護に頼らざるを得ない人だっています。
コロナ禍であるので生活保護受給者もかなり増えたと思われます。
しかしながら若い人への給付は厳しい事が多く、割合としてはやはり高齢者や障害者の人へ生活保護が支給される事が多いです。
確かにまだ若いのであれば就労を促すのが自然ですし、福祉事務所としても生活保護申請を突っぱねる態度になるのだと思います。
ただ、若いからというだけで受給を難しくする事が本当に正しいのかとも思います。
現在の生活保護受給の窓口で申請者が排除されるような事が増え出したのは、日本の景気が悪くなり始めた頃です。
概ね昭和48年の石油ショック後に国の赤字が増え出したため、その赤字を減らそうと無駄を削減するように行政改革し始めた1981(昭和56)年あたりですね。
この辺りから生活保護受給者を窓口で食い止めるような作戦が増加して、生活保護利用者が減少していったとされています。
とはいえその排除の対象者は主にまだ働くには支障がない若い人であり、そういう人達に「職を探せばどこでもあるんだから」って諭す事で、じゃあ職探しを頑張るかって気持ちに促していったようです。
それ以来、まだ若いという事で説得されて生活保護受給には至らない事が増加していきました。
まあ、当時はまだ昭和の時代ですし、昭和61年から平成3年までの57ヶ月続いたバブルの好景気があったので何としてでも職を探そうと思えばいくらでも職はあったのです。
生活保護を受けられなくても、やっぱり頑張って職を探そうと思えば職にありつけたわけですね。
しかしながら、日本はバブル崩壊後は未曽有の不景気となりました。
景気が急激に悪くなってしまったので、働く人の中で非正規雇用者の割合が急増していきました。
なぜかというと、不景気だから会社としては人件費の安い非正規雇用者を雇ったほうが経費が安く済むからです。
給料やボーナスを払わないといけない正社員の数を減らして、非正規雇用者を雇うようになっていきました。
円高も進んだし、海外で安い労働者を雇って利潤を最大化する動きも加速しました。
外国で工場作って現地の人を雇うなら、日本人の雇用が少なくなっていきますよね。
そのような産業の空洞化も問題になりました。
そうなるとどうなるのかというと、正社員と非正規社員との給料の格差問題が出てきました。貧困の問題も深刻になっていきました。
非正規雇用であるがゆえに、十分な給料が貰えずに生活するのがやっとであるという人が増えていきました。
更に彼らは厚生年金にも加入できない場合が多いので、将来は年金でも正社員だった人との差が開いてしまって年金格差が生じてしまいます。
(メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2022年9月7日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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