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本質的な部分が欠落した自民“統一教会チェック”が信頼度ゼロな理由

9月に入って行われた世論調査でも、支持率の低下が際立つばかりの岸田政権。有権者からの信頼失墜は、旧統一教会との不適切な関係と安倍元首相の国葬に起因することは明らかなのですが、なぜ岸田首相は適切な対応策を見出すことができないのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、自民党の「統一教会自己点検」が信用に値しない理由を記すとともに、首相が閉会中審査で説明を試みるも、明確な根拠を示すことができなかった国葬の強行を疑問視。さらに岸田首相の信念のなさを批判した上で、自民党が国民の信頼を取り戻すため何に取り組むべきかを提示しています。

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統一教会と国葬で対応力不足が露呈。岸田政権は窮地に

統一教会(現・世界平和統一家庭連合)と自民党、とりわけ清和会(安倍派)との密接な関係が世間に知れ渡るにつれて、安倍晋三元首相の国葬への反対の声が高まり、それを強行しようとする岸田政権の支持率が落ちてきた。

さぞかし、岸田首相は後悔しているに違いない。今から思えば、なにも国葬にする必要はなかった、中曽根元首相や大平元首相らもそうだったように、内閣と自民党の合同葬でなんら不都合はなかった、と。

統一教会をめぐる轟々たる批判はおさまる気配がない。しかし国葬の期日は9月27日に迫る。あろうことか、国をあげて死を悼むその人物こそ、組織票を差配できるほどに統一教会と関係が深かったのだ。国葬は故人を神格化する、弔意の強制だ、国会の審議を経ずに大枚の税金を使うのか…などと声が上がり、反対運動も日増しに高まっている。

砲弾を浴びて非業の死を遂げた元総理への哀切の情が国中に満ちていた頃、岸田首相はいち早く国葬を閣議決定した。「何もしないから支持率が高い」と揶揄されるのに耐え忍んできた男が「決断力」をアピールできると信じて打った策だったが、裏目に出た。

閣議決定した以上、今さら変更しようものならメンツは丸潰れとなるだろうし、統一教会問題がからんで、にっちもさっちも行かない状況に岸田首相は追い込まれている。

自民党がこれといった対策を打ち出せないなか、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党は早々と統一教会との接点について調査をすませ、自民党の出方をうかがう作戦に出ていた。

外堀を埋められた形の自民党が、苦し紛れに実施したのが「調査」ではなく「あくまで議員個人による“自主的な点検”」(茂木幹事長)だった。組織的な関係はないと言い張ってきた手前、個人責任を強調したいがための自己申告だろうが、党が責任を持たない調査にどれほどの信用度があるというのか。

党所属国会議員379人が祝電・メッセージ送付など、統一教会との接点に関する8項目について回答した。179人に会合出席や会費支出など何らかの接点があることがわかり、選挙で支援を受けた19人を含む121人の氏名が公表された。

だが、教団から秘書の派遣を受けたのかどうか、教団側に便宜をはかったかどうかが調査項目にないのが、まずは不十分。会合に出席したり祝電を送った多くの議員が「旧統一教会や関連団体との認識がなかった」と書いて済ませており、簡単に言い逃れを許している。予想通り、実態解明にはほど遠い内容だった。

そもそも自己申告である。ウソの記入をして後でメディアにバレるのを恐れる人もいれば、あくまで隠し通そうとする人もいるだろう。

公表されたリストに名前が載っていない山谷えり子参院議員はジェンダーフリーの排撃で統一教会と“共闘”していた疑惑が、ジャーナリスト、鈴木エイト氏の入手した教団内部資料によって浮上している。山谷氏についてはかねてから統一教会との関係が報じられていたが、これまで一貫して否定している。

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今回の「点検」で、安倍元首相と細田博之衆院議長は対象から外された。それが、この点検報告の信頼性を著しく損ねている。自民党と統一教会の関係の本質的な部分が欠落しているからだ。

どこに問題の根源があるのかを究明するための調査でなければ、ほとんど意味はない。安倍氏は亡くなっているから調べようがないというが、そんなことはない。秘書や事務所スタッフがいる。資料も残っている。

統一教会が清和会の支援団体とみられてきたことは、知る人ぞ知る事実である。そして、教会票を誰に割り振るか差配していたのが安倍氏だったことも、伊達忠一元参院議長の発言で明らかになっている。

自民党は統一教会について、どのような団体だと考えているのか。今まで一度も見解を示したことがない。「社会的に問題が指摘される団体」と言うばかりだ。

自分たちが問題だと思うのではない。社会的に指摘されるから、「関係を持たないという党の基本方針を徹底してもらう」(9月8日岸田首相答弁)と、なんとも受動的な姿勢なのだ。

本来なら、「関係を持たない」と決めた根拠を明らかにすべきだ。統一教会がどんな団体だと認識しているのかを、はっきりさせなくてはならない。たとえばこのように。

人の恐怖心を煽り、高額な献金や物品購入によって救われると言って、日本の国民から巨額のカネを奪い取り韓国の本部に送金してきた教会に対し、我が党は何ら問題視しないどころか、選挙活動などを通じて協力関係を続けてきた。教会は議員を広告塔として利用し、信者のなかには自己破産、家庭崩壊にいたる人々が続出、社会不安を招いている。こうした事実を真摯に認め、反省するとともに、今後、教会との関係を完全に断ち切ることを約束する。

真っ向から統一教会を批判し、自己反省するとともに完全なる決別を宣言したのが上記である。せめてこれなら、明確な意思表示となる。

ところが、そうはいかないのが自民党だ。点検結果が公表された9月8日の記者会見で、「社会的に問題があると指摘される団体とは」と問われた茂木幹事長は、こう答えている。

「社会的問題であるかどうかについては、被害の実態等に照らして判断をされるものだと、そのように思っております。その上で、悪質な寄付の勧誘などで被害に遭われた方がいらっしゃる。こういう事実関係も踏まえて、社会的な問題が指摘されている団体については関係を持たないというふうに説明をされていると理解しております」

なにを言っているのかよくわからない。根拠があやふやなままだから、仕方なく決別宣言したようにしか見えないのだ。むしろ、「これからは関係を持ちません」と言うことで、過去を水に流そうとする意図さえ感じられる。

安倍元首相の国葬にしても、根拠が明確ではない。岸田首相は説明不足を問われ、「丁寧に説明する」と、9月8日、衆参両院の議運閉会中審査にのぞんだが、その中身は従来と寸分も変わらなかった。

「憲政133年の歴史の中でもっとも長い政権を担い、外交に大きな実績があった。海外からの弔意は日本国民にも向けられている…」

後付けの理屈をいくつ並べても説得力はない。巨額の税金を注ぎ込むというのに、国会の議論を経ず、内閣府設置法を無理やり根拠法として拙速に決めてしまったのが本当のところだ。

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ではなぜ、はやまったのか。二つの相異なる報道がある。一つは、麻生太郎主導説。

9月6日の「FLASH」は、無派閥の自民党議員の以下のような発言を伝えた。

「安倍さんが亡くなった直後は、内閣と自民党の合同葬を開く方向で話が進んでいました。それを巻き戻したのが麻生太郎副総裁で、“保守派が騒ぎだすから”と、岸田さんに3回も電話をしたそうです。最後は『これは理屈じゃねんだよ』と、強い口調だったといいます。国葬実施の方針が決まったのは、7月14日の会見の1時間前でした」

もう一つは、以下の岸田首相即決説だ。

「国葬は麻生さんが言いだしたことだと一部メディアが書いているが、そうじゃない。安倍元首相が亡くなったと聞いたその瞬間、俺が、国葬と決めた。…浅慮だった」岸田首相は、議員仲間や新聞記者に対し、はっきりそう言った。(9月10日FRIDAY)

麻生氏がうるさく言うから渋々ながら国葬にしたのか、そうではなくて、岸田首相が真っ先に決めたのか。情報をリークした人物の意図はともかく、前者なら、岸田首相の“聞く力”とやらが裏目に出たということになろうし、後者だと、岸田首相の軽薄さが浮き彫りにされる。

いずれにせよ、岸田首相に信念がないことは明らかだ。国民の信用をとり戻すには、統一教会に対して断固とした姿勢を示し、深い関係を続けてきた自民党所属議員に離党を促して、教会依存から脱却すべきである。

それで初めて「今後、旧統一教会及び関連団体とは一切関係を持たない」という党の方針が信ぴょう性を帯びるだろう。

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image by: 首相官邸

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