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なぜ、日本の国民年金は専業主婦までも強制加入になったのか?

現在は国民全員が強制加入となっている国民年金ですが、その切り替えの時期にはさまざまな問題が出たようです。今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座 』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、 国民年金の歴史と現在に至るまでの問題について紹介しています。

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過去に届出忘れが頻発した第三号被保険者期間の原因と、年金記録訂正による増額

こんばんは!年金アドバイザーのhirokiです。

1.昭和61年4月からサラリーマンの専業主婦が国民年金に強制加入した

よく年金記録を見る時に国民年金第3号被保険者期間という記録があります。このメルマガを長い事お読みくださっている読者様には随分おなじみだと思います。

保険料を払わなくても基礎年金額に反映されるので、世間でもよく話題になる事が多いものでした。

なので、年金保険料を支払わなくても、将来の年金に反映するとは何事だ!不公平だ!っていう批判がよくありました。今も昔ほどではないですが、時々そのような批判はあります。

さて、その第3号被保険者制度はいつから始まったのかというと、令和4年時点から見て36年前の昭和61年4月1日から始まりました。その前の昭和61年3月31日までは国民年金第3号被保険者制度は存在しませんでした。

ちなみに、昭和61年3月31日までは「基礎年金」なんていう概念はまだ存在していなかったですし、国民年金第何号被保険者みたいな用語はありませんでした。

昭和61年3月までの年金制度は、国民年金に加入してる人は国民年金の被保険者であり、将来は国民年金を65歳から貰うというものでした。

厚生年金は厚生年金の被保険者であり、厚生年金を60歳から受給するのが一般的でした。まあ、共済も同じですね。

なお、厚生年金や共済に加入してる人に扶養されている人は、国民年金に加入させてないのが一般的でした。

厚生年金というのは世帯単位で面倒を見る年金だったので、将来は夫が厚生年金を貰う時に妻の生活費も計算に入れて支給されていたのです。

だから、わざわざ専業主婦を国民年金に加入させるという事は強制にはしませんでした。

妻は夫の厚生年金で保障されるのに、その妻に国民年金に加入させて妻の年金保障をするという状況になってしまうからですね…。

このように厚年、共済、国年などの主要な年金制度は独立した別々のものであるという感じがよく出ていました。

しかし、昭和61年4月になると、すべての人を国民年金の被保険者として扱う事にしました。

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国民年金に加入して定額の国民年金保険料を納めている人は国民年金第1号被保険者として、厚年や共済に加入している人は国民年金の第2号被保険者となりました。

2号被保険者に扶養されている専業主婦は国民年金第3号被保険者として、正式に専業主婦の人も強制加入となりました。

サラリーマンの専業主婦はそれまでは何も加入してなかったのに、強制となったわけです。

強制の加入にした事で、専業主婦は将来は自分の名義で年金を受給する事が出来るようになりました。

従来であれば、夫の厚生年金が妻の生活費をひっくるめて、夫の口座に全ての年金が振り込まれるような流れだったのに、妻にも将来は妻自身の年金が振り込まれる形となったのです。

なぜ専業主婦も強制加入にする必要があったのかというと、万が一に妻の生活が夫と離婚した場合に即座に貧困に陥る事になるからです。

更に、年金に加入してない時に障害を負っても、障害年金が請求できないという欠陥がありました。

よって、専業主婦の年金を確実なものとする改正だったので、女子の年金が確立された!という事で、非常に評価された改正でした。

しかしながらこの制度は、年金保険料を支払わなくても将来は年金が貰えるらしい…という話が広まり、それは不公平だという声が強くなっていきました。

特に夫婦共働き世帯からの批判が噴出し、専業主婦世帯への風当たりが強くなりました。「私は働いてるのに、働いてない人が将来年金を貰えるなんておかしい!」と。

とはいえ世帯収入が同じであるならば、貰える年金は同じであるので不公平にはなっていません。

例えば、専業主婦世帯で夫のみで40万稼ぐ世帯と、夫婦共働き世帯で夫と妻がそれぞれ20万円ずつの場合は、世帯が負担する保険料も受給する年金も同額になります。

世帯収入が同じになるなら同じ保険料負担で同じ受給額なのに、個別に国民年金第3号被保険者に年金保険料を支払わせるわけにはいきませんでした。

年金制度の設計には年金数理人という数学のエリートが携わりますが、制度自体は合理的なのでどのように制度を変えていいのかの案は出なかったため、結局は厚生年金加入を増加させるという流れで国民子金第3号被保険者を縮小していこうとしています。

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2.国民年金第三号被保険者制度が始まったが、手続きをしてない人が多かった

さて、昭和61年4月からそれまで国民年金に加入していなかった専業主婦も強制加入として、国民年金第3号被保険者となったわけですが、もちろん届け出をしてもらわないといけません。

なぜかというと年収見込みが130万円未満というラインがあるからです(昭和61年3月までの強制加入させてなかった時は年収要件などはありませんでした)。それに該当するなら自分で届け出てくださいねという事ですね。

ちなみに現在の常識としては、国民年金第3号被保険者の届け出は厚生年金加入者である国民年金第2号被保険者の会社経由で届け出ます。しかし、平成14年3月までは会社経由ではありませんでした。国民年金第3号の届け出は自分自身で市町村に届け出てくださいねという状況だったんですね。

自分でやってくださいとするとどうでしょうか?

何百万、何千万人という人が年金に関わるわけですから、誰かがそういう届け出を忘れてしまいそうですよね。特に第3号被保険者の人は1,000万人規模だったからですね(現在は800万人程に減った)。

届け出を忘れるという事は、その年金記録は第3号被保険者期間ではなく、未納や未加入などの何も年金にならない期間となってしまうという事です。そうなれば年金は少なくなりますよね。

自分でやらなければならなかった過去は、そのような届け出漏れが頻発しました。

年金被保険者の時効には2年の時効があり、届け出が2年を超える前の記録となってしまうと遡って国民年金第3号被保険者にする事が出来ないという事が起きました。

届け出ていなかった人が一定数存在していたので、平成7年から平成9年までの間に特例として過去の未届け期間(2年の時効は関係なく)を第3号被保険者にしますよ!という特例を設けました。過去に届け出忘れてた人は届け出てくださいねと。

まあ、それでもすべての人が届け出てくれたわけではなく、未届けのまま年金に反映しない人が残りました。

よって、平成17年4月からは第3号届け出の救済措置が取られて、過去に届け出てなかった期間は第3号被保険者にしますよという事になりました。

なので、もし今現在も過去の届け出を忘れてたかも…という人は届け出て、年金額を増やせる場合があります。いくつかの不利な面はありますが、今回はその点などを踏まえて事例を考えてみましょう。

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3.退職後に国民年金第3号被保険者の届け出を忘れた

〇 昭和34年9月4日生まれのA子さん(今は63歳)

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20歳になる昭和54年9月から昭和58年5月までの45ヶ月間は国民年金未納。

昭和58年6月に公務員の男性と婚姻し、国民年金保険料を納める義務は無くなりましたが、加入したければ加入してもいいという任意加入となりました(任意加入しなかったためカラ期間となる)。

昭和59年5月までの12ヶ月間はカラ期間とします。

昭和59年6月から就職し、平成10年3月までの166ヶ月間は厚生年金に加入します。
この間の平均標準報酬月額は22万円とします。

公務員の配偶者でしたが、A子さん自身も厚生年金に加入していたので、専業主婦の場合のように年金に加入しなくてもいいというわけにはいきません。

この厚生年金加入中にA子さんは平成8年2月に第1子を妊娠が判明してその後出産し、平成8年8月から平成9年7月までの間は育児休業を取得。

ちなみに「平成7年4月」からは育児休業期間中の厚生年金保険料は免除される制度が創設されたので、育児休業期間中は保険料は免除となりました。

厚生年金保険料は折半して支払っていますが、会社の方は厚生年金保険料を支払う必要がありました(平成12年4月改正からは会社も保険料免除となる)。

ただし、この厚年免除期間は保険料を支払ったものとして老齢厚生年金にちゃんと反映されます。

自己都合退職して平成10年4月からはまた専業主婦になる予定でしたが、平成10年4月中にハローワークに行って失業手当の申請を行いました。

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※ 失業手当情報

自己都合退職の10年以上~20年未満の雇用保険加入期間がある人は120日受給。

給付額は退職前の6ヶ月間の給与総額を180日で割ったものが(つまり日額に直す事ですね^^)、22万円×6ヶ月÷180=7,333円

・給付日額は7,333円×80%(給与水準にもよりますが60歳未満は80%で計算してます)=5,866円(失業手当日額)

日額が5,866円なので、365日貰うと仮定すると214万円ほどになります。

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申請の翌月である平成10年5月から7月までの3ヶ月間は失業手当の給付制限期間であり(令和4年現在は2ヶ月制限に緩和されている)、8月から11月までの4ヶ月間は失業手当を受給しました。

さて、平成10年4月から失業者ですが、年金被保険者としてはどうなのか。退職したので国民年金の定額保険料を自ら支払わないといけないですよね(令和4年度保険料は16,590円)。

ただし、公務員の男性の配偶者であり、年間収入見込みが130万円未満なので国民年金第3号被保険者になる余地がありましたが、その届け出は市町村にする必要があったにもかかわらずその事は届け出ませんでした。

そのため平成10年4月から平成18年3月までの96ヶ月間は未納期間となりましたが、平成18年4月に夫の共済組合に届け出。

平成18年4月に夫の勤める共済組合経由で国民年金第3号被保険者を届け出る。

届け出た時点から、直近2年1ヶ月以内の期間は遡って平成16年3月以降は3号被保険者期間にしてもらいました。

よって、平成16年3月以降の60歳前月の令和元年8月までの186ヶ月間は3号被保険者期間になれたとします。

つまり、平成10年4月から平成16年2月までの71ヶ月は未納、平成16年3月から令和元年8月までの186ヶ月は3号期間という事ですね(平成17年4月からの3号特例の存在は知らなかったものとします)。

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4.65歳からの年金計算

計算に入る前に、先に現時点の記録を整理します。

1.国民年金保険料未納→45ヶ月+71ヶ月=116ヶ月
2.カラ期間→12ヶ月
3.国民年金第3号被保険者期間→186ヶ月
4.厚年期間→166ヶ月

年金受給資格期間は厚年166ヶ月+カラ12ヶ月+3号期間186ヶ月=364ヶ月≧10年なので問題なし。

65歳前の計算は割愛して、65歳以降(令和6年9月受給権発生)の年金を計算します。

・老齢基礎年金→777,800円÷480ヶ月×(166ヶ月+186ヶ月)=570,386円

・夫の加給年金から振り替えられた振替加算→26,856円

・老齢厚生年金→22万円×5.481÷1,000×166ヶ月=200,166円

年金総額は797,408円(これがA子さんの収入のすべてとし、住民税非課税世帯とします)。

あと、前年の所得が781,200円(令和4年10月から778,700円)以下であれば、年金生活者支援給付金が支給されますが、一般的な給付金は支払われません。

ただし、前年所得が781,200円を超え881,200円以下の人は補足的な給付金が支給される。

・補足的年金生活者支援給付金に使う率→(881,200円-公的年金等の収入と前年所得の合計797,408円)÷(881,200円-781,200円)=0.840(3位未満四捨五入)

・補足的年金生活者給付金→5,020円(令和4年基準月額)÷480ヶ月×(166ヶ月+186ヶ月)×0.84=3,092円(年間37,104円)

よって、令和4年現在の年金総額は797,408円+補足的年金生活者支援給付金37,104円=834,512円(給付金と年金は別々に支給されます)

5.過去の国民年金第3号被保険者を届け出忘れた期間分を年金に反映した

さて、平成10年4月以降は失業し、平成16年2月までが未納となってますよね。

しかし、この間は公務員の夫がおり、国民年金第3号被保険者になれる可能性がありました。

実際はこの間は失業状態であり、収入と言えば平成10年8月から11月までの間に失業手当を貰っただけでした。

当時の未納期間を国民年金第3号被保険者期間にしてもらえないのか?

(メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2022年9月14日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【月額】 ¥770/月(税込) 初月有料 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

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