世界の株式や商品相場が急落しています。アメリカではS&P500が約2年ぶりとなる安値を更新、NYダウも年初来安値をつけるなどリスク回避の動きが鮮明に。28日の日経平均株価終値は前日比397円89銭安の2万6173円98銭となり、取引時間中には一時、節目の2万6000円を割り込む場面も見られました。
メルマガ『マンさんの経済あらかると』の著者でエコノミストの斎藤満氏は、今回の株価急落の原因として、「2期目を目指すバイデン大統領の選挙戦略」を指摘。バイデンはなぜ今、意図的な株価暴落を起こす必要があるのかについて、当面の見通しとあわせて解説しています。
逃げるが勝ち? 下げ相場はこれからが本番
米国株式市場が高値から概ね2割下げ、ベアマーケット入りし、連休明けの東京市場も大きく下げるなど、市場が一段と不安定になりました。
本日28日は3月決算企業の権利確定最終日です。今後の株式市場環境を考えて、「押し目」を拾うのか、傷が大きくならないうちに逃げるか、いずれにしても、投資戦略を練るには重要な時期になりました。
岸田総理はニューヨーク証券取引所で講演し、日本市場への投資を呼びかけました。政府が「新しい資本主義」実現のために、期限のあるNISA(少額投資非課税制度)の恒久化、拡充の可能性を示し、誘いました。
しかし円安もあって、ドルペースの日本株が長期低落傾向にある中で、海外の投資家を日本に呼び込むには、とても力不足です。むしろ、米欧の異例の金融引き締めのなかで、日本の株式市場にも嵐が吹いています。
特に市場が期待する「パウエル・プット」(※後述)が裏切られたように、市場の思惑とFRBとの間に、金融政策に対する大きな認識ギャップがあります。中でも、バイデン政権の意向を受けたインフレ抑止姿勢の強さを、市場は思い知らされました。単にインフレに対する意識だけではありません。その政治的背景を理解する必要があります。
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「ソフトランディングでは間に合わぬ」バイデンの皮算用
金融市場には長年培われた認識が根強くありました。それは「グリーンスパン・プット」、「バーナンキ・プット」と呼ばれるもので、金融市場がピンチの際には、FRBが何とか助けてくれる、という信頼感ともいえます。
この裏には、FRBが民間株式会社で、大株主が欧米の国際金融資本という事情があります。FRBが市場に不利になるようなことはしない、と信じています。
ところが今回はFRBが「市場への配慮」より「インフレ抑制」への強い姿勢を見せたことで、市場には大きな動揺が起きています。この動揺はしばらく収まりそうもありません。
その原因の1つが、バイデン政権の再選戦略にあります。2期目を目指すバイデン政権にとっては、インフレも問題ですが、同時にインフレ抑止のための引き締めが、次の選挙戦に逆風になるのを恐れています。
具体的には、金融引き締めで景気後退になるなら、なるべく早く突入し、早く脱して24年の大統領選挙の時は、現職に有利な金融緩和、景気好調の環境にしたいはずです。
今ソフトランディングを意識して緩やかな引き締めにした場合、その効果出現に時間がかかり、インフレの長期化、次期大統領選時の経済悪化を招きかねません。
FRBは経済を犠牲にしてでもインフレ抑制が優先されると言います。バイデン政権の支持率低下にインフレが大きくかかわっているだけでなく、24年の大統領選を考えた経済誘導を考えて、急激な引き締めで早めの「あく抜け」を図りたいはずで、FRBもこれに協力している面があります。
これが市場の予想を上回る大幅利上げの背景にあり、市場の負担になります。
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株価暴落は、対中国・ロシア戦略の「切り札」
もう1つの政治的狙いとして、敵対する中国、ロシアへの経済戦略カードとして金融引き締めを利用している面があります。
引き締めは米国にも負担ですが、それ以上にロシア、中国への打撃が大きければ、武器としての経済戦略カードになります。CFR(外交問題評議会)系のバイデン大統領は、軍事力で直接ロシア、中国を叩くことは避けようとしています。
その分、経済戦略を介して、ロシア、中国の経済力を落とし、軍事力に資源を回す余裕をなくそうとしています。
FRBの引き締めがロシア・中国に大ダメージを与える理由
ウクライナ戦略でも、米国は直接手を下さず、武器弾薬の供給、経済支援でウクライナを側面支援する一方で、ロシアには経済制裁を科し、「兵糧攻め」でロシアの経済力低下、戦闘力の低下を狙っています。
中国が台湾に侵攻しても、恐らく同様に米国は直接手を下さずに、台湾を後方支援する傍ら、中国には対ロシア以上に強力な経済制裁をかけ、その前に中国経済の弱体化を進める段取りと見られます。
その一環として、FRBが利用され、今日の急激な利上げ、量的引き締めが、米国のみならず、ロシア、中国経済にも大きな負担となるのを読んでいるはずです。
ロシアの対外債務はさほど大きくありませんが、それでもドル高、ドル金利高は返済負担を高めます。また兵糧攻めで経済が疲弊してくると、海外からの資金調達も必要になり、その時にはドル高、ドル金利高は負担になります。
中国はさらに大きな影響を受けます。不動産業界はすでに債務問題が危機的な状況にあり、デフォルト事案が増えています。住宅バブルが崩壊しかねないぎりぎりの状況にあります。
経済不調で金融緩和を進めていますが、米国の急激な引き締めがこれを阻害しています。すでに人民元が1ドル7.16元まで下落しましたが、それだけ中国から資金が流出していることを示しています。
つまり、中国では当局が金融緩和をしても、実態的には資金流出で量的引き締めが進んでいます。これが中国の想定外の低成長につながっている面があります。
そして中国が台湾に侵攻すれば、中国が米国に置いてある資産が凍結され、中国の銀行がドル決済システムから排除され、金融が窒息する懸念を理解しています。
FRBの引き締めは、その前段としての中国攻撃カードとなっていることを理解する必要があります。
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孤立する黒田日銀。日本への影響は?
市場の利益よりもバイデン政権の利益を重視して動くFRBの行動は、市場には理解しがたい面があり、債券、株ともに「失望売り」が生じやすくなっています。
その中で特異な存在となっているのが黒田日銀です。日銀の大規模緩和はFRB、ECBの引き締めを緩和する効果があり、中でも中国、ロシアも含めた新興国にとって救済となります。
黒田日銀総裁の背後には民間の非公式団体「G30」の存在があり、国際金融資本と深くつながっています。米国がこの金融資本主導で動いていた時は問題なかったのですが、現在のバイデン政権はネオコンや国際金融資本とは一線を画すCFR系の勢力が力を持っています。
このため、「従来の米国」を想定して動いていた安倍派、清和会がバイデン政権に排除され、日銀も冷ややかに見られています。「G30」の支援に支えられる黒田総裁と、CFRのバイデン政権の溝は深まっているように見えます。
G30グループがCFRに抑えられるようになると、黒田総裁の立場も苦しくなります。今回の為替介入を機に、米国の長期金利が大きく上昇しただけに、米国財務省と黒田総裁の関係が悪化しなければ良いのですが。
日本の株式市場は日銀の緩和に支えられている面がありますが、米国当局の強い引き締め意向と黒田日銀の立場の不安定さを考えれば、株式市場の環境は決して良くありません。
米国が来年景気後退に陥るリスクか高まっているだけに、米国株式市場の底入れはまだ先となり、日本にもその間は冷却効果が及ぶと予想されます。しばらくは「逃げるが勝ち」かもしれません。
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