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元信者が解説、統一教会と「関連団体」はどのような関係にあるのか

旧統一教会と自民党議員との不適切な関係を巡る報道の中で、たびたび登場する「関連団体」という存在。保守派論客や議員が頻繁に紙面に登場していた世界日報や、萩生田光一氏が参院選挙期間中に生稲晃子氏を伴い訪れた世界平和女性連合など数え上げれば切りがありませんが、彼らと旧統一教会はどのような関係にあるのでしょうか。かつて世界日報に身を置いていた金沢大学法学類教授の仲正昌樹さんが今回、統一教会と関連団体、そして関連団体同士の単純ではない関係性を解説しています。

プロフィール仲正昌樹なかまさまさき
金沢大学法学類教授。1963年広島県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修了(学術博士)。専門は政治・法思想史、ドイツ思想史、ドイツ文学。著者に『今こそアーレントを読み直す』(講談社)『集中講義!日本の現代思想』(NHK出版)『カール・シュミット入門講義』(作品社)など。

統一教会と関連団体はどういう関係なのか?

旧統一教会が、自民党の何人かの議員と「政策協定」を結んで、契約書を交わしていたとされる問題で、勅使河原改革本部長は、それは、関連団体であるUPF(=天宙平和連合)、ないしは世界平和連合との協定であって、教団としては関与していないと答えた。旧統一教会問題、特に政治との関係で、多くの「関連団体」が登場するが、これらと教団本体はどういう関係なのか、と思っていると人もいるだろう。特に、天宙平和連合や世界平和連合は、世界平和統一家庭連合と名前が似ているし、報道でも“同じ団体”扱いされることもあるので、元統一教会信者である私でさえ時々錯覚する――私が信者であった当時は、宗教法人名を変えていなかったし、天宙平和連合、世界平和連合はまだなかった、ということもある。

そこで、あくまで30年前の私の経験に基づく話だが、これらの旧統一教会とこれらの関連団体がどういう関係にあるのか説明しておきたい。前回のMAG2NEWSの記事でも述べたように、私は統一教会系の学生団体である全国大学連合原理研究会(全大原研、英語名CARP)を経由して入信し、9年後に世界日報の社員になった。いずれの組織も積極的に活動しているメンバーのほとんどは、統一教会の信者だが、100%というわけではない。

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CARPは表向きは学内サークルということになっているし、教義、あるいは、それを哲学や政治思想に応用した統一思想、勝共理論を聴いているだけで、統一教会の教えを受け入れていない人は信者ではない。2Days、7Days、21Days等の修練会に参加して、教義を受け入れる、つまり文鮮明教祖を再臨のメシアとして受け入れて、その教えに従って生きると誓ったメンバーは、ホームと呼ばれるところで集団生活する。CARPの場合、その大学に近い住宅街の、本来の4~5人の家族向きの大き目の家を借りて、2~30人くらいで住んでいることが多い。

内部的には、この入教生活を送っているメンバーが狭義の原(理)研であり、かつ食口(信者)である。このメンバーは、入教してから何年か経つと、面接などを経て、祝福(≒合同結婚式への参加)の候補者としてリストアップされる。私の入信していた時の“常識”からすると、教祖夫妻をメシアとして受け入れて生きることを誓い、祝福を受けることを少なくとも願っているのが食口=信者である。その意味で、最近の報道で“信者”扱いされている議員たちは、全然信者ではない。関連のフロント団体を通じてお付き合いしている“お得意様”にすぎない。

統一教会本体との関係は少々複雑。CARPの実態

CARPと統一教会本体の関係は少し複雑である。今はどうなっているか分からないが、私がいた頃は、CARPとは別に統一教会学生部というのがあった。それぞれ別個に活動していたので、同じ学生を取り合うことがある。また、花、お茶とか珍味などを訪問販売で売る万物復帰(※)という活動も、お互いに事前調整しないでやるので、同じエリアでかち合ってしまうことがある。そういう場合、アベル(上司)に報告してどうするか判断を仰ぐが、大抵、「無視してやれ、信仰の競争だ!」と言われるので、お互いに気まずくなるし、訪問先の人からは、ほぼ同じ物を売っている同じような装いの人間が連続して現れるので、かなりいぶかしく思われる。

編集部註「万物復帰」……神を中心とした地上天国を造るために、サタン側に奪われた万物(とりわけお金を重視)を神の側に取り戻さなければならないという統一教会の教え。具体的には全ての財産を創始者・文鮮明に帰属させること

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事務職員のほぼ全員が信者の勝共連合に後援会名簿を差し出す議員も

先ほど信者とそうでない人の区別を強調したが、信者にも、教会の信者として命令されたらどこへでも行かねばならない専従のメンバーである「献身者」と、そうでない人がいる。CARPの場合、学生は休みの期間等には万物復帰のために、他府県に行くことがあるが、基本的に自分の大学で活動しているので、献身者ではない。全大原研の会長・副会長、東京、東日本、中部、関西などのブロック長、いくつかのホームを束ねる学区長や寮母に当たるような役割を果たしている女性は、献身者で、彼らが学生の食口を指導している。

 

統一教会本体の場合、献身者は教会=ホームに住んで布教や万物復帰などをやっていて、その教会に、一般の企業に勤めている人や自営業の人など一般信者が通ってくる。当時は、一般企業に勤めている人で比較的若く、将来献身者になる可能性のある人を「勤労青年」、主婦は「壮婦」、年配の男性は「壮夫」と呼んでいた。ノルマなどが直接課されるのは、献身者だが、献身者はまともな給料をもらっていないし、万物復帰をして稼がないと献金できない。高額献金をするよう求められるのは、主に、教会に通ってくる壮婦・壮夫である。

現在、祝福二世が話題になっているが、同じ祝福二世でも、両親が献身者の場合でずっと「教会内」で育ち、将来両親と同じように教会の指導者になるよう期待されている人と、勤労青年の祝福家庭に生まれた人では、育った環境、教会に対する距離感がかなり異なるはずである。

勝共連合は事務局員はほぼ100%信者だが、「共産主義と戦う」という理念を共有して一般会員になる議員やジャーナリスト、文化人がかなりいた。本当はダメなのだろうが、(恐らく選挙協力などの見返りに)後援会名簿を差し出す議員もいた。当時は自民党だけではなく、民社党系の会員もいた。自民党も、清和会だけでなく、旧中曽根派や宏池会の一部で会員になる人もいた。後援会名簿などのためにかなり水増しになるが、勝共連合会員の数が100万人を超えていたこともある。(自分が登録されていると知らない人も多く含まれている)その全員が統一教会信者だというのは無理がある。ただ、当時から、統一教会―勝共連合と敵対していた左派の人たちは、実体を知っていたのかどうか分からないが、勝共連合の会員とか、会員でさえない、単に勝共連合系のイベントで講演しただけの保守系知識人を、勝共=統一教会信者と呼んでいた。実体を知っている私としては、そういう水増しはかなりひっかかる。

関連団体は保守系論客を広く浅く集めるためのフロント組織

私が脱会した後にできた天宙平和連合、世界平和連合、平和大使協議会なども、同じ様に、事務局などは献身者である信者が担当し、保守系の人を広く浅く集める組織だと思われる。広く浅く集めるために、教義を押し付けることはなるべくやらないようにしていると思われる。これらは、統一教会が有益な社会貢献をして、識者からも認められているという印象を与え、いざという時に守ってもらうためのフロント組織だ――どちらの目的についても、あまり役に立っていなかったことが今回証明されつつあるわけだ。

世界日報については、前回述べたように、社員のほとんどは信者だが、一部、他の新聞を退社して顧問のような立場で再雇用されている人たちもいた。また信者全員が献身者ではなく、何人か勤労青年として雇用されている人もいた。勤労青年の人は、教会の人事で派遣されてくるわけではなく、印刷関係の技術を持っている関係で推薦を受けて、教会系の企業である世界日報に雇用されていたのだと思う。

献身者は教会関連グループ全体の間で人事異動があるが、教祖直属の幹部を除いて、統一教会本体が個々の信者についての詳しい情報を把握しているわけではない――統一教会本体が完全に把握しているのは、祝福に関する情報だけである。世界日報であれば、CARPや統一教会学生部に、今年の卒業生に新聞に向いていそうなメンバーは何人かいるか、という感じで問い合わせ、リクルートしていたようだ。違う団体間で異動する時は、教祖から出される基本方針と、各組織の事情に応じて相互に調整していたようである。

経済活動の合間に布教するという本末転倒

こうした関連団体の中で特別な位置を占めていたのが、「ハッピーワールド」という商社である。当初は高麗人参茶などの輸入販売をやっているだけだったが、私が入信した80年代初頭頃から、海外での事業のための教祖からの献金要求がエスカレートしていくと、この会社を中心に万物復帰を組織化していくようになった。各地区の統一教会が、事実上、ハッピーワールドの支店のようになり、布教の合間に経済活動するのではなく、経済活動の合間に布教するような感じになっていったようである。悪名高い霊感商法も、ハッピーワールド主導の経済活動の一環として行われるようになった。

別の宗教法人や事実上の子会社を介して販売したりしているので、ハッピーワールドの名前は直接出てこないこともあるが、日本の統一教会グループの経済活動全体をハッピーワールドが統括していたのは間違いない。世界日報、勝共連合、世界平和教授アカデミーなど、お金を使うけれど、あまり金儲けの手段を持っていない組織の献身者の給料の大元は「ハッピー」から来ていたと思われる。少なくとも私が入信していた間は、今は経済活動がメインになっているので、日本統一教会の会長・副会長にはあまり実権はなく、ハッピーワールドの社長が、他の組織のことまで実質的に取り仕切っていると言われていた。

幹部たちに信仰の強さを競わせる教祖

前回の、世界日報の元編集局長の話がそうだが、教祖は、幹部たちに信仰の強さを競わせることで、全体の実績を挙げようとする。統一教会本体の会長・副会長・局長クラス、ハッピーワールドの社長、CARPの会長、勝共連合の事務局長、世界日報の社長・副社長・編集局長などが、教祖直属の幹部で、年に何回か御前会議のようなものに参加していたようである。この幹部たちが、経済活動、布教、VIP渉外などに関する割り当てられた任務をこなすことで、自分こそ一番の信仰者と認められ、お父様(文教祖)からより重要な使命を与えられ、傍で働けるようになりたいと思って、競争する。時として、喧嘩に発展する。それで、世界日報事件のようなことが時々起こる。

その幹部たちが、自分の下にいるカイン(部下)たちの間の競争を煽る。霊感商法で、同じ信者から見ても明らかに詐欺だろうと思われるような行為――霊が降りてきたふりをする小芝居のような演出――が横行したのも、そうした信仰競争の激化の帰結である。彼らの上のアベルも、ノルマを達成するよう強く求められているので、かなり悪質だと分かっていても、“実績”を上げているメンバーにペナルティを科すことはできない。

また、組織同士が張り合っているので、「統一」という名前を冠している割に、組織間の風通しが悪いし、先の万物復帰の話のように、活動領域がかち合ってしまうこともある。日韓関係などをめぐって、勝共連合、世界日報、CARPの公式見解が対立することもある。なので、勅使河原氏の天宙平和連合がやっていることです発言も、満更嘘ではないかもしれない。実際、何をやっているかよく教えてもらっていない可能性はある。

現在、政府が質問権の行使を宣言したことで、家庭連合の解散が視野に入ったと言われているが、ハッピーワールドや天宙平和連合等の関連団体は、別の団体なので、解散にはならない。宗教法人としての税制上の優遇はなくなるが、これらの組織に人と金を移して何とか活動を継続しようとするだろう。

旧統一教会の関連団体は複雑に分岐していた実態を掴みにくい。しかし、だからといって、やたらと巨大な秘密結社のようにイメージして、過剰に怖れ、陰謀論にはまってはならない。「信者数」自体はそんなに大きくない。彼らがいろんな所に手を伸ばしているからといって、その対象になっている自民党や維新の会、地方自治体、保守論壇、学校のPTAなどを全部牛耳っているわけではない。「コロナ」に関連して少し前まで散々言われていたことだが、正しく警戒すべきである。

プロフィール仲正昌樹なかまさまさき
金沢大学法学類教授。1963年広島県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修了(学術博士)。専門は政治・法思想史、ドイツ思想史、ドイツ文学。著者に『今こそアーレントを読み直す』(講談社)『集中講義!日本の現代思想』(NHK出版)『カール・シュミット入門講義』(作品社)など。

image by: Koshiro K / Shutterstock.com

仲正昌樹

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