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習近平は大喜び。新体制の中国を独ショルツ首相がいち早く訪問したワケ

5年に一度の中国共産党の党大会を終え、新体制となった習近平政権は外交を活発化。なかでもドイツのショルツ首相の訪中は、G7の首脳でコロナ禍以降初となり、習主席を喜ばせたようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂さんが、ショルツ首相の訪中の背景を解説。長引く米中対立でアメリカの目が光り、連立政権内にも異論がありながらも、自国の利益を確保するために訪中を敢行したショルツ首相の姿勢は、うまくいけば日本にも大いに参考になるはずと伝えています。

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新指導部の下で活発化した外交 習近平がショルツ首相を歓迎した理由

5年に一度の中国政治の一大イベント、中国共産党第20回全国代表大会(以下、20大もしくは党大会)が閉幕し、新たな最高指導部メンバーのお披露目も済んだ。

七皇がそろって延安を訪れるあたり、さすがに習近平らしいスタートと言いたいところだが、残念ながら巷の人気はいま一つのようだ。ネットでは早速「習近平」の新たな隠語が出回って話題になっている。

中国語で「空格」──。正確な翻訳は難しいが、とりあえず「スペース」と訳しておく。これは習近平国家主席を指して使われ始めた隠語だ。この言葉が使われた理由はいろいろあるようだが、最も分かりやすいのが書き込みをしてもすぐに消されてしまうことを揶揄した「空白」だ。

さて、隠語を使ってまで発信される不満とはいったい何だろうか。それは日本が期待する「独裁」や「強権」などへの反発ではない。ひたすら景気の冷え込みだ。そして直近のターゲットは、明けない「動的ゼロコロナ」だ。

中国の感染症対策については「動的ゼロコロナ」が一択であると、このメルマガでも説明してきた。だから変えようはないのだが、いずれ大きな対策が打ち出されるはずだ。

よってこの話題は後回しにして、今号では外交をめぐる大きな動きを追ってみたいと思う。20大後、すでにパキスタン、ベトナム、タンザニアの首脳が中国を訪問している。それにはそれぞれ意味があるが、ハイライトはドイツのオラフ・ショルツ首相の訪問だ。

もちろん、この訪問が中国外交にとって大きなブレークスルーになるかといえば、そんな単純な話ではない。むしろ難しい状況を生み出す要素を抱えているからこそ、焦点を当てるべき訪問なのだ。

うまくすれば日本にとっても他山の石となりえる。バランスが求められる外交だ。米中対立のなかで、どう自国の利益を確保するかは、おそらく多くの国にとって、大なり小なり直面する課題だからだ。

中国は今回、明らかにショルツ訪問に沸き立っている。それは「ショルツ首相は中国共産党第20回全国代表大会(第20回党大会)開催後に初めて訪中した欧州の首脳」と習近平国家主席が冒頭で訪問の重要性を強調したことからも分かる。何かにつけ「初めて」にこだわる中国らしい表現だが、オーストラリアのABCテレビも、「新型コロナウイルス感染症が広がってから、G7の国のなかで初めて中国を訪れるトップ」と紹介した。

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報道には、西側先進国が今後どう中国と付き合ってゆくのか、一つの流れをつくる訪問だとして、警戒するニュアンスが含まれていた。これを皮切りに中国との「接近」という流れが生まれないよう、それを阻止しようとする動きも活発化した。

その最大勢力がアメリカであるのは言を俟たないが、今回、意外なところからショルツに向けた矢が放たれた。誰あろう、同じ閣内のアナレーナ・ベアボック外相だ。

外相はG7に出席する前にウズベキスタンを訪れ、首都タシケントでドイツの対中外交政策の変更をショルツに向け公然と求めている。「変更」の意味は人権や民主主義を重視し、中国への依存を減らすという政策だ。

首相が訪問するタイミングで、その訪問国を批判する外相というのも寡聞だ。タガが外れた印象さえ受ける。それだけ中国をめぐる問題は根が深いとも解釈できるが、一方で対立を制御できない国内政治の事情もにじむ。いわゆるアメリカの現状と重なる民主主義の制度疲労だ。

ドイツは現在、中道左派の社会民主党(SPD)と、緑の党、そして自由市場主義を掲げる自由民主党(FDP)の3党による連立政権である。そして外相のベアボックは緑の党の所属だ。今年9月には、やはり緑の党のロベルト・ハーベック経済・気候保護相が、「中国に対する甘い姿勢は終わった」と述べ、話題となった。

いまショルツに向けられた批判の多くは、「メルケルの時代にドイツを逆戻りさせる」というものだ。しかし、アンゲラ・メルケルはキリスト教民主同盟でショルツはSPD所属だ。SPDも緑の党も「左派」であり、本来、考え方は近いはずで、ショルツが対中融和に舵を切る動機は見当たらない。加えていまのドイツ国民の対中感情は最悪だ。ドイツの公共放送ZDFの先月の世論調査では、「中国への経済的依存を減らすことは重要か」という問いに84%が重要だと答えたほどだ。

そんななか、なぜショルツは中国訪問を強行したのだろうか。いや、しなければならなかったのだろうか。すでにこのメルマガでも触れている通り、ドイツの経済界には連立政権の誕生から警戒があった。名立たる有名企業のトップや経済界の重鎮が、「中国との関係がドイツには不可欠」と発信し続けたことは紹介してきた。そうした圧力が政権にかかっていたことは想像に難くない。

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ただ、選挙が命の政治家にとって何より大切なのは民意だ。本来は経済界からの要望は後回しにされる。だがショルツは今回、敢えてそこに踏み込んだ。その理由は何か。一つ考えられるのは、経済の大きな冷え込みやエネルギー不足に対する国民の怒りだ。対ロシア(ウクライナ支援)よりも自分たちの生活を何とかしろという空気も醸成され始めている。この流れが、ロシアと価値観でひとまとめにされる中国への風当たりも緩めているとの感触を得たのだろうか。

だが、それだけではないはずだ。ショルツに現実的な思考をさせたのは、おそらくドイツ経済の直面するもっと大きな変化だ。それは天然ガスなどエネルギー価格の高騰により、国内の製造業の海外脱出が加速されたことだと考えられるのだ。この状況が続けば、当然のこと問題は経済界にとどまらない。雇用の問題へと飛び火し大衆が反応するのも時間の問題だからだ。

10月26日、ショルツはフランスのエマニュエル・マクロン大統領とランチをともにした。これを受けて「THE WALLSTREET JOURNAL」などのメディアは「アメリカが『インフレ削減法』を推進するなら報復する」と二人が話し合ったと報じた。

同法はインフレ抑制の他、補助金によって製造業の国内回帰を促す内容も含んでいる。露骨な国内企業優遇で、日本や韓国も珍しく不満を表明している。当然、欧州企業も補助金を目当てに、アメリカに製造拠点を移そうという動きが顕在化しているのだ。この法案が最後の引き金となって、ロシアのウクライナ侵攻以来、強固に結びついてきたはずの米欧に亀裂が入っている。

この少し前にはマクロンが、「米企業が国内よりも3、4倍も高く欧州に天然ガスを売っている」とアメリカを批判した。つまりショルツは、単にアメリカと歩調を合わせているだけでは国内経済は守れないことを見極めた上で、決意して訪中した可能性があるのだ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年11月6日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Gints Ivuskans/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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