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北ミサイル開発を“援助”した日本。先制攻撃も報復もできぬ我が国の自業自得

11月9日、またも日本海に向け弾道ミサイルと見られるもの発射した北朝鮮。今年に入り実に32回もの発射実験を繰り返し、近く5年ぶり7回目となる核実験を強行することが濃厚とされますが、何が北朝鮮をここまで増長させてしまったのでしょうか。その大きな責任は日本にあるとするのは、立命館大学政策科学部教授で政治学者の上久保誠人さん。上久保さんは今回、そう判断せざるを得ない根拠と、日本が本気で核武装論を検討すべき理由を解説しています

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)
立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

北朝鮮の核・ミサイル開発が進んだのは日本のせいだ

北朝鮮が多数のミサイルを日本海の方向に発射している。11月2日には、北朝鮮が一日に発射したミサイル数としては過去最多の23発以上のミサイルを発射した。弾道ミサイル1発は、韓国との間の海上の軍事境界線である「北方限界線(NLL)」を越えた。韓国が対抗措置としてNLLの北側にミサイル3発を発射した。南北が、NLLを越えてミサイルを打ち合うのは史上初めての事態となった。

さらに北朝鮮は、11月3日朝に長距離弾道ミサイル1発を含むあわせて3発の弾道ミサイルを発射し、夜にも短距離弾道ミサイルを3発発射した。また、内陸部から日本海に向けておよそ80発の砲撃を行った。朝鮮半島は、一触即発の緊張状態となった。

また、3日朝のミサイル発射直後、宮城、山形、新潟の3県を対象に全国瞬時警報システム(Jアラート)が発令された。ただし、「日本上空を通過したとみられる」との速報は後に取り消された。ミサイルが日本海上空で「消失」したとされ、韓国では「失敗説」も報じられている。

北朝鮮は、アメリカ軍と韓国軍の空軍による大規模な共同訓練「ビジラント・ストーム」に強い反発を示し、対抗措置としてミサイル発射を行ったとみられている。

そもそも、北朝鮮がこれほど大規模なミサイル発射ができるまでに核開発・ミサイル開発を進められたのはなぜなのかを考えてみたい。北朝鮮の核開発・ミサイル開発は、金正恩氏の父・正日氏の時代に始められた。

金正日氏は、死去する2ヵ月前に「遺訓」を残している。「核と長距離ミサイル、生物化学兵器を絶えず発展させ十分に保有することが朝鮮半島の平和を維持する道であることを肝に銘じよ」「米国との心理的対決で必ず勝たなければならない。合法的な核保有国に堂々と上ることにより朝鮮半島で米国の影響力を低下させるべき」というものである。

金正日氏の念頭にあったのは、「イラク戦争」だとされる。イラクは大量破壊兵器の生産をやめた。しかし、フセイン元大統領は米国に捕えられ、処刑されてしまった。金正日氏は、大量破壊兵器の開発をやめれば、いずれ北朝鮮も同じように、米国に潰される。だから、体制維持のためには、絶対に核兵器を持たねばならないと考えていたのだ。

具体的に、北朝鮮は1993年に準長距離弾道ミサイル「ノドン」を「日本海」に向けて発射して以来、次々とミサイル実験を行なってきた。1998年8月31日は、テポドン1号と呼ばれるミサイルが発射され、津軽海峡付近から「日本列島」を越えるコースを飛行し、第一段目が「日本海」に、第二段目は太平洋に落下した。

2006年7月5日には、スカッド、ノドン、テポドン2号の弾道ミサイル計7発を「日本海」に向けて発射した。その後もミサイル実験は続き、金正日時代には合計17発のミサイルが発射された。

後継者の金正恩氏も、父の遺訓に従って、「北朝鮮を核保有国と国際社会に認めさせること」「米国に体制維持を保障されること」を国家目標として掲げてきた。2012年には射程1万キロメートルの大陸間弾道弾(ICBM)「テポドン2号」を発射実験した。そして、2017年は、2月、3月(2回)、4月(3回)、5月(4回)、6月、7月(2回)、8月(2回)、9月、11月と1年間で計17回もの実験を行った。特に、8月29日の実験では、ミサイルが日本上空通過時に「Jアラート(全国瞬時警報システム)」が12道県で鳴り響いた。

北朝鮮は、これら実験のたびに着実に技術を向上させて、ミサイルの射程距離を伸ばしてきた。そして、ついに米本土に届くICBMを完成させた。米国に対する直接攻撃の可能性を高めることで、ドナルド・トランプ政権(当時)は、北朝鮮のミサイルを現実的な危機と認識したことで、初めてこの問題の解決に重い腰を上げた。2018年6月、史上初の米朝首脳会談が実現したのだ。

平成27年度防衛白書

米朝首脳の対話は、わずか2回で終わり、北朝鮮が望む米朝の直接対話はふたたび途切れた。だが、北朝鮮はその後もミサイル開発を続けた。特筆すべきは、ミサイルの飛距離の向上だけではなく、ミサイルの発射数の増加である。

北朝鮮は今年に入り、記録的な数のミサイルを発射している。前述の通り、金正日政権時は合計17発のミサイル発射だった。それを、わずか数日で上回っているのである。多くの数のミサイルを同時に発射されれば、それだけ迎撃するのも難しくなる。安全保障上の脅威は拡大し、新たな段階に入っているといえる。

このように、北朝鮮は実験のたびに着実に技術を向上させて、ミサイルの射程距離を伸ばし、一度の発射数を増加させてきた。重要なことは、北朝鮮のミサイルは、ほとんど日本向けに発射され、日本上空を通過することもあったということだ。北朝鮮は、日本に対して、ミサイルを撃ち放題だったのだ。

なぜ、日本ばかりにミサイルが発射されてきたのか。それは、日本近海以外にミサイルを落下させることができる場所がなかったからだ。中国とロシアは、核保有国である。北朝鮮が、この両国の領土内にミサイルを落としたら、報復攻撃が怖い。ミサイル発射台に先制攻撃を仕掛けられるかもしれない。また、韓国は核保有国ではないが、北朝鮮は同じ民族に向けてミサイルを撃ちたくはないだろう。

ところが、日本は核保有国でない上に、憲法上「専守防衛」という制約がある。「先制攻撃」も「報復攻撃」も認められていない。北朝鮮からすれば、何も恐れる必要がなく、日本に向けてミサイル発射を繰り返すことができた。その結果、北朝鮮はICBMの開発にまで至ったし、多数のミサイルを一度に発射できる能力を持ったということだ。言い換えれば、日本が北朝鮮を先制攻撃、報復攻撃できたならば、北朝鮮はミサイルを行う実験場がなくなり、ミサイル開発を続けられなかったはずだということだ。

そして、日本が北朝鮮を巡る外交戦でも「蚊帳の外」になりがちな本質的な理由がここにある。いくら北朝鮮への「圧力」を訴えても、実は日本こそが「穴」となっていて、北朝鮮のミサイル開発を許しているということを、米国・中国・ロシア・韓国に見透かされているからではないだろうか。

岸田内閣は、日本の置かれた厳しい現状を認識してはいるようだ。防衛費の抜本的強化の方針を打ち出し、防衛予算をGDPの2%以上にすることを目指している。

防衛力の抜本的な強化では、継戦能力の向上と敵のミサイル拠点をたたく「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有を課題としている。これは北朝鮮を念頭に置いたものである。現状では、北朝鮮が多数のミサイルを発射してきたとき、弾薬の在庫が足りず、数日も持たないとの指摘がある。経戦能力が脆弱であり、その向上が課題となっている。

また、「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有とは、北朝鮮の弾道ミサイルを迎撃する技術に限界があることから、抑止力として浮上しているものだ。防衛省は、来年度予算案の概算要求で敵基地攻撃能力にも使える射程が長い「スタンド・オフ・ミサイル」の量産などを既に盛り込んでいる。

その方向性は間違っていないが、十分ではないのではないか。私は、日本の「核武装」も真剣に検討する段階に来ているように思う。日本が、北朝鮮問題における現在の「蚊帳の外」状態を打開するには、「核武装」を交渉カードとして切る必要があるように思うからだ。

もちろん、北朝鮮のみならず、米国、中国、ロシア、韓国が一斉に日本を非難するだろう。中国は、日本製品の禁輸など、経済制裁をチラつかせるかもしれない。しかし、日本が核武装に不退転の姿勢を見せれば、これらの国は、口先だけで「非核化」を言うだけではなく、真剣に北朝鮮の核廃棄に動き出すはずだ。もっと踏み込んで、金正恩氏の亡命や、金体制を崩壊させるように裏で動き出すかもしれない。

これまで、中国、ロシア、韓国は、日本が先制攻撃も報復攻撃も何もできないと甘く考えてきた。日本を、過去に悪いことをした「ならず者国家」扱いして、言いたい放題、やりたい放題だったではないか。だが、一方で日本の「いつでも核を持てる潜在能力」には恐れを抱いてきた。圧倒的な経済力と高い技術力を持つ日本の核武装は、これらの国が最も回避したい「最悪のシナリオ」なのだ。

日本の核武装は「極論」であり、現実的ではないかもしれない。だが、その検討を行う姿勢をみせるだけでも、日本は生き馬の目を抜く国際情勢の中で、強い「交渉力」を持つことができる。日本は生き残るために、その交渉力を持つべき時なのではないだろうか。

問題は、旧統一教会と政治の関係に端を発して、岸田内閣の支持率が急落しており、安全保障政策を推進していく体力を失いつつあることだろう。特に、安全保障政策の中心を担ってきた「安倍派」を中心とする保守派が、旧統一教会との深い関係と批判されていることが深刻だ。

また、旧統一教会とその関連団体・勝共連合の政策志向が、保守派と一致していることが問題だ。安全保障政策の推進を主張すると、その背後に、旧統一教会の影響を疑われてしまうからだ。その意味で、現在の政治情勢は、安全保障政策を進めていくことが難しい状況にある。

私はこの連載で、保守派の政治家が国内では「国益を守る」と強気なアピールをする一方で、「日本をサタンの国」とする外国の宗教の支援を受けてきたことに垣間見えたように、国外では「土下座外交」を続けてきたことを批判した。現在、まさにそのツケを払わなければならない状況になっているのではないか。

【関連】保守派の常套句「安倍晋三元首相は土下座外交を終わらせた」の大ウソ

「日本をサタンの国」とする団体に便宜を図り、選挙で票をもらってきた結果、国民の生命と安全を守る安全保障政策を整えられないのだとするならば、保守派政治家の行為は、まさに「国を売る」ものだったといえるのではないだろうか。

image by: 朝鮮労働党機関紙『労働新聞』公式サイト

上久保誠人

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

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