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反撃能力に適した武器か?日本政府が購入検討「米トマホーク」の正体

11月末、関係閣僚に防衛費の増額を指示した岸田首相。その直後、政府が米国製巡航ミサイル「トマホーク」500発の購入を検討していることが明らかになりました。射程が1,000km超というトマホークは、果たして反撃能力の手段として相応しいものなのでしょうか。今回のメルマガ『uttiiジャーナル』ではジャーナリストの内田誠さんが、この兵器開発の経緯や性能、さらに湾岸戦争での用いられ方などを解説しつつ、トマホークが反撃能力に合致したものなのか否かを考察しています。

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日本政府が検討に入った「米トマホーク最大500発購入」は愚策か?:デモくらジオ」(12月2日)から

冒頭でお話申し上げたいのは、防衛費の問題ですね。これをGDP比で2%にするのが、なぜか国際的な責務のように語られていて。ウクライナの問題に対処するためにNATOは…特にドイツですね、防衛費を大幅に上げるために、ドイツは基本法の改正までやったわけですけれど、それに日本も見習うというような感じなのでしょうか、とにかくこれが岸田政権の最大の課題の一つのようにされているところがあります。

いわゆる反撃能力の問題について色々な議論がされていますけれど、なかなか具体的な議論にならなかったところ、ここにきて、3大臣の更迭も済んだので出てきたのかもしれませんが、トマホークを500機買うという凄い話になってきています。きょうの東京新聞の「こちら特報部」にかなり詳しく書かれていますので、私もそれを見て勉強したところです。

トマホークの名前の由来はご存じの方が多いかと思います。アメリカの先住民、我々子供の頃は普通に「インディアン」と呼んでいましたが、アメリカ先住民が投げて使う斧、武器ということです。その名がついた巡航ミサイルの歴史のなかではおそらく最初のものだと思われますが、いわゆる巡航ミサイルというものです。ロケットではなくて、まるで飛行機のように、ジェットエンジンで飛ぶんですね。

短い羽根を持っていて、よくもまあ、あれで十分な揚力がつくものだと思いますが、いわゆるロケットや弾道弾のようなスピードで飛ぶのではなく、時速わずか880キロ、それも凄い数字ではありますが、こういうものとしては極めて遅いミサイル。「巡航」ということ、クルージングということですからね。で、クルージングというからには、このあたりは田岡さんにかつて伺ったところでもありますが、非常な低空を飛び、目標、GPSで誘導されているので、緯度経度が入っていて、目標の緯度経度に近づくと、そこからホップアップといいますかも、ピューンと真上に上がり、上から落ちてきて…。斜めに飛ぶと目標を外しやすいからだと思いますが、ピンポイントで爆撃するのが売りの兵器なんですね。

今、低空でと言いましたが、最初に使われたのは湾岸戦争でした。91年。で、忘れもしないのは、今、テレビ朝日の午前10時半からの大下さんという人でしたかね、大下容子さんの番組がありますが、そこで常連のコメンテーターとしてご出演の柳沢さんという方がいらっしゃるじゃないですか。NHKの元記者ですよね。一度お話ししたことがあるのですが、柳沢さんがNHKの特派員としてだと思うのですが、バグダッドで取材していたんですね。で、開戦の日、バグダッドの市街でリポートしている最中にですね、その上空を巡航ミサイルがさーっと通っていって、それがカメラに収まるという、奇跡のような出来事がありました。実戦で目標に向かって飛行する巡航ミサイルと一緒に映り込んだ世界でただ一人のジャーナリストということなんですね(笑)。

というのは、それくらい低いところを飛ぶわけですね。目標に近づくと上昇して、上から真っ逆さまに落ちてきてピンポイントで爆撃するということの証明でもあるわけですが、そんなことがありました。ちょっと懐かしい話ですけれど。そのときは、通常の弾頭で、もちろん、核兵器が使われたわけではないですから、通常の弾頭ですよ。散々見せられたじゃないですか。湾岸戦争のピンポイント爆撃という奴を。あれ、結構外れも多くて。外れた映像は紹介しなかったので、全部ピンポイント命中したと思っているけれども、いわゆる誤爆の類いも山のようにあったことが後に分かったようです。

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トマホーク自体がどういう経緯で開発された兵器かというと、米ソ間のSALT1。戦略兵器削減条約で米軍の戦力が落ちることを防がなければならないというキッシンジャーさんの命令で、これ、東京新聞に書いてあることですが、キッシンジャーの命令で、核ミサイルとして開発されたもの。核弾頭を狙い通りのところに運ぶ兵器として作られた。SALT1の規制の掛からない範囲の兵器として軍需産業が作ったのがこの兵器だと。由来がそうだから、すべて核兵器になるのだというつもりもないですが、そういう歴史を持ち、40年も前に開発されたのがトマホークです。

その後も開発は続いていて、もう4段階目くらいですかね。船から撃って地上の目標に当てる、それから水上艦船からだけでなく、潜水艦からも撃てるということで、湾岸戦争の当時も両方の例があったのだと思います。水上艦から撃つケースについては、米軍はわざわざメディアを呼んで撃つところを見せましたからね。間違いないことです。あ、飛行機から撃つのもあると思いますが、そういう存在ですよ。

これが、今問題になっている反撃能力に値する武器なのかどうかというのは、これはかなり怪しい面があるのではないでしょうか。何ら、相手の狙う場所の正確な緯度経度が分かっていないと、撃ちようがないわけですね。そういう問題があります。射程は吃驚するほど長く、最大で2,500キロ。今ウクライナで多連装ロケットハイマースの射程が一番長くて70キロくらい。これも凄いことですが、あるいはウクライナに供与されていないロケットで、ハイマースの仕掛けから一発だけ撃つ大きなミサイルがありますが、これが300キロと言われている。その8倍ですよ。その分、スピードも遅いのでしょうし、ただ、相手のレーダー網をくぐり、ハッキリここと決めたところに落とす兵器ですよ。これを持つことが、持っていることが、抑止力になるという議論になるのでしょうが、これはちゃんとした軍事評論家の意見も聞きながら議論しなければならない話だと思います。

まあ、今、防衛予算の話で変なことになっていて、安全保障に金をかけましょうという一般論になりつつあり、そのなかでは空港とかダムの改修というようなことまで入っている。科学技術的な開発、公共インフラ、サイバー戦、国際協力、そういったところに掛かるお金も全部入れようとしている。つまり、財務相に蹴られた予算要求の復活折衝のようになっている。それが防衛予算名目で2%のなかに混ぜ込めるからオッケーいう、政権の利益と合致して、そこに予算要求を放り込むことになっている。もうちょっとね。自民党が多数を握っている国会でどれだけ有用な議論が出来るのか疑問に思うところもありますが、日本の防衛ということで、安全保障の問題をどう考えたらいいかというのは、もっと大きな視野から論じるべきことだと思うのですが。そうならずにトマホークを買うかどうかと言う具体的なところに来ています。

さらに恐ろしいのは、いずれ与党内の右寄りの皆さんの側からはおそらく核を持つべきだという話に変わっていく可能性があるのではないかという懸念があります。つまり今度のことで、また「必要最小限度の措置」というね、しかもそれをやらないと日本に危害が及ぶので「万やむを得ず」というものすごく古くさい表現を使っていますが、必要最小限度の措置ということですが、相手は核保有国ですからね。どういう話になるのか。

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これ、ここには歯止めがないんですよね。必要だと言えば必要になってしまうので。これが止めどない軍拡に道を開くのではないかということと、仮にその通りに何か予算化されたとしても、ではそれで安全になるのですか、ということはありますね。もう一つ言えば、特に海上自衛隊のように米軍の極東戦略に深くコミットさせられている軍事組織が本当に日本のために、日本の国土と日本でくらす人々の安全に寄与できるのか、ということもありますね。

なんとなく、トマホークの話が出てきたのは、アメリカの要求ではないのかという気がしますね。日本側から「それが必要なので」ということではなくて、とりあえず日本側としてはお茶を濁せるというか。お金を使うことによって、それも酷い話だけれど、カネを使うことによって防衛比の対GDP比の2%を実現すればいいのだと、それって、アメリカに対して、アメリカの満足するようなことが安全保障だと言っているように聞こえます。それはおかしな話だと思うのです。それで、とりあえずトマホークという話にどうもなるような…これって海軍と相性がいいでしょ。

VLSという、潜水艦が海の中からミサイルを撃つ装置がありますが、それを使って潜水艦からも、護衛艦からも…そう、それでも護衛艦というんだよね、ほぼ先制攻撃可能な軍備なんだけど。ちなみに湾岸戦争の際は、勿論イラクのクウェート侵攻はあったが、米軍と多国籍軍ですかね。その開戦の劈頭(へきとう)を飾るのがトマホークだったような記憶です。今言われているような反撃能力に合致した兵器だとは思えないところがありますね。そういうふうに思っております。

で、予算の話。これがまた、我々ものすごい無理をしているじゃないですか。自然にみんな普通に暮らしているようですけど、国家財政は1,400兆円の赤字でしたっけ?巨大な財政赤字を抱えていて、まだなんともないような顔をして暮らしてきているわけですけれど、そこに防衛費の増額と言うことになると、財源はどうするのだという話は当然のように出てきていて、これ、ずるいというか、ある意味必要なことも当然あったわけで、たとえ復興債のようなものはそうですが、東日本大震災の時の復興債は我々、源泉徴収の時に10%に0.25%を加えて払っていたじゃないですか。あれ、復興債の償還財源ですよね。

つまりこれ、「つなぎ国債」という奴。つなぎ融資というのはよく聞きますが、つなぎ国債というのがあるんですね。借金はするんだけれども、普通の国債よりも償還期間が短くて2年とか3年とかで。3年後に償還するということを法律にしなければならない。法的な義務になるわけですね。とはいえ、用は期間の短い、償還財源が法定されているタイプの国債。ちょっと貸しておいてという話ですね。ちょっとの期間だけ。我々としては増税の痛みを比較的感じにくい状態の借金。これはとても、期間は短いながらも危険な話ですよね。国債の赤字自体はその期間、積み上がるわけですから。そんなことをしなければならないということを含めて、非常に無理の多い政策をまたもややろうとしているということだと思います。

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なんか、岸田政権はどこまで続くのですかね。もう、なんか十分な感じがします。おなかいっぱいじゃないですか。大臣3人も辞めたし、また、あの3つめの総務省は伏魔殿みたいなところだね。よく分からないけれど。寺田さんでしたか、寺田さんという人がお金の問題にとってもルーズで、色々なところでの問題を起こしていて、ついに更迭になった。代わりに松本剛明さんという、あのひと民主党の印象が強かったのですが、いつのまにか自民党になっていて…まあ、知っていましたけれどねも、自民党に変わったということ。

あの人自身の問題はたいしたことの無い問題なのでしょうが、一番問題なのは政務官でしたよね。なんでしたっけ、水田さん?女性の…あ、杉田だ(この手、使いすぎかもしれないけれど)。杉田さんがLGBTQに関して放った暴言とか、少数民族あるいは在日外国人、外国由来の日本人、そのような人々に対してなんというのでしょう、吃驚するようなことを色々言われたので、それを結局、岸田さんが言ってもいいと思うのだけれどね。あれ、ちゃんと調べていませんが、大臣、副大臣、政務官という、政務官も一種の大臣なわけですよね。認証官だからね。その間の指導、中止、警告というのはありなんですかね。

結局、松本大臣から杉田氏に対し、発言に対する謝罪と撤回をしなさいということを命じたということ。そんなことするんだったらさ、サッサと首にすれば。そんな手ぬるいというか、よく分からない処分ですよね。だって、葉梨さんなんか暴言一発で首ですよね。まあ、よく使い慣れた持ちネタだったわけですが。「法務大臣なんてのはね、朝、死刑のはんこを押して、その日くらいですよ、昼のニュースに出るのは、わはは」ということだった。でも、暴言、許されない暴言で大臣を首になった。政務官があの発言をしている、それを放置するのはとってもリスキーですよね。

岸田さんは自民党の総裁でもあるのでしょう。自民党の。その次元の処分も本当は必要。自民党は杉田さんのような人を抱えていてもいい政党なのですか、という問いへの応えが必要でしょ。だって、逆に言えば、自民党にはあんな人がいるんだねということを毎日毎晩、宣伝しまくっているようなものじゃないですか、杉田さんて。僕が自民党の総裁だったら…て、あり得ないことだけれど(笑)、僕が総裁なら除名処分にしますね。他党時代の話だから?え、自民党になってからは言っていないの?言ってるんじゃないかなあ…「知らんけど」ということで、ここら辺にさせていただきたいと思います。

(『uttiiジャーナル』2022年12月4日号より一部抜粋。全てお読みになりたい方はご登録ください)

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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