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黒田日銀の緩和縮小で円急騰&株急落、今後の投資シナリオは?長期金利上限0.5%に引き上げ、市場との対話失敗で投資家に不信感も

日銀は20日の金融政策決定会合で、長期金利の変動幅をプラスマイナス0.5%程度に変更すると発表。市場では実質的な利上げと受け止められ、緩和縮小への懸念から急速な円高・株安が進行しました。
これを踏まえて本記事では、2023年夏頃までのマーケットシナリオを、米国CFA協会認定証券アナリストで、メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』を発行中の馬渕治好さんが解説します。

日銀による突然の政策変更はサプライズ

日銀は金融政策決定会合を、12/19(月)~12/20(火)に開催していましたが、2日目の本日、10年国債利回りの誘導(いわゆる「イールドカーブ・コントロール」)範囲を、これまでのマイナス0.25%~0.25%から、マイナス0.5%~0.5%に拡大することを、発表しました。

今まで10年国債利回りに上昇圧力がかかってきており、それを日銀は買いオペにより抑えつけてきましたので、上記のように利回りの変動範囲を広げれば、自然に10年国債利回りは上がります。つまり、実際には金利引き上げ策だと言えます。

一方で日銀は、長期国債の買い入れ金額を、これまでの月間7.3兆円から9兆円程度に増額し、0.5%の利回り水準では強固に買い入れる方針も表明しており、当面0.5%以上の10年国債利回りを容認しない姿勢も示しました。

こうした日銀の突然の政策変更は、前号の定例メールマガジンで述べたように、筆者はまったく予想することができておらず、市場参加者にとっても驚きだと思います。

特に驚きを呼んでいるのは、実質の利上げ策である、ということより、「なぜ今、突然に、なのか?」という点でしょう。

為替相場を意識しているのであれば、1ドル150円程度までの大幅な円安が進み、円買い介入を行なっていた時期だったら理解はできますが、やや円高方向への振り戻りが生じている今、急いで長期金利の位置を上げないといけないとは思えません。

物価指標も、確かに全国消費者物価前年比が10月分で3.7%上昇(生鮮食品を除くと同月は前年比3.6%上昇)と、日銀の目標である2%を超えてきてはいますが、諸外国と比べて、あわてて景気を冷やしてまで物価を抑えなければならないような物価高騰とは考えにくいです。

投資家に不信感を抱かせる結果に

今回の突然の日銀の動きがもたらしたものは、投資家の不信感、不安感ばかりになったのではないでしょうか。

米ドル/円 日足(SBI証券提供)

日本国債10年 日足(SBI証券提供)

それはともかく、今後の市場動向について冷静に考えると、10年国債利回りが0.25%幅持ち上がったところで、日本の景気や企業収益に激烈なダメージが生じるとは、見込みにくいです。

目先は日本の株価も円相場も心理的な波乱が続くとは思いますが、日が経てば一旦市況は落ち着きをみせ、その後は中長期シナリオで最初から筆者が予想していたような流れになってくるのではないでしょうか(元々、2023年半ばに向けて、日本株安・円高を予想していましたし)。

現時点で、中長期シナリオを変更する考えはありません。

中長期シナリオ結論(2022/12/18時点)

(毎号最後に掲載します。変える必要がないと考えている間は、まったく変えません。)

1)2023年初から夏場辺りにかけての展望

2023年に入っても、連銀は(利上げ幅をある程度縮めるとしても)まだしばらく利上げを続けよう。これは、遅れて動く物価指標を確認しながら、連銀が手探りで金融政策を運営せざるを得ないからだ。

このため、米国で利上げによる景気抑制効果が累積され、2023年前半は米国経済が本当に後退に陥り、一度主要国の株価が大きく下振れする局面が生じよう(企業業績悪化による株価下落)。また、米長期金利は景気動向や金融政策を先取りして動くため、2023年前半は、短期金利が利上げで上昇しながら、長期金利が景気悪化予想から低下する、という動きが進むだろう。米ドルも対主要通貨で下落し、世界的に経済が悪化すれば他通貨も対円で軟化する(円の全面高となる)ものと懸念される。

ただ、こうした景気後退は、原因が明らかだ(米国などにおける利上げによるもの)。したがって、「〇〇ショック」「〇〇危機」と呼ばれるようなものにはなりにくいだろう。 具体的な2023年の安値(おそらく7~8月辺りの時期)は、日経平均株価が25000円、ニューヨークダウが30000ドルと見込む。日米ともに、株価指数は2022年の最安値に迫るがそれを下回らない、との見通しだ。米長期金利の2023年半ば辺りの最低値は2.5%、米ドル円相場の最安値は125円を予想する。

こうした株安、米長期金利低下、外貨安・円高の流れが止まって反転するには、米連銀の再緩和を待つこととなろう。

2)2023年夏場当たりから数年単位の展望

長期的には、世界経済の拡大基調を見込むため、株価の上昇軌道を予想する。外貨相場も対円で強含み推移をたどるだろう。

投資家は、2023年夏場辺りと見込む世界株価や外貨相場の安値が「実現してから」リスク資産を投げ売りすることは、避けるべきだ。長期的な展望を抱いて、着実にリスク資産への投資を積み上げていくべきだろう。

image by: Ministry of Finance (GODL-India), GODL-India, via Wikimedia Commons

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1977年東京教育大学(現:筑波大学)附属高等学校卒業、1981年東京大学理学部数学科卒業、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。1981年に(旧)日興証券入社。1986~88年は2年間休職し、米国留学。他の期間は、ほとんど調査関連諸部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月より、独立した形で経済・市場分析業務を行なっている。日本経済新聞夕刊のコラム「十字路」の執筆陣のひとり。テレビ・ラジオ出演も数多い。CFA協会認定証券アナリスト(CFA、Chartered Financial Analyst)

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【著者】 馬渕治好 【月額】 ¥1,650/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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