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今までお金持ちを優遇しすぎた日本。元国税が今すぐ導入を勧める「富裕税」とは?

かねてから不公平感が指摘されてきた日本の税制度。事実、「金持ち優遇」と言われても仕方がないのが現状となっています。そんな我が国に「富裕税」の導入を強く推奨するのは、元国税調査官で作家の大村大次郎さん。大村さんはメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』で今回、富裕層の資産に1%課税するだけで我が国の懸案事項はほぼ解決するとして、自身が考える富裕税の仕組みを解説しています。

※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』の2022年12月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール大村大次郎おおむらおおじろう
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。

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金持ちを優遇しすぎた日本。今こそ金持ちにも優しい「富裕税」の導入を

先日、政府与党が年収30億円以上の超富裕層の増税を検討しているということが報じられました。「1億円の壁」と呼ばれる「年収1億円を超えると税負担が下がっていく」という現状を考え、富裕層の負担を増やそうということです。

このメルマガでも何度かご説明しましたが、今の日本では、年収が大きくなるほど所得税の税負担率が上がる仕組みになっています。が、年収1億円を超えると、逆に税負担が減っていくのです。

岩波新書の『日本の税金』(三木義一 著)でも、日本の所得税が所得1億円までは税率が上がっていきますが、1億円を超えると急激に税率が下がるというデータが載せられています。所得1億円の人の実質税負担率は28.3%ですが、所得100億円の人は13.5%まで下がるのです。このデータは、政府の諮問機関である日税専門家委員会に提出された資料です。

また筆者の試算では、億万長者とフリーターを比較した場合、億万長者の方が税負担率は低くなることが多いのです。以下は、年収5億円の配当収入者と年収200万円のフリーターの実質的な税負担の比較です。配当収入者というのは、大企業の株などをたくさん持ち多額の配当などを得ている人のことです。富裕層の多くはこういう形で収入を得ています。

        5億円配当収入者  200万円フリーター
所得税、住民税  約20%       約6%
社会保険料    約0.5%         約15%
消費税負担率   約1%         約8%
合計       約21.5%       約29%

 

現行税制に照らし著者が作成

なぜ所得が高い人の実質負担率が下がるかというと所得が高い人は「配当所得」の割合が高くなるからです。日本では、株式の配当などからの収入の税金は著しく抑えられています。おおむね20%で済んでしまうのです。

そして富裕層の実質税負担が少ないもう一つの要因が社会保険料です。国民の税負担を検討する上では、税金と同様の負担である社会保険料も含めたところで、考えなくてはなりません。社会保険料というのは日本の居住者であれば、一定の条件のもとで必ず払わなくてはならないものです。そして社会全体で負担することで、社会保障を支えようという趣旨を持っており、まさに税そのものなのです。

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国民健康保険の納付書などには「国民健康保険税」と記されています。そして社会保険料の負担率を加味した場合、「富裕層優遇」というのは、さらに鮮明になるのです。今、国民の多くは、社会保険料の高さに苦しんでいます。社会保険料は年々上がり続け、税金と社会保険料を合わせた負担率は40%にのぼっています。これは実質的に世界一高いといえます。

「日本は少子高齢化社会を迎えているのだから、社会保険料が高くなるのは仕方がない」国民の多くは、そう思って我慢しているはずです。しかし、しかし、富裕層の社会保険料の負担率は、驚くほど低いのです。5億円の配当収入者ではわずか0.5%に過ぎないのです。現在の社会保険料は、原則として収入に対して一定の割合で課せられています。たとえば厚生年金の場合は約8%です。しかし社会保険料の対象となる収入には上限があります。たとえば国民健康保険の場合は、介護保険と合わせて約100万円です。つまりいくら収入があろうが100万円以上の保険料は払わなくていいのです。

国民健康保険の上限に達する人は、だいたい年収1,200万円程度とされています。ということは、1億2,000万円の収入がある人の負担率は、年収1,200万円の人の10分の1でいいのです。6億円の収入がある人は、50分の1でいいのです。収入が増えれば増えるほど、社会保険料は負担率は無料のように安くなっていくのです。

社会保険料の上限制度というのは、ほかの先進諸国にもありますが、欧米の先進諸国では、社会保険料の負担の多くを企業が担っています。企業が社会保険料の大半を担っているということは、間接的に株主が担っているということであり、富裕層が担っているということになります。が、日本の場合、サラリーマンの社会保険料は企業と社員が折半となっていますし、そもそもフリーターなどの場合は、会社から社会保険に入られないことが多く、全額自費で払っていることが大半です。

また金持ちは消費税の負担率も非常に低くなっています。消費税の場合、低所得者は収入のほとんどを消費に回してしまうので、「収入に対する税負担率」は限りなく消費税率に近づきます。しかも日本の消費税は、ヨーロッパ諸国の間接税のような生活必需品の税率を非常に低く抑えるというような配慮もありません。だから、低所得者の消費税負担率はほぼ10%になるのです。

その一方で、富裕層は消費するのは収入のごく一部であり、収入の大半は貯蓄や投資に充てられます。年収5億円の人が年間1億円を消費し、残りの4億円は貯蓄や投資に充てた場合は、収入に対する消費税負担率は2%になります。つまり収入に対する消費税負担率で見た場合、年収200万円のフリーターの方が、年収5億円の配当所得者よりも何倍も高いのです。このように、日本の税制というのは、よくよく詰めていくと、金持ちがものすごく優遇されているのです。

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所得や消費に税金をかければ不景気になる

政府与党としては、今後、消費税などを増税していく上で、富裕層優遇をそのままにしておけば国民の不満が生じるということで、富裕層の増税を検討しているのでしょう。

が、これまでも富裕層の増税は何度も検討されてきました。しかし、富裕層の増税はなぜか途中で見送りになったり、実施されても抜け穴が多くて実質的な増税には至らないこと多いのです。だからこそ「富裕層の方がフリーターより税負担が安い」というようなことが起きているのです。

筆者は、富裕層に対しては、所得税を増税するのではなく、資産に課税する富裕税の創設を強く推奨します。

昨今、財務省は、「所得」や「消費」にばかり税金をかけようとしてきました。バブル前後から日本は低所得者の所得や消費に対する税を強化してきたのです。現在、日本の税収の柱は、「法人税」「消費税」「所得税」です。これらの三つの税金は、すべて“所得”か“消費”にかけられるものです(法人税は会社の所得にかかる税金なのです)。しかし本来、税金というものは、“所得”や“消費”だけにかけるものではありません。“資産”にかけることもできるのです。

そして、資産に税金をかけるということは、実はもっとも公平でもっとも大きな税収を得られるのです。所得や消費というのは、国民生活に直結するものです。所得税(低所得者の)を増税されれば、給料の手取り額が減ります。そうなると、生活は苦しくなるし消費も減ります。それがまた不景気を呼ぶことになります。

消費税でも同じです。消費税が上がれば、物価が上がります。同じ給料で物価が上がるなら、当然、生活は苦しくなります。物が高くなると、消費額も減っていく。これも景気を冷え込ませてしまいます。しかし資産に税金をかければ、そういう国民生活への負担というのは最小限に抑えられるのです。

資産というのは、所得から消費を差し引いたものです。当座、必要なものではない、いわば予備のお金です。それに課税するのです。消費にはまったく影響しないし、国民生活が苦しくなるわけでもありません。富裕層の富に直接アクセスできるのです。

資産に税金をかけるのは別に珍しいことではありません。たとえば、アメリカなどでは州税の大半を資産課税で賄っています。というより、現在、日本の資産への課税は非常に少ないのです。資産税には相続税がありますが、これもほとんど機能しておらず、相続税が以外の資産課税もほとんど機能していないのです。

今の日本経済は、所得や消費が減り、資産が異常に膨らんでいます。先進国と比較しても、所得や消費は高くないのに資産だけが大きいのです。

それは、低所得者の所得や消費にばかり税金をかけ、金持ちの資産に税金をかけてこなかったからでもあります。なぜ資産に税金をかけることはできなかったのでしょうか?

それは、金持ちが抵抗してきたからです。資産に税金をかけるということは、金持ちに税金をかけるのとほぼ同意義です。資産に税金をかけようとすれば、金持ちがうるさいのです。あの手この手で政治家に圧力をかけて妨害します。そのため資産に対する課税はこれまでほとんど行われてこなかったのです。

だから財産税を創設して、金をしこたま貯め込んだ金持ちに、社会還元させなければならないのです。

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アメリカでも導入が検討されている富裕税とは?

資産に対する課税で、現在の日本でもっとも有効と思われるのは、富裕税です。富裕税というのは、余剰資産にかけられる税金です。フランスなど先進国の一部で導入されているもので、金持ちに対して直接、課税できる税金です。アメリカでも昨今、検討されているといわれています。

たとえば、「1億円以上の資産を持っている人に1%の税金をかけましょう」というような仕組みです。1億円の資産を持っていない人には、税金はかからないのです。富裕税は資産にかかる税金なので、国民生活に直結するものではありません。また富裕税は、税率は低くていいので金持ちにとっても、負担感はそれほど大きくはありません。わずか資産の1%、最大限に増税したとしてもせいぜい2%程度でいいのす。数十億円持っている人が、その1~2%を税金で払ったって、大勢に影響はないのです。

そして富裕税というのは、わずかな税率で莫大な税収を生むものです。日本には個人金融資産が2,000兆円以上あります。また国民純資産(国富)は4,000兆円近くあるとされています。国民総資産というのは、国民の総資産から総負債を差し引いたものです。

これに1%の富裕税を課せば、概算でも40兆円の税収となります。その多くを資産1億円以上の富裕層が握っているとみられています。資産の少ない人を課税免除するとして、その減収分を差し引いても2~30兆円は優に稼げるのです。消費税10%のときの税収が20兆円なので、たった1%の富裕税で消費税10%以上の税収が稼げるのです。

今の日本の財政問題の大半はこれで片が付くし、中間層以下の人たちに大幅な減税もできるでしょう。そうすれば、消費も上向くはずです。金持ちが所有する資産に、たった1%の課税をするだけで、日本の懸案事項はほとんど解決するのです。

富裕税に関しては、日本でも戦後の一時期に導入されたこともありましたし、その後も何度か復活が議論されたことがありましたが、金持ちの反発が強く、現在は完全に忘れられた存在になっています。しかし、現在の危急の際だから、是が非でもこの富裕税を成立させるべきです。金持ちが文句を言って来れば、多数決で締め上げればいいのです。

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富裕税は金持ちにもメリットが大きい

しかも富裕税というのは、金持ちにとっても実は有利な税金なのです。富裕税の創設とともに、相続税を廃止すれば、金持ちの実質的な負担感は減るのです。

相続税と富裕税を比べれば、相続税の方が負担は大きいのです。現在の相続税は最高税率が55%です。相続というのは、だいたい30年に一度発生するので、資産家は30年に一度、財産の55%を取られることになります。しかし富裕税の場合は、毎年1%しかかからないので、30年間、毎年同額を払ったとしても30%にしかなりません。富裕税の方が25ポイントも割安なのです。

また富裕税は、相続税に比べれば「実質的な負担感」も非常に小さいのです。相続税は一度にごっそり取られますが、富裕税は毎年少しずつしかとられないからです。富裕税は言ってみれば「相続税の分割払い」ということなのです。

「相続税の分割払い」といっても、税収は相続税の何倍にもなります。相続税はあまりにも一度に多くとり過ぎるので、金持ちはあらゆる手を使って逃れています。タックスヘイブンなどを使って資産の隠蔽を図っているのです。だから相続税は税率が高い割には、税収にはまったく結び付いていないのです。しかし、富裕税は富裕層全体に広く浅く課せられる税金なので、税率が低くても莫大な税収になるのです。

また富裕税には、資産が激減したときの還付制度などを設けておけば、さらに金持ちにメリットが増えることになります。次回は、そういう点をもう少し掘り下げてご説明したいと思います。

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