MAG2 NEWS MENU

映画『すずめの戸締まり』に見る日本人が真っ先に閉じるべきもの

昨年11月11日の公開以来、凄まじい勢いで興行収入を伸ばし続ける新海誠監督の最新作『すずめの戸締り』。まさに「新海ワールド全開」とも評される本作は、観る者に何を訴えかけているのでしょうか。今回のメルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』ではジャーナリストの伊東森さんが、作中に「日本社会の劣化」を思わせるシーンが随所に散りばめられているとして、そのおのおのについて解説を試みています。

この記事の著者・伊東森さんのメルマガ

初月無料で読む

 

映画『すずめの戸締り』にみる日本社会の戸締り “誰が開きっぱなし”の扉を閉めるのか?

『君の名は。』『天気の子』(2016年)の新海誠監督の最新作『すずめの戸締り』(2019年)が11月11日より公開されている。

公開から1カ月間で興行収入が約93億4,400万円を記録(*1)、観客動員数は約693万9,000人を超え、新海監督の『君の名は。』、『天気の子』に続き、100億円超えも視野に。

本作はずばり“東日本大震災”がテーマ。それとともに、宗教的・神話的・民族的なモチーフが随所に織り込まれている。

一方で、個人的には、本作は震災が起きた2011年以降も、世界が変わっても、時代が変わっても変わらぬ日本社会のシステムのあり様を映し出しているようだ。

そのことは、経済成長の推移に現れている。たとえば日本“だけ”が名目GDPを増やせずにいる(*2)。

問題の根本原因は日本の政治システムの“劣化”にある。本作『すずめの戸締り』でも“日本社会の劣化”を思わせるシーンが随所にちりばめられている。

各地でそのままにされている“廃墟”、“災害慣れ”している日本人、“開きっぱなし”で戸締りがなされていない一方通行の政治システムだ。

目次

廃墟すら撤去できない日本

本作の第一のモチーフが廃墟だ。温泉街、テーマパークなど、日本各地の廃墟が出てくる。現実として、このような廃墟は日本各地に存在。

栃木県の鬼怒川温泉にも廃墟がある。廃墟が位置する日光市によると、いくつかの廃業したホテルは周囲に危険を及ぼす可能性もあるが、それでも市が解体に踏み切るのは困難だとも。

行政代執行をしても2億円かかる見通し(*3)。

ただ、たとえばショッピングモールはアメリカではすでに「時代遅れ」の存在になっている。アメリカではショッピングモールがここ数十年で何百件も廃業に追い込まれ、さらに今後15%も消えるとの予測も(*4)。

アメリカではその跡地が、大学のキャンパス、さらにはGoogleのオフィスとして、教会として再利用されている。日本では同じ施策ができるだろうか?

この記事の著者・伊東森さんのメルマガ

初月無料で読む

 

災害慣れしている日本人

また、映画であらためて気が付かされるのが、日本は本当に災害が多い国であるということ。映画においても、東日本大震災だけでなく阪神・淡路大震災と関東大震災にまつわるストーリーが挿入されている。

そのことに関連し、日本人にとって災害とは「当たり前」というよりも、もはや“災害慣れ”しているという事実。

フランスには「気候不安症」という言葉があるという(*5)。フランスの場合、今年はとくに異常な気象が相次いだ。パリでは40℃を超える気温を記録、さらには前例にないほどの暴風や雷、山火事が襲った。

「つまり、今まで想像もしなかった災害が目の前にあるという恐怖心を抱いている。日本は明らかに違う。気候変動の悪影響を受けていないとは言えないが、ずっと前から大規模災害がたびたび起きている国だから、その変動を感じていない可能性がある。地震や津波、台風、火山の噴火など、フランスにはない現象が昔からあるので、何か災害が起きても『異常』と思わない日本人が多いのかもしれない」(*6)

しかしながら、結果として、日本人の環境への配慮の意識は相変わらず低いまま。

開きっぱなしの政治

最後に、本作の主題について触れよう。本編中には、“災い”をもたらす扉を閉めることを使命とする「閉じ師」が日本各地を旅し、扉を閉める。なるほど、何事にも“開きっぱなし”はダメだ。

扉は一端、開けるのは良いが、また閉めないとならない。それは政治も一緒。たとえばアメリカにある有名な政治用語として「回転ドア」というものがある。回転ドアとは、くるくる回りながら入れ替わるドアのこと、

アメリカでは政権が変わると、閣僚はもちろん、上級官僚の多くも入れ替わり、政権与党の政策に沿った政策が展開されていく。

ところが日本はどうか。自民党が戦後、2010年近辺を除き、一貫して政権の座に。そのことが結局は、日本の国力の低下を招く。

政権交代がないことは、イコール世襲議員がいつまでものさばることを意味し、結果、女性議員の新規参入を抑制。

さらに法制度も変更されず、いつまでも硬直化。いつまでも死刑制度や同性婚、夫婦別姓を認めないという時代遅れの法制度が取り残される事態に。

本作の“隠れたテーマ”は「父性の不存在」だ。いたるところにシングルマザーが現れ、結果、父親はいない。

それと相反して、日本政治は、“オヤジども”が牛耳る父権的なシステム。ますます日本の崩壊は“加速”する。

引用・参考文献

(*1)「すずめの戸締まり:興収93億円突破 100億円超えも視野に」MANTAN WEB 2022年12月19日

(*2)中野剛志「日本の経済成長率が『世界最低』である、バカバカしいほど“シンプルな理由”」DAIAMOND online 2020年4月3日

(*3)「“廃虚”マンション 解体できない理由は…」日テレNEWS 2019年2月19日

(*4)Leanna Garfield 「廃業した6つのショッピングモール、その再利用法 大学のキャンパスやグーグルのオフィス、教会に」BUSINESS INSIDER 2017年4月6日

(*5)西村カリン「日本の若者、世界でも『気候変動への意識』が低いのは『災害への慣れすぎ』が原因?」ニューズウィーク日本版 2022年9月15日

(*6)西村カリン 2022年9月15日

(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年12月31日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

この記事の著者・伊東森さんのメルマガ

初月無料で読む

 

初月無料購読ですぐ読める! 1月配信済みバックナンバー

※2023年1月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、1月分のメルマガがすべてすぐに届きます。

いますぐ初月無料購読!

<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>

初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込880円)。

2022年12月配信分
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月31日(土)号  映画「すずめの戸締り」にみる日本社会の戸締り ”誰が開きっぱなし”の扉を閉めるのか?(12/31)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月25日(日)号 国民民主党、連立入り? 自民と国民、共鳴する”民社党”の遺伝子 統一教会との関係も 公明党はどうなる? 創価学会の集票力懸念(12/25)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月24日(土)号ディズニー&ジェームズ・キャメロンVS和歌山・太地町&二階俊博 映画「アバター」続編で対立の火ぶたが切って落とされる なぜ日本はイルカ漁に固執するのか? 結局は”利権”目当てか?(12/24)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月18日(日)号 防衛省が”ステマ”工作研究? 自称インフルエンサー、所詮は利用される運命(12/18)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月17日(土)号 どうなる? サッカーW杯2026年大会 48カ国が参加 グループステージは3試合から2試合へ 高騰する放映権料 もはや“有料”放送が当たり前?(12/17)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月11日(日)号 旧統一教会と地方議員の”接点”明らかに 一方、障害者支援施設SANCYO/TANOSHIKAの嘉村裕太は、精神障害者に対し、「政治に文句をいうなら統一教会の支援を受けて政治家に立候補せよ」と圧力 福岡県大川市長倉重良一・久留米市長原口新五も同調(12/11)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月10日(土)号 どうなる、岸田首相の行く末は? 退陣? 早くても年内まで?  「検討使」の裏で着々と右翼政策は実行  自民、国民民主と連立?(12/10)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月4日(日)号 防衛費増額 有識者会議にメディア関係者  法人税増税盛り込まず 自民党とマスコミ(12/4)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年12月3日(土)号 政治問題化するサッカーW杯 なぜカタールへの招致が決まったのか? カタールと日本 カタールで起きていることは、未来の私たち 地球温暖化とスポーツ(12/3)

2022年12月のバックナンバーを購入する

2022年11月配信分
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月27日(月)号(11/27)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月26日(土)号(11/26)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月20日(日)号(11/20)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月19日(土)号(11/19)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月13日(日)号(11/13)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月12日(土)号(11/12)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月6日(日)号(11/6)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年11月5日(土)号(11/5)

2022年11月のバックナンバーを購入する

2022年10月配信分
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月30日(土)号(10/30)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月29日(土)号(10/29)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月23日(日)号(10/23)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月22日(土)号(10/22)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月16日(日)号(10/16)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月15日(土)号(10/15)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月9日(日)号(10/9)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月8日(土)号(10/8)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月2日(日)号(10/2)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年10月1日(土)号(10/1)

2022年10月のバックナンバーを購入する

2022年9月配信分
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月25日(日)号(9/25)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月24日(土)号(9/24)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月18日(日)号(9/18)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月17日(土)号(9/17)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月11日(日)号(9/11)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月10日(土)号(9/10)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月4日(日)号(9/4)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年9月3日(土)号(9/3)

2022年9月のバックナンバーを購入する

2022年8月配信分
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月28日(日)号(8/28)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月27日(土)号(8/27)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月21日(日)号(8/21)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月20日(土)号(8/20)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月14日(日)号(8/14)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月13日(土)号(8/13)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月7日(日)号(8/7)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年8月5日(土)号(8/6)

2022年8月のバックナンバーを購入する

2022年7月配信分
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月31日(日)号(7/31)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月30日(土)号(7/30)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月24日(日)号(7/24)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月23日(土)号(7/23)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月17日(日)号(7/17)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月16日(土)号(7/16)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月10日(日)号(7/10)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月9日(土)号(7/9)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月3日(日)号(7/3)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年7月2日(土)号(7/2)

2022年7月のバックナンバーを購入する

2022年6月配信分
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月26日(日)号(6/26)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月25日(土)号(6/25)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月19日(日)号(6/19)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月18日号(土)(6/18)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月12日号(6/12)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月11日号(6/11)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月5日号(6/5)
  • モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)2022年6月4日号(6/4)

2022年6月のバックナンバーを購入する

image by: Shutterstock.com

伊東 森この著者の記事一覧

伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版) 』

【著者】 伊東 森 【月額】 ¥330/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け