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財源に不景気の元凶「消費増税」を持ち出す自民・甘利明元幹事長の浅はか

これまで先延ばしにし続けてきたものの、いよいよ政府も本腰を入れざるを得なくなった少子化対策。自民党の甘利明元幹事長は財源確保のための消費増税を示唆したと伝えられていますが、はたしてそれは「好手」と言えるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、甘利氏の発言を「あまりにも浅はかな考え方」と切り捨てた上で、彼のような政治家が少子化対策の妨げになっていると強く批判。さらに財源には国債をあてるべきとして、その理由を解説しています。

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少子化対策を消費増税でという心得違いが国を衰退させる

少子化対策の必要性が唱えられはじめて30年、第一次安倍政権下の2007年に少子化対策担当大臣を初めて置いてから15年をこえるというのに、この国の人口減少には歯止めがかからず、2022年の出生数は統計開始以来初めて80万人を割り込んだ。想定より8年も早い減少ペースだという。

子ども予算倍増を掲げながら、昨年の臨時国会では防衛費倍増を優先し、子育て支援の財源確保の議論を翌年以降に先送りした岸田首相は、年頭の記者会見で、「異次元の少子化対策に挑戦し、若い世代からようやく政府が本気になったと思っていただける構造を実現するべく、大胆に検討を進める」と述べた。

少子化対策は選挙で訴えても票にならないという政治家たちの心得違いから、その重要さがわかってはいても、大きな政治課題になってこなかったのだが、さすがにここまで来ると、本気度を示さざるを得ないようだ。

それにしても、やれ「異次元」だの、「大胆」だのと威勢がいいわりには、結局のところ毎度お馴染みの「検討を進める」だから、あんまり期待できないような気がしてしまう。

同じ1月4日、東京都の小池知事も、職員向けの年頭あいさつで、独自の少子化対策をぶち上げた。新年度予算で、18歳までの子どもに対し月に5,000円程度を給付する方針だというのだ。

おまけに「国の予算案では、直ちに少子化から脱却して反転攻勢に出るという勢いになっていない」と政府を批判した。

5,000円と具体的な数字をあげる小池知事に「してやられた」と官邸がホゾを噛んだか、政府批判に反発したかは知らないが、岸田首相より小池都知事が政治的アピール度で一歩リードした印象は拭えない。

小池都知事が事前に岸田首相の発表内容を知り、わざと同じ日に、より具体性のある対策を打ち出したという説があるが、それがまんざら不自然でもないのは、パフォーマンスとマーケティングで獲物を狙い撃つ彼女独特の雰囲気のなせるところだろう。

小池氏がつくった「都民ファーストの会」は昨年の参院選で悲願の国政進出を狙ったものの、出馬した都民ファ代表の荒木千陽・元都議が最下位当選者に約28万票も引き離される惨敗を喫し、小池氏の求心力低下が囁かれていた。このままでは来年の都知事選はおろか、「初の女性総理」への夢も完全に潰えるとみて、岸田政権を挑発するかのごとき行動に出たのかもしれない。

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ともあれ、少子化対策の予算をつけ、出生数を増やし、この国の衰退を食いとめる必要性については、誰も異存はないであろう。国であれ、都であれ、行政が取り組むべき最重要課題の一つである。

ただ残念ながら、少子化対策の掛け声がむなしく聞こえるほどに、これまで政府は無策であり続けた。なるほど会議体や組織はいくつも作られ、議論も活発になされてきたが、政治の動きが鈍いため、予算がつかないのだ。

経済協力開発機構(OECD)によると、子育て支援などに充てられる日本の「家族関係社会支出」は、2019年時点でGDP比1.7%にすぎない。少子化対策がうまくいっているスウェーデンやフランスは3%をキープしており、OECD加盟国の平均が2%をこえることからみても、いかに日本が立ち遅れているかがわかる。

「日本は子どもに冷たい社会です」。手厳しく歴代政府を批判するのは、明石市長の泉房穂氏である。岸田首相の「異次元の少子化対策」発言のあと、ツイッターにこう投稿した。

かねてから「子ども予算のグローバルスタンダード化」(諸外国の半分程度の予算額を諸外国並みに)を訴え続けている立場からすると、異次元でなく普通でいいので、すぐに予算倍増を実行していただきたいとの思い。

泉市長は2011年に明石市長になり、子ども政策を柱に市政を進めてきた。その成果として、いま明石市では、子どもの医療費、第2子以降の保育料、中学校の給食費が無料であり、プール、博物館など公共施設も無料で利用できる。また、おむつやミルクなどの子育て用品を毎月届けて0歳児を見守る「おむつ定期便」も行われている。

この手厚い子ども政策は、子育て世帯の移住を呼び込み、同市は9年連続で人口が増加、過去最高人口を更新し続けている。出生率もみるみる上昇、21年度は1.65で、日本全体の1.30を大きく引き離している。

その結果、地域経済が活性化していると泉氏は言う。

「子育て世帯は明石に住めば金がかからない。せこい所得制限もない。だから、『今日はちょっとええもん食べよう』と若い家族がみんな駅前で飯を食い始め、レストランの新店ラッシュですわ。子育て層の負担を軽減したら、貯金に回るんじゃなく、地域で子どものために金を落として、経済が回り出す」(2022年7月6日、東洋経済オンラインより)

明石市では、泉氏が市長に就任する前に126億円だった子ども予算が昨年度は258億円に倍増され、税収が8年前に比べ32億円増加している。組織や会議体をいくら作るよりも、一人のリーダーがいれば、少子化対策はこれだけ進み、それが地域経済の活性化にもつながることを示してくれたのが泉市長だ。

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少子化対策をしっかりするには、財政支出がむろん必要だが、やがて収入となって戻ってくる。長期的にみても、国の将来の担い手を育てることになる。

にもかかわらず、自民党内には少子化対策の財源を安定的に確保するために消費税を上げるべきだと言う意見がかなりある。自民党の実力者の一人、甘利明氏はテレビ番組で次のような発言をしたそうである。

「子育ては全国民に関わり、幅広く支えていく体制を取らなければならず、将来の消費税も含めて少し地に足をつけた議論をしなければならない」

長い目でみて国の経済にも好影響がある少子化対策を議論するのに、景気悪化の元凶である消費税引き上げを持ち出すのである。あまりにも浅はかな考え方といえよう。

そもそも、こういう政治家が与党にはびこっているから、この国の少子化対策はうまく進まないのではないか。独自の施策を地方自治体の首長が打ち出そうとすると中央官庁が足を引っ張る悪弊もいまだになくならない。明石市が子どもの医療費無料化を従来の中学生までから高校生へと拡大したさい、医療費増につながるという理由で国民健康保険の国庫負担金を減らされたが、これなどは泉市長が言うように「嫌がらせ」と受け取られても仕方がない。

もちろん少子化問題が子育て世帯へのお金の援助だけで解決できるものではない。それ以前の問題として、若者のいわゆる草食化やパラサイト・シングルに安住する傾向をどうするかということがある。

しかし、それは一朝一夕に解決できる問題ではない。まずは、多く子どもを持ちたいという気にさせる施策が必要だろう。その意味でも、明石市で泉市長が進めた子ども政策は、国も参考にすべき点が多いのではないか。

そのために必要な財源には国債をあてればいい。「国債は将来世代へのつけ回しだ」という財政健全化論議の土俵に乗るとすれば、将来世代(子ども)に先にベネフィットを渡し、のちに納税という形で返してもらうのだから、つけ回しではない、と反論することができるだろう。少なくとも、少子化対策に関する限り、積極的財政支出をためらうべきではない。

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image by: Twitter(@Akira_Amari

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