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4月以降、67歳までの人と68歳以降の人で「年金額に差異」が生じるワケ

年金は、日本の全国民に関係することですが、意外とわからないことだらけですよね。今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、発表された令和5年度年金額に使う「物価」と「賃金」の値を引きながら、年金の変動率などについて詳しく解説しています。

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令和5年度年金額は、67歳到達年度までの人と68歳到達年度以降の人ではなぜ分れたのか等

1.年金は3年ぶり増加。しかし実質は目減り

令和5年度年金額に使う物価と賃金(名目手取り賃金変動率)の値が発表されました。

物価変動率は2.5%上昇で、賃金(名目手取り賃金変動率)は2.8%上昇となりました。

令和5年度年金額改定についてお知らせします(厚生労働省)

年金というのはこれらの経済変動の値をもって毎年度、年金額を変更します。

しかし、平均寿命による高齢者の増加に伴う年金財源の負担増や少子化による働く世代の減少に伴う年金財政にとっての負担増を数値化して、年金の増加を抑制するマクロ経済スライド率が0.3%であったため、それらの物価や賃金の値から差し引く事になります。

そのため年金価値は実際よりは目減りする事になります。

ちなみに、令和4年度はマクロ経済スライド率(前年度は0.3%)による年金額の抑制が使えなかったので、これが令和5年度に繰り越しとなり今年度0.3%と前年度0.3%合わせて0.6%のスライド率が賃金や物価変動率から差し引かれて、年金額が令和5年4月分の年金から変更されます。

例えば老齢基礎年金の満額は令和4年度は777,800円(月額64,816)ですが、令和5年4月分(振り込みは6月15日から)の基礎年金満額は68歳到達年度以上の既裁定者の人は792,600円(月額66,050円)となり、67歳到達年度までの新規裁定者の人は795,000円(月額66,250円)となります。

なぜ68歳到達年度前と後で分かれてるかというと、68歳到達年度以上の人は平成12年改正時に物価変動率で年金額を改定する事が原則とされ、68歳到達年度未満の人は賃金変動率により年金額を改定する事が原則とされているからです。

※ 参考

「新規裁定者」は65歳到達によって受給権を取得した後、68歳に到達する年度の4月1日前の年度までの年金を言います。つまり、65歳に達した日の属する年度の初日の属する年の3年後の年の属する年度までという小難しいものですね。

例として、昭和33年5月10日に生まれた人は、令和5年5月9日に65歳に到達し、そこで老齢基礎年金の受給権を得ます。

この人は令和5年4月1日時点の新しい改定率(賃金変動率を使ったもの)を使い、令和6年4月1日と、令和7年4月1日にそれぞれの前年度の改定率に賃金変動率を使って改定されます。

しかし、令和8年になるとこの人は68歳になる年度だから、令和8年4月1日以降は物価変動率で年金額を改定します。

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68歳到達年度以降は既裁定者と呼ばれます。

なぜ本当は65歳以降は物価変動率を使うはずが、そのまま67歳まで使い続けるのか。これは賃金変動率(名目手取り賃金変動率)の中にある実質賃金変動率の情報が2年遅れてくるからです。

この変動率を反映し終えるのに3年を要するため。

賃金変動率の内訳は、「名目賃金手取り変動率=前年の物価変動率×実質賃金変動率(2年度前から4年度前までの平均)×可処分所得割合変化率」という見ただけで頭が痛くなる式になっています(笑)。

可処分所得割合変化率というのは、これから保険料率が上がって手取りが少なくなるのを数値化したものです。

でも、可処分所得割合変化率(令和5年度は0.0%)は最近はもう厚生年金保険料が上がらないので、変化していません。

なお、名目賃金変動率=前年の物価変動率×実質賃金変動率(2年度前から4年度前までの平均)と表せます。

例えば見た目(名目)の賃金が10%上がっても、物価が10%上がったら生活水準は変わりません。見た目の賃金が上がった!と喜んでも、物価も同じだけ上がってるので特に生活に余裕が出るわけではありません。

しかし、見た目(名目)の賃金より物価の伸びの方が小さいと、それだけ生活に余裕が出る事になります。

この見た目の賃金の伸び(名目賃金)から物価変動率を除したものである、実質賃金がどのくらい伸びたかが重要。

式を変えると名目賃金変動率÷物価変動率=実質賃金変動率とも表せます。

実質賃金がマイナスになるという事は、賃金より物価の伸びが大きいから生活が苦しくなるという事になります。

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2.なぜ令和5年度の年金額はこの金額になったのか

さて、68歳到達年度以上の人はなぜ777,800円から792,600円となったのか。まあ1.9%アップ(1.019)ですよね。

そうすると計算としては777,800円×g=792,578≒792,600円としたのか…?

実際はまず、老齢基礎年金の本来の額は平成16年度の「780,900円」を基本の額として使っています。

その平成16年度価額780,900円から毎年の経済変動により、年金額を変更していくのですが令和4年度は777,800円まで変化しました。

令和4年度の基礎年金満額は平成16年度の780,900円に令和4年度改定率0.996を掛けて、777,776円≒777,800円(100円未満四捨五入)としたものです。

この改定率ってところが、物価や賃金などの率を反映させていく部分となります。
平成16年度から令和4年度までに賃金や物価が変動していった結果、令和4年度は0.996(マイナス0.4%)だったという事ですね。

次に令和5年度は物価変動率(今年の最新は前年の数値)が2.5%(1.025)上がったので、それからマクロ経済スライドによるマイナス0.6%(0.994)を掛けると1.025×0.994=1.019(1.9%)となります。

これを前年度である令和4年度の改定率0.996に掛けます。

よって、平成16年度価額780,900円×(令和4年度改定率0.996×物価変動率1.019=1.015)=792,613.5円=792,600円(100円未満四捨五入。月額66,050円)

68歳到達年度以上の人は基礎年金満額であれば777,800円から14,800円アップの792,600円の増額ですね。

ちなみにそんな事しなくても、前年度の777,800円にそのまま1.019を掛けたら、いいんじゃない?と思われそうですが、それだと時々金額がズレてくるんですよね。

令和4年度改定率0.996×1.019=1.014924となりますが、端数処理で1.015となるので、結果が少し変化してしまいます。

では次に、67歳到達年度までの人(新規裁定者)の場合。

こちらは賃金(名目手取り賃金変動率)を使います。

その賃金変動率は2.8%(1.028)でした。マクロ経済スライドはマイナス0.6%なので、1.028×0.994=1.022となります。

令和5年度の基礎年金満額は平成16年度価額780,900円×(令和4年度改定率0.996×賃金1.022=1.018)=794,956.2円=795,000円(月額66,250円)となります。

令和4年度基礎年金満額777,800円よりも17,200円多い795,000円となりましたね。

ここも777,800円に1.022を掛けてやればいいじゃんとやってしまうと…794,911円=794,900円となって金額が上記とズレてしまいます。

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3.67歳到達年度までの人と68歳到達年度以降の人では年金額に差が生じる

さて、令和5年度は67歳までの人と68歳以降の人の年金額に差異が生じる事になります。

今まではそんな事あったような無かったようなというくらいのものでしたが、どうしてこのような事が生じるのか。

それは平成12年改正で、65歳以上の人(実際は68歳到達年度以降の人)は賃金ではなく物価変動率で改定しましょうねという事が原則となったからです。

65歳以上のこれから本格的に年金受給者となり大半の人が年金受給者となる年齢になる中で、賃金ではなく物価を原則としたのは、年金の抑制の為でした。

多くは物価よりも、賃金の伸びの方が大きいケースが多いので(もちろんそうではない事も有りますが)、賃金ではなく物価の伸びを原則とすれば年金給付抑制に繋がるだろうと考えられたからです。

年金というのはどうやって払ってるかというと、現役世代の賃金から払う保険料から支払われてます。厚生年金保険料は保険料率18.3%を会社と折半で徴収しています。

よく、年金積立金が無くなると年金が貰えない!みたいな憶測が飛び交いますが、積立金は主な財源ではありません。保険料と一定の国庫負担で足りない時に使う程度のものです。

年によっては保険料収入が少ない時があって年金給付に足りない時は積立金からちょっと拝借して給付をし、ある年は保険料収入が余分に入ってきたから積立金に入れておくというですね。

個人の場合で考えると、例えばいつもは毎月の給料で生活してるけど、ちょっと急な出費が増えた時に貯金からも少し頂戴するような感じですね。
逆に給料が思いのほか多かったら、貯金のほうに蓄える。

年金積立金はそのようなものです。

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さて、賃金の伸びが上がると、必然的に支払う保険料額も増えます。そうすると自動的に年金も賃金の伸びの分だけ増えます。

就労世代が支払う保険料をその年の年金受給者に送る年金の支払い方式を「賦課方式」といいますが、就労世代の賃金が伸びれば支払う保険料も増えるので、その分年金も自動的に増えるわけです。ほとんどの国の年金はこの賦課方式です。

この時、保険料負担額が増えるからなんとなく、負担が増えたなあ…と感じてしまいますが、「保険料率」で取ってるので見た目の負担が上昇したわけではありません(賃金に対する負担割合は変わってない)。

賃金の伸びで年金額を変更すると何がいいかというと、現役世代と年金世代との生活水準の差が開く事はありません。

現役世代と年金世代の生活水準に差が開かないようにしていたのが賃金の伸びによる年金額改定だったのです。

昭和48年改正時に、現役男子の平均賃金に対して約60%以上の給付を維持するという「年金の実質価値の維持」が目標とされた時、賃金変動率に合わせるという事がその目標を達成するのには最善でした。

実際は5年に一度の年金額を再計算する時に賃金の変動率を使って、年金額を変更していました(これを賃金の再評価という)。

5年に一度が来るまでは毎年物価変動率で購買力の維持。

平成16年度以降は5年に一度ではなく毎年、賃金の再評価をするようになりました。

しかし、平成16年の前の改正である平成12年改正で65歳以上の人(実際は68歳到達年度以降から)は物価変動率で年金額を変更する事になりました。

もし現役世代の賃金が物価の上昇よりも伸びると、そこで両者の生活水準に差が出てきます。

物価より賃金が伸びれば、現役世代はより良いモノやサービスが受けれるようになりますが、物価の伸びに合わせると購買力が維持されてるという状態にとどまります。

平成12年改正以降はせめて購買力の維持でやっていこうという事になったのですね。

しかしながら、物価よりも賃金のほうが下がるという事も、今までの間に結構ありました。デフレ続きだったからですね。

じゃあ、賃金の伸びよりも物価の伸びの方が大きかったらどうするのか。

こうなると支え手である現役世代の賃金の力を、年金受給者の力である物価が超えちゃってますよね。

そのまま年金額を変更してしまうと、支え手の力を上回るのは年金財政を守る上では都合が悪いので、こういう時は65歳以上の人(実際は68歳到達年度以上の人)の年金も低いほうである賃金の伸びに合わせていました。

こういう例外がよくあったのです。

じゃあ、令和5年度を見てみると物価は2.5%の伸びで、賃金は2.8%の伸びですよね。

つまり年金財政を支えてる現役世代のほうにとって都合がいい状態になっています。

年金財政にとって都合がいいのであれば、原則通り65歳以上の人(実際は68歳到達年度以上の人)は物価変動率を使って年金額を改定し、65歳未満の人(67歳到達年度までの人)は賃金による年金額改定を行います。

よって、令和5年度の年金額は68歳前後で金額の伸びが異なるため、金額にズレが生じる年となります。

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4.厚生年金額はどうなるのか

次に、厚生年金額はどうなるかというと、もちろんこれも67歳までの人と68歳までの人では年金の伸びが異なってくる事になります。

厚生年金のどこを変化させるのか。

厚生年金計算には必ず使うものがありましたよね。

そう。過去の給与記録である、標準報酬月額とか標準賞与額(賞与は平成15年4月1日以降が年金に反映)です。

ココを賃金変動率や物価変動率を使って変化させて、厚生年金額を変化させます。

例えば、昭和50年ごろの給与(標準報酬月額)が10万円だった人は今の10万円と同じ価値を持つでしょうか。

あれから経済も発展して、賃金も伸びていきましたよね。

どのくらい賃金が伸びてきたのかという係数(再評価率)というものを使って、過去の給与記録を現在の貨幣価値に直して年金を支払うのです。

昔って例えば昭和30年代頃は月給1万~2万円とかで暮らしていた時もありましたよね。当時はそれで十分良かったんでしょうけど、今この令和の時代にそんな額で年金計算したらとんでもなく低い年金になってしまいます。とてもじゃないけど生活できません…

だから、当時の貨幣価値から現在までの賃金の伸びを表した係数である再評価率というものを掛けて、現在の貨幣価値で年金計算をするのです。

そうすると先ほどの昭和50年の時に給料(標準報酬月額)10万円貰った人は、令和現在は再評価率2.7とすると給料(標準報酬月額)27万円として年金計算をします。

こうする事で賃金の価値が将来変化しても、対応できる仕組みになっているわけです。

で、この再評価率に賃金の伸び率を掛ければ、過去の給与(標準報酬月額)全体を変化させる事が出来ます。

よって、先ほどの再評価率2.7に賃金変動率1.022を掛けると2.759(小数点3位まで)となり、10万円×2.759=275,900円の給与記録になります。

もし、昭和50年の12ヶ月で毎月10万円稼いでいた人の厚生年金を計算してみましょう。

そうすると10万円×7.125÷1,000×12ヶ月=8,550円にしかなりません。

再評価率2.759を掛けると、10万円×再評価率2.759×7.125÷1,000×12ヶ月=23,589円となります。厚生年金は過去全ての給与記録にこんな膨大な計算をして支払ってるんですね。

よって、厚生年金はこの過去の給与記録に賃金変動率(67歳到達年度までの人)や物価変動率(68歳到達年度以降の人)を掛けて、毎年年金額を変更しています―― (メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2023年1月29日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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