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プーチンは「自滅」へ。欧米のウクライナ戦車大量供与が世界を激変させる

かねてからのゼレンスキー大統領の念願が叶い、ついにウクライナに供与されることとなった西側諸国の最強戦車群。3ヶ月先とも言われるそれらの前線への投入は、この紛争をどう変えるのでしょうか。今回のメルマガ『uttiiジャーナル』ではジャーナリストの内田誠さんが、ゼレンスキー氏が戦車を切望してきた理由と、その供与が戦況を超え世界に与える影響を考察。さらに今後のプーチン氏の動きについても予測を記しています。

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ウクライナへの「戦車供与」で世界は大きくかわるのか?:「デモくらジオ」(1月27日)から

冒頭にお話申し上げようと思っておりましたのは、ウクライナの話です。ロシアによるウクライナ侵攻という驚天動地の出来事があって、今も尾を引いている、いや尾を引いているどころか、いよいよ激しい戦いが行われている訳ですけれども。これがどういう形で決着するのか。私が思いますに、どんな結果になろうとも、その後の世界というのはそれ以前の世界とはちょっと様相を異にするのではないかという気がしています。

それは、ロシアのように強大な軍隊を持って独裁政権を維持しているような国が、比較で言えば、遙かに弱小の軍隊しか持っていないウクライナに負け続けている。「負ける」といいますのは、それぞれの戦線で敗北するということだけではなくて、とにかく損害が大きい。特に兵士の損耗。ものすごい数のロシア兵が、ロシア人が軍服を着せられて動員令とともに前線に放り出されているわけですけれども、大変な数のロシア人、ロシア兵が死んだり酷く傷付いたりしている。

勿論、ウクライナ側も大変な数の人が亡くなっているわけで、一般人も大勢亡くなっているわけですが、ロシアでこれだけ大勢の人が亡くなるという現実は、その後ロシアがこの戦争に勝ったと言おうが言うまいが、ロシア国内での政治的な変動に結びつかざるを得ないだろうと思います。誰の目にも、どのロシア人の目にもおそらくこの戦争で酷いことが起こったのだということは認識されるでしょうから、そのことが全く政治的な変動に結びつかないということは、あったとしたら本当に不幸なことで、おそらくは大きな変化、何らかの意味での変化が訪れる。

決して、良い方向、それ以外の世界にとって幸せな方向での変化になるかどうかは分からないにしても、何も変わらないということはおそらくないだろうという気がします。アメリカの国防長官が早々と、ウクライナを支援することでロシア軍の弱体化を図るということがアメリカの目的だと言ってしまいましたが、あれは実に正直な告白だったのだなという気がします。

現在の状況ですけれども、ニュースの中で戦車の型式というか名前と言いますか、それが次々出てくるというのは、凄い時代になったのだなあという感慨もあります。戦いの前線そのものは、ウクライナ東部のソレダルという場所をロシアが完全に掌握したと主張し、ウクライナ側も撤退したと認めている。実際、その町はロシアが押さえ、さらに南側にあるバフムートという拠点を押さえようとしている。なんでその町が大事なのかということは、私のような軍事の素人から見ると、一つでも多く町を制圧しようとしているのだろうということくらいしか思い浮かばないのですが、おそらくプーチンさんの戦略的な目的にかなった行動であり、少なくともそう思われているのだろうと。

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しかし、そこで行われている戦術のすさまじさ。色々な方の証言がありますが、動員でかき集められた、ろくに戦闘経験もないような人が、いわば「弾の的」のようにされていて、その人たちを含めた膨大な数の兵隊が攻め込む。万歳突撃のようなことをさせられ、次々に動員兵らが死んでいくと。その間にウクライナ兵の方も少しはやられていくという作戦…作戦と呼べるものなのか否かはよく分かりませんが。なんとも非人道的な…。もともと戦争はすべて非人道的かもしれません。

でも、戦略戦術の採用の仕方の中には、その社会が持っている民主主義だとか自由とか人権とか、人道主義というようなことについてのレベルというか、標準がそこにも現れるだろうと思います。こういう酷いことをやって、あるいはやり続けることができるロシアという国の民主主義の状況、人権の状況はこうなのだろうなあと思わざるを得ませんね。戦争は殺し合いだというのも正しいでしょうし、殺し合いである以上、そこに人道主義は関係ないというのも当たっているのでしょう。でも、殺し合いの場面の中でも、色々なことが見えてくるのだろうと思います。

今、東部では一部に激しい戦闘が起きている状況のようですが、その他の場所については、どうもロシア軍は、本格的な攻撃が出来なくなっているような気配があり、激戦はここ、バフムートだけなんですよね。このレベルで戦闘をやっているのは。ロシアはおそらく春にさらに動員をかけ、大量の兵隊と軍備を傾けてどこかに新しい戦線を構築しようとしているのだと思います。つまりは春の大攻勢をかけようとしている。

そして実は、ウクライナ軍も同じことを考えている。よく言われているように、気候気象の条件。長雨とか泥濘だとかがあるのですが、春になるとそれらがなくなって、戦闘がやりやすくなる。両軍の非常に大きな部隊同士による、大兵力同士の戦闘が起こるのではないかと言われている。そこで、ウクライナ軍からすると「領土の回復」が最大の目的のはずですので、そのためには何が必要かというと、戦争の論理では、戦車が必要ということになるのですね。

戦車の存在は領土を回復する上では非常に大きいということなのだそうです。ところがウクライナ軍が持っている戦車は数も少ないですし、能力も高くない。ロシア軍の大量の戦車群と対峙したときには、勝てそうにないわけで、ゼレンスキーさんは西側の新しい戦車を送ってくれと、支援国に対してずっと訴え続けてきたわけですね。そのためにアメリカまで行ったりもしていたわけですが。ヨーロッパの、NATOと言っても良いですが、ヨーロッパの西側諸国の基本的な軍備の中に位置づけられている標準的な戦車が、ドイツ製の「レオパルト2」というものですよと。それがほしいと。これ、古い戦車ですが、何度も改修を重ねられ、近代的な兵器に生まれかわっている。NATO軍の標準装備なわけですね。

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これをゼレンスキーさんは確か300輛ほしいと言っていた。呼応するように、ポーランドとスペインが送りたいと言っていた。しかし製造国ドイツが許可を出さなければダメですよということでずっと留まっていた。ドイツ自身がレオパルト2を供与すべきか否かについて国内で議論があり、実際上グダグダしながら渋っていた。それが今回、アメリカも軍が持っているエイブラハムという滅茶苦茶重たい戦車、これを供与するという決定をして、同じ日にドイツもレオパルト2を出すと表明。これでポーランドやスペインも出せることになりました。また、名前は違いますが同じような能力を持ったイギリスのチャレンジャー。あるいはフランスのルクレール。これら全部戦車の名前なのですが、それが基本的なNATO軍の装備なわけですね。これが今の段階で、ウクライナ向けに百数十輛は確保されていると。凄い台数ですが、必要なのは300輛と言っていたのが正しいとすると、ゼレンスキーさんの言っていることが正しいとすると、まだまだ半分くらいということになりますね。

しかしこの供与はすぐではなく、時間が掛かる。新しく作って出す、あるいはウクライナの戦車兵に訓練をしなければならない。訓練は多分ドイツやポーランド、イギリスなどで行われるのだと思いますが、そのためにおそらく3ヶ月は掛かるだろうということです。となると、この先、おそらくはまずロシア軍が大攻勢を初めて、それをウクライナ軍が受け止めている間に戦車自身の供与が始まって…という展開になるのかなと思います。ロシア軍からしたら、そんな戦車にこられたら具合が悪すぎる。ロシアはなんとかウクライナへの戦車供与を妨害しようとするのではないかと思います。

そういう状態で、今、激しい戦闘が行われているのは東部のごく一部であり、南部、西部は比較的静か。南部で今何が起きているのか分からないのですが、膠着状態になっているのではないかと思います。

で、これ、戦後と言いますか、戦いが終わった後の社会を展望する上で色々なことがあると思うのですが、ドイツが戦車を出すことになりましたが、ドイツは、アメリカさんが出すならウチも出しても良いよということだったのかと思います。みんな、「最初」になりたくないというようなことがあるのですね。アメリカはロシアを刺激しすぎない方が良いと多分考えたのでしょう。ドイツはドイツで今もエネルギーをロシアに依存しているところがある。それを必死に回避しようとしているわけですが、少なくともあと1年くらいは依存しなければならない。

それからそもそも軍備の輸出、とくに攻撃的な兵器を他国にばらまくことに関して、国民的な批判が強い。さらに、誰かが言っていたことですが、ロシアはドイツの政治家に金をばらまいて手懐けていたのではないか、というようなことまで言われていた。とにかく、そのような、出したくない状態から、一気に出すことになった。フランスかイギリスとかアメリカとかは多分、本音から言うと出したいのだと思いますね。実際の戦闘に参加したことのある戦車って、チャレンジャーはないですし、ルクレールもない。それからレオパルト自身が実際の戦闘に参加したことはないはずですよね。これらの国々では、戦車が実際の戦闘に出てきた経験て、そんなにないのだと思います。

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ロシア軍はいっぱいあるんですね。となると、そのような意味でも、この機会に出さざるを得ない、ですから出すということになっているのだと思いますね。そのことをどう考えるかというのは色々あると思うのですが。3ヶ月、これから3ヶ月くらいの間にウクライナがコテンパンにやられてしまい、ウクライナ軍が消滅の危機を迎えるなどということがあれば、戦車を送る話も意味を失うのかもしれませんが、そうでなければウクライナ軍が生き残れば、戦車の供与は大きな力になって、その後の世界の諸変化につながるかもしれない。

まあ、戦車で世の中が変わるというのも馬鹿馬鹿しい気がしますが、現在はそのような状態なのだというふうに思います。やっぱりこの戦争は普通のことではなくて、未だになぜ思いとどまることが出来なかったのか、という疑問がつきないのですが、これはもうプーチンさんにとっては完全に自滅の道以外のものではありえない気がするんですね。

この件に関して、自衛隊の元幹部の発言がありましたけれど、その中に一つ感心したものがありまして、この間、ロシア軍の司令官の交代が頻繁にあったじゃないですか。で、今、4人目か5人目でゲラシモフ総参謀長が就きましたよね。参謀総長というか、制服組のトップがこの戦争の司令官になったということは、ロシア軍が、ロシア軍のどの部分もゲラシモフの意思によって動員されるといいますか、動かされることになるのですね。これ、凄いことでしょ。ゲラシモフさんまではそうではなかった。今回の戦いに勝つためにロシア軍が組織を変えて機構を変え、外征軍、国外に出て行って軍事的な目標を達成して返ってくる、そのために特別に編成された軍隊を用意しようということであればまだ分かるのですが、そうではなくて、既存のロシアの各地域がありますが、それそれの司令官だったり、あるいはスロビキンさんみたいに航空宇宙軍の司令官だった人、そういう部分的なトップの人がこれまでは司令官になっていたのです。それ以外の、自分が担当していない部分の行動について、特別な軍事行動だからということで、真の司令官的な機能を持ったかというと、どうもそうではなかったらしい。

どういうことかというと、ロシア軍というのは基本的に防衛的な軍隊で、外征と言いますか、外国を侵略するようには作られていない。特別軍事作戦を行うには特別な軍事の態勢が必要だったはずなのに、それを作らずにやっていると。それが色々な作戦の混乱であるとか、数々の失敗に結びついているのではないかということでした。ああ、なるほどなと思いました。そういう意味ではアメリカは海外で戦争を散々やってきましたが、ちょっと違ったんだろうなという気もします。

ウクライナの侵略の総仕上げ…なんて言うと変ですが、この戦いに負けたらロシアにはもう後がないという戦いをこれから春期大攻勢でやろうとしているらしいのですが、その帰趨は軍事オタクの興味範囲ではなくて、我々の日々の生活、今、この物価高がものすごく、その影響は明らかにウクライナ侵略の悪影響が一因ですので、そういうことも含めて関心を持ちつづけなければならない問題だなと改めて思います。

(『uttiiジャーナル』2023年1月19日号より一部抜粋。全てお読みになりたい方はご登録ください)

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image by: Karolis Kavolelis / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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