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かんぽ生命「実績の3倍」ノルマに感じる、不正発覚前と同じ“危険なニオイ”

2019年に保険料の二重取りなどの不正販売が発覚し、世間から大きな批判を浴びたかんぽ生命。朝日新聞に掲載された「今年度実績の3倍のノルマを設定」との報道に「目を疑った」と驚くのは、メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』著者で健康社会学者の河合薫さん。4年前の不正販売の根本原因が、厳しいノルマと社内のパワハラ体質にあったと振り返り、社長は辞任したものの現場だけが責任を負わされたことで経営の体質は変わらなかったと指摘。独自の聞き取りで、いまもパワハラがあるとの声を紹介し、同じことの繰り返しとなる危険性を伝えています。

プロフィール河合薫かわい・かおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

かんぽ実績の3倍のノルマに「高すぎ」の声。過剰な目標が過去の不正につながった

「え?大丈夫なの??」と目を疑う記事が、昨日(21日)朝日新聞に掲載されました。ーかんぽ「契約目標90万件」今年度実績の3倍 現場は「高すぎ」ーとの見出しです。

内容はかんぽ生命が不正が発覚して以来、3年ぶりとなる「ノルマ」を復活させた昨年度と同程度ではあるものの、22年4月~12月期決算の新規契約数は目標の3割強に留まっているため、実績に対して3倍の数値目標を掲げていることを書いたものです。

過剰なノルマが不正につながった過去があるだけに、現場からは「高すぎる目標の根拠がわからない」「数字ありきの営業目標だ」との声が上がっていると報じました。

4年前の出来事なので、忘れてしまった方もいるかもしれませんが、高齢客らに保険を乗り換えさせて不利益を与えるなどの不正問題に関する経営陣の対応は、誠実とはかけ離れたものでした。

そもそもの始まりは、2019年6月14日。ゆうちょ銀行の「多数の店舗・社員において、投信の販売時に社内ルール等に即しない取り扱いや営業行為が認められた」というメッセージを、6月上旬に池田憲人社長が社員に送り、2018年度の社内表彰式を中止したという「隠された事実」を、一部新聞紙が報じたことでした。

その第一報から10日経った6月24日。かんぽ生命は、2018年11月分の契約を調査した結果、同時期の約2万1000件の契約乗り換えのうち、約5800件で契約者の負担が増えていたと公表します。しかし一方で、「不適切な営業とは認識していない」と説明しました。

さらにその3日後の27日には、24日の公表後に顧客から苦情が殺到し、過去5年分の契約を調査したところ、不利益を受けた事例が約2万4000件にのぼっていると発表します。

既にこの時点で後手後手なのですが、西日本新聞のスクープで問題はさらに拡大。7月7日、西日本新聞が「半年以上、新旧の保険料を二重払いさせたケースが2016年4月~18年12月で約2万2000件に上る。意図的に不適切な販売を行っていた可能性が高い」とする記事を公開したのです。

で、翌日。かんぽ生命保険は、契約者が新旧の契約を重複して保険料を半年以上、二重払いしていた事例が約2万2000件あると発表し、「営業社員が手当を満額受け取るため故意にやった可能性がある」「再発防止のため、社内での指導や必要な処分を進めている」と、「あくまでも現場の問題なんだよね~」と豪語したのです。

そして、さまざまな報道がされる中、かんぽ生命の植平光彦社長と、販売委託先の日本郵便の横山邦男社長が、7月10日、2時間超の記者会見を行います。

しかしながら、内容は「保身」に満ちたもので、記者からの質問に答える表情には「おまえら何言ってんだよ」といった“圧”をかけるあり様で。前代未聞の不正問題をおかしたトップとは思えない、不誠実で、傲慢な、答弁を繰り返したのです。

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そのかんぽが、実績の3倍の「ノルマ」を課した、と。むろん営業目標は必要ですし、ノルマを課すことは、どんな企業でもあります。しかし、不祥事発覚後、不正を生んだ原因に経営陣は正面から本気で向き合ったのか、甚だ疑問なのです。

なにせ、19年に発覚した不正は「起こるべくして起きた事件」としか私には思えないからです。もう15年近く前になりますが、日本郵便労組主催の講演会に呼ばれた時、「パワハラが多くて困ってる。どうにかならないものか」という声を聞きました。

民営化でそれまで1つだった会社が3つに分割され、人間関係が悪化。さらに過剰なノルマが課せられ、パワハラが増え、うつになる社員が増えていると嘆いていたのです。

その後も何回か日本郵政グループの組合主催の講演会に呼んでいただいたのですが聞こえてくるのはパワハラ問題ばかりです。「恫喝研修」「懲罰研修」という言葉は何度も耳にしましたし、その実態を話してくれた人もいました。

要するに、組織構造そのものに病巣があり、現場ではなく組織を腐敗させた経営側の問題が、不正に走る社員を生んだのは明らかです。なのに19年の不正発覚後、厳しい処分を下されたのは現場の、実際に不正に手を染めた社員ばかりでした。日本郵政グループのトップは引責辞任しましたが、社外取締役も含めた経営陣の刷新は行われていません。

むろん組織文化を変える改革は行なったようです。しかしながら、現場で今も働く人たちにコンタクトしたところ、「何も変わってない」という意見が聞かれました。

中には「以前より働きやすくなった。組織が変わろうとしてる空気を感じる」という前向きなコメントもありましたが、「パワハラはいまだにある」「現場の声が届いてないと感じる」という人は決して少なくありませんでした。

そもそもいまだに半官半民という昭和型の組織構造を続けてること自体に、相当の無理がある。日本郵政の株式の60%近くを政府がいまも保有しており、完全な民営化とはほど遠いのです。

つまるところ、19年にトップらが会見した際に感じた「経営と現場の距離」は変わってないのではないか。そこで厳しいノルマを課した先にあるものは?

みなさんのご意見、お聞かせください。

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image by:oasis2me/Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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