「年金積立金で何兆円の赤字」こういった見出しをニュースで見ることってよくありますよね。そのたびに気になるのが「年金積立金が赤字になったら年金が破綻するんじゃないか?」という不安ではないでしょうか。今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、年金積立金についての歴史を詳しく解説しながら、この不安が杞憂である理由を説明しています。
年金積立金の現在の役割と進行する高齢化への対応、そして年金積立金の重要な歴史
1.年金積立金の運用が赤字になると年金が危ない?
よくあるんですが、「年金積立金で運用が何兆円赤字」みたいなのがニュース記事として取り上げられたりしますよね。先月も1.8兆円赤字という見出しでありました。
どういう人が書いてるのかはわかりませんが、年金積立金のそのような記事を目にするたびに悪意しか感じないです。いつまでそんな不毛な事を書き続けるのだろうか。
なんとかして不安を煽りたいのかもしれません。
僕からしたら年金積立金というのは年金の主な財源ではないし、単なる評価益か評価損を示してるだけなのでフーンとしか思いません。
民間で個人で金融商品(投資信託など)やってる人なんかも、運用が下がったり上がったりを繰り返しながらすこーしずつ資産を増やしていくものですよね。
年金積立金の運用益がどうのこうのというニュースには、フーンとしか思いませんが、単に短期的に赤字が出ましたって事だけ記事に取り上げて国民の不安や年金に対する不安を煽られるのが本当に迷惑だと感じま(何兆円というお金が動くのでとんでもない事だと勘違いしやすい)す。
それに赤字はニュースにするけど、黒字になった時や今までの事は表立って知らせようとしない。報道の仕方が不公平ですね(こういう事は他の場合でもよくある事ではありますが)。
メディアの悪いとこですが、良いニュースは視聴率取れないからあまり話題にせず、悪いニュースや不安なニュースは視聴率取れるからそういうのが積極的に話題となりやすい。
だから、ニュースってネガティブな話題が多いものです。
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2.年金積立金のそもそもの役割
さて、年金積立金は平成13年から大蔵省から独立して厚生労働省が独自に運用する事になりGPIFというところが運用を続けています。
年金積立金の運用は国の資金だから大蔵省が管理する!って譲らずに、ずっと厚生省に渡さずに来ましたが、小泉内閣の時に財政投融資というのを廃止したので、それがキッカケで厚生労働省にようやく積立金が渡る事になりました。
財政投融資という制度がある以上、郵便貯金や年金積立金のお金が自動的に道路公団のような特殊法人に流れてしまっていたからですね。
まあ、経済発展を続けていた頃であれば道路作ったりなど、潤沢なお金でインフラを整備する事で劇的に経済効果が上がっていたんですけどね。
もうそんな事したって大して経済が良くなるわけないですので、自動的に特殊法人に大量のお金が流れてくる財政投融資を小泉内閣(平成13年4月26日~平成18年9月26日)の時に廃止させたのであります(実際の廃止は小泉内閣発足前の平成13年3月でしたが、小泉元総理がずっと問題視していた)。
厚生労働省の自主運用を開始して以来100兆円の運用収益を上げています。運用利回りはプラス3.38%とかその辺ですね。
非常に順調にやってるのではないでしょうか。2020年なんか過去最高の37兆円の黒字を出したのに、あんまり話題にもならなかったですよね。
しかし、そういう面はあんまり取り上げずに、短期的にマイナスになったらすぐに大々的にニュースにするというね。
この報道の差ですよ。
200兆円ほどの積立金があるから、ちょっとの上下で数兆円が動くから国民から見たら「うわー、年金ヤバいかも…」みたいに勘違いされてもおかしくは無いかもしれないですね。
正直、最初に言ったように年金積立金というのは年金の主な財源ではなく、主な財源は保険料と基礎年金に投入されている一般会計からの国庫負担です。
保険料と国庫負担では足りない時に調節弁(バッファー)として使うのが積立金です。それに結局は今後100年間のうちに年金積立金が年金財源に貢献する割合はしょせん平均して1割程度なものです。
なので、急に積立金が半分くらい吹き飛んだところで年金支給が無くなるわけでもない。
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そもそも年金積立金は日本としては多すぎなくらいです。
どのくらいかというと、年金は1年間に60兆円ほど支払ってますが、積立金は年間の年金給付の約3~4年ほどの額があります。200兆円を超えるくらいですね。
アメリカも日本と同じくらいの年分持っているくらいです。
しかし他の国(ヨーロッパあたり)なんかは、年金積立金は2~3ヵ月分ほどしか持ってませんが、別に破綻するとかいう話は聞きませんよね。
年金は保険料と一定の国庫負担で支払いますが、年によっては不景気や被保険者の減少などで保険料の収入が少なかったり、もしくは支払う人が増えて思いのほか保険料収入が多い時があります。
前者の場合は一時的に保険料と国庫負担だけでは足りなくなるので、足りない分を積立金から拝借して年金支払いに支障が無いようにします。
後者の場合は収入に余剰が発生したから、積立金の中に入れておきます。
個人単位で見る場合も、何か余計に支払いが発生して給料だけではその月の支払いが足りない時は貯金を取り崩したりしてなんとかしますよね。
逆に給料だけでその月の支出を十分やりくり出来たら、余った分を貯金に回したりしますよね。
積立金の役割はそれと同じです。
だから、積立金の話から年金は破綻するとか、もう将来は貰えなくなるとかいう話を真剣にしてる専門家の類の人(経済学者みたいな人が多い)を見ると何を言ってるんだろうと不思議に思います。
とはいえ、何か権威のあるような人がそういう事を言ってたりするから、国民が騙される点が困ったものです…。
年金積立金って年金給付の調節弁でしかないものなので、本当は僕としては年金の本質の外にあるような話はあまりしたくないのであります。
まあ、運用が絡むからそういう話が好きな人で楽しんでくださいといった所でしょうか。
しかし、わざわざ短期的に運用がマイナスになった事を取り上げて、国民に不安を煽る報道のその姿勢には憤りを毎回感じます。
これからもそういうニュースが続くのかと思うと、それはもう国民が騙されないように知識を持っておくしかないです。
年金積立金は超長期運用でやってるので、短期的な運用がどうこう言っても仕方ないです。
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3.団塊世代や団塊ジュニア世代のように高齢人口が特に多くなる世代に対応する
ところで、年金積立金は株とか債券などで運用してますが、なんとなくモニターをずっと見てるトレーディングみたいなイメージがありますかね。
株とかデリバティブ商品みたいなのやってる人なんかはずっと血眼になって画面に釘付けみたいな事も有るかもしれませんが、年金積立金でそんな事はやっていません。
インデックス運用と言ったら投資を勉強してる人ならすぐわかると思いますが(日経平均株価とかTOPIXみたいなのと連動するようなやつ)、運用先に任せて時々チェックすればいいだけのもの。
一生懸命利益を出そうと、損を出さないようにとモニターに人が張り付いてるわけではないので、結構少ない従業員で(150人くらい)で今まで100兆円もの運用益を出してこれたわけです。
さて、年金の3~4年分ほどの積立金があるわけですが、それは今後2100年ほどの間に1年分ほどまで減らしていく事になっています。
そもそも日本の年金積立金は多すぎるので、こんな200兆円もの貯金があるのはあまり良い事ではありません。よく池の中のクジラにたとえられますが、それほど巨額なわけです。
それだけのお金が積み立てられてると食い物にされかねない危険性もありますしね。世界情勢もいつどうなるかわからないですしね。
じゃあどうやってその積立金を1年分くらいまで減らしていくのかというと、今後の高齢化が進む中で高齢者が特に多くなる部分があります。
それは出生率が非常に高かった団塊の世代や、団塊ジュニア世代の人達ですね。
特にその世代の高齢者の人達は多いので、今の固定された保険料や国庫負担の収入だけでは収まりにくくなる時期があります(高齢化率は今は30%あたりですが、今後は2050年あたりに40%上限になる見通し。高齢者が増加すると死亡率も上がるので、その後が安定してくる)。
もう保険料率は上限固定してるから、高齢者が増えるからって保険料率を引き上げるわけにはいかないですからね。
じゃあ保険料を上げないようにするにはどうしたらいいかというと、高齢者人口が特に高くなる2つのコブの部分で積立金を取り崩しながら、支払い保険料や年金給付に支障が無いようにするわけです。
その特に高齢者が増加する2つの世代のコブに対して、積立金を取り崩しながら1年分程度まで減らしていこうとするわけです。
じゃあその世代を乗り切るとどうなるかというと、若い世代と高齢者世代の人口が安定するので、そうなると本来の年金積立金の役割である単なる調節弁に徹すればいいだけの話になります。
日本は人口が特に多かった世代のコブが2つありますが、他国にはそこまで極端な世代は無いので少ない積立金でも別に何とかなってるわけです。
よって、年金の主な財源は保険料であり、一定の国庫負担である事が基本であります。
とにかく年金積立金の本来の役割は調節弁(バッファー)であると認識していれば、くだらない年金破綻論だとか赤字が何兆円!みたいなしょうもない情報に振り回される事は無いでしょう―― (メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2023年3月8日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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