トランプ政権時代に問題視され一旦は収まったTikTokへの「スパイ疑惑」が再燃しています。米議会はTikTokの周CEOを呼び5時間以上にわたり公聴会を実施しましたが、今回もアメリカ側から決定的な証拠が提示されることはありませんでした。メルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂教授が、公聴会のやりとりやメディアの伝え方を振り返り、「結論ありき」で証拠を重要視しないのがアメリカの中国批判の一つのパターン、と指摘。今回の騒動の行方を探っています。
アメリカはどこまで本気でTikTok排除の損得を考えているのか
アメリカがやり玉に挙げる中国の「問題」には一つのパターンがある。それは疑惑に対し「ある」とアメリカが断じた証拠が提示されることはないことだ。だからこそ忘れかけていた疑惑が何度も再浮上して耳目を集める。
最近では新型コロナウイルスの武漢ウイルス研究所流出説や中国発の動画投稿アプリ・TikTokに対するスパイ疑惑だ。アメリカ政府や議会がTikTokを目の敵にするのは、その親会社・字節跳働(バイトダンス)が中国の企業だからだ。
こう聞けば日本の多くの読者は「中国企業であれば中国共産党の意向に逆らえないのだから疑って当然だ」と思うかもしれないが、そこまで単純な話ではない。そのことはこの原稿を最後まで読んでもらえれば理解してもらえるはずだ。
TikTokは世界で最もダウンロードされたアプリであり、成長速度も世界最速だ。米メディアは、アメリカだけでも毎月1億5000万人が使用していると報じている。
そのTikTokへのプレッシャーが最初に高まったのは3年前のトランプ政権でのこと。それがいまバイデン政権の下で疑惑が再燃しているのだ。同政権がバイトダンスに突き付けた最後通牒的な条件は「TikTokのアメリカ企業への売却」。もしくは、アメリカ国内でのアプリ使用の「禁止」だ。
議会は23日、最高経営責任者(CEO)の周受資を呼び、公聴会を開いた。周が議会で証言するのは初めてのことだが、公聴会は「説明を聞く場」というより、共和・民主両党の議員たちが立場表明をする政治ショーの場と化した。
5時間に及んだ公聴会を受け、メディアは一斉に「懸念払しょくできず」、「主張に隔たり」、「疑問は解けなかった」と報じたが、そもそも「結論ありき」だったという印象が拭えなかった。
3月24日に放送したNHK「国際報道2023」は、選挙をにらんだ政治的な動きに焦点を当てていたが、それはアメリカのテレビも同じであった。公聴会では議員が発した質問に対し周CEOが答えようとしても、遮られる場面が多くみられ、TikTok側の主張が伝わったとは考えにくかったからだ。
周CEOの主張は主に「中国政府に情報提供をしたこともなければ、求められたこともない」という点と「TikTokの情報は『プロジェクト・テキサス』によりアメリカ企業(オラクル)によって厳しく管理されている」という2点だった。前者に関しては、そういう疑惑に対して「証拠を見たことはない」と反論した。
この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ
アメリカ政府が外国企業に対して「アメリカの企業へ …
アメリカ政府が外国企業に対して「アメリカの企業への売却か禁止」という強い圧力をかけるのであれば、証拠を求めるのは当然のことだろう。
周CEOが言及した「プロジェクト・テキサス」とは、TikTokの情報を第三者が管理するシステムだ。具体的にはまずTikTokが新会社を設立し、その会社の取締役会がアメリカ政府に報告を行うことを義務付け、さらに従業員はアメリカ政府の承認を受け、米企業のオラクルがすべての利用者データを管理し、アルゴリズムとコンテンツもレビューするというシステムだ。
トランプ政権下で高まったTikTokへの懸念は、この「プロジェクト・テキサス」によってきちんと応え、払拭されたというのがTikTokの立場だ。つまり議会で再度この問題を蒸し返すならば、「プロジェクト・テキサス」の不備か、スパイ行為の具体的な証拠を見せてほしいというわけだ。
しかし議員らの質問は疑惑の追及というよりも断罪の色彩が強く、なかには「子供たちを自殺から守れるのか」と迫る議員までいて、TikTokに固有に存在すると指摘された安全保障の問題とは関係ない方向にずれる場面も散見された。
では、「プロジェクト・テキサス」を導入してもなお残る安全保障上の懸念とは何なのだろうか。現地メディアで報じられたポイントをまとめると、それは主にアルゴリズムの脅威ということになりそうだ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年3月19日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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