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骨抜きにしたのは安倍政権。権力の犬・山中委員長の「暴走」で揺らぐ原子力規制委の信頼

福島第一原発事故の反省から、高い独立性を付与され発足した原子力規制委員会。しかし今、その存在意義が大きく揺らいでいます。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、岸田政権の企てに加担するが如き山中委員長の暴走ぶりを詳しく紹介。さらに日本における「原発回帰の動き」がますます強まっていくと思われる理由を解説しています。

岸田の企てに加担。山中委員長の暴走で激しく揺らぐ原子力規制委員会の信頼

3月2日発行の当メルマガで、原発の運転期間を60年以上に延長するための法改正について、原子力規制委員会が「意見を述べる事柄ではない」として容認したことと、その考え方を委員会の総意のごとくでっちあげた張本人は山中伸介委員長なのだという筆者の見方を書いた。

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委員会の議事録をたどっていけばわかることで、れいわ新選組の山本太郎議員も同じ見方をしたのだろう。3月16日の参議院東日本大震災復興特別委員会で、次のように山中委員長本人にただした。

「そもそも山中委員長がよく引用している『運転期間の定めは利用政策判断であり規制委員会が意見を述べる事柄ではない』という文言、もともとは誰が発言したものなんですか」

山中委員長の答えはこうだ。「令和2年の7月22日に規制委員会が開かれ、その時に私が、運転期間は原子力利用の政策側が判断すべき事柄であって原子力規制委員会が意見を述べる事柄ではないという意見を申し上げました」

はっきりと自らの発言がもとになっていることを認めたのである。2020年7月22日開催の規制委員会で、委員の一人だった山中氏の発言した内容が、メンバー間で議論を深めることもなく、1週間後の同年7月29日に事務局(原子力規制庁)から提出された文書に盛り込まれたというわけだ。

昨年夏、岸田首相が運転期間の見直しを宣言して以降、「令和2年7月29日の見解」として山中委員長自身が記者会見などでたびたび引用。60年超運転への同意を求められた今年2月13日の原子力規制委員会でも、この「見解」を根拠に、一人の委員の反対を振り切って、多数決で法改正容認の結論を出した。

そのおかげで、岸田政権は原発を60年をこえて運転できるようにするための原子炉規制法、電気事業法改正案などを閣議決定することができたのである。

こうした経緯から、原子力規制委員会が政治から独立して原子力の安全規制を担えるのかという疑念があらためて浮上している。民主党政権末期の2012年9月に経産省から切り離され環境省の外局として設立されたものの、同年12月に第二次安倍政権が誕生すると、経産省の影響力がジワジワと浸透していった。

原発再稼働をめざす安倍政権が明確に原子力規制委員会の骨抜きにかかったのは2014年9月、島崎邦彦氏(地震学)と大島賢三氏(元外交官)が任期満了で退任し、その後任として田中知氏(原子力工学)と石渡明氏(地質学)を選任した時だ。委員の人選にあたっての欠格要件などを定めたガイドラインを安倍政権が無視したのである。

ガイドラインでは、直近3年間に原子力事業者から報酬を受領していたら委員になる資格はなく、原子力事業者から研究室に寄付があったり学生を就職させた場合は情報公開を求めることになっているが、原子力事業者との関係が深いと見られた田中知氏にそれが適用されず、野党から反対の声が続出した。

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ただ一人の地震学者退任に小躍りする原子力村の面々

2014年6月10日の衆議院議院運営委員会で質問した佐々木憲昭議員(共産)によると、田中氏が原子力産業協会の理事をつとめ、東電記念財団から報酬を受領していたことを田中氏自身が申告しており、2011年には、東電記念財団や原発メーカーの日立GEニュークリア・エナジーなどから160万円以上の報酬や寄付を受け取っていた。

また、慶應大学法学部専任講師、松浦淳介氏の研究論文によると、田中氏は2011年から14年まで一般財団法人エネルギー総合工学研究所で理事をつとめるなど原子力関係の6つの団体の委員となり、株式会社太平洋コンサルタントからは2011年に研究のための寄付金50万円を受けている。田中氏の指導を受けた学生が多数、東電や関電、日立製作所など原発関連企業に就職したことも明らかになっている。

こうして田中氏が加入し、委員会ただ一人の地震学者だった島崎氏が退任した人事は“原子力村”に大いに歓迎されたことだろう。

福島第一原発事故後の2012年9月、民主党政権が委員会を設置したさい、細野豪志原発担当相はこう強調した。「原子力村から規制委に地震学者を入れるなと圧力を受けたが、3・11の教訓を生かすために地震学の第一人者である島崎先生に無理なお願いをした」。

国民の立場から見ると、地震の専門家が入らないで、どうやって地震・津波に対する原発の安全性を確保するのかと思う。ところが、電力会社は違うようだ。地震対策は完璧にやろうと思えばきりがなく、カネがかかってしようがない。地震学者はいわば“天敵”に見えるのだろう。実際、島崎氏は委員会の中で、唯一といっていいほど厳しい審査をして、原子力村やその御用メディアの批判を浴びていた。

現委員長、山中伸介氏(原子力工学、核燃料工学)が委員になったのは、2017年9月である。初代の委員長、田中俊一氏が退任したのに伴い、新たに選任されたのだが、この人も原子力業界との関係が深かった。大阪大学大学院工学研究科の教授だった2016年度に、経産省や文科省の天下り組織である日本原子力研究開発機構(JAEA)から共同研究費として873万円を受け取るなど、3年間で4つの原子力事業者から計1,500万円近い寄付を受けている。

事務局を担う原子力規制庁は、幹部の大半が原発を推進する経産省(旧通産省)の出身者で占められている。そのうえに、委員の顔ぶれも、交替のたびに経産省寄りに変わってきているのだ。

原子力規制委員会は国家行政組織法三条に基づく、いわゆる「三条委員会」である。それを設置する環境大臣からなんら指揮監督を受けることなく意思決定ができる機関だ。

大地震や津波が想定されながら福島第一原発事故を防げなかったかつての規制機関、原子力安全保安院は経産省のもとに置かれ、原子力安全委員会は内閣府の審議会に過ぎなかったが、事故への反省に立って高い独立性を与えられたのが原子力規制委員会であったはずである。

だからこそ、その設置法で各委員には「中立公正な立場で独立して職権を行使する」という立場が保障されている。

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原発延命という岸田政権の企てに加担した山中委員長

そして原子力規制委員会を規制行政の責任機関として一元化し、重大事故対策の強化や、原則40年・最長60年の「運転期間の制限」を設けたのが、2012年に改正された原子炉等規制法だった。

その原子炉等規制法を改正し、安全審査で長期停止した期間分を60年に上乗せして原発を生きながらえさせようという岸田政権の企みに、山中委員長は「意見を述べる事柄ではない」という姿勢で加担したのである。

昨年9月まで委員長だった更田豊志氏は規制委員会発足以来のメンバーだが、2017年1月、電力会社の原子力部門との意見交換会に一委員としてのぞんださい、運転期間延長の要望を受け、「私たちは法律で与えられた権限に基づいて仕事をしていて、勝手な法解釈をするわけにはいかない」と一蹴している。

安全規制を担う唯一の機関として独立した立場を、原子炉等規制法と規制委員会設置法によって与えられている以上、更田氏の発言は当然というほかない。

その更田氏の後任委員長である山中氏が原発運転期間の延長について「委員会が意見を述べる事柄ではない」と言い出した根拠は、法に基づくものではなく山中氏の私見にすぎない。委員会で十分な議論を経た見解でもない。

岸田政権は、原発の活用を「国の責務」とすることを盛り込んだ原子力基本法改正案も、今国会で成立させる方針だ。首席総理秘書官、嶋田隆氏(元経産事務次官)の意見が反映されているとみられるが、東電取締役も経験し“原子力村”とかかわりの深い同氏が陰で実権を握っている限り、原発回帰への動きはますます強まっていくだろう。

原発推進側の嶋田氏にとって、規制側のトップに山中氏が就いたことは、この上なく好都合であったはずだ。

規制委員会の委員長と委員は両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命し、任期は5年で再任も認められている。委員長が再任を望むなら、首相の意に従おうという動機が生まれやすいことが危惧される。

もともと高いとはいえない原子力規制委員会への信頼性は、このところの山中委員長の“暴走”によってさらに激しく揺らぎだしている。規制する側が規制される側に支配される「規制の虜」となった歴史を繰り返さないためにどうあるべきか。今のうちにきちんと議論しておかなければ、取り返しがつかないことになる。

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image by: 原子力規制委員会

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