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「嵐の前の静けさ」か?中国がジワジワ狙う国際社会からの台湾排除と第3極国家の統一

習近平国家主席が着々と準備を進めているとされる、台湾の武力統一。しかし統一のためにメインとして行われているのは、「非軍事的な作戦」であるのが現実のようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、中国によるソフトラインのアプローチが、台湾統一だけでなく外交面でもすでに大きな成果を出しつつある事実を紹介。さらにこのような状況にある中、我が国は中国とどのような関係性を築くべきかについて考察しています。

じわじわと進む台湾「平和裏の統一」。奏功しつつある中国の巧みな非軍事的作戦

「ホンジュラスが台湾との国交を断絶し、中国との国交を樹立する」

報道ではさらっと報じられただけの内容ですが、G7外相会合でも懸念事項として挙げられた中国の台頭に対する対応にも直接的に絡むお話です。

ホンジュラスに端を発した台湾シンパの減少の影響は、今、グアテマラや他の中南米諸国、そして太平洋に位置する小島嶼国にも波及しています。

先日、蔡英文総統がベリーズなど、台湾と外交関係・国交を有する国を歴訪し、その帰路にロスアンゼルスでマッカーシ下院議長をはじめ、アメリカ議会超党派の親台湾議員グループにも面会しましたが、ホンジュラスの変心のように、中南米諸国が次々に台湾との国交を解消し、中国に乗り換える動きに出れば、このような外交活動を行うことも困難になることが予想されます。

別の見方をすれば、外交関係を失う、つまり政府・国と見なされなくなったら、台湾はChinese Taipeiという呼称もあるように、まさに中国(北京)政府が管轄する中国の1州という位置づけになってしまいます。

それは中国の共産党政権、そして習近平国家主席にとっては、予てより触れている台湾の平和的統一、中華統一という宿願成就を意味することとなります。

これを「中国が台湾に武力侵攻して、アジア太平洋地域が再度戦いの火の海になる可能性が排除された」と楽観的にみる勢力もあるかと思いますが、別の見方をすると、アジア太平洋またはインド太平洋地域の勢力図を大きく変え、地政学的な意味合いも変わることに繋がります。

民主主義陣営にとっては、アジア太平洋における親米の最後の民主主義勢力の砦が堕ちることを意味しますし(アジアにはまだ民主主義インドはいますが、インドはグローバル・サウスの主軸を占め、特に親欧米の立場を示してはいません)、南シナ海情勢も、東シナ海のパワーバランスも大きく変えることを意味します。

私は数年前に沖縄県那覇市で開催された琉球カンファレンスに招かれ、スピーチしたことがありますが、その際、参加者が沖縄を大琉球、台湾を小琉球と呼びあい、交流を図っている姿に感銘を受けると同時に、地域に流れる歴史の時を感じたのを思い出します。

ちなみにBeijing China、つまり中華人民共和国もこの琉球カンファレンスの主要なメンバーであるのですが、参加した方たち曰く、琉球カンファレンスにおける“席次”がその時のアジア太平洋地域における勢いの順を示し、かつ琉球コミュニティ内での重要度を示すのだそうです(私が参加した際には、実は沖縄の席次は1位ではなく、「沖縄のグローバル琉球コミュニティ内での衰えだ」とある元知事は仰っていました)。

「台湾の独立を阻止する」
「One Chinaの原則を堅持する」
「中国本土と台湾は不可分。政治的な争いによって分割されることとなったが、それは一時のことで、今、それは再統一されるべき時にきている」

いろいろな意見が北京サイドから投げかけられ、実際には台湾国内でも議論が分かれているところですが、台湾の立ち位置をどこに置くべきかについては、どうも結論が先送りにされているままのようです。

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着々と進められている中国による台湾統一作戦

米中間の緊張の高まりに合わせて、中台間の緊張の高まりが報じられていますが、琉球カンファレンスという枠組みにおいては、今でも双方ともに参加し、琉球という共通の認識で対話が行われているのは非常に興味深い状況です(今年はまた来月に開催だそうです)。

しかし、中国政府による台湾統一に向けた動きは着々と進められています。とはいえ、習近平国家主席が中国人民解放軍に命じた“2027年には台湾への武力侵攻ができる準備をするように”というハードラインの統一に対する動きはあるようですが、実際には主だった活動は非軍事面で進められています。

その最たるものはサイバー攻撃も含む台湾国民へのイメージ戦略です。与党民進党の敗北を招いた先の選挙(台北市長選など)への介入疑惑やウェブサイトの改ざん、親中派とされ現在は野党になっている国民党との接近と支援、中国本土と台湾のビジネスのつながりをカードとして用いる戦略(交流を促進したり、台湾対岸に経済特区をつくったり、また台湾の会社が中国本土に支社や支店、工場を持つことを後押ししたりする)を通じて、台湾の内政と国民感情に対して直接的な影響を与える手段です。

このソフトライン(非軍事)の台湾へのアプローチは、市民レベルでは比較的功を奏していると言われていますが、政府レベルでは政争の材料にされ続けています。

そして外交面では、アメリカによる激しいカウンターアクションを呼び込んでいますが、実のところ台湾国民のアメリカへの感情はプラスなのかマイナスなのかは分かりません(ただ、ペロシ下院議長が訪台した際の喝采と歓迎は、ポジティブなイメージなのかもしれません)。

印象操作やサイバーの他に、対台湾問題で中国政府が用いる非軍事的な手段・攻撃は、別の形でも表面化してきています。その典型例が最近、報じられたホンジュラスの変心です。

再選されたホンジュラスの現大統領はこれまで台湾との国交を「80年にわたり続く継続すべき歴史」と表現して大切にしてきましたが、中国からの経済的なオファーや支援、投資などの条件を提示されたこともあり、外務大臣に中国との国交樹立に向けた手続きを始めるように指示し、実質的に台湾との国交を諦める方向に舵を切りました。

ホンジュラスが北京と国交を樹立することを決めたことで、3月25日に台湾との国交が断絶され、結果、台湾と国交を持つ国は今日の段階では13か国(ニカラグア、パラオ、エスワティニ王国、セントルシア、マーシャル諸島、セントクリストファー・ネービス、ベリーズ、ハイチ、ナウル、パラグアイ、ツバル、グアテマラ、セントビンセント及びグレナディーン諸島)にまで減少しています。

このような動きは2017年以降、活発化しています。中南米諸国では2017年6月のパナマ、2018年4月のドミニカ共和国、同年8月のエルサルバドル、2021年12月のエクアドル、そして今年3月25日のホンジュラスといったように、台湾との国交を断絶し、中国との国交を樹立する外交的な動きが連発しています。

同様の動きは太平洋の島嶼国にも広がっており、中国の進出に脅威を抱きつつも、中国がオファーする経済的な利点と天秤にかけるかたちで台湾との関係を清算し、中国との国交樹立に踏み出す国々も年々増えています。

1997年には30か国と国交(外交関係)を持っていた台湾ですが、その数は今ではすでに半分以下になってしまっています。

台湾政府は必死に繋ぎとめを行っていますが、台湾離れの流れはなかなか止まりそうにありません。

イメージとしては、一枚一枚と台湾の持つ外交的なカードをはぎ取り、国際社会において台湾を国家として承認する国を引きはがして中国側に寄せてくることで、台湾の“独立国”としての存在理由(raison d’etre)をなくし、いずれは国際社会に「台湾は中国の不可分の一部」と物理的にも、心情的にも、外交的にも、さらには規範的にも認めさせていくという“平和裏の統一”へとじわじわ進めているように見えてきます。

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中国の武力侵攻が台湾存続に繋がるというパラドックス

その成否を占うのが、今月30日に大統領選挙を控えるパラグアイです(新大統領就任は8月)。現在、優勢を保つ与党候補のサンティアゴ・ペニャ財務大臣は「台湾との歴史的な関係は常に優先される」と言い切り、台湾との国交の維持、そして民主主義陣営に留まることを経済的な実利よりも優先するという姿勢を示しています。それに対し、支持率が拮抗している野党連合のエフライン・アレグレ元公共事業・通信大臣は、明言は避けているものの、ペニャ候補との立場の違いを鮮明にする狙いもあり、「台湾と断交し、今こそ中国と国交を樹立することで輸出を増やし、スランプにあえぐパラグアイ経済のカンフル剤にする」と述べ、予断を許さない状況です。

もし台湾がパラグアイを失うことになれば、南米には台湾と国交を持つ国がいなくなり、“主権国家”として南米を訪れることが実質的にできなくなるため、中国が主張する「中国大陸と台湾は一つの国に属する」という【一つの中国】論が全面的に肯定される状況にもつながりやすくなり、まさにこれこそ台湾が恐れ、しかし中国政府が望む“平和的統一”に繋がる結果になり得ます。

友好国としてアメリカ政府は台湾の抵抗に手を貸すことになるかもしれませんが、実際に台湾との国交を持たないアメリカ(中国と国交樹立している)に、国際法上何ができるのかについては、あまり期待できないものと考えます。

変な言い方をあえてすると、もしかしたら台湾にとっては中国が武力侵攻に打って出てくれた方が、アメリカや日本、欧州各国の支持を得ることが出来、台湾の存続に繋がるかもしれません。

中国が軍事・経済力の著しい強化に伴って行使する非軍事的な働きかけは、台湾情勢のみならず、世界情勢にもじわじわと浸透してきています。

イラク、アフガニスタン、ミャンマー、シリア、そして東アフリカ諸国からアメリカおよび欧州各国の軍と企業が次々と去っていく中、その空白を迅速かつ着実に埋めに来たのが中国(とロシア)です。

例えば、すでにエチオピアをはじめとする東アフリカ地域は中国の影響圏となり、アメリカによるテロとの戦い(Global War on Terror)の戦略拠点であるジブチの港も中国の手に落ちていますし、クリントン政権がlast frontierと称したミャンマーも、2年前の国軍によるクーデーター以降、完全に中国の勢力圏に加えられていますが、ミャンマーにおける影響力は長きにわたり、中国政府が仕込んできた工作の結果と言われています。

シリアについては、まだロシアの影響力が目立つのですが、実際にはアサド政権下のシリアの再建において中国がどっぷりと入り込んでいますし、アフガニスタンのタリバンとの友好関係も、アフガニスタンにおける中国の存在感と影響力を確実にしています。

そしてイラクについては、20年にわたったアメリカによる占領でめちゃくちゃにされた混乱の後、中国が入り込み、戦略的なパートナーシップ協定を結ぶことを通じて絶対的な影響力を築いています。

それが今年の中国外交の目玉とされたイランとサウジアラビア王国の歴史的な和解につながっていると思われます。水面下で進められた中国政府による仲介も、イラクがイランとサウジアラビア王国を繋ぐ役割を果たしたと言われています。

それが3月10日のサプライズに繋がり、習近平国家主席の第3期目の門出を祝う餞に使われるというお膳立てに繋がっています。

イランとサウジアラビア王国の和解は、長年続いてきた両国の代理戦争とも言われるイエメン内戦にも解決のきっかけを与えており、イランがフーシー派に働きかけ、敵対してきたサウジアラビア王国との和解に向けた対話につなげるという快挙が現在進行中ですが、実はこのフーシー派への働きかけも中国政府が行っているという情報もあります。

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世界の問題解決に乗り出す中国に歩み寄る第3極の国々

サウジアラビア王国およびUAE、オマーンなどとも戦略的なパートナーシップ協定を結び、イランとは25年に及ぶパートナーシップ協定が結ばれていることもあって、中東地域の安定と統一性を高めることにも中国が貢献したという見方がされています。

中国は見返りにエネルギーの安定供給と外交的なサポーターを獲得し、欧米諸国から投げつけられる中国批判の拡大を阻止し、“欧米が国内に人権問題への懸念を抱える国とレッテルを貼る仲間”同士というラベリングを敢えて用いることで、中東地域、そしてアフリカ地域を中国サイドに近づけることに成功しているように思われます。

そしてアジアの隣国でさえも扱いに苦慮している軍政のミャンマーにも影響力を持ち、今、民主派グループと国軍の間の協議を取り持とうという動きを中国が取り、ミン・アウン・フライン総司令官がそれを歓迎し、民主派グループも中国による仲介に応じる動きを見せる中、確実にASEAN諸国からの信頼を勝ち得る方向に進んでいるようです。

ASEAN諸国については、常に拡大する中国の影響力に警戒心を持っていますが、口だけの欧米諸国とは違い、実際に実利ももたらし、地域の問題解決に乗り出す中国に歩み寄ってくる動きが顕在化してきています。

その結果、米中対立の2極化構造において、どちらにも与せず、実利に基づいて行動する第3極に位置する“グローバル・サウス”の国々も、じわじわと中国サイドに寄ってきているようにも見えます。

先のブラジル・ルラ大統領と習近平国家主席の接近や、ラブロフ露外相をブラジリアで迎えるというパフォーマンスは最近の例だと思われますが、同じアジアに位置し、常に隣国として中国に対する警戒心を持つがゆえに日米豪と対中包囲網に参加しているかと思えば、中ロが引っ張る上海機構にも参加しているインドも、中国との距離を縮めているように見えます。

これまでグローバル・サウスの国々は欧米と中ロと等間隔の距離を保ちながら、独自のスタンスを協力して推し進める“緩やかなパートナーシップ”を実施してきましたが、習近平国家主席の第3期目に入ってから顕在化する「国際的な懸念事項の仲介役」という姿勢を受け、じわじわとグローバル・サウスの国々は中国寄りになってきています。

これに危機感を感じたのがG7で、先の外相会談でもグローバル・サウスの国々への配慮や、インド太平洋地域に対するG7の恒久的なコミットメントの確認、そして中国の脅威を今後、毎年G7外相会合のアジェンダとすることなどに合意していますが、それがグローバル・サウスの国々を再度、G7側に引き寄せてくるかは分かりません。

特に今年G20の議長国を務めるインド、そして昨年の議長国インドネシアが、グローバル・サウスの国々を束ねるコアの国々であることから、両国およびトルコ、ブラジルなどとの関係改善が必要なのですが、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて欧米諸国とその仲間たちが実施した対ロ制裁と、その強要を機に、それが徐々に難しくなってきているように思われます。

中国によるロシア・ウクライナ間の仲裁が今後、どのような状況になるのかは見えませんが、中国政府が仕掛ける非軍事的な方法を通じた影響力拡大は、紆余曲折を経て、じわりじわりと実を結んできているように思われます。

そのような中、中国との緊張関係を高める方向に舵を切っているように見える日本ですが、果たしてそれは、地政学的なリスクに鑑みた時に、適切な方向性と言えるか。

確実に中国が国際社会における影響力を拡大し、非軍事的な方法で仲間を増やしている状況において、今後の中国の出方を注視したうえで、中長期的な方針に対する決断が必要となると思われます。

以上、国際情勢の裏側でした。

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image by: Salma Bashir Motiwala / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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