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中国がスーダンへ特使派遣の情報も。内戦の仲介に乗り出す習近平の目論見

国軍と準軍事組織それぞれのトップの権力争いが激化し、内戦状態にあるスーダン。両者とも一歩も引く気がないと伝えられ、停戦は絶望視されているのが現状です。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、この内戦が地域全体に飛び火する危険性を指摘。さらに独自に掴んだという、中国が両者の仲介に乗り出すという情報を紹介するとともに、その裏にある習近平政権の「狙い」を考察しています。

中国が調停役に名乗りか。歯止めの利かないスーダン情勢でも見せたい実力

「このまま戦いを続ければ、絶対に我々の側が勝利し、栄光を得る」

これはスーダンで戦争を繰り広げる国軍・そしてRSF(即応支援部隊)双方が、調停の場で堂々と主張している内容です。

若干の誇張と意地の張り合いの兆候があることは否めませんが、今回、当事者となっている両方の軍事組織は一歩も譲歩するつもりはないようです。

時折72時間の停戦合意ができるものの、国内の外国人の退避のために用意したはずの72時間の間、スーダン各地で戦争は継続され、ほぼ無差別な攻撃が行われています。

報じられている通り、これまでに少なくとも500人が死亡し、その大部分が民間人であるとされ、その中には、本来ターゲットになってはいけない国連職員3名(WFP 世界食糧計画)も含まれています。

それに加え、病院や学校などが次々と標的にされ、国内からは飲み水が消え、停電が常時起きており、戦闘から逃れることが出来ても、生きるためのbasic needsが奪われ、近年、まれにみる人道危機に瀕しているとの報告を受けています。

ニュースでも報じられているように、在留日本人を含む外国人はすでに各国の協力もあり、ほとんどが国外への退避を終えていますが、スーダンの人々については、差し迫る戦火と対峙しつつ、大多数がスーダン国内に国内避難民(Internally Displaced People)として留まっています。

経済的・物理的に余裕がある家族については、隣国への退避を決行しているものもありますが、それはそれで、ただでさえ不安定な東アフリカ情勢へのさらなる緊張要因になりつつあり、それがまた新たな火種に発展する恐れがあります。

そして一気に悪化する治安状況を受け、すでに国内数か所でPrison break(脱獄)が大量発生し、約2万人の囚人が街に出た結果、略奪と殺戮が横行し、そこにRSFなどの蛮行も加わってもう歯止めが効かない状況になっているようです。

スーダン政府にはかつて仕事を共にした仲間がたくさん働いていますが、家族をいち早く国外に逃がし、自らはハルツームに残って戦っているようですが、ぽつりぽつりと連絡が途絶えていく状況に言葉が見つかりません。

今回の内戦は、決して国内で治まることはなく、早くも地域安全保障にとっての大きな問題・脅威に発展しています。

スーダンを軸に見た場合、隣国はかつての同胞である南スーダン、そしてティグレイ紛争以降、さらに対立が深まるエチオピア、そのお隣のエリトリアなどがありますが、この地域は実は国際情勢の勢力圏争いの縮図のような場になっています。

今回の舞台、スーダンについては、アメリカ政府がかねてより経済的・軍事的に肩入れしており、東アフリカと中東地域を監視する情報の主力拠点になっています。それゆえに、今回の内戦についても、勃発からすぐにアメリカのインテリジェンスからの情報が流され、同盟国に共有されていますし、無人偵察機をスーダン上空に飛ばし、情報収集を許可されているという状況があります。

それに加え、アメリカの支援は、今回戦う国軍とRSF双方に及んできたことから、他の紛争に比べ、ペンタゴンや国務省曰く、当事者意識が強いそうです。ゆえに国軍側とRSF側双方にアクセスでき、今回の紛争とその原因になった政治的な権力・主導権争いの様子は掴んでいるようです。

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「パートナーたち」の残虐なお家騒動に絶句の米国

ところで、どうしてアメリカにとってスーダンがそこまで大事なのでしょうか?

先ほどお話しした情報拠点、特にブッシュ政権以降、アメリカが20年以上展開しているGlobal War on Terrorにおいて、隣国エチオピアと共に中東地域と北東アフリカ地域をカバーするという立ち位置に加えて、ここ20年ほどで一気に色濃くなった隣国エチオピアとジブチへの中国とロシアの影響力の伸長を受け、東アフリカ地域(Horn of Africa)はもちろん、スーダン以西のアフリカにおけるアメリカの影響力を維持するための最前線となっているのがスーダンです。

何度もシニアレベルの特使を派遣し、国内情勢の安定に寄与し、また地域安全保障への目配りもするほど、アメリカ政府はスーダンを重要視してきましたが、今回は“パートナーたち”の残虐なお家騒動を前に絶句し、対応に苦慮しています。

例えば外国人の国外退避を可能にするために、サウジアラビア王国と共に行った仲介は、72時間という時間稼ぎを実現したものの、先述のように、戦闘が止むことはなく、“停戦期間中”も次々と生命が奪われていく状況に無力感を感じているとのことでした。

また調停チームの面々曰く、アメリカとサウジアラビア王国の連携もうまく行っておらず、それがスーダン国軍とRSF双方からの信頼不足にもつながっているとのことですが、現時点で他の誰も調停の労を担おうとは思わないようです。

エチオピア情勢がティグレイ紛争で緊迫化した際、以前よりアフリカ連合(AU)が目指してきた地域による紛争調停も、今回は完全に不発で、懸念は表明するものの、地域外の国々の勢力争いの具にされることを極めて警戒しており、こちらも日和見ではなく、調停プロセスを妨害するような動きも見せています。

その顕著な例が、スーダン紛争についての対応を協議するために緊急招集された安保理会合で、今年アフリカを代表するガーナの大使が、他の2か国のアフリカグループからの非常任理事国と共に、名指しこそ避けたものの、アメリカや欧州、そして中国、ロシアなど“大国”の介入を一切拒否するという発言をし、国際的な惨劇を目の当たりにしても相互不信から結集できない現状が浮き彫りになっています。

その背景には、かねてより欧米諸国が支援をテコに人権問題や選挙制度などへの内政干渉を行ってきたという過去の記憶があり、かつエチオピア情勢で浮き彫りになったエジプト・スーダン・エチオピア間の対立とそれに巻き込まれたくないケニアやタンザニアなどの地域大国、そして東アフリカの政情不安が西アフリカに波及することを嫌うガーナなどの西アフリカ諸国に存在する激しい不信と緊張が見えてきます。

そこに“条件”を付けることなく、Business is businessと経済や通商に的を絞り、インフラ事業を集中的に行うことで地域における影響力を強化している中国の存在、そして同じ国々の軍事面の支援を行うロシア、そしてエネルギー安全保障に寄与するイランというタッグが出来ており、じわじわとアフリカ諸国の支持へとつながってきています。

先のガーナの大使の発言は、実際には安保理会合で中ロが介入、特にアメリカによる仲裁を拒否する旨を発言した後に出たもので、今回のスーダン情勢においても、すでに世界の分断がより鮮明になってきていると見ることが出来ると考えます。

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もはや成立が困難となった国連ベースでの調停

これにより見えてくるのが、国連ベースでの調停は成立しないということです。

欧米諸国、中東諸国に加え、中国もロシアも調停・仲裁に関与することに関心を表明していますが、それぞれバラバラに行われており、正直、効果はまったくないと考えます。

そしてスーダン内戦の背後で再度燻りだしたのが、隣国エチオピアによるスーダン侵攻の危険性です。

以前より両国は国境線周辺地帯で小競り合いを繰り返し、実はずっと戦争状態であることから、エチオピアのアビー首相が今回の紛争の混乱に乗じて、スーダンとの係争に決着をつけようとしているという情報が入ってきました。

エチオピアと言えば、ここ2年程、北部ティグレイ州との内戦状態にありますが、紛争の長期化に合わせて、その戦火がティグレイ州から周辺地域へと飛び火し、元々多民族多言語国家である非常にデリケートな統治バランスにヒビが入り始め、すでに統合は修復不可能と言われていますが、アビー政権は今回の対スーダンへの攻撃を通じて、国内の統合のための材料にしようと目論んでいるという話もあります。

ちなみにティグレイ族の避難先はスーダンが最大で、スーダン政府もこれまで(アメリカ政府のバックアップを受けて)ティグレイ族の保護を訴え、エチオピア政府を激しく非難してきたことから、エチオピア政府にとってスーダン政府は憎きティグレイ族を匿う敵国との認識のようで、今回の混乱を受けても国境線を閉じ、スーダン人のエチオピアへの避難を受け入れていません(それどころか追い返したり、攻撃を加えたりしているという情報もあります)。

現在は、国軍とRSFの間での激しい内戦ですが、今後、これが対エチオピア、そしてその“盟友であり、かつての敵”のエリトリア、南スーダンを巻き込み、場合によってはケニアやタンザニア、エジプト、そして2つのコンゴも交えた大規模な地域戦争に発展する恐れが出てきています。

スーダン問題の国連事務総長特別代表が国連安保理に対してハルツームから報告したように、国内には紛争調停・停戦に向けた機運は存在しておらず、双方ともにとことん戦い、それぞれに勝利を信じているため明るい光は見えてきていないようです。

スーダンを核として東アフリカ地域が混乱を極め、それが中央アフリカや中東にも波及するようなことがあった場合、再度、イスラム国(ISIL)が世界を恐怖に陥れたような究極の混乱を招き入れることにもつながりかねません。

そのような状況を恐れてか、エジプトは軍の待機態勢の危機レベルを上げたとのことですし、エチオピアはティグレイ対策をしつつ、じわじわと政府軍をスーダン国境に移している模様です。

中東諸国については、中国の仲介の成果なのか、イランとサウジアラビア王国の和解を受け、一気に緊張が緩み、イエメン内戦も解決に向けた協議が始まっていることから、即時に戦場になることもないでしょうし、ましてや海を越えて対岸の火事に参戦するとも思えませんので、一旦、watchlistからは外してよいかと思いますが、東アフリカ地域については非常にきな臭い雰囲気が漂ってきているように思います。

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国軍とRSFの仲介に乗り出す習近平の思惑

そんな中、報じられていませんが、どうも中国政府が“特使”をハルツームに派遣し、国軍とRSFの仲介に乗り出すという情報が入ってきました。

真偽のほどは分かりませんが、アメリカ主導の調停が不発に終わったのを見て、今度は同じサウジアラビアと組んで調停に乗り出すようです。その際、スーダンの内戦に対しての調停のみならず、どうもすでに影響力を確立し、国の存続に向けた首根っこを掴んでいるエチオピアをはじめとする周辺国も巻き込む枠組み作りを提唱する方向だと聞きました。

内容については慎重に吟味したいと思いますが、方向性としては、個人的には望ましいアプローチだと考えています。

その中国ですが、電話会談という形式ではありますが、習近平国家主席とゼレンスキー大統領の会談を、ロシアによるウクライナ侵攻以降初めて行い、存在感をアピールして、一度は止まりかけた和平トラックを再スタートさせることを世界に見せつけました。

すでにロシアとは、最高レベルでの協議が行われ、仲介の依頼を取り付けているため、今回のゼレンスキー大統領との会談を受け、今度は実務レベルでの3者和平プロセスの基盤はそろったと考えられるため、中国としては、習近平国家主席絡みでの次の国際的な紛争の調停案件を探しているようです。

候補としてはミャンマー内戦も高い優先度にあるようですが、これは今、インドとタイが主導するプロセスが走っているため、こちらを尊重する構えを見せていますので、しばらくは付かず離れずの状態が続くと予想します。

そうなると今ホットイシューはスーダン情勢であり、高まる東アフリカ地域の緊張緩和に向けた動きとなるのでしょう。

このメルマガを書いているのと並行して、スーダンについての調停に関する問い合わせがどんどん入ってきていますが、多くの懸念はスーダン情勢がこのまま激化し、紛争が地域に拡大した場合、戦火が各地に飛び火し、収まっていた内戦・国内・地域内の紛争の種が火を噴きかねず、絶対的な戦力を有する欧米諸国がウクライナ支援合戦と対ロ“戦争”に引きずり込まれている状態ゆえに、その延焼を防ぐ手立ても力もないと思われます。

ここでもちょっとトルコや中国が面白い動きを始めていますが、トルコについては、大統領選を控え、おまけにエルドアン大統領に病気の噂まである中、どこまで国際情勢に関与できるかは分かりません。

しかし、話が中国となると分かりませんし、実はグローバル・サウスの国々を束ねるインドも(実はアフリカ大陸にはインド系の国民も多いこともあり)介入に向けた準備を始めているそうです。

スーダン情勢がもう歯止めの利かない状況に陥っている中、どのようにしてまず当事者たちを協議のテーブルに就かせるか。

非常に困難な任務が目前に控えています。

以上、国際情勢の裏側でした。

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image by: Matyas Rehak / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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