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「日本消滅」を目標にする可能性も。中国の“覚悟”を侮ってはいけない理由

日本の防衛力を高めることが「台湾有事」を防ぐことにつながるのでしょうか。台湾が独立を宣言するようなことがあれば、どんな犠牲を払ってでも阻止するのが中国の「覚悟」で、そんな中国と対峙する「覚悟」が日本にあるのか問うのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、日本の政治家やメディアが「ある」か「ない」かだけでしか「台湾有事」を語っていないと視野の狭さを指摘。台湾の野党国民党の馬英九台湾元総統が訪中したのをはじめとして、台中の接触が活発化し見過ごせない変化が起きていると伝えています。

台湾有事とはしゃぐ日本が見えなくなっている台湾海峡の変動

以前このメルマガでも書いた通り、「台湾有事」とは、「ある」か「ない」かという単純な話ではない。中国共産党が軍事力を行使する前には、それこそ無数の選択肢があるからだ。しかも、もし「台湾有事」を話題にするならば、問われるべきは戦術ではなく覚悟だ。

日本ではよく「防衛力を高め、中国に侵攻を思いとどまらせる」と表現される。しかし、「いかなる犠牲を払っても台湾の独立は阻止する」というのが中国共産党の覚悟だ。「思いとどまらせる」ことは容易ではない。

かつて中国は、核兵器もレーダーもなく、みすぼらしい装備と乏しい資源しかないまま米軍に挑んだ。朝鮮戦争である。60年代末には世界最強の軍事力を誇った旧ソ連を相手に全面戦争の危機を迎え、一歩も引かなかった。

損得勘定を捨てた中国の恐ろしい一面だ。その状態に中国を追い込めば、周辺の国々、なかでもアメリカの手先となって台湾問題に介入した日本は無事で済むだろうか。

自国を焦土と化す覚悟で戦争に踏み切る中国が自衛隊だけを相手に済ませるだろうか。日本のインフラを狙って徹底的に破壊するのではないだろうか。少なくとも中国の世論は沸騰し、歴史問題との相乗効果で「日本消滅」を新たな目標とするだろう。それが覚悟だ。

そんな大げさな話、との批判もあるだろう。だがそれ以前に、もしこの一帯で戦争が起これば、日本は通常の経済活動を続けられるだろうか。世界のマネーは一斉に引き上げてゆくだろう。欧米先進国の企業はこうしたライバルのオウンゴールを見逃さないだろう。紛争をコントロールできなかった愚かな国の常として大量の兵器や物資も売りつけられるから借金は膨らみ、人々の生活は困窮を避けられない。

先進国はボロ儲けの機会を簡単には手放したくないから、両国民の対立感情を煽って和平の機会を阻み続ける。止められない戦争だ。そんな泥沼に陥ってから「何を目的に台湾有事を叫んだのか」と後悔しても遅いのだ。

少々前置きが長くなったようだが、本題に入ろう。日本人がまるで二進法のように「有事」が「ある」か「ない」かしか話題にできない原因の一つは、中台の一面しか見えていないためだ。だが現実の海峡には、密度の濃い交流も続いているのだ。

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その突出した現象の一つが馬英九台湾元総統による訪中(3月27日から)だ。与党・民進党から政権を奪いたい国民党の馬がなぜこの時期に訪中したのか。その意味は一つしかない。大陸との安定した関係の構築には台湾内部にも一定のニーズと支持があるからだ。

日本の報道だけみていると、中台は常に争っている印象しかない。しかし、実際はたくさんの個人や団体が足しげく中国を訪れ、共産党との接触も盛んなのだ。例えば、昨秋の党大会から台湾の現場を任されている宋涛は、この10日間で台北のオリンピック委員会の関係者、中華民国全国工業総会の苗豊強副理事長を率いる起業家グループ、企業のトップ、台湾の地方議会の議員の訪門団を北京で迎えている。

また、これと同時並行して対岸の福建省を筆頭に、上海市や山東省、浙江省、広東省など地方政府が窓口となって台湾からの訪問団を向え入れているのだ。政治的対立があるとはいえ、台湾経済は大陸なくして成り立たないのだから当然だ。

今年の第一四半期をみても中国経済が急回復していることは手に取るようにわかる。だからこそコロナが落ち着いたと同時に訪問団が大挙して押し寄せているのだ。

そんななか中国の商務部は、4月12日から台湾に対し貿易障壁に関する調査を行うと唐突に宣言し波紋を呼んだのだ。その真意を国務院台湾事務弁公室の朱鳳蓮報道官は、「台湾は長期にわたり大陸からの輸入品に一方的に輸入制限し、いまでも2455品目を制限している。中国も台湾もいずれもWTOに加入しているのだから、その基準に従い制限を解除すべきである。商務部の調査は正当かつ理にかなっている」と定例会見で説明した。

しかし、台湾の輸入制限の問題はもう10年以上前から議論されてきたことで、いま中国側が持ち出す裏には政治的な意味が勘繰られても不思議ではない──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年4月30日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Lewis Tse/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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