MAG2 NEWS MENU

KANAZAWA JAPAN - OCTOBER 7, 2016: Japanese family restaurant Gusto sign.

「ガスト」が起こしたイノベーション。お得感のない“ハーフサイズメニュー”はなぜ受け入れられたのか?

ファミリーレストラン「ガスト」が提供するハーフサイズメニューが好評です。通常のボリュームが半分になるため割高感を感じる人もいるはずですが、消費者に受け入れられるのは一体なぜなのでしょう?メルマガ『理央 周の売れる仕組み創造ラボ【Marketing Report】』の著者でMBAホルダーの理央 周さんは、このガストの戦略に身近なイノベーションがあると話します。決しても“画期的”ではないものの、顧客にとっての“新しい価値創出”が大切なのです。

なぜ、すかいらーくホールディングスは、ハーフ料理を出したのか?身近にあるイノベーション~顧客体験価値を見逃さず売り伸ばすには

すかいらーくホールディングスの運営する、ファミリーレストラン「ガスト」で、通常の半分のサイズのメニューが好評とのことです。

なぜ、ガストはこの、“小さい”サイズのメニューを出したのか?そして、なぜ、“小さいにもかかわらず”、好評なのか?を考えていきたいと思います。

以下は、この件についての、日本経済新聞2023年7月9日からの、引用です。

すかいらーくホールディングスでは、主力ファミリーレストランチェーンの「ガスト」で、4月から通常の半分のサイズで、提供するメニューを増やした。複数の料理を選びたい、少量でいいといった需要をとらえただけでなく、物価高の中、値ごろ感があると支持され、小皿料理全体の売れ行きは、皿数ベースで計画を2割上回って推移している。

飲食店での新メニューでよくあるのは、大盛り、メガ盛り、というように、“大きくする”ことで、お値打ち感を出すことです。

一見、小さくしてしまうと、お得感も出ないし、割高だ、と、「顧客が感じる」と思ってしまいそうです。

なぜ、ガストでは半分のサイズのメニューが、受け入れられているのでしょうか?

日本経済新聞のこの記事によると、ガストの設定したターゲット層と、その広がりについて書かれています。

追加したメニューは当初、来店頻度が高い主要顧客層の、30代以上の女性に、より充足感をもってもらうために開発した。少しずつ様々な料理を食べたい、通常の量では多すぎる、との需要に応えることが狙いだ。肉料理とパスタのハーフサイズを注文した、30代の女性会社員は、「外食では色々な料理を食べたい。組み合わせによっては、ダイエット中でも罪悪感なく食べられそう。また注文したい」と満足げだ。販売を始めると、こうした需要だけでなく、少量を食べたい60代以上のシニアや、20代の女性などにも人気が広がった。

とあります。

記事によると、ガストのオリジナルメニューとか、ここにしかない画期的なメニュー、というわけでもなく、ミートソースパスタなどの、定番メニューが大半のようです。

新製品でもなければ、大きくもない、半分の小さくしても、好評なのはなぜでしょうか?

それは、このメニューも、広い意味でのイノベーションだからです。

イノベーションと聞くと、iPhoneなどの画期的な新製品や、対話型AIを身近にした、ChatGPTのような、技術革新を思い浮かべる人も多いでしょう。

この辺りの説明も踏まえて、今号では、“身近にあるイノベーション”について考えてみたいと思います。

イノベーションとは

その前に、「イノベーション」とは何か、の定義から始めましょう。

イノベーションとは、新しいアイデアや手法を具体化して、それを事業や製品、サービスに取り入れることで、顧客にとっての“新しい価値”を生み出すことです。

なので、先程挙げた画期的な新製品の開発も、もちろんイノベーションですが、必ずしも“画期的”でなくても、顧客の視点からみて、“新しい価値”になるのであれば、それはイノベーションとして、顧客に受け入れられるのです。

このガストのように、小さくすることで「他のものも食べられる」ということに顧客にとっての新しい価値、すなわちイノベーションなのです。

したがって、製品開発に限らず、組織の業務改革や、マーケティング戦略の革新などでも、新しい顧客価値を生み出すことができますよね。

この記事の著者・理央 周さんのメルマガ

初月無料で読む

顧客価値とは何か 

次に、「顧客価値」を定義しましょう。

顧客価値とは、顧客があなたの製品やサービスを“体験する”時に得る、満足感や効用、便益を指します。

顧客価値の中身は、製品やサービスの、品質、価格、利便性、サービス、ブランドイメージなど、様々な要素から成り立っています。

この“顧客体験”とは、製品やサービスそのものだけではなく、顧客が買ったり、契約したりする、前と後の過程、買う前にホームページで調べたり、買った後のアフターサービスも、含まれる、という点に注意しましょう。

企業の顧客価値アップの実践事例

企業が顧客価値を上げるために、どんな工夫をしているかを、事例で考えてみましょう。

私の古巣のAmazonでは、「顧客中心主義」を掲げ、顧客がとにかく便利にものを買えるとうに、利便性の向上を追求しています。

これは今でも変わらず、Primeサービスや、Echoのスマートスピーカーなどで、常に顧客体験を向上させる努力をしています。

ユニクロでいえば、大量に生産することで、高品質をキープしつつ、他者が真似できない手頃な価格を実現しています。

もちろんそれに加えて、エアリズムやヒートテックなどの、独自の機能性商品を開発して、顧客価値を高めていますよね。

次に、製品周りの事例で考えていきましょう。

Uber Eatsや出前館などのオンラインフードデリバリーは、お店の味を自宅で楽しめること、店舗に行く時間や手間を減らせること、といった、新しい体験価値を生み出しています。

ZoomやSlackなどのオンラインのリモートワークツールは、リモートワーク環境を整えたいという、ユーザーのニーズに対応する、新しい働き方を提供しています。

少しIT関連の事例を多く出しましたが、イノベーションは、なにも、ITに限ることではありません。

引越会社の事例を紹介します。愛知県にある引越一番という会社は、エディオンのフランチャイズを取得し、引越しと同時に、家電も販売しています。

引っ越す顧客は、エディオンと同じ価格で買え、販売店に探しに行く手間も省け、引っ越しの時に、その場で搬入もしてもらえるので、便利に感じてもらえるのです。

この記事の著者・理央 周さんのメルマガ

初月無料で読む

新しい顧客価値を生み出すには

イノベーションは、AmazonやGoogleのような大企業でなくても、ガストの新メニューや、引越一番の家電販売のような、身近なイノベーションもありうる、ということが言えます。

ここで、どうやって新しい顧客価値を、生み出せば良いのか?について、「良いイノベーションと残念なイノベーション」の違いを挙げていきます。

1つめは「視点」です。

良いイノベーションは、「顧客の立場で考える」のが前提です。ガストのメニューも、顧客のこんなのがあるといいな、という潜在的なニーズから生まれています。

それに対し、ニーズを無視して、売りたいものを売る、とか、製品の機能性だけを全面に押し出すと、顧客には響きません。

どれだけ画期的な技術や製品でも、ニーズがないところにものは売れないので、残念なパターンになりがちです。

2つ目は「感度」です。

良いイノベーションは、「市場の変化に対応」しています。

いうまでもありませんが、ビジネスは適者生存です。市場や顧客のニーズは、刻一刻と変化しています。

変化に敏感でいたいところですよね。

3つめは「独自性」です。

良いイノベーションは、いうまでもなく「独自性」があり、競争力を持つことができます。

値引きや販促だけに頼るような、模倣に終始すると、今の時代は、簡単に比較されてしまい、長く競争優位性が保てないのです。

イノベーションとは、徹底的に顧客価値を追求して、新たな価値を創出するプロセスから生まれます。

それは、顧客ニーズから始まり、あなたの製品やサービスを探し、買い、使い、クチコミをする、すべての過程で生み出すことができます。

今回のガストの事例では、企業が持続的に成長するためには、顧客の立場で顧客の問題を捉え、それを解決することで、イノベーション=新しい顧客価値を生み出せる、ということを学びましたよね。

あなたも、自社の製品やサービスと顧客体験を、顧客の視点で見直してみて、新しい価値創造の種を、見つけてみてください。

この記事の著者・理央 周さんのメルマガ

初月無料で読む

image by:TK Kurikawa

理央 周この著者の記事一覧

ビジネス・仕事に大事なのは、情報のキモに「気づき」どう仕事に「活かす」かです。トレンドやヒット商品には共通する「仕掛け」と「思考の枠組み」があります。このメルマガでは、AI、5G、シェアリングなどのニュースや事例をもとに、私の経験とMBAのフレームワークを使い「情報の何に気づくべきか?」という勘どころを解説していきます。現状を打破したい企画マン・営業マン、経営者の方が、カタくなっている頭をほぐし情報を気づきに変えるトレーニングに使える内容です。

有料メルマガ好評配信中

  メルマガを購読してみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】 』

【著者】 理央 周 【月額】 ¥825/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎月 第2火曜日・第4火曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け