長きに渡り世界覇権を握り続けてきたアメリカ。しかし彼らは今、自ら覇権国家の座を手放す方向に舵を切り始めたようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、米国の覇権放棄が国際社会にもたらす影響を考察。さらに欧州と日本が、この先世界秩序の守護者としての役割を分担するしかないとの見解を記しています。
米国覇権「終わりの始まり」で世界的動乱の時代が開始した
ロシアの侵略戦争、中国経済崩壊の危機であるが、米国の国内分断も激しく、ドル基軸通貨の終わりが始まったようだ。米国の覇権も終わりが見えてきて、世界的な動乱の時代が開始した。黙示録時代である。この現状と今後の検討をしよう。
中国国内では経済の低迷に加え、大洪水による被害、幹部や解放軍の人事混乱などがあり、22日のBRICS首脳会議ビジネス会合では、習近平主席は本来、出席してスピーチを行う予定だったが欠席したなど、習近平の覇気がない。BRICS会議でも主役のはずが、そうでもない。
習主席は、中国指導部への政策を指示しないようであり、各部門は今までの方針で動くしかない。どうも、中国の習主席の政策がすべて裏目に出ているので、指示ができないようである。
共青団の政治家を粛清して、能力主義から、自分の指示に従う者を重視したことで、対応する政策案が出てこないことになっている。このため、経済より国家防衛体制に重きを置いた現行の政策が続いている。
このため、不動産バブルの崩壊で、実質倒産している企業を存続させて、バブル崩壊をなかったことにしたいようであり、株式市場でまだ取引され、倒産を公式にはさせない。しかし、マンション工事は中断したままであり、政府からの支援があるわけでもない。
反スパイ法を制定して、海外企業の撤退を促し、進出もできないようにして、国内企業を育成するというが、技術と資金がない。
そして、習近平の失政から国民の目を逸らすために、福島原発の処理水を「汚染水」となじり、猛烈な勢いで反日ムードを醸成している。このため、処理水の放出とは関係のない日本国内の個人や団体に対して中国から嫌がらせの電話などが相次いでいる。
それと、中国で日本化粧品の不買を呼びかけている。早く日本企業は中国から撤退して、中国の代理店に商品の輸出だけにすることだ。影響をなるべく小さくする必要がある。
中国側から「時期が不適切」と言われて、公明党代表の訪中も延期になった。岸田首相の親書も届けることができないことになった。
このまま失政を放置すると、中国が「失われた30年」になることは確実である。永遠に失われる可能性もある。いずれ、国民は習政権に見切りをつけることになる。
しかし、BRICSは、サウジアラビア、イラン、アラブ首長国連邦、エジプト、エチオピア、アルゼンチンを加盟国に加えて、拡大した。
今までのブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカに加えて、6カ国が増えて、世界のGDPの30%相当になり、石油供給の80%以上を占めることになる。
そして、BRICS首脳と新加盟国は、米ドルへの依存を減らすことを目的として、貿易や金融取引における現地通貨の使用を促進することで合意した。これにより、ペトロダラー体制の終焉となったことは確かである。産油国の加盟で原油決済時に基軸通貨のドルでは無く、人民元等の代替通貨が今後使われるようになるようだ。
次には、BRICS共通通貨を作り、SWIFTに代わる国際決済システムを作ると言っている。金本位制への復帰となるようだが、まだ議論が煮詰まっていないし、計画は杜撰だという。しかし、加盟国内貿易のための共同決済システムは近いうちに導入できる可能性がある。
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ウクライナを侵攻中のロシアの味方に回るアメリカ
また、サウジのような経済的に成功した国が、BRICS銀行へ参加し、かつ大口出資となれば、BRICS銀行が世界の金融システムにおいて強力かつ重要になる可能性があるが、その場合はサウジ主導となる。そして、このBRICS銀行がBRICS通貨の中央銀行の役割を担うことになる。
しかし、7月の外国為替決済の内、ドルが関与したものは過去最高の46%であり、まだ、ドル基軸体制は存続しているが、徐々に数年掛けて、ドル決済は減少していくことになりそうだ。
そして、インドのモディ首相と中国の習近平国家主席は、国境係争地の緊張緩和に向けた「取り組みを強化」することで合意した。BRICS諸国間での敵対関係を緩和する方向である。
この状況をイランのアブドラヒアン外相は、イランのBRICS加盟が「多国間主義を強化する」とコメントした。国際的孤立を回避するとともに、欧米がいない「多国間主義」の時代が来たということのようだ。欧米の思い通りにはいかない時代になったことだけは確かである。
それと、米共和党の大統領候補ヴィヴェック・ラマスワミ氏は共和党候補の中でもトランプ主義の最たる候補のようであり、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を阻止する。
米国の目的は、ロシアの敗北ではなく、ロシアと中国の同盟関係の終焉であるべきとか、ウクライナのドンバス地方の前線の凍結、つまり敵対行為を停止して、ロシアが現在支配している地域をロシアに譲渡する。
そして、米国がウクライナを支援することは、ロシアをさらに中国に引き込むことになるので止めるという。
共和党支持率を見ると、トランプ氏50%超、デサンティス知事14.3%で、ラマスワミ氏7.2%であり、ペンス前副大統領が4.0%と続く。この内、トランプ主義者は、トランプ、デサンティスとラマスワミであり、誰が候補者になっても同じである。
ということで、米国が侵略戦争を始めたロシアに味方することになり、世界秩序の守護者ではなくなる。
米国の覇権放棄であり、米国は自国優先主義になる。トランプ氏は、輸入商品にすべて10%の関税を掛けて、国内産業の育成を行うという。この考え方は正しいが、これにより、世界貿易に与える影響は甚大なものになる。特に中国である。日本企業は米国内に工場を作り、そこで製造した商品を売ることになる。もう1つが、米軍の削減を言っている。
そして、世界秩序の守護者は、日本と欧州で分担するしかないことになる。世界歴史の進化は、個人の自由の範囲を拡大することであり、自由を制限する国を排除してきたことで、個人の自由を獲得してきた。
このため、次の世界を作りえるのは、自由を制限しない欧州と日本しかない。欧州と日本以外に一番可能性がある中国は、その経済力を失うと、それもできないことになる。
そして、習近平の自由を制限する中国から、多数の中国富裕層が日本に移住してきている。このため、タワマンの価格が高騰して、1億円以上もする。
しかし、日本が世界を指導できるかいうと、それも疑問である。
日本の指導層が、帝王学を学んでいないことで、政治がおかしい。
私欲ではなく、物事の原則を知り、公の利益、世界への貢献などの広い観点から、政策を実行していくことが重要であるが、どうも、それが怪しい。特に善悪の基準が甘い。殺人の可能性がある人を政権中核に置くのは、どう考えても公衆道徳に反する。
勿論、議員を辞めさせることはできない。疑惑が解明されて、無実であれば、政権中核に復帰してもよいが、警察に圧力をかけて握り潰す行為があるとの疑惑があることは、問題だ。
疑惑のある人を政権内部には入れてはいけない。このような政治体制での基本中の基本ができていない。
(中略)
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欧州内部からの援助に頼るしかなくなるウクライナ
ゼレンスキー大統領は、欧州を歴訪して、航空機や他の装備の提供をお願いし始めている。米国が、2024年中ごろには、大統領選挙の関係で、援助できなくなることが見えているので、欧州各国からの援助物質に頼る必要が増すことになる。
日本も武器の援助をウクライナにする必要があり、武器輸出の基準を緩和する必要になっている。
米国の国内分断の影響が、ウ軍の戦略や戦術に大きな影響を与えている。
チェコから供与されたクーブ防空システムを使用開始したし、ギリシャは、自国内の防空システムであるソ連製のTOR-M1(SAM)と、Osa-AKMをウクライナに供与するとした。欧州内部からの援助に頼るしかなくなる。
オランダはほぼすべてのF-16戦闘機をウクライナに引き渡すようであり、ウ軍パイロットの訓練のために数機を維持するとオランダ国防大臣のカイサ・オロングレン氏は述べ、F-16の42機のほとんどをウ軍に提供するという。
そして、ロ空軍パイロットが、ウクライナにMi-8軍用ヘリで、ハリキウ州内の空港に亡命した。ロ軍内に充満する厭戦ムードだけは間違いないようだ。
学徒動員も開始。太平洋戦争当時の日本と同じ道を歩むロシア
プリゴジンの乗った小型航空機が墜落して、プリゴジンとワグナー創始者ドミトリー・ウトキンと物流・安全部門責任者ヴァレリー・チェカロフが死亡した。プーチンは、裏切者を暗殺した。機の残骸からロシアのS-300防空ミサイルと一致する部品が出ている。
この暗殺成功で、クルスクに居たプーチンは、急遽、モスクワに戻った。
これに対して、ワグナー軍の一部からは、プーチン政権に報復するため、モスクワへの「正義の行進」を求める声がでている。そして、ベラルーシからワグナー軍は居なくなっている。
これに対してプーチンは、ワグナー軍戦士の墓地を取り壊して、ワグナー軍とプリゴジンをなかったことにするようだ。
プーチン政権は、ロシアの労働者不足に対処するため14歳以上の未成年者の労働促進を指示した。学徒を工場に動員である。徐々に太平洋戦争当時の日本と同様なことになってきた。
というように、ロシアは、劣勢に立たされている。この状況は、日本が中国の戦いで勝っているのに、劣勢に立たされていた1937年から始まる日中戦争と重なる。日本はドイツとの共闘に進み、ドイツは1939年にポーランドに侵攻して、第2次大戦になる。
これを同じことが始まっているように見える。ロシアが中国の戦争を望んでいるからだ。しかし、中国が戦争を開始したら、第3次世界大戦になる、地球上の人類は大きな苦難を味わうことになる。
その様にならないためには、中国の自制が必要になる。この自制を起こしているのは、米軍力であるが、米国が自国内に閉じこもり、軍事力の削減をすると、これからも自由になる。トランプ主義者たちは対中強硬派であり、当分大丈夫だと思うが、トランプが当選した時点でどうなるのか分からない。
世界動乱の時代が来ている。
さあ、どうなりますか?
(『国際戦略コラム有料版』2023年8月28日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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