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ホンマでっか池田教授が難敵「中央線の遅延」を制して養老孟司氏と虫採りしてきた話

コロナ騒動が落ち着いたこの夏、対馬で久しぶりに東大名誉教授の養老孟司さんとの虫採り旅行を楽しんだのは、CX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみの池田清彦教授です。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、養老さんと初めて会ったときから虫の話をしていたと振り返り、コロナ禍前には頻繁に東南アジアまで虫採りに行くほど、虫採り仲間として気が合う理由を綴っています。池田教授が飛行機移動の難敵「中央線の遅延」を制して赴いた養老さんとの対馬虫採り旅行記を一部抜粋してお届けします。

養老孟司と対馬に虫採りに行った話

前回、対馬の昆虫と哺乳類の特徴について述べたが、今回は養老孟司と対馬に虫採りに行った話をしよう。NHK BSの取材ということでディレクターとカメラマン付きの虫採りであるが、養老さんも僕も虫採りが楽しければ、後のことはどうでもいい口なので、ギャラリーがいてもあまり気にならない。それに、私はテレビは基本的に見ないし、BSは契約していないので、自分が出演する番組も見ないと思う。そういうことに興味がないのである。

養老さんと虫採りに行くのは久しぶりだ。柴谷篤弘が主宰した構造主義生物学の第1回シンポジウム(1986年)で初めてお会いして以来、養老さんが昆虫に興味があることが分かり、会うたびに虫の話をしていた。まだ現役の東大の医学部の教授であったので、思うように虫採りにも行けずに、フラストレーションが溜まっていたのであろう。定年を数年残して、東大教授を辞めてしまった。おそらく、自由に虫採りに行きたくて、辞職したのだと思う。

辞めた後で、見た空の色が今までになくきれいだったと言っていたので、よほどのストレスだったのだろう。私の方は、早稲田の教授を定年になった後に見た空の色も、以前と変わりがなかったので、東大の医学部の教授は大変なんだなと思った次第である。この頃から、養老さんを誘って頻繁に東南アジアに虫採りに行くようになった。

コロナ禍の少し前までは、タイ、べトナム、ラオス、台湾などに、年に数回は出かけていた。養老さんは蝶や蛾にはあまり興味がないようで、採るのはもっぱら甲虫、特にゾウムシである。私は、カミキリムシとクワガタムシが特に好きで、蝶や蛾も嫌いではない。だから採り方も違うし、目の付け所も違う。一緒に虫採りに行っても競合しないところがいい。二人ともいい加減な虫採りで、目的の虫を是が非でも採るといった執念がないところも気が合ったのかもしれない。

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今年は、コロナ禍が多少収まって、早春に台湾に行かないかと誘われたのだが、ワクチンを3回以上打っていないと、出国したはいいが、帰国するには、現地でPCR検査を受けて陰性の証明が必要という、ばかげた制度があると聞いて、やめてしまった(私は2回しか打っていない)。その前の養老さんと一緒の虫採りは、2014年に北ボルネオに10日ほど遠征をしたのは覚えているが、台湾に2度ほど行ったのはいつだっただろうか。日記をつける習慣がないので、標本のラベルを見れば分かるのだけれども、俄かには思い出せない。ボケてきた証拠だ。

朝の8:50に羽田空港に集合だという。自宅からは2時間近くかかるので、朝起きが苦手な私にはつらい。それに困ったことに中央線は、やれ、人身事故だ、車両故障だと言って、頻繁に遅延する。少し早めに自宅を出たが、やはり多少遅延して、羽田空港には8:40頃着いた。

私にとって、飛行機の移動で一番嫌なのは、飛行機そのものではなく、中央線の遅延である。1日に数便しか飛んでないような地方空港では、飛行機に乗り遅れれば、講演は中止である。だから羽田に無事着くかどうかに最も神経を使うことになる。羽田に無事着けば、講演は終わったも同然なのだ。あとは飛行機が遅れようが途中で墜落しようが俺のせいではない(墜落すると命がなくなるのでイヤだけどね)。でも乗り遅れると、中央線が遅れた、という言い訳は地方の人には通じそうもない。

それで、飛行機は無事飛んで、長崎空港で乗り換えて対馬やまねこ空港に着いたのは13時過ぎだ。飛行機の中で養老さんとコロナ禍の話をする。初期の頃のバカ騒ぎは何だったんだろう、という話になる。何もしない方がましだったのではないかという結論で話は落ち着く。

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対馬観光物産協会の西さんと、対馬博物館の谷尾さんが迎えて下さった。あとは車で大名採集である。最初に行ったのは、龍良山(たてらさん)原始林だ。スダジイ、イスノキなどの照葉樹林の原生林である。昆虫採集は禁止ということだが、こういった暗い原生林の林床には虫はほとんどいない。キャノピー(林冠)に行って探せばいろいろな昆虫がいると思うが、行きようがない。朽ち木などを探せば、面白い甲虫がいそうだが、採集禁止では探しても仕方がないので、眺めるだけで、次の目的地に行く。

渓流がきれいだが、ほとんど瀬で淵があまりない。川底が一枚の花崗岩ということと関係があるのだろうか。対馬にはアユはいるがアマゴやイワナはいないのだという。確かにアマゴの棲息しそうな雰囲気ではない。谷尾さんがツシマヒラタクワガタをよく見かけるという場所を案内してくださるというので、次には浅藻というところに行く。クヌギの林で、傍に住居跡らしき石垣があるので、かつては薪炭林だったのだろう。ツシマヒラタクワガタはヒラタクワガタの対馬亜種で大顎が長く伸び、大顎を含めた体長は日本産のヒラタクワガタでは最も長くなり、愛好家に人気がある。

私はここで、数ペアのツシマヒラタクワガタを採ったが、自然史データバンクアニマnetの代表理事の渡辺秀昭君が採ってきてほしいと、養老さんに頼んだという話を聞いて、1ペアは養老さんに渡した。たぶん今頃は渡辺君の掌中に落ちていることだろう。私はツシマヒラタクワガタより、チョウセンヒラタクワガタを採りたかったのだが、これは残念ながら採れなかった。よく似た種だが、チョウセンヒラタは大顎が多少湾曲しているので、慣れれば割合に簡単に見分けられる。但しメスを見分けるのは難しい。ツシマヒラタクワガタより珍しいが大きくならないので人気がない。

今夜はナイターをする予定で、その前に宿に寄る。対馬西山寺という宿坊である。宿坊と言っても、ベッドがある広い洋室で、西洋式のバスタブとトイレ完備の立派なホテルだ。晩飯は穴子丼を食べる。穴子は対馬の名物のようで、旨いという評判であるが、不味くはないが、私的には瀬戸内海の穴子の方が口に合う。まあ、好みの問題だろうけれど。

養老さんも私も──(メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』2023年8月25日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Sophie Leguil / Shutterstock.com

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