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大阪万博「間に合いません」と岸田に泣きついた吉村知事。もう維新だけでは無理だ

開幕まで600日を切るも、会場整備の大幅な遅れが指摘されている大阪・関西万博。5月末には吉村大阪府知事が救いを求め官邸に駆け込む事態にまで発展しましたが、なぜこのような状況に至ってしまったのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、大阪万博に対する「熱量の不足」を指摘。さらにこの現代社会にあっては、万博自体に新鮮な驚きを期待するのがそもそも困難との見方を示しています。

時代遅れに熱量不足。大阪万博が盛り上がりに欠けるワケ

元大阪市長・松井一郎氏は9月1日の大阪・ABCテレビ「おはよう朝日です」に生出演し、海外パビリオンの建設工事の準備が大幅に遅れている大阪・関西万博について、自信みなぎる言葉を並べた。

「日本の建設業界のみなさんの総力をあげて、国家プロジェクトなんだから、本気を出せばね。2025年の開幕には、素晴らしい会場を作り上げられる」

「そもそも国に万博推進本部があり、その本部長は総理大臣だから、世界のみなさんを驚かせるような万博ができる」

総理大臣や建設業界が本気を出せば、開幕に間に合うし、世界を驚かせる万博になるというのである。疑問なのは、なぜそこに「大阪」とか「維新」が入ってこないのか、だ。

2025年4月13日の開催予定日まで、1年と220日ほど。それなのに、会場となる大阪湾の人工島・夢洲では、シンボルの大屋根の一部が輪郭をあらわしただけで、ほとんどの建設工事は手つかずのままだ。地元の大阪府市はこれまで何をしていたのか。

主催者は「2025年日本国際博覧会協会(万博協会)」(大阪府咲洲庁舎内)で、元経産官僚の石毛博行氏が事務総長をつとめているが、大阪府知事や大阪市長が本気を出さなければ、どうにもならないだろう。

松井氏が大阪府知事だった2014年夏に持ち上がったのが万博構想だ。以来、万博は維新の看板政策となり、吉村洋文・大阪府知事は今年4月の統一地方選で「万博の成功は僕の公約の柱。責任をもって素晴らしいものにする」と誇らかにアピールしていた。

岸田首相にしてみれば、放っておいても、大阪主導で万博は進むと思っていたかもしれない。ところが、実情はまったく違っていた。

今年5月末、吉村大阪府知事の姿が首相官邸にあった。自前でパビリオンを建設する56の国・地域から一つも許可申請が出ていないことに焦った吉村知事が駆け込んだのである。

「時間がタイトです。国、大阪府・市、建設業界が一体になって進めていかないと、開幕に間に合いません」(朝日新聞デジタル)。

これが、吉村氏から岸田首相に直接、伝えられたメッセージである。要するに、国が動いてくれなければ手も足も出ない実情を吐露し、吉村氏が頭を下げてきたということだろう。

パビリオン建設の準備が遅れている原因として、大阪府市や万博協会は、「資材価格の高騰」と「深刻な人手不足」のなか、短期間にパビリオンを完成させなければならないため、建設会社が二の足を踏んでいるなどと説明する。

工事の難しさもあるだろう。1970年からゴミ処理場になっていた夢洲は、焼却物や建設残土などで埋め立てられており、地盤は軟弱だ。建築エコノミスト、森山高至氏はこう指摘する。

「夢洲の地盤状況だと、35~40メートルの深さまで杭を打つ必要があります。万博終了の数カ月後にはパビリオンの解体撤収だけでなく、打った杭の撤去まで義務付けられています。杭工事は打つよりも安全に引き抜く方が大変。これもゼネコン各社が万博施設の整備に二の足を踏む要因のひとつでしょう」(日刊ゲンダイ)

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大阪万博が本格的に動き始めた2015年12月のある夜

夢洲では1980年代に「テクノポート大阪計画」というバブル期らしい大規模開発が計画されたが、バブル崩壊で幻と消えた。使い道のない「負の遺産」となっていたのを、松井氏らが万博やIR(統合型リゾート)を誘致して維新の政治能力を見せつけた。

しかし、「巨大な展示会を開催し、ハコモノを通じて人やお金を集める手法は完全に時代遅れとなっている。…今回の万博も、開催について日本と争ったのがロシアとアゼルバイジャンだったことを考えれば、万博の立ち位置がよく理解できるだろう」(経済評論家・加谷珪一氏)といった声があるのも事実である。

外国政府にしても、大阪・関西万博への期待が大きいなら、早めに準備を進めたはずだ。要は、熱量が不足しているのではないか。そう、筆者は疑っている。

直近の「ドバイ万博」(2021年10月~22年3月)は成功例とされるが、これには特殊事情があった。「中東・アフリカ地域で初めて開催される万博」を成功させるための熱意と期待感が高かった。会場建設に投じられた約8,000億円は、大阪・関西万博で想定されている建設費の4倍ほどにあたる。

ドバイ万博の余熱が冷めないうちに大阪万博の準備に取りかかるのは参加国にとって容易ではないかもしれない。それでもなお、惹きつける何かが大阪万博にあれば、こんな事態になっていなかったのではないか。

大阪での万博は、2015年12月のある夜から本格的に動きはじめた。橋下徹氏、松井氏、吉村氏が、当時の安倍首相、菅官房長官と会食していた席でのこと。

松井氏は「(万博は)必要ですよね、総理!」と何度も安倍首相の盃に酒を注ぎ、安倍首相を「そうだよね」と、その気にさせた。そこからとんとん拍子にコトが運び、18年11月、大阪が万博の開催地に決定した。橋下氏は松井氏の「政治力」を絶賛し、維新は政策実現力を誇った。

しかし、岸田政権になって、自民と維新の間に距離が生まれると、政府と大阪府市の意思疎通が以前のようにはできなくなってきた。それが万博事業の進捗に影響したかもしれない。吉村知事はよほど切羽詰まった思いで、官邸を訪れたのだろう。

吉村知事の要請を受けた岸田首相が、万博会場建設という舞台に踊り出る花道としたのが、8月1日の会議だった。岸田首相は官邸に吉村知事、横山英幸・大阪市長ら万博関係者を緊急に呼び寄せ、冒頭の挨拶でこう語った。

「万博の準備は、まさに胸突き八丁の状況にあります」「会場建設及び海外パビリオンの建設について楽観できる状況にはありません」

当初は岸田首相も、松井氏が言うように「日本は大丈夫」と悠長にかまえていたのかもしれない。維新や大阪の行政への過大評価もあったかもしれない。しかし、吉村知事の必死の要請を受け、がぜん、首相の力を前面に押し出したい欲求にかられてきたようだ。

「契約締結に向けた取り組みを加速していく必要があります。交通アクセスなど施工環境の改善にも取り組んでいく必要があります。大阪府、大阪市の協力が不可欠な課題であり、よろしくお願いしたい」

「大阪府、大阪市の協力」が足りないと叱咤しているように聞こえる。

「私は内閣総理大臣として万博成功に向けて、政府の先頭に立って取り組む決意であります」

こうなったら、俺が出なければしょうがないと、大見得を切ったようなセリフである。

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虚しく思えてならない松井一郎の大仰な言葉

その昔、万国博覧会は、東西の文明が出会う舞台だった。明治政府がはじめて正式に参加した1873年のウィーン万博では、浮世絵、染織品、漆器、人形などの工芸品をはじめ、伊万里・瀬戸・薩摩焼などの陶磁器、そして仏像、楽器、刀剣、甲冑や生活用品にいたるまでジャンル分けされ展示された。

そこから生まれたジャポニズムと呼ばれる日本趣味や芸術的潮流が、その後、クリムトの独特な装飾的絵画や、印象派の絵画に影響を与え、アール・ヌーヴォやアールデコといった美術・デザイン運動に流れ込んでゆく。

1970年の大阪万博は、海外旅行経験の少ない当時の日本人にとって、ほとんど初めてといっていい諸外国との出会いだった。各国のパビリオンには、その国の伝統文化や新しい技術がつめこまれ、全てが新鮮だった。コンパニオンのファッションやエレガントなもてなしにも魅せられた。

だが、2025年に開かれる大阪・関西万博はどうか。「未来社会の実験場」をコンセプトに、ロボット、自動運転、空飛ぶクルマなど未来を感じさせる技術を見せてくれるのだろうし、興味深いのは確かだが、まったく想像できない世界ではなく、昔の万博のように新鮮な驚きを期待するのは、もはや難しい。来場者の大半を占めるであろう日本人が、東京ディズニーランドやUSJをさしおき、7,500円を注ぎ込んで大挙来場するのかどうかも疑問だ。

国と大阪府市、経済界が3分の1ずつ拠出する会場建設費は当初計画では1,250億円だったが、その後、1,850億円に増額されている。ロシアによるウクライナ侵略にともなう建築資材の高騰などで、さらなる上振れは必至だ。運営費も当初計画では約800億円だったが、人件費や物価の上昇などで大幅に膨らむと見込まれている。

それだけの巨費を投じる価値をもつ万博になるのかどうか。これまでのお粗末な事業運営を見る限り、「世界を驚かせるような万博」という松井一郎氏の大仰な言葉が虚しく思えてならない。

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image by: Expo2025 大阪・関西万博 - Home | Facebook

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